北の大空洞は、ぱっくりとその口を開け、暗い深淵をさらけ出していた。 そこをドーム型に覆って、侵入を拒んでいたエネルギーバリアも、シスター・レイによって粉砕され、もはや彼らの行く手を阻むことはできない。 ハイウインドの操縦席で、クラウドは仲間たちを振り返った。 「今度こそ、生きて戻ることはできないかもしれない」 「わかってるよ。そんなこと」 深刻な表情のクラウドをからかうように、ユフィが言った。 「結局、俺は、俺自身の戦いにみんなを巻き込んできた。だけど、今度ばかりは無理強いはできない。もし、ジェノバを倒すことができなかったら……? 今日まで必死に戦ってきたことが、すべて無になってしまう。それなら、メテオが落ちてくるそのときまで、自分の愛する人、愛する場所で、静かに待っていてもいいんじゃないかなって思ったんだ」 「おいおい、よしてくれよ。そして、自分だけイイかっこしようってのかい?」 バレットが、クラウドの肩をガシガシと叩いた。クラウドは、笑った。 「ま、そんなとこだ。ミッドガルでの宝条との戦いでわかったことがある。ジェノバに対抗できるのは、同じジェノバ遺伝子を持った俺しかいないって、な」 ユフィが立ち上がって不倶戴天を振り回した。 「へへへ〜。誰か忘れちゃいませんかって」 「ユフィ……」 確かに、彼女の武器は打撃で唯一、クリティカルなダメージを宝条に与えていた。 「クラウド、言ったじゃないか。ずっと側にいてくれって。今更、あれは気の迷いだったなんて言わせないよ」 クラウドは、浅く笑った。 結局、皆はそれぞれに戦う理由をみつけていた。 それは、必ずしも星の命を救うなどという壮大な目的ではなかったかもしれない。自分が命をかけて護りたいと願う相手を護り抜くことこそが、結果として星の命をも救うことに繋がるのだと、信じるしかなかった。 クラウドは、ともに戦って来た仲間たちを見回した。 「何が起こるかわからない。それでも、いっしょに行くんだな?」 皆は、それぞれにうなずいた。 「でも、あれだろ? セフィロスは、エアリスが護ってるって言ってたよな? じゃあ、今度こそオレたちといっしょに戦ってくれるんじゃねえか?」 バレットが、希望的観測を述べる。クラウドは、腕組みをして考え込んだ。 「アイツは……、全ての幕が下りるまで、自分の役割を忠実に演じると思う」 「役割? それは……、災いの使者としての役割ということか?」 ヴィンセントが、確かめるように言う。 「でなければ、俺たちの目の前でエアリスを殺したりしない」 彼らの脳裏に、水の祭壇ではかなく散ったエアリスの姿が蘇った。 彼女の体を、己が刃で無惨に刺し貫いたセフィロスは、あのとき確かに笑っていたのだ。その魔性の微笑みが意味するのは、決して変えられない運命を受け入れたということではあるまいか。 「やっぱり、セフィロスは、敵ってこと? じゃあ、エアリスが命を捨ててまでやったことって、何だったの!?」 ティファが苦しげに首を振った。 クラウドは、そんなティファを黙って見つめた。 「わからない。ただ……」 あのとき、セフィロスは言った。俺を憎め、と。 全ての罪は、我が頭上にある……。 罪……。 彼の存在そのものが、大いなる原罪だとでも言うかのような口振りだった。 クラウドは天を仰いだ。 真実は、彼の胸の裡にある。 皆に向き直った。 「行くぞ!」 自分を奮い立たせるように、言い放った。
大空洞内部は、強力なモンスターの巣窟だった。あとからあとから湧いて出る異形の生物たちに辟易しながら、最深部へと向かって降りて行く。 途中に別れ道があった。互いの無事を祈りながら、バレットたちと二手に別れて進む。 さらに進むと、また別れ道に出くわしたので、クラウドは、ユフィと2人で地下水の湧き出るじめじめした横穴に入った。 奇妙な形に繁茂した水中植物の、根太い枝を渡りながら、ユフィがクラウドを呼び止めた。 「ね、セフィロスと、戦うの?」 クラウドは、ユフィを振り返る。 「怖いか?」 ユフィは、えへへと笑って首をすくめた。 「うん。ちょっとね。だって、容赦なく、叩きのめされそうだもん」 「そうだな……。エアリスをあんなふうに殺せるヤツだ。