表紙
はじめに
作品リスト
作品紹介

■街のあかり
■過去のない男
■白い花びら
■浮き雲
■愛しのタチアナ
■ラヴィ・ド・ボエーム
■コントラクト・キラー
■マッチ工場の少女
■レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
■真夜中の虹
■パラダイスの夕暮れ

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アキ・カウリスマキ

■ コントラクト・キラー
   I Hired a Contract Killer…1990/フィンランド-スウェーデン

英国水道局で働くフランス人アンリ(ジャン・ピエール・レオー)は、ある日突然クビを言い渡される。失意のうちに自殺をはかるも、ことごとく失敗。
思い詰めた彼は「コントラクト・キラー=殺し屋」の広告に目をとめ、有り金はたいて依頼に出向く。
「殺る相手は?」
「…(自分の写真を差し出す)」
しかしその晩、花売り娘マーガレット(マージ・クラーク)に恋をした。もう死んでなんかいられない!彼は自分が雇った殺し屋から逃げ回るはめに…


コントラクト・キラー


カウリスマキが、彼の永遠のアイドル・レオーのために描きおろした作品。初の海外ロケ作品でもあります。
スリルとサスペンス(殺し屋から逃げ惑う場面には、ふるいスリラー映画の趣がある)に加え、ユーモアも盛りだくさん、ジョー・ストラマーのライブあり、アキ自身のカメオ出演あり、となかなか豪華で楽しい一作。

インタビューによると、この作品から「室内を好き勝手に塗れる制作費をもらった」そうで、これでもかとばかり、どの部屋もあの「青」に染められています。
(それ以前の作品を見ると、照明などで「青」を出すために色々工夫してるのが分かる)
くすんだ青いスーツに身をつつんだアンリが、鮮やかな赤いコートを着たマーガレットと恋をするのは、「パラダイスの夕暮れ」にも通じる美しさ。



レオーは友達の一人もいない孤独な男を仏頂面で演じています。
彼の役柄は異国人。次作「ラヴィ・ド・ボエーム」もパリに暮らす異国人たちの話ですが、彼等がたくましく、追い払われてもちゃっかり戻ってくるのに対し、レオー演じるアンリは、見ていて「なんでこんなとこに居るんだろ…」と疑問になるほど(作中「フランスに戻るのは絶対に嫌」というセリフがあるので、何か事情があるのだろう)。屋上で草花を育ててみたり、いちおう楽しいことを求める気持ちはあるようだけど、いかんせん陰気で要領がわるいのだ。昼食時も皆の輪に入れない。夕食は、一人窓の外(隣の家の壁!)を見ながらつつく。

そんな男でもアキ映画では、ちゃんと恋をする。
彼とマーガレットの会話が面白い。

「ぼくはもう死にたくない、気が変わったんだ」
「…私の青い目のせい?」
「青だった?(近寄ってのぞきこむ)…うん、青だ」
「それなら、その酒場に戻って依頼をキャンセルするのよ」
「素晴らしい、君って頭がいいんだね」

  (中略、ポーカーをする二人)

「タバコある?」
「あなたは吸いすぎよ」
「それなら明日から禁煙だ」
「角にタバコ屋があるけど…」
「(出かける素振で)ぼくの分のカードは持ってくよ」
「なぜ?」
「…きみを信用できないもの」




終盤、姿を消したアンリを探すマーガレット。二人が身を潜めていた場末のホテルの受付のおじさん…いや、おじいさんが、唐突に口にするセリフが印象的だ。こんなことを言ってから、おもむろに「こいつを探してるんだろ?」とアンリの居場所を教えてくれるのである。

「おまえさん、おれのことを、血も涙もない男だと思ってるんだろう?
 フロント係、ドアマン、警官…
 頭のはたらかないでくのぼうと思われてるんだ」


「労働者にも人格がある」という当たり前のことを、アキは言っているのです。他の紹介文でも書いたけど、こういうのが突然入ってくるのが面白いんだよなあ。

他に目をひくのは、殺し屋(ケネス・コリー)の部屋に娘がやってくる場面。身体をわるくしている父親のために料理を作るが、「母親のところへ帰れ」と言われてしまう。離婚問題は「真夜中の虹」でも描かれていますが、娘と父親の会話シーンは、アキ映画には珍しいもの。
この殺し屋のキャラクターも絶品で、最後にアンリと交わす会話にはしみじみしてしまう。



ちなみに、ラストシーンでタバコを吸っているのはセルジュ・レジアニです。



(04/11/20)