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囚われた希望

Action-24

 

 スモキャニオンに着いたクラウドたちは、ブーゲンハーゲンの天文台にいた。ことの経緯をブーゲンに話し、助言を求める。
 「セフィロスを止めることができるのは自分だけ……か。けなげじゃのう」
 ブーゲンは、感じ入ったように呟いた。誰もが、哀しい恋に殉じて散っていった彼女のことを哀惜の思いで回想していた。
「セフィロスもそれを知っていたんだ。いや、ヤツは随分前からそのことに気づいていたらしい。エアリスの存在は、アイツにとって唯一ジェノバと対決出来る鍵だった。それなのに、何故……?」
 クラウドは、声を詰まらせた。信じては裏切られ、また、信じかけては手ひどく突き放されたような気分だった。
「あのときのセフィロス、ジェノバに操られていたのかな?」
 ティファが、クラウドを見る。クラウドは、眉間にしわを寄せた。
「こんなことは考えたくないが……、俺には、正気だったように思えた」
「そんな……そんなこと……!」
「信じられねえな」
 バレットも、唸る。ユフィが、壁にもたれてぽつんと言った。
「でも、エアリス、笑ってたよ。セフィロスが、降りてきたのわかってたと思う。それに気づいて、笑った……」
「いったい、どうなってやがるんだ!?」
 ばりばりと頭をかきむしって、バレットが喚き散らす。
 それまで黙っていたシドが、そんなバレットの肩を、ガシガシと叩いた。
「ところでな、何だってあのネエちゃんは、あんな場所へ行ったんだ?」
 一同が、弾かれたようにシドを見る。シドは、沢山の視線に射抜かれて、たじろいだ。
「な、なんでい?」
「いや……。俺たちは、そんなこともわかっていないんだな、と気づかされたのさ」
 クラウドの言葉に、ユフィもうなずく。
「エアリス、何してたんだろ?」
 水の祭壇で一心に祈るエアリスの姿を思い出した。
「どうして、あの場所で、セフィロスに……?」
 シドが、煙草に火をつけようとして思いとどまる。
「場所……? あそこで死なねばならなかったとでも言うのかい?」
「古代種たちの意識が封じ込められた場所だった……」
 クラウドは、何か、わかりかけたような気がした。壁から体を離して、ユフィは、プリンセスガードを見つめる。
「古代種の神殿も、そうだったよね」
「あそこには、メテオを呼ぶ黒マテリアが封印してあったんだ」
「封印?」
 皆が、異口同音に呟いた。
「もしかしたら……」
 クラウドは、思い出した。
「そうだ! 第七の封印!? エアリスが七番目の封印だったなら、何か重大なことが残されてるはずだ!」
「どうれ、今度はワシもいっしょに行くとしようかの。その場所に隠された何かを探せるかもしれんて……」
 ブーゲンが、意味ありげに言った。もしかしたら、この齢130を数える老人には、エアリスが残したものがわかっているのかもしれなかった。


 忘らるる都は、あのときと変わらぬひんやりとした空気に閉ざされていた。
「エアリスは、星をめぐるエネルギーになっちまったのかな?」
 バレットが干上がった滝を睨みながら言った。
「どうだろ? なんか、ピンとこないよね」
 ユフィはバレットの傍らに走り寄った。
「エアリス、どんな気持ちであの祭壇にいたんだろ?」
 クラウドは無言でユフィを見た。クラウドの目を見返して、ユフィは続ける。
「怖くなかったのかな? いつも、明日のことしか考えてなかったエアリスが、あそこで自らセフィロスに殺されるのを選んだんだとしたら……」
 ブーゲンハーゲンは静かに言った。
「ここに渦巻いている古代種の意識は、たったひとつのことを訴えているのじゃ。星の危機……! もう、人の力でも、終わりのない時間の力でも、どうしようもないほどの星の危機。そんな時が訪れたなら、ホーリーを求めよ、とな」
「ホーリー?」
 ブーゲンハーゲンに視線が集まった。
「究極の白魔法ホーリー……。その聖なる力は、全ての邪悪なるものと完全に対を成す。ジェノバが、いちばん恐れているのは、それじゃ」
 やはりブーゲンは、エアリスの、最後のセトラが残したものの意味を知っていたようだった。意気込んで、クラウドが聞く。
