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■コントラクト・キラー
■マッチ工場の少女
■レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
■真夜中の虹
■パラダイスの夕暮れ

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アキ・カウリスマキ

■ マッチ工場の少女
   Tulttikkutehtaan tytto (The Match Factory Girl)
    …1990/フィンランド

片田舎のマッチ工場で働くイリス(カティ・オウティネン)。同居している母親とその愛人は、稼ぎも家事もすべて彼女におんぶにだっこ状態。気分転換に踊りに出かけても、誰ひとり声もかけてくれない。
ある日、思い切って派手なドレスを買った彼女は家を飛び出してディスコに向かう。そして初めてとある男性と一夜をともにするものの、当然のように捨てられる。しかもその一度きりの関係で妊娠してしまう。
男からは堕ろすようにと小切手を送りつけられ、家族からは邪険にされたイリスが最後にとった手段とは…


マッチ工場の少女


ああもう、なんてしょぼい人生なんだ!ベルトコンベアを流れてゆくマッチ箱を黙々と点検し、家に帰ればテレビの前に座りっぱなしのオッサンオバサンの世話に明け暮れる毎日。ようやく男とどうにかなったと思ったら、いきなり妊娠してしまう。
…なのに、ああこれが人生なんだよなあ、となぜかほっとさせられてしまう。私など、こういう世界に生きてみたいとまで思わされてしまいます。これこそが驚異のカウリスマキ・マジック。
相変わらず必要最低限の描写しかなされませんが、この作品ではそのすべてが主人公・イリスの不幸を描くためにあてられています。もう笑うしかない。彼女が車にぶつかるシーン(正確には、ぶつかる描写はないんだけど)なんてマジでしびれました…

この話、観ている側にはイリスが「手をかけた」相手が結局どうなったのか、イリス自身がどうなるのかまったくわからずに終わってしまう。でもそういうの、どうでもいい。アキの映画は、そういうのと別の次元で完成してるから。



相変わらず演出がとてもシンプル、しかしきめ細やかです。登場人物全員がいつもにも増してほとんど喋らないのだけど(なにしろ作中最初のセリフ?がテレビから流れてくる天安門事件のニュース)、表情ひとつ、間ひとつからあらゆる感情が伝わってくる。生まれて初めて男性との夜を過ごした翌日、コンベアの上のマッチ箱をみつめるイリスの瞳、口元のなんと幸せそうなこと!
そのほか、これは他の作品にもいえることなのですが「光と影」の見せ方がいいのです。ダンスホールに出かけてもひとりだけ声をかけてもらえないイリス、彼女がぽつんと座っている背後の壁にはぼんやりと踊る人影が。そして足元にはただ増えてゆくジュースの空き瓶。彼女の過ごしたむなしい時間を効果的に表しているのです。

ちなみに彼女には家を出た兄がおり、その存在が多少話の救いになっているように思われます。
でもって、イリスが諸事情あって彼の部屋に移ることになるシーン、カメラが引くとなぜかでかいビリヤード台で部屋が占領されている。こういう、実にくだらないところで思わず笑ってしまうようなタイプであれば、アキの映画は何倍も楽しめるかも。
調理師をしてるらしき彼の出してくれる料理、とも呼べないような代物(トマトを乗せただけのパン…)が死ぬほど不味そうなところもツボだ。
そもそもアキの映画に出てくる料理って、全部まずそうなんだけど。

音楽のセンスも、相変わらずいいんだよなあ。

「お前はブスだって他の奴らは言うけどなァ おれは構わねえ
 ああ好きだぜベイビー お前が好きなんだ」


こんな曲をバックにケーキをヤケ食いするイリス…

彼女が普段ひっつめ髪をくくっているゴムが安っぽいピンク色なのがまた泣かせます。しかしなぜかいつもマニキュアだけはきちんとしてるのが謎。



アキ映画の看板女優であるカティ・オウティネンは、「はじめに」の項で書いたとおり今年(2002年)5月にカンヌで最優秀女優賞をとりました。その彼女の2度目の出演作がこれ(一作目は初期作品「パラダイスの夕暮れ」)。ちなみに、のちには「愛しのタチアナ」「浮き雲」などでちゃんと幸せになってます。

彼女の顔を見ただけで、人生って色々だよなあ、でもそんなに悪いもんじゃないよなあ、と思わせられてしまう。看板女優をみればその監督がわかるってもんだけど、やっぱりアキを愛さずにはいられない。



(02/08/05)