私の「アーサー王伝説」入門(3)  
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   そこには、武勇、忠誠、慈悲、愛情、嫉妬・・・といった人間の情念が素朴な形で表現されており、その中をnobleという価値観が通っているいるので、すがすがしい。  

  
 テニスンの国王牧歌Idylls of the Kingに取り掛かる。     アーサー王からしばらく離れ、Ruth OzekiA Tale for the Time Beingを読んでいます。津波でカナダの海岸に流れ着いた、少女Naoの日記を作家Ruthが読んで行くのが主な流れのようですが、その筆法に嵌められて、どんどんと深みはいります。日本語が沢山出てきます。例えば、おたく、帰国子女、いじめ、過労死、フリーター、自殺・・・現代日本の風俗を巧みに織り込んであるので、身をつまされる思いをしながら読んでいます。ミステリー(だと思う)的迫力があります。付録には、道元や量子力学の解説もついているので、最後まで読ないとなんともいえませんが、とにかく面白い。この本は今年のブッカー賞の最終候補となっています。(2013・10・13)

    DVD「エクスカリバー」を見る。この前は途中で寝てしまったが、今回は最後まで通して見ることができた。マロリーのアーサー王から見れば、ほんの一部が映像化されているに過ぎないが、これだけのセットを用意した撮影も大変だったろうと思う。(2013・10・14)

    再びアーサー王に戻って、数日前からテニスンの国王牧歌Idylls of the Kingに取り掛かった。Wills Boughtonという人の解説と3篇の簡単な語注のある本である。その最初はGareth and Lynetteで、これから読み始める。マロリーの第7巻に出てくる話で、出自を明らかにせず、アーサー王の宮廷の厨房に入り込んだガレスは1年後、騎士となり、乙女ライネットの姉の救済を買って出る。ライネットはガレスが厨房にいたこと理由に、彼をさげすみ、幾多の武勲を立てても、強烈な罵倒を繰り返すのである。優に一冊の本となるほど面白い。これをテニスンがどう料理するかと、読み始めると、驚くほど豊かな詩の世界が広がる。マロリーより難しいが、こちらも面白い。ネットを捜すと「馬虎書房」というサイトで、翻訳をしているのが、見つかった。誤訳も散見されるが、先行訳あるのはありがたい。「馬虎書房」はこの物語を「ツンデレ」の話としているが、確かにそうだ。どういう訳か「ツンデレ」の話は面白い。(2013・10・24)

    テニスンの国王牧歌Idylls of the King の中のGareth and Lynetteを楽しんだ。1393行のこの詩を、読み通すには少し骨が折れたが、素晴らしかった。マロリーが写本の挿絵のような素朴な味だとすると、テニスンはラファエロ前派の、細密な色彩の油絵のようだった。ガレスがアーサー王の宮廷に来るまでのことがよくわかり、多くの人が請願にやってくる宮廷のあり様も生き写しにされている。テニスンの豊かな想像力と描写力が全編に見られて、さすが大詩人だと感心する。(その意味ではマロリーその他で予め筋を知っている方がテニスンの力量がわかって、楽しみが多い。)馬虎書房訳は誤訳と思われるところが多々あったが、最後まで訳した労作(本邦初訳?)で敬意を表したい。(2013・11・2)

    アーサー王伝説の最大のモチーフはランスロットとグイネヴィアとの愛の物語であるが、これに、いろんな人物や事件が絡んで多様な味付けがなされる。テニスンの国王牧歌Idylls of the King の中のLancelot and Elaine(1418行)もそんな話の中では最も有名なものである。ある馬上槍試合へ身分を隠して参加するために出かけたランスロットが一夜の宿を借りた城の娘に惚れられるのだが、ランスロットはその愛に応えることが出来ない。(グイネヴィアとの愛の誓いがあるので)娘は命を絶ち、小船に乗せられて、アーサー王の居城へと運ばれるのである。手にはランスロットへの愛が記されて手紙を持っている。原作のマロリーに負うところが大であるが、伏線も登場人物も過不足なく、生き生きと、豊かに肉付けしていくテニスンの才能には脱帽するほかない。夜中読んでいて、エレーヌの慟哭が聞こえてきて、魂を揺さぶられた。韻文の持つ力なのだろうか?『国王牧歌』の2つの代表作読んだので、これからは最初から順に読んでいくことにする。辞書を引きながら、毎日、100行、200行と読み進めるは何と楽しい時間だろう。(2013・11・9)