「2000年前に、ジェノバを封じ込めることができたのは、ホーリーが発動したからなのか?」
 ブーゲンは、首を振った。
「真偽はわからん。しかし、求める心が星に届けば、それは発動する。メテオも、ウェポンも、全てを葬り去るじゃろう。……もしかしたら、ワシらもな」
「俺たちも?」
「それは、星が決めることじゃ。星は、怒っていることじゃろうて。でなければ、ワシらが築いた科学文明を打ち壊すウェポンなどは、存在しない筈じゃからな」
「ウェポンは、星の怒り……」
「それで、少し、気になっていたのじゃが……。あのセフィロスというのは、本当は何者なのじゃろうか……」
 ティファが、不安な表情でブーゲンを見る。
「え? ジェノバ遺伝子の継承者じゃないの?」
「ふうむ……。それは事実なのじゃろうが……。どうも、附におちんのじゃ」
「確かに、何を考えてるのか、わからないわ。人間じゃないって気がする」
 吐き出すようにティファは言う。彼女は、最初からセフィロスに対してはいい感情を持てなかった。一度、斬り殺されたのだから当然かもしれない。
 ユフィが、ティファの感情論よりは少しだけ冷静な意見を述べる。斬られた者と助けられた者の、立場の違いだ。
「それって、彼が何かを考えてるというよりは、何に導かれてるのか、ってコトじゃない? 最初は、ジェノバだと思ったけど、もしかしたら……」
「もしかしたら……?」
 クラウドが、先を促す。
「エアリスが、第七の封印だったとしたら……。それをジェノバに、いちばん渡したくないのは……」
「星?」
 呟いて、クラウドは、己が逢着した考えに愕然とした。ティファも悲鳴のような声を上げる。
「星が、エアリスを殺したの? 星がそう望んだから? それが星を救うってコトなの?」
 皆を取り巻く冷え切った空気が、さらにピンと張りつめ緊張した。ブーゲンは、ゆっくりと視線を巡らせ、しわがれた声で言う。
「じゃとしたら、セフィロスというのは、星に導かれし者……。奇しくも、ジェノバの野望の通り、星に選ばれし者ということになるのう……。因果なことじゃて」
 星に選ばれし者……。
 クラウドの胸に、その言葉が重くのしかかった。
 さだめだ……。運命が俺を選んだ……。
 セフィロスはそう言っていた。その、さだめとは、星の未来だったのか?
「さて、そのホーリーじゃがな……。黒マテリアがメテオを発動させるように、ホーリーを発動させるためには、白マテリアが必要なんじゃ」
「白マテリア? それは、エアリスが持っていた……。でも、何の力も持たない、お守りのようなものだって……」
 クラウドは、彼女がセフィロスのチーフに包み込むようにして、それを髪の間に隠し持っていたのを知っていた。亡き母から譲り受けたお守りだと言っていたのだ。
「さよう。聖なる力を封じ込めた白マテリアは、星に語りかけ、願いが届くと、初めてその力を解放することができる。そのときがきたら、白マテリアが淡いグリーンに輝くらしいのじゃ」
「絶望だ……」
 クラウドは、うつむいてかぶりを振った。
「白マテリアは……。あのとき、セフィロスに刺されたとき、祭壇から落ちて……水中深く沈んで行った……」
 確かにそうだった。
 しかし、ブーゲンハーゲンは、そこに記された古代文字に隠された鍵の存在をクラウドたちに教えた。日の光の届かぬ場所に、ここの秘密を解く鍵が隠されているという。
 クラウドたちが、海底での探索中に手に入れた古代種の鍵を使うと、枯れていた滝に水が降り注いだ。
 滝のカーテンをくぐって中に入る。そこは、イメージを投影するスクリーンだった。
 水のスクリーンに映った過去のイメージを見る。
 水の祭壇で祈りを捧げるエアリスの姿が蘇った。ハッと顔を上げ、堕ちてくる黒い天使に微笑む。刃が触れ、彼女の髪を止めていた桃色のポケットチーフが切れて、そこに隠されていた白マテリアが、こぼれ出た。
 祭壇の石柱を伝って落下するマテリアは、淡く緑色に輝きながら水中に没して行った。
「輝いている……」
 クラウドが茫然と言った。
「エアリスは、ホーリーを唱えていたんだ……」
「あのひとを止めることができるのは、わたしだけって、言ってたのは、このことだったの? セトラの生き残りであるエアリスが、白マテリアを持ってる意味、セフィロスを愛したさだめ、自分が成すべきこと……。それが、ホーリー……?」