俺たち相手にためらったりするはずがないな」 「だけど、セフィロス、本当はどうしようと思ってるんだろ?」 「わからない……。でも、自分が罪を全部かぶる、みたいなことを言ってた」 「罪……? そんなの、ジェノバの遺伝子を持っているってだけじゃない? 子供は、親を選んで生まれてくること出来ないって、真理だね」 「じゃあ、俺の罪は……どうなる?」 「クラウドの、罪……?」 「忘れたのか? 俺は、セフィロスのコピーなんだぞ」 「……忘れてなんかないよ。でも、アタシ、自分で言い出して情けないんだけどさ、守護霊ってどうやってなるのかわかんないんだ。だから、殺すのは、それ、わかってからにして」 クラウドは、唐突なユフィの言葉に、おもいきり口をへの字にひん曲げた。 「なんだよ、それ……?」 ユフィはまるで悪びれない。 「アタシ、エアリスの気持ちわかるもん。エアリス、セフィロスのこと、絶対わたせないって思ってたんだと思う」 「ジェノバに?」 「うん」 「だからって、アイツがあんなかたちで刺し殺すなんて……」 「直接、手を下した人間のほうが、憑きやすいってことじゃない?」 「おまえ、すごいこと言うな」 「だって、エアリスの意識がセフィロスのところに留まれなかったら、アウトじゃん」 「それでも……。俺は、アイツのやり方は認めたくない……」 「え?」 「確かに俺は、セフィロスに憧れてソルジャーになった。いっしょのミッションをこなして、ますます尊敬してた。裏切られてもなお、完全に憎みきれないものを感じていたんだ。でも……エアリスを殺したのは許せない。たとえ、どんな理由があったとしても、だ」 「どして?」 「それを肯定したら、俺も、同じことをしなければならなくなる……」 「クラウド……」 「そんなのは、ご免だ。考えただけで気が狂いそうだ!」 クラウドは吐きすてるように言って、ユフィに背を向けた。 ユフィは、そっとクラウドの背中に手を伸ばす。その背に、ぴったりと体を寄せた。 「キスして、クラウド……」 ささやくように言って、背中をなぞる。 クラウドは、少し乱暴に少女の体をかきいだいた。その細い体を抱きしめて、激しいキスを送る。感電したみたいに頭の芯が痺れる、切ないキスだった。 頭の中が真っ白になったユフィは、足元がおぼつかなくなり、不安定な水草の枝に乗っていることを忘れた。思わず、バランスを崩す。 つるんと滑って、支えようとしたクラウドといっしょに、水の中に落ちた。 ドボンと水しぶきが上がる。 2人は、あわてて近くの岸に這いあがった。 と、眼前に、宝箱が燦然と輝いている。 2人は顔を見合わせた。 「ラッキー!」 ユフィが、元気な声を出す。 そんな少女の無邪気な表情を見て、クラウドは心が和むような気がした。そして、この笑顔を護るために、どんなことをしてでもジェノバ遺伝子の呪縛から逃れなければならないのだと、あらためて思った。
底の見えないぽっかりと開いた大穴の中から、淡い翡翠色をした魔晄の輝きがたちのぼっている場所に出た。 そこには、既にバレットたちが待機している。別々の道を進んでも、結局、この場所にたどり着く構造になっていたらしかった。 「遅いぞ! 野暮はいいたかねえが、心配しちまったぜ」 「すまない。地下水の池で泳いで宝探ししてた……」 そう言ってクラウドは、インペリアルガードを差し出した。 「ったく、余裕のあるこったぜ」 バレットは、そんなことを言いながら、テトラエレメンタルをちらつかせる。 皆が、それぞれ、途中で拾ってきた貴重なアイテムを披露して、含み笑いをした。 そのとき、妙な気配が辺りに充満した。 「なんだ?」 バレットが、周囲を見回す。モンスターたちの咆哮がこだました。 「来た! すごい数だ……!」 レッドXIIIが、身構える。 「クラウド! おまえたちは、先に行け!!」 バレットに促されて、クラウドとユフィは、魔晄の光が溢れる最深部に向かって、飛び石づたいに降りて行った。
