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はじめに
作品リスト
作品紹介

■街のあかり
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■白い花びら
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■愛しのタチアナ
■ラヴィ・ド・ボエーム
■コントラクト・キラー
■マッチ工場の少女
■レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
■真夜中の虹
■パラダイスの夕暮れ

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アキ・カウリスマキ

■ レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
   Leningrad Cowboys Go America
    …1989/フィンランド-スウェーデン

極寒のツンドラ。とんがりリーゼントにとんがりブーツがトレードマークの音楽集団、その名もレニングラード・カウボーイズ。
(ちなみにこれ、コスプレではなくて民族衣装なのです。村では赤ちゃんから犬まで皆この格好)
「いっちょ世界に出てみっか!アメリカなら何とかなるかも」という悪徳マネージャー(マッティ・ペロンパー)の口車に乗せられて、一行は一路アメリカ大陸へ。野外リハーサルで凍死した仲間の棺おけをかついでいざ出発だ。←お前にも世界を見せてやるけんのう、というわけ
ところが演奏するのがロシア民謡じゃあ、どこ行ったってウケるわけがない。時代はロックンロールだってよ、おい!というマネージャーの激を受けてまじめにロックをお勉強。夜はさびれた店をドサまわり。行き先はなぜかメキシコになっている。
オンボロキャディラックに乗ってハイウェイを南へ、南へ。カウボーイたちの旅はつづきます。


レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ


私がはじめて観たカウリスマキ作品。といっても劇場で観たわけじゃなくて、話題作としてビデオ屋に何本か並んでたのです。
なにこれ、キッチュな流行もんでしょ、とパッケージ見るたびに思ってたのですが、ある日なんとなく借りてみたところ…なんだこれは!こんな映画がこの世にあったのか、これまでの私の人生はなんだったんだ。

「町中暴力だらけだ」
「ニューヨークでは皆が殺される」
「テレビで見たんだ」

 (初めて訪れたニューヨークにて、レニグラメンバーの言)

このセリフが妙にツボにはまってしまい、その後しばらく思い出し笑いがとまりませんでした。

それから印象的だったのが、彼等を慕ってあとを追ってくる「村のバカ」がレニグラの面々に追い払われる場面。
バンドにあこがれている彼はアホ面を紅潮させて必死についてくるのですが、森の中で木切れでもって袋叩きにされてしまう。
…というシーンなんだけど、暴力が行われるのはカメラの外。つったって見ている他のメンバーと、ボカボカという音が2、3回聞こえるだけ。
私、暴力シーンってあまり好きじゃないんです。倫理的にどうとかいうわけじゃなくて、たんに見て面白いと思わないから。(だからアクロバティックな動きが美しいものなどは楽しいと思う)
でももちろん暴力が行われる現実というのもある。ただそれは、映画においてはそれなりの見せ方というものがあると思うのです。
アキ映画にも度々暴力シーンは出てくるのですが…たとえばこの作品の後半で、強欲マネージャーに業を煮やしたメンバーたちが一致団結して彼を吊し上げるシーンや、「ラヴィ・ド・ボエーム」でショナールがタクシーを乗り逃げするために運転手をのしてしまうシーンなど…どれも見せ方が洗練されている。必要最低限の演出で、観客にどんなことが起こったかわかるように撮られているのです。
映画として見せるべきものと見せなくてもいいものの線引きがしっかりしているのだと思う。だから彼の映画は美しいのです。



ちなみにこのレニングラード・カウボーイズ、映画のために作られた架空のグループではありません。フィンランドでちゃんと活動してるホンモノのバンド。しかも「国民的バンド」らしい。
彼等の演奏はとにかく楽しくていい。映画では黒スーツにサングラス姿ということもあって、ちょっとブルース・ブラザーズなんかに通じるところもあるように思います。
作中では「テキーラ」から「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド」、最後にはメキシコ民謡もちゃんとマスターしてますが(このシーンのエキストラたち、心底楽しそう!)、それもそのはずで、実際の彼等のアルバムを聴くと、映画とは違って演奏も結構うまい。有名曲のカバーも多く、どれも壮大なコーラス付きなので笑える。「Back in The U.S.S.R.」や「天国への階段」(これはまだまとも…というか原曲に近い・笑)、ユーリズミックスの「There Must Be an Angel」なんてのもやってる。



それにしても、世界中でアキ以外の誰がこの素晴らしい素材(レニグラ)をこれ以上素晴らしくみせることができるでしょうか。両者が出会うべくして出会った、奇跡的な一作といっていい。
音楽好きならぜひ観ましょう!楽しいから。



(02/06/09)