 ティファが、泣きそうな顔になった。
「だけど、それって、彼女自身の命、未来と引き替えにしなきゃできないことだったの?」
 皆は、沈黙を守っていた。ティファが言ったことが、皆の共通した気持ちだったからだ。命と引き替えでなくしては、ホーリーを発動させることができなかったなどとは、到底思えない。
 ティファは、クラウドに挑むような視線を向けた。
「エアリスを殺したのは、本当に、ジェノバじゃなくてセフィロスなの?」
「ヤツの目を見ればわかる。間違いない。あれはジェノバじゃなかった」
「信じられない……。あの男は狂ってるのよ! でなきゃ、あんなひどいこと、できっこないわ!!」
 そうかもしれない、と思わざるを得ない状況だった。もし、セフィロスが、自分自身の意志で愛する娘を死に至らしめたのだとしたら、どんな言い訳も通用しないような気がした。
 ふと、ユフィは、背中にしょったプリンセスガードが、ほんのりと暖かくなっているのに気づいた。驚いて、ロッドを出してぐっと握ってみる。
 ユフィの手の中で、音叉のように、ロッドが鈍く震えた。
「もしかして……」
 震えるロッドを握りしめて、ユフィは皆を見回す。
「エアリス……セフィロスを護るために、体を捨てたんじゃないかな……?」
 一同が、ぎょっとして、おかしなことを言い出したユフィを見た。
「古代種の神殿に残ってたセトラの意識たちは、体が死んでしまっても、ずっとあそこに残って護ってたんだよ、黒マテリアを。エアリス、そう言ってたじゃん。確かに、アタシの国でも、そういう考え方あるんだ。死んだ肉親なんかが、このへんに居て、ずっと護ってくれるって……」
 言いながら、自分の後頭部のあたりで手をひらひらさせる。
「守護霊じゃな?」
 さすがにブーゲンハーゲンは、物知りだった。
「うん。彼がずっと正気でいられるように。命と引き替えに、ジェノバから彼を護ろうとしてるのかも……。それが、セトラの奥の手……」
「じゃあ、それで……ヤツはあんなことを言ったのか……?」
 クラウドが、思い出したように言う。
「なんて?」
「いつも、おまえのそばに……」
 それを聞いて、ティファがわっと泣き崩れた。
「だけど、それが本当だったとしても、エアリスが死んでしまったことにかわりはないわ! だから、セフィロスなんて、忘れてしまえばよかったのにっ!!」
 ユフィの手の中のプリンセスガードが、ピーンと澄んだ音をたてた。
 まるで、悲しまないで、と言っているようだった。
 クラウドは天を仰いだ。
 ジェノバ遺伝子の本能に逆らうためには、そんなにも辛い選択をしなければならないのだろうか、と思った。そして同時に、自分が彼の立場だったなら、愛する女性をこの手であやめることができるのだろうか、と考えた。
 傍らの、ユフィを見た。
 プリンセスガードを握りしめて、不思議な、透き通った表情をしている。
 この、破天荒な少女が愛しかった。
「だが……」
 クラウドは、呟いた。
「それでも、俺は、アイツのやり方を許すことはできない!」
 拳を握りしめる。
 セフィロスが、自分を憎めと言っていたのを思い出した。彼には、クラウドがこんな凶行を許すことが出来ないことは、わかっていたのだ。
 頭を振った。
「行こう」
 低い声で、きっぱりと言った。
「どこへ?」
 ユフィが、クラウドを仰ぐ。
「最後の封印は、アイツだ!」
 北の空を睨んだ。あの、崩壊した大空洞に、ジェノバが眠っている。セフィロスも、そこに向かうことは明らかだった。
 急がなければ、メテオが落ちて来る。
 その前に、全ての決着をつけなければ、と心に誓った。


 ジュノンからミッドガルに移設された巨大な砲塔は、神羅の秘密兵器だった。ジェノバが眠る北の大空洞のエネルギーバリアを粉砕するため、魔晄エネルギーを最大に利用したキャノン砲を発射しようと、準備を進めていたのだ。
 そこに、突如、ウェポンが出現した。ミッドガルに向けて一直線に海上を進んで来る。
 シスター・レイと名づけられた魔晄キャノンが、火を吹いた。
 魔晄の一撃が、空を裂き、一直線にウェポンを突き抜ける。恐るべき破壊力を持ったシスター・レイはウェポンを撃破し、北の大空洞のバリアを破った。
 しかし、ウェポンの放った攻撃により、ルーファウスは死亡し、ミッドガルも壊滅的なダメージを受けた。