    本をネットで注文して、到着を楽しみにしていたのに、受け取ってみてがっかりするという経験が時々ある。このThe Study Of Idylls Of King2009円)はそんな本だった。ハーバード大学図書館蔵書(94頁)のコピーに表紙を付けたもので、ページ数が少ないのには何も不満はないのだが、内容が高校の先生が生徒に宿題を出したり、試験したりするための、課題(命令形)と質問(疑問形)の文章が大半を占めていた。私の求めていたのは、テニスンの詩の難解なところ語釈で、楽しみながら読む手助けがほしいのである。その目的に対してはこの本は「いけない本」だった。100年以上前の本が売られているのは、私のように表題に釣られて注文する人が後を立たないのだろう。よく読めば名著かも知れないが・・・

 
     
     
 Lancelyn Green の本も読む      DedicationThe Coming of Athur518)を読み終えた。グイネヴィアを嫁に出すまでのプロセスで、アーサー王の出自をあぶりだしていく手法は凄い。多少のわからないところがあってっても、スキップしても十分楽しめる。The marriage of Geraint に入る。これはマロリーにはない話、

    テニスンのThe marriage of Geraint 849行)は、マロリーにない話なのだが、描き方がマロリー的な素朴さがあった。途中、どこかで、意味を取り違えたのであろうか、筋がいまひとつはっきりしなくなった。折をみて再読することになろう。(20121127

    Gariant and Enidは二人共、アーサー王伝説上の人物らしく、生一本、頑固で、初心を辛貫く、私の好きなタイプ。詩文は難しい。そんなこともあって、しばらくテニソンにご無沙汰することになった。

この間、平川祐弘『アーサー・ウェイリー 「源氏物語」の翻訳者』やJohn Le CarreA Most Wanted Manなど面白い本を沢山読んだ。

  2014.1.18 、 テニスンのIdylls of the King再開。Balin and Balan

2015.9.27
King Arthur and His Knights of the Round Tableby Roger Lancelyn Green 1953

 また、「アーサー王物語」へ回帰した。そこには、武勇、忠誠、慈悲、愛情、嫉妬・・・といった人間の情念が素朴な形で表現されており、その中をnobleという価値観が通っているいるので、すがすがしい。この本はトーマス・マロリーを中心に、フランス、ドイツなどの資料を用いて、グリーンが子供のために再話したものである。本文の初めに典拠を明らかにしている。 物語は大体知っているので、旧知の人物に会う懐かしさがあり、何よりも平易な文章で読みやすい。古潭の趣を残した筆使いにも好感が持て、本文356頁にうまく物語を詰め込み、大人の読書にも耐える。

前半、魔術師マリーンの支配力が大きすぎ、アーサー王の影が薄いのには気になったそのうち調子が出てくる。随所に活躍する乙女(damsel)をはじめ女性が大きな位置を閉めていることに改めて感じた。

マロリーにない話ではGeraidEniの物語、GawainRagnellの物語が特に面白かった。(後者については別に書きます。)

 第四部では、聖杯探求のことがひとまとめにしてあって、わかりやすかった。ファンタジーの色合いの濃い聖杯の話は日本人にはちょっとピンとこないのだが、それを得るには「心の純粋さ」が鍵となっており、ランスロットはグイネヴィアとの関係について、心に引っかかるものがあって、その資格を失っている。二人の恋はやがて王国崩壊へと繋がる。その壮絶な終局は「アーサー王物語」の読みどころに一つだが、グリーンはうまくまとめている。

 なお、 Roger Lancelyn GreenC.S.ルイスのもとに学び、ロビンフッドなど多くの再話作品があり、子供の読み物の作家として知られてる。私は、ルイス・キャロルの書簡集の編者や伝記の作者として馴染んだのであるが、アーサー王を通じてまた彼に出合ったことになった。

