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おはようが言えたらいいね

Action-23

 

 リスタルな長く続く階段を駆け下りる途中で、空間を揺るがすほどの大爆発があった。
 クラウドたちは、あわてて、ぱたぱたと身を伏せ、震動をやり過ごす。
「なんだ?」
 反射的に、周囲を見回した。
「誰かが、戦ってるの?」
 ティファが立ち上がる。
「セフィロスかな?」
 ユフィも立ち上がった。
「戻るか? どうする?」
 バレットが、クラウドに選択を迫る。
「いや。アイツが、俺たちの助けなど必要とするものか」
「だって、エアリス、いっしょなんでしょ?」
 ティファが心配そうな声を上げる。だが、クラウドは感じていた。
「エアリスは……この下だ!」
 そう言い捨てて、再び階段を走り出す。一同も、その後を追った。
 階段を下りきると、そこはほぼ完全な形で残された古代種の都だった。透明な光に照らし出された、水の都である。
 クラウドは、水の祭壇で一心に祈りを捧げるエアリスを発見した。祭壇までの足がかりである石柱をリズミカルに飛び越して、彼女のもとへ駆け寄る。
 不意に意識が遠のいた。何者かに強く支配され、手足の自由がきかなくなる。右手に、バスターソードを握りしめた。
 そのまま、祭壇にひざまずくエアリスの正面に歩み寄る。
 大剣を、いっぱいにふりかぶった。
 それを振り下ろそうとした瞬間。
「クラウドっ!」
 プリンセスガードが飛んできた。クラウドがふりかぶっていた大剣に当たって、鋭い音をたてる。
 クラウドは、ハッと我に返った。あわてて剣を引き、後ずさる。
「クッ……俺に何をさせる気だ」
 ジェノバの意識が、あざ笑うようにクラウドを揺すぶった。
 無心に祈り続けていたエアリスが、気配に気づいてそっと顔を上げる。その深い緑をたたえた瞳が、クラウドを見た。
 エアリスには、全てが見えていた。
 だいじょぶ。何も怖くない……。
 そのときが近づくのを感じた。 すうっと息を吸い込んで、はるか虚空を見上げた。
 真っ白な気持ちで、静かに微笑む。
 そのとき、天空から、白銀の翼をきらめかせた、黒をまとった天使が堕ちてきた。
 白刃を逆手に握りしめ、まっすぐにエアリスをめがけて舞い降りる。
 鋭い輝きを放つ長刀が、エアリスの背から心臓を貫いた。
 一瞬の出来事だった。
 クラウドは、突然のことに、身動きひとつできなかった。目の前で、エアリスが凶刃に倒れるのを、ただ見つめるだけだった。
 堕ちてきた黒い天使は、凍り付いた無表情で、愕然とするクラウドを見る。
 セフィロス……。
 クラウドは、声も出なかった。その、あまりに過酷な仕打ち、無情な態度に、打ちのめされた。
 どうして、こんなことが出来るのか……?
 どうして……?
 けれども。
 エアリスは……。それでも、微笑んでいた……。
 まるで、そうなることがわかっていたかのように……。
 まるで、それを望んでいたかのように……。
 セフィロスは、薄く笑った。徹底して冷たく、無慈悲な、冴え冴えとした微笑みだった。
 そして、エアリスの体に突き立てた刀をするりと抜き取る。
 エアリスの髪を結んだ桃色のチーフが切れて、ふわりと宙に舞った。
 小さな緑色に輝くマテリアが髪の間からこぼれて、石柱を伝い落ち、水中に没して行く。
 水面に波紋が広がり、消えていった。
エアリスの体は力を失い、ふわりと前のめりに倒れ込んだ。
クラウドが、あわててその体を抱き止める。
「……エアリス」
 呼びかけて、体を