そこは、まさに星の体内だった。魔晄に満たされたエネルギーの坩堝である。この豊満なエネルギーの海で、ジェノバは復活の時を待ち続けていたのだろうか……。 全ての封印を解き放ち、完全な姿となってこの世に神として君臨することを夢見て。 「行き止まりだよ。これ以上、下には進めない」 ユフィの言う通り、そこが人の力で降りられる最深部のようだった。魔晄の光に照らされた、尖った岩で囲まれた、不思議な雰囲気の場所である。 クラウドは、一瞬、激しい既視感に襲われた。 頭の中に、過去の映像が強引に割り込んでくる。 強烈な眩暈がした。 「ここは……」 呟いて、膝を折った。 「クラウド!」 あわてて、ユフィが駆け寄る。クラウドは、こめかみを押さえてかぶりを振った。 「ここに……いたんだ……。ずっと……。母さんを……護って……」 「母さん!? それってジェノバのこと!?」 ユフィの背筋に、悪寒が走った。今までとは違う、本能的な恐怖を感じた。もしかしたら、ジェノバにはかなわないのではないかと思った。 背中からプリンセスガードを抜いて、くるりと振り回した。宝石から広がる光が、魔晄の輝きの中に溶け込み拡散していく。この場所では、周りの場の力が強すぎて、ロッドの力が及ばないのだ。 「クラウドっ!」 背中に抱きついて、ユフィは叫んだ。 その声に導かれるように、邪悪な気配が辺りを包み込む。 「きた……」 ユフィは、ごくっと生唾を呑み込んだ。息をつめて、辺りの様子をうかがう。 空間がゆらめいた。 現れたのは、妖艶な美女だった。セフィロスとそっくりな面差しの、白銀の髪をなびかせたジェノバである。 ジェノバは、クラウドに微笑みかけた。 クラウドはその母の微笑みに、自分を失ってしまいそうになった。どんなに振り払おうとしても、ジェノバの意識は深く嘗めるように絡みついてくる。 それほどまでに、遺伝子の呪縛は強いのか。 クラウドは、絶望的な気持ちになった。 ここまで来てあえなくジェノバの野望に与することになるくらいなら、と最後の意志の力を振り絞って、言った。 「ユフィ……。俺を、殺せ……!」 「えぇっ!?」 ユフィは、悲鳴のような声を上げて、ぶんぶんとかぶりを振った。 「そんなこと、できない!」 ぐっと右手に不倶戴天を握りしめる。 「言ったろ? アタシがクラウドを護ってやるって!」 少女は、怒りの視線をジェノバに向けた。 タッ、と地を蹴って走り出す。 短い助走から、ジェノバに向かって斬りかかった。 跳躍しながら、腕を使って印を結ぶ。 思いっきり、武器を叩きつけた。 しかし、ジェノバは余裕の笑みを浮かべる。 青い魔晄をうつす瞳が、不気味な輝きを放った。 ふわりと両手が宙に浮く。 あっと思うまもなく、緑色の光がユフィを襲った。 アルテマだ。 ユフィは、吹っ飛んで、地面に叩きつけられた。 「ちくしょー……」 両腕を突っ張って、体を起こす。一度殴りつけただけで、カウンターにアルテマをくらうのは致命的だった。それでも、ジェノバを倒せなければ全てが水泡に帰す。 ユフィは、奥歯をギリッと噛みしめた。 再び、ジェノバに向かってダッシュする。 『立て、クラウド!』 不意に、クラウドの頭の中に声が響いた。 セフィロスの声だった。 頭上に重くのしかかっていたジェノバの意識が、奇跡的に遠のく。 視界に、ジェノバに向かって斬りかかってゆく傷だらけの少女の姿があった。 反射的に、クラウドは地を蹴って飛ぶ。 ユフィの眼前に躍り出て、大剣を水平になぎ払った。 光の刃が、ジェノバを襲う。 「クラウド!」 ユフィが、驚いて叫んだ。 「大丈夫だ。ジェノバの意識はブロックされた」 「そんなこと、どうやって……?」 ユフィは怪訝な表情だが、悠長に話し込んでいる暇はない。すぐに、ジェノバが反撃してきた。 空間がうねうねとゆらめき、ジェノバの姿が変わってゆく。 「うそ……」 それは、水の祭壇で祈りを捧げるエアリスの姿だった。あのときと寸分違わぬ、エアリスが、そこにいた。 クラウドは、さすがにひるんで手を出せなかった。それが、本物のエアリスであるなどとは到底思えないにも関わらず、剣を振り下ろすことができなかった。 ジェノバの罠は、巧妙だ。 祈るエアリスが、呪文を唱える。 デスクローだった。 クラウドとユフィの体は、なすすべもなく邪悪な戒めに絡みつかれてゆく。 死の戒めが、ギリギリと全身を締め上げた。肉を裂き、骨を断つほどの圧倒的なパワーだった。 まさに、そのとき。 