失われた時を求めて(2) (1)へ (3)へ (4)へ | Topへ | |
心の旅路 忘れの面影 シャクンタラー The Buried Giant Winter Cruise 冬の船旅 密やかな結晶 |
||
|
||
5 記憶喪失もの 男と女が出会って、愛し合うが、男はふとした事故などで記憶を失ってしまう。永久に失われるとドラマにならないが、ふとした拍子に男は記憶を戻す。そのような古い映画を最近、見返した。 「心の旅路」1942 主演:ロナルド・コールマン、グリア・ガースン 「忘れの面影」1948 主演:ルイ・ジュールダン、ジェーン・フォンダ 少し前に読み終えたインドの古典劇『シャクンタラー』も、狩りに出た王様が、そこで出会った娘シャクンタラーと愛し合うようになるが、帰国後すっかり忘れてしまうという話である。記憶を取り戻し、娘と子供と出会い、めでたし、めでたし、で終わる。 記憶喪失はかっては映画や劇となるほど珍しいものだったが、今や日常の中で認知症とう形で身近なものとなってきた。 我々の「生」のなかで記憶が大きな存在であることを思い知るのである。 今読んでいるThe Buried Giant by Kazuo Ushiguroは老夫婦が息子を訊ねていく話であるが、この国は記憶が薄れていくという風土病のようなものがある。 どのような終局を迎えるのだろうか? |
「心の旅路」記憶がもどってきて、元住んでいた家に帰るところ。 |
|
|
||
6 忘却の霧 The Buried Giant では、人々は、物忘れが激しく、その原因が、竜の吐く霧のせいと考えられている。詳しくはKazuo Ishiguro参照。 記憶が蘇ることを望む者は、その竜を退治しようとするし、忘却を望むものはその竜を守ろうとする。 サクソン人の武士は前者だし、ブリトン人のガウェインは後者である。 憎しみの記憶は、民族団結の基ともなり、忘却は民族抗争が止み平和と繋がる。 個人でベルでも、記憶と忘却の功罪について、この作品は老夫婦もモデルに問題を提起している。 老夫婦の妻の方が、物語の初めに方で面白いことを言っているので、右欄訳しておきます。 記憶や忘却に神様が関与されているかも知れない。恩寵? 罰?贖罪? |
(忘れやすくなっていることについて) 「アクセル、今朝、目が覚めた時、こんなことを思いついたの。」 「どんなことを思いついたの。姫」 「ちょっとした思い付きよ。ひょっとしたら、神様は私達のやった何かに怒っておられと。それとも、怒っておられないかも知れないが、恥ずかしく思っておられるのではと。」 「変わった考えだね。姫。でも、お前の言う通りなら、神様はどうして私たちを罰せられないのかね。どうして、1時間前のことさえ、バカのように忘れるようにされたのかね?」 「ひょっとしたたら、神様、私たちのやったあることにひどく恥ずかく思われて、ご自身忘れたいと思われたのかもしれないわ。知らない人が、アイボアに言っていたように、神様が思い出したくないと思うときは、私たちが出来ないのも不思議ではありません。」 「一体、私たちが、神様を恥ずかしく思わせるようなことをしでかすことができる?」 「分かりません。アクレックス。でも、私たちのやったことではないことは確かね。神様は私たちをいつも愛してくださっているもの。神様にお祈りして、私たちに最も大切なものを、神様がご存じのはず、いくつか思い出させてほしいと、お祈りしたら、神様は、聴きいれ、願いをかなえてくださるかもしれません。」 (原著83頁 拙訳) |
|
|
||
7 高校の英語 当時、モームは入試によくでる作家として、高校生の間でも知られていた。 モームが大人向けのユーモア作家であることがわかるのは60を過ぎてからだった。 Winter Cruise by Somerset Maugham モームの「冬の船旅」 中年の女性が一人でドイツの貨客船に乗って旅する話である。船は各地に貨物を積み下ろし、客も降ろしながら行く。途中から乗客は彼女一人、他は船長以下全員男性となる。 この本は、私が読んだ最初の英語の小説で、60数年前、高校の英語の授業で習った。楞野聰先生は、大学出て間もなく、元気で発音のきれいな先生だった。 少し前からこの小説を読みたくて、amazonで探したが、4巻本のThe Complete Short Storiesのどこにあるか分らず、また、「日本の古本屋」では、古い中野好夫、小川和夫の訳注本が出ているが、買う気を起こすようなものではなかった。そこで、しばらく使わなかったKindleにアクセスして、この作品が短編全集の3巻にあること突き止め、そのまま注文した。(265円也) 主人公の話好きと人の善さの描写を、ゆっくりと物語に巻き込むモーム一流の語り口に乗せられて、読み進むうちに、いつの間にか、男たちがそれをどう受け止めているか、に変わっていく。男たちにとって、彼女の饒舌は、うんざりするほど退屈なものとなっており、クリスマスを前に、なんとか彼女のおしゃべりをどう止めたいと思っている。そこで編み出した策とは? 今頃になって、この作品を急に読みたくなったのは、実は最後の一行を読みたかったからである。記憶にあるのと少し違っていたが、面白かった。*下記 大人向けのこの小説を高校時代に味わえたと思えないが、私にとって記念碑的な作品なのである。 2020/8/9 FB 物語は、出迎えた友達に、旅の感想を述べる所で終わる。 " Things of no importance really. Just fanny, unexpected, rather nice thing. There's no doubt that travel is a wonderwul education." 2022/12/17 追記 |
モームについては別ぺ―ジ参照: Somerset Maugham |
|
|
||
8 物も記憶も消える。やがて自分は? 小川洋子『密やかな結晶』1994年
この作品の英語訳『The memory police』)がブッカー国際賞の最終候補にノミネートされたと知って、読み始めたのだが、途中で、落選したことを知った。20年以上前のこの作品が取り上げられたのは、国家統制の怖ろしさを内容としており、翻訳が原文の詩情をよく写しいるためだろう。
|
||