 
   2015/10/1

ガーウエインとラグネル」(その一)
 R.L.グリーンの『アーサー王と円卓の騎士たち』第6章の紹介。
アーサー王の宮廷でクリスマスの宴会が開かれている。そこへ美しい乙女(damsel)が駆け込んできて、夫が拉致されてしまったと王に救助を求める。ガーウエインを始め、王が一人で行くのことに反対する中、アーサー王が単身でその救済に乗り出す。乙女に導かれ目的地に着くと拉致した騎士(グローマ・ソマー・ジョール)が待ち構えて、その余りにも勇壮な姿に、馬もアーサー王も脅えてしまう。これはモルガン・ル・フェ(アーサーの異父の姉、魔女)の企んだもので、乙女も騎士もその支配下にあったのである。アーサーは勝負にあえなく屈して、騎士に慈悲を乞うことになった。騎士は許す条件として、「この世において女性が最も欲しいものは何か?」という謎の答えを、多くの女性に聴いて持って一年後に来い。正解であれば、許すが、さもなくば首を刎ねるという。アーサー王はその条件を飲み、帰って、その経過をガーウエインに話すと、彼も謎解きに協力しようと言う。
一年が過ぎた。
アーサー王とガーウエインは謎の答えを書いた2冊のノートを携え、グローマ・ソマー・ジョールの所へ向かう。その途中、世にも醜い婦人に出合う。彼女が言うには、二人の用件を知っているが、彼らの持参した謎の答えはは正解ではないので、アーサーは殺されるだろ。自分は答えを知っていて、アーサーが自分と結婚してくれれば、その答えを教えようと言う。アーサー王が申し出を断り行こうとする。ところガーウエインが、自分が代わりに結婚を約束をしたらどうかと言うと、婦人は喜んで承知して答えを教えてくれる。 目的地に着いて、アーサー王は二人を森に残し、単身、例の騎士に会いに行き、謎の答えをノートを読んで披露。「華麗、国、綺麗な衣裳、歓楽、愛、贅沢、怠惰・・・・」と読み上げるが、騎士は、その中には正解はない、これから首を刎ねると言った所で、途中出合った醜い婦人の教えてくれた答えを言う。***答えはネタバレとなるので省略***  それが正解だった。アーサー王は、自分の命は助かったが、ガーウエインが自分のために大きな悲運を抱えることなったことを悔やみつつ、その花嫁となる醜い婦人(ラグネル)を伴い帰国の途につく。 城に帰り騎士たちに冒険の経過を話すと共に、立派な結婚式の準備を命じる。
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   2015/10 /3

ガーウエインとラグネル」(その二)
 R.L.グリーンの『アーサー王と円卓の騎士たち』第6章の紹介。
ガーウェインが花嫁を連れて帰るということで、喝采で迎えようと通りに出た人たちもその醜い女性を見たとたん沈黙へと変わり、ランスロットほか仲間の騎士、婦人たちもお祝いの言葉が喉につかえて出ないほどであった。しかし、ガーウェインは彼女を世界一美しい花嫁として接し、婚礼の儀式が行われる。 そして祝宴の席では、花嫁は涎を垂らしながらガツガツと飲み食いするので、同席者全員の同情がガーウェインに注がれる。 そして初夜を迎える。「いとし夫、愛するガーウェインよ。キスして頂戴。今や私たちは、死が二人を分かつまで夫婦なんだから」と言い、ケタケタと笑う。ガーウェインは青ざめた、苦悩に満ちた顔を彼女に近づけ、唇にキッスする。その後彼はうめき声を上げ離れ、壁に寄りかかりこらえきれず肩を震わせて泣くのである。 と、「私の愛しいガーウェイン!」という声がするので振り向くと、そこには、かってみたことのないほどの愛らしい乙女がいたのである。彼は驚いて、自分の妻ラグネルはどこにいるのだと言うと、乙女は、自分がラグネルだ。魔法が解けて元の姿になったのだという。 しかし、解けたのは半分だけで、昼間美しい姿に戻るか、夜戻るか、いずれかである。昼間美しい姿だと宮廷の人たちに愛されて楽しいが、夜におぞましい姿で過さなくてはならない。逆だと昼間の苦労は夜に甘美なものとなって癒されることになるが、どちらかを選んでくれと言う。
  ***以下ガーウェインの選択はネタバレなるので省略***
全ての魔法は解け、夜昼元の美しい姿となったラグネルとの幸せな結構生活が展らけてゆく。だが、このラグネルは7年後いなくなってしまう。(以下略)
ガーウエインは円卓の騎士の中でランスロットと双璧をなす人物で、頭韻詩Sir Gawain and the Green Knightでも有名ですが、その骨太で愚直な性格には高貴さが漂い、人の心を掴みます。魔法が解けて元の美しい姿に帰ったラグネルがガーウェインに腕の中で泣きながら言う:There was never knight in all this world so noble and so unselfish as you!
この話は、岩波文庫の『中世騎士物語』ブルフィンチ作野上弥生子訳の中でも再話されていますが、グリーンと比べ精彩を欠き、内容も少し異なっています。答えを知りたい方は、グリーンの本を是非お読みください。この章は子供だけに読ますのは惜しいので、紹介した次第です。
 