 トップを失った神羅は、沈み行く船だ。命令系統が混乱し、体勢を立て直すのは困難だった。
 そんなとき、事件が起こった。魔晄炉に負担がかかるため、連続発射できないはずのシスター・レイを宝条が乗っ取ったのだ。2発目の発射をもくろみ、魔晄炉をフル稼働させているという。それを許せば、ミッドガルは爆発してしまうかもしれない。
 ケット・シーこと、それを遠隔操作していた神羅カンパニー都市開発責任者リーブの必死の願いを受け、クラウドたちは宝条を止めるべく、ミッドガルへパラシュート降下した。
 八番街の地下にもぐり、螺旋トンネルを駆け抜ける。シスター・レイのコントロール装置へと作業用の階段を駆け上がった。
 そこに、狂気の科学者、宝条の姿があった。
「宝条! そこまでだ!!」
 クラウドは、降りしきる雨の中、装置を操作する宝条の背中に叫んだ。
「邪魔をするな」
 武器を構えて自分の背後に立つクラウドたちなど意に介さず、宝条は手を動かし続ける。
「どうして、こんなことをする!?」
 クラウドはイラだっていた。本当は、こんなところで狂った科学者の相手などをしている場合ではないのだ。
 今にも、ジェノバが復活し、メテオが落ちて来ようとしている。
「クックックッ……」
 宝条は不敵に笑った。くるりと振り返る。
「我が妻、我が息子がエネルギーを必要としているようだからな……。私が少しばかり力を貸してやるのだ」
 エネルギーゲージが、83パーセントのところを示していた。もう、あまり時間がない。
「ジェノバとセフィロスのことか!?」
「ほかに、誰がいる?」
「気持ち悪いこと言うなよ! セフィロスは、あんたなんかと次元が違うってば!」
 ユフィが叫んだ。
「おまえの妻はルクレツィアではなかったのか?」
 静かな押し殺したような声で、ヴィンセントは言った。
 宝条は、鼻で笑う。
「ふん。相変わらず、どうでもいいようなことにこだわっている男だな。そんなことだから、真実を見誤るのだ」
「どうでもいいことだと?」
「ククク……。さよう。彼女は、ジェノバ・プロジェクトと結婚したのだ。おまえには理解できまい」
「宝条……。おまえに、人を愛する心はないのか……」
 ヴィンセントは、翻弄された過去を想い、唇を噛みしめた。
 そんなヴィンセントの反応などにはかまわず、宝条はクラウドを見た。
「そういえば、あの、古代種の娘には驚かされたものだ。ジェノバ遺伝子の継承者と古代種……。これほどに理想的な組み合わせはない!」
「なに言ってんだ? この、オッサン……」
 ユフィがクラウドを仰ぐ。クラウドは、宝条をさげすみの目で見た。
「いまごろ、ヤツの父親だと主張するなら、もっと息子のことを知る努力をするべきだったな」
「なに?」
「エアリスは……。死んだ。もう、おまえの欲しがっていたサンプルを生むことは出来ない!」
 宝条は愕然とした。
「死んだ……だと? あの、セフィロスがついていて、なにがあったというのだ……」
 クラウドは、冷たい微笑を浮かべた。
「その、セフィロスが、自らの手でエアリスを殺した……!」
「ばかな!!」
「セフィロスは、多分、本当の意味で星に選ばれた……。母を葬り去り、遺伝子の呪縛を断ち切るために!」
 宝条は、両手を天に向かって突き上げ、狂ったように笑い始めた。
「そうか……。星がヤツを選んだか……。セルフィッシュ・ジーンに逆らうために。……親への造反は、利己的な遺伝子に逆らうこと。ハッハッハッ……。それは充分、考えられることだ。毒を持って毒を制す。ジェノバに対抗するには同じ、いや、それ以上のジェノバの力を持ったウェポンでなくては不可能だからな」
「ウェポン?」
「そうだ。セフィロス・ウェポン! 星を守護する者だ。しかし、ウェポンは手段を選ばない。もう、ヤツを止められる者はいない。烈火の炎で全てを灼き払い、うつしよの事象、森羅万象を道連れにジェノバと心中するのだ……」
 宝条の、笑い声が、雨の中にこだました。
「神に造反した最初の子供。破壊の光を掲げる者ルシフィール……。素晴らしい。それが、私の息子なのだ……ハァッハッハッハッ……」
 クラウドの背筋に、悪寒が走った。
「狂ってる……」
 まさに、狂気に魅入られた悪魔の科学者がそこにいた。
「ときにクラウドくん、いいものをお見せしよう」
