サル学その他 鷲 | Topへ | |
「サルは醜いものだが、なんと人に似ていることか」と言ったのは、私の記憶ではモンテニューだと思うのだが、違っているかも知れない。文化人類学の未開の人の研究も面白いが、それ以前に、サル、または他の生物の研究も面白い。それは人間と比べるからである。 | ||
|
||
山極寿一『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』 朝日文庫 2020 ゴリラの研究者が京大の総長が務まるかしら?人間はゴリラほど単純ではないと思うのだが・・・。 京大の自由の学風を伝える好著である。 「先輩や教員はフィールドまで連れて行ってくれることはあっても、そこで学生を放り出す。われわれはこれを京大の「子捨て主義」と呼んでいました。あと自分で何とかしてね、というわけです。」(38頁) そんな中で、アフリカの奥地に、ゴリラの研究に赴いた著者が何を学んだか?現地人から、ゴリラから何を学んだか?最大のことは、私は「信頼とは何か」ということではないかと思う。 「まあ、おもろいから、読んでみなはれ」 本人の大学での講義を覗うには『人類進化諭 霊長類学から展望』が便利です。 |
||
『人類進化論 霊長類学からの展開』 山極寿一 裳華房 2016(初版2008) 著者が京大での「人間学」という講義をもとに編まれた本で、内容は学術的。出典、参考文献、索引もあり、霊長類学を概観できる。 霊長類いう巨視的な見方の中で、その特性を調べていくと、人間の特性も浮かび上がって来る。人間学というためには、未開人の研究、民俗学へと繋がっているのであろうが、霊長類学も人間理解のアプローチの一つして有効な学問だということが分かる。 性行動、子殺し、集団間の争い、食物の分配・・・面白い話題が多い。教科書的で記述がちょっと固いが・・・ 2020・9・25 「5 オスの子殺しと暴力」p98~117 群れのボスが交代したとき、前のボスの授乳中の子を殺すという現象は、サルだけでなく、ライオンなど広くみられる現象であるが、そのようなことが、どのような条件で起きるか、色々データを示している。自己の遺伝子を残すというのが目的であるのは明らかなのだが、子殺しが起きるケースとそうでないケースとその区別は単純ではないようである。チンパンジーとボノバは対照的だという。同種の集団間の争いにも言及している。 2023・12・23 |
||
|
||
『ゴリラの森、言葉の海』 山極寿一 小川洋子 新潮社 2019 本対談の最後は、屋久島の森に分け入っての対談であるが、森を歩くと謙虚になるという実感を共有している。ここでは山極は小川の作家の仕事に話を向ける。森を歩くことと小説を書くことの類似性など、作家の秘密を追っている。面白かった。 ------- 「一方僕は、ゴリラは人間の鏡だとずっと思っています。鏡というのは二つ理由があります。人間の模範であるということ、それから人間の本当の姿を映し出すものであるということ。」(同書 17頁) サルの話は面白く、3,40年も前、一時夢中になったことがあったが、立花隆の『サル学の現在』(1991)が出たあたりから少し熱が冷めた。動物行動学と言うのであろうか、人間以外の行動を見ることによって、人間を理解しようとしていたのである。その中で、自然の状態での観察しようとする、ちょっとやぼったく見えるが素晴らしい。 人間理解のもう一つのアプローチは広い意味で文芸を通じてである。小川洋子の作家の仕事は、意識の森を分け行く仕事である。捉えがたいもの、言葉で捕捉しようとする作家の仕事は、その対象は原生林より広く、ゴリラを研究する山極もすっぽり覆うものかもしれない。2020・6・27 |
||
2018年6月18日 ユクスキュル /クリサート『生物から見た世界』 日高敏隆・羽田節子訳 岩波文庫 何を感じ取って、どう行動するか?生きものには、それぞれ独自の世界があり、それを<環世界>と名付けている。 冒頭に、マダニの世界を描いて見せる。交尾を済ませると高い木に登り、哺乳類の発する酪酸に反応して、木から落ちて、獲物の血を吸う。ハエにしろ、犬にしろ、独自の知覚と行動様式を持っているなどと事例が続く。 元の本は1934年。その考えも、言われてみればそうだなという程度で、それほど革新的なものとは思えないが、二つの点で興味深かった。 一つは、人間の<環世界>はなんと多様だ!ということ。このFacebookでも感じることは、各人が、特定のものに反応し、独自の行動を起こす。そんな人間の生き様もわかる気がする。 二つには、この考えは、人工知能、ロボットを開発するのに、基本的な枠組みとなる。 江口絵理『ボノボ 地上で、一番ヒトに近いサル』そうえん社 ボノボは、外見はチンパンジーと似ているが、それとは対照的に、メス優位で、喧嘩は殆どせず、もめごとなど すべて性行動で解決していく。オス・メス同志は当然として、同性同志、子供も性行動を取る。ライオンやチンパンジーのように、グループ間の闘争もないし、ボス交代の際の子殺しという現象は見られないという。それが、戦争などによって環境を狭められ、今や絶滅危惧の運命にある。社会や人間関係を考えるのに、ユニークな視点を与えてくれ、環境や進化についても考えさせられた。図書館の児童コーナーの本棚で目について借りて帰ったのだが、これはむしろ大人が読むに相応しい本である。 2冊の本は、ゲーム、マンガ、アニメの愛好者がよく使う「世界観」という言葉を思い出させた。 |
||
|
||
2017年5月26日 上橋菜穂子×斎藤慶輔『命の意味 命のしるし』
講談社 2017
裏表紙に「小学上級から」とあるので、図書館では、児童書のコーナーに置かれるのだあろうが、大人も読んで欲しい本である。
NHK Eテレで「SWICHインタビュー達人達」という、分野の異なる、ちょっと異能と思われる人を組み合わせて対談させる番組があって、私も時々見るが、本書は、その対談を本に仕立てたものである。
答えはないのだが、ふと立ち止まる。
対談者は、『精霊の守り人』で有名な作家兼文化人類学者の上橋菜穂子と北海道で鷲やフクロウなど野生の動物の獣医をしている斎藤慶輔。
齋藤の話:1996年、オオワシやオジロワシが大量に死ぬという事件が起きた。原因はハンターが食用の肉を取り、現地に残した動物の肉を鷲が食べたことによる。ハンターの弾薬が鉛であり、鳥の死は鉛中毒が原因だった。その後の展開は本書で・・・。
上橋の作品は、異世界を舞台にしているが、異文化を理解してほしいという。彼女の文化人類学の体験の裏打ちがある。「共生」、そのために自分の世界と異なるものを助けようとすることが二人の共通のテーマかもしれない。
食物連鎖の頂点に立つ人類が、自然の秩序を破壊し、自らも争いを繰り返し、やがては滅びて行く運命にあるのだろうか?
齋藤: 人間という種は、どこに行こうとしているんだろう、と思います。
上橋: ホントに、どこに行こうとしているんだろう、ね。
と対談は終わっている。
2023・5・28追記 今日のNHK[ダウイーンがやって来た」でワシの生態について放映。その後、繁殖が増えているとのこと。斎藤慶輔氏も登場していた。 |
||