 
 
 キャクストン  

キャクストン印刷の謎』ロッテ・ヘリンガ著 高宮利行訳、雄松堂 1991
イングランドに最初に印刷を導入したキャクストンは、トーマス・マロリーの『アーサー王の死』で、私は初めて知ったのですが、本書は、そのキャクストンの印刷物への書誌学的研究です。その研究の成果を年代を追って、記述してあるので、ちょっとしたミステリー的な面白さがあります。翻訳は、アーサー王伝説でお馴染みの、高宮利行先生。先のシェイクスピアのFirst Folioを追ったThe Shakespeare Theftsで、版本追及の面白さを知ったのですが、私たちの読んでいるテキストの裏に、書誌学的に、信じ難いほどのエネルギーが注がれていると思うと頭を垂れる思いがします。158ページ。



(この本は、シェイクスピアを読む会の仲間の四竃信行さんからお借りして読んだ。四竃さんは午後から始まる会読の前に、神保町によって、面白い本を買ってこられる。
私はもう本を買うことを極力抑えているので、四竃さんの買ってこられた本を見るのが楽しみの一つとなっている。)

2022年3月27日追記

この本は、どうしても、手元に置いておきたくて、昨年夏、ネットで購入した。
手に入れて満足して、再読していないが、時々、手にして、豊富な図版を眺めている。(右図は巻頭のカラー版4頁の内の2頁)
 

八行連詩 アーサーの死  
2019年3月25日


八行連詩 アーサーの死』清水阿や 訳 ドルファンプレス 1985

 アーサー王伝説のファンには、最初から終わりまで、親しみやすく、面白い。
話は、ラーンスロットが中心に構成されているが、ガーウエインをはじめ、なじみの騎士たちが登頂、アスコロトの乙女、女王の火刑の危機・・・アーサー王とラースロットの争い、モードレッドの反乱、王、王妃、ラーンスロットの終焉にいたる主要なエピソードがほとんど出てくる。荘厳ともいえるフィナーレ。
 この’Le Morte Arthur’は8行498連の詩で、Thomas Maloryの’Le Morte Darthur'より、200年ほど前の、14世紀のものである。意味だけを平易な日本語に訳してある。
 吟遊詩人たちが、リュートか何かを爪弾きながら朗誦したと思われるので、その原文も是非味わいたいと取り寄せ中。
 私の手元にある本は、訳者清水阿や(1911-)が友部直(1924-1998 立教大学名誉教授、美術史家)宛に献呈したもので、それを墨書したしおりが挟まっていた。
 神田の古書店で入手し、永年積読状態にあったものを、最近読んだのである。


木下 信一 さん: よく手に入りましたね。凄!
 十 一さん:学校図書除籍本ならヤフオクにもある。
  • 松村 恒 さん:神戸にいたころ『ガウェインと緑の騎士』を演習テクストにしていたころ、アーサー王関係を集めました。
  • 清水教授のご著書は手に入らず(何万円もだせば入手できるのですが)、所蔵している図書館までいきました。書誌目録をつくるとき、あやさんのあの字がパソコンで同じ字体でだせなくって、時間を浪費しました。
宮垣弘 松村先生『ガウェインと緑の騎士』は中世の英語で難しいですね。私は現代英語の対訳本で目を通しました。
画像に含まれている可能性があるもの:、「SIR TOLKIEN J.R.R. GAWAIN AND AND THE GREEN KNIGHT SIR GAWAIN GREEN KNIGHT PEARL SIR ORFEO Verse Translation SIMON ARMITAGE」というテキスト
三村 明さん: Gawain は中期英語の中でも特に難しいそうですね。修士課程で読まされて苦労しました。

 
   

この前紹介した
『八行連詩 アーサーの死』清水阿や 訳 ドルファンプレス 1985
の、翻訳の底本となったものを入手したのでここに掲げておきます。

Le Morte Arthur, A Romance in Stanzas of Eight Lines
by Douglas Bruce  1903版のファクシミリ版

とても歯の立つような英文ではありませんが、NotesとGlossaryが付いているので、清水阿やさんの翻訳と相まって、解読できるはずです。
いつか気が向いたら試みてます。