「なに?」
「形質転換というのを知っているか? ジェノバの遺伝子を、後天的に体内に埋め込むことが出来るのだよ。今はまだ、免疫機能に影響があるので、リンパ系細胞への導入しかできんがな……。それでも、あのセフィロスと引き分けるほどの威力を発揮した……。私は、ジェノバ遺伝子を継承する者として、神へ近づくのだ!」
 言うやいなや、宝条の姿が醜く変態した。巨大なグロテスクな怪物となり、クラウドたちに襲いかかる。
「うっそだぁ〜! こりゃ、ますますセフィロスの親父だなんて信じられないよぉ!」
 顔をしかめながらも、ユフィは不倶戴天を構え直す。気息を整えて、地を蹴って飛んだ。
 先制の一撃をぶちかます。
 化け物と化した宝条は、激しい竜巻を呼んだ。ごうごうと渦を巻く巨大な竜巻がクラウドたちを襲う。その竜巻と同時に、灼熱の溶岩がドカドカと降り注いだ。メテオ・ストームである。
 大ダメージを受けて、クラウドたちは宙に舞った。なるほど、ものすごい破壊力だ。
 苦戦は必至だった。繰り出す攻撃の半分は、無力化され、攻撃魔法はほとんど吸収される。かろうじて、ユフィの不倶戴天での物理攻撃が、ダメージを与えているようだった。
 彼らは慄然とした。ジェノバの力の恐ろしさを思い知った。
 クラウドは、ラグナロクを持ち変えた。握った掌が、汗ばんでいる。
 このままでは勝てない……。そう思った瞬間、頭の中に無理矢理割り込んでくる何者かの意識を感じた。
「ジェノバか……!?」
 低く呻いて、ふらりとよろめく。
「クラウドっ!」
 ユフィが、気づいて悲鳴のように叫んだ。
「負けるなぁっ!!」
 左手で、背中にしょったプリンセスガードを抜き放ち、くるんと宙で振り回す。
 緑色に変色した天使の宝石から、きらきらと光が溢れ出た。クラウドの頭上に、光のバリアを張り巡らせる。
 クラウドは、目を閉じた。
 両手に握ったラグナロクをまっすぐに頭上に突き上げる。
 その、鋭い剣先に、緑色の光が吸い寄せられた。
 大剣が、スパークするように光り出す。
 全身に、力がみなぎるのを感じた。
 タン! と地を蹴って飛ぶ。
 天空に、いかずちが閃いた。
 カッと辺りが閃光に包まれる。
 とっさに、ヴィンセントがシールドを張った。
 アポトーシス・ブレイクが、炸裂した。
 中心から膨れ上がるような光の球が、宝条を包み込む。
 光は膨張し、目もくらむ輝きを放った。
 怪物の輪郭が、空間にとけ込むように、ぐずぐずになって消えてゆく。
 クラウドは、そこに崩れるようにして着地した。剣を支えに、膝をつく。
「すごい! クラウド、今の、どうしたの?」
 驚いた顔で、ユフィがクラウドの傍らにしゃがみ込んだ。
「そうか……アポトーシス・ブレイク……。ジェノバの封印だ……」
 弾む息を抑えきれずに、クラウドは喘ぎながら言った。
「アポトーシス・ブレイク? ジェノバの封印? そっか、いつか言ってたのは、このことなんだ?」
「俺が持つジェノバ遺伝子は、同じ遺伝子を持つ者を消滅させることが出来るように変異した……。殺意を跳ね返すというセフィロスの能力も無効化できる究極の……。そうか……。俺を封印していたのは、セフィロスではなく、ジェノバ自身……!」
 雨が激しくなった。
 しのつく雨が、戦場の血痕を洗い流してゆく。
「宝条……時の狭間で眠りにつくがいい……」
 ヴィンセントが呟いた。
 クラウドの耳に、エアリスの声が蘇った。
『クラウド、お願い。あのひとを……セフィロスを殺して……!』
 クラウドは、深く息をつき、頭を振って立ち上がった。傍らの少女を見る。
「それにしても、ホーリー、どうして発動しないんだろ?」
 エアリスが水の祭壇で唱えていたホーリーは、星に届いたはずである。しかし、依然としてそれが動き出す気配はない。
「邪魔してるヤツがいるのさ」
「ジェノバだね? エアリスの想い、解き放ってあげなきゃ」
「行こう。セフィロスが、待ってる……」
 メテオがこの星に落下するまでの時間は、あと7日と言われていた。
 メテオは、いよいよ赤く、禍々しく、空に輝いている。
 まさに、時は満ちた……。
 クラウドたちは、北の大空洞に向けて旅立った。
 

 

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