天空から、白銀の翼をきらめかせた黒をまとった天使が堕ちて来た。 水の祭壇で祈るエアリスの背中に、グサリと長刀を突き立てる。 クラウドたちを縛り付けていた邪悪な戒めと同時に、エアリスの像が粉砕された。 背を突き刺されたジェノバが、前のめりに倒れ込む。 その体が、ピカッと光って霧散した。 堕ちて来たのは、白銀の髪をなびかせた青い瞳の戦士だった。あのときと寸分たがわぬシチュエイションで、長刀を握りしめ、そこにたたずんでいる。 「セフィロス……」 クラウドは、愛した娘を2度までも刺し殺せる、彼の強靭な神経に愕然とした。 その、血に染まった白刃が、彼自身の姿とオーバーラップして見えた。 「気を抜くな。次は本気で来るぞ!」 厳しい声でセフィロスは言った。 クラウドは当惑した。 それは、もしかしたら、共にジェノバと戦うということか……? かつて、ソルジャーとして戦場を駆け抜けたように? クラウドは、セフィロスの目を見た。 セフィロスは、目顔でうなずく。 不覚にも、クラウドは、千の味方を得たような気分になった。アイツのやり方は許せない、などと言い切ったくせに、その存在を頼りにしている自分を知った。現金なものだ、と自嘲的に思った。 やがて、不気味な気配が辺りに充満した。 クラウドが腰に下げていたヒュージマテリアが、熱を持ち光り出す。 「ヒュージマテリアが……」 ユフィが皆まで言い終わらぬうちに、ヒュージマテリアはクラウドを包み込んでまばゆい光を放った。 「ジェノバの封印が、解かれるのか……?」 クラウドは、ふらりとよろめく。 セフィロスは、クラウドに向かってマイティガードをかけた。ヒュージマテリアの暴走で受けるダメージを軽減する目的だ。 「かつて、セトラがジェノバに科した封印は6つ」 セフィロスが言った。 「4つのヒュージマテリアと、白と黒のマテリアだね?」 ユフィが、セフィロスを見る。 「それが、ジェノバが本来持っていた力だ」 「えっ? ホーリーも?」 「ホーリーは、諸刃の剣。使い方次第で全てが無に還る」 ヒュージマテリアが、クラウドの体からひとりでに離れ、宙に浮かんだ。クラウドは、頭を振って立ち上がる。 「封印は、解かれたのか?」 「どちらでも同じことだ。まとめて葬り去ればそれでいい」 地の底から沸き上がるような、恐ろしい咆哮が近づいた。 「来るぞ!」 セフィロスが、すっと刀を構える。 「残りの封印は?」 クラウドも、構えを取りながらセフィロスに訊いた。 「ここに揃っているさ。ジェノバを凌駕するために」 空間を揺るがせて、光るドラゴンにも似た異形のモンスターが現れた。その、背で、ジェノバが笑っている。 ジェノバは、赤い色に染まった蝶の翅をはばたかせた。左腕を、鋭い爪を持った異形の生き物に変形させている。腕は、それ自体が意志を持っているかのように不気味に蠢いていた。 「封印がジェノバを凌駕するだって?」 「ジェノバに抗するものにも封印が科せられてある。八番目の封印は、セトラが生み出した伝説の武器、不倶戴天だ」 「不倶戴天……」 ユフィは、自分が手にした武器に視線を落とした。そういえば、これを発見したとき、クラウドはジェノバに操られ、この武器を葬り去ろうとした。あれは、そういう意味だったのか。 ジェノバがアルテマを唱えた。 全てを破壊し尽くす緑色の光球が、襲いかかる。 体勢を整える暇もなく、ドラゴンの連続攻撃が頭上からドカドカとヒットした。 痛烈な攻撃に、クラウドは吹っ飛んだ。 ユフィは、武器を抱えて地に伏す。 そのとき、彼らの頭上に光が降り注いだ。 蛍のような青白い光点が、彼らを包み込んでキラキラと輝いた。 生命の鼓動が、聞こえる。 「うそ……、これって……エアリス?」 それは、エアリスの持っていた力だった。皆の魔力と体力が回復し、体中に闘う力が蘇って来る。 ユフィが立ち上がって、その、姿なき存在を確かめるように天を仰いだ。ふと、気配を感じたような気がして、セフィロスのほうを見る。 エアリスが、そこにいると確信した。 哀しいさだめしか与えられなかったその男を、全身全霊で護っているのだと感じた。 そんな究極の想いに振れ、少女の胸は、締め付けられた。 セフィロスの髪が、ふわりと舞い踊る。左腕を、ジェノバに向かって振り降ろした。 辺りが真っ白な閃光に包まれ、周囲に膨れ上がった暗黒の火球が連続して大爆発する。 黒い炎がジェノバに襲いかかった。 間髪入れずセフィロスは跳躍し、構えた長刀を下からえぐりこむように斬り上げた。 ジェノバの体に、光る傷口がぱっくりと開く。 返す刀でもう一度、斬り降ろす。 ジェノバは、狂ったような悲鳴を上げた。 すかさずクラウドも、大剣を腰だめに構え、ヒュンと水平になぎ払う。 光るドラゴンもろとも、ジェノバの体に斬りつけた。 ジェノバは、もはや笑ってはいなかった。 傷ついた体を庇うように腕を傷口に持っていく。自分の前に立ちふさがる子供たちに、殺意を孕んだ視線を向けた。 ジェノバは左腕を振り上げる。 額で、第三の邪眼が目を開いた。暗黒の闇を映した、黒い魔性の瞳だ。 その瞳が、怪しい光を放つ。 セフィロスは、ニッと口許を笑わせた。 彼は、この、瞬間を待っていたのだ。 咄嗟に、クラウドとユフィにシールドの呪文をかける。 ひらりと宙を舞って、2人を庇うように、ジェノバの正面に躍り出た。 宙に浮かんでいたヒュージマテリアが、ジェノバの邪眼に操られるように輝き出す。 4つのヒュージマテリアが、互いの間にビームを放って干渉し合った。 やがてその輝きがジェノバのもとに集まり、轟音とともに炸裂した。 すさまじいエネルギーと、ジェノバの邪悪な殺意が一体となってセフィロスを直撃する。 耳をつんざく爆発音と、連爆する衝撃波が空間を揺るがした。 「セフィロス!」 クラウドの声は、轟音にかき消され、爆心に居るセフィロスの元へは届かなかった。 空間自体が消失しかねない恐るべきパワーだった。 その刹那。 セフィロスを包み込んだ巨大なエネルギーの奔流が、ジェノバの元へ跳ね返った。 それは、信じられない光景だった。生身の人間には到底できないことだった。バリアもリフレクも使わず、強大な殺意のエネルギーを跳ね返す瞬間を、クラウドたちは視た。 「クラウド!」 微塵もダメージを受けていないセフィロスが、振り返りざまクラウドに叫んだ。彼が何を言わんとしているのかは明白だった。 ジェノバの存在を、遺伝子の根本から葬り去ることが出来るのは、クラウドだけなのだ。 セフィロスが跳ね返したエネルギーが、ジェノバと光るドラゴンを包み込んで灼熱の燃える火の球になった。 クラウドは、傍らのユフィを見る。 ユフィは、不倶戴天をクラウドに放った。 クラウドは、不倶戴天を握りしめ、それを高く天に掲げた。真っ赤な光が、クラウドの全身を押し包む。 短く助走して、タン! と地を蹴って飛んだ。 長い呪文が、口をついて出る。 遺伝子を崩壊させる禁断のアポトーシス・ブレイクだ。 クラウドは、手にした武器に全神経を集中させ、ジェノバを包んだ火球に飛び込んでいった。 セフィロスが、すうっと左腕を振り上げる。クラウドが離脱するタイミングを計った。 燃える火球が、内側に崩れ込むように不規則に震え出す。 セフィロスがデジョンを唱えて、左腕を振り下ろした。 光のカーテンに包まれて、クラウドが離脱する。 ジェノバを包んだ火球が収縮し、ぶるぶると震えた。 「ちょっと待って! ヤバイかもっ!」 ユフィが、悲鳴のように叫んで、クラウドを庇いに走った。抱きつくように、クラウドを押し倒す。 セフィロスがシールドを唱えるのと同時に、彼らの周りであまたの星が舞い踊った。 ユフィに押し倒されたクラウドは、天から舞い降りて来る星の守護の不思議な輝きを目の当たりにする。 エアリスの心が皆を包み込み、少しの時間ではあるが、外的なダメージを受けなくなった。 収縮した火球は、当然のように大爆発を起こした。すさまじい熱波とソニックブームが、断続的に発生する。その場に居るもの全てを灰にするほどの熱量が、放出された。 星の守護に抱かれた彼らは、閃光に目を細めながら、爆発する炎を視る。 その狂った炎の中で、美しい銀髪の女が身もだえして、消えた。 ジェノバを構成する遺伝子の結合を解いたのだ。二度と、蘇ることなはい。 爆発の衝撃で、彼らの立っている地面がぐらぐらと揺れ始めた。 足場がどんどん崩れだし、体がさらなる深遠に向かって落下していく。 彼らは、その浮遊感に身を任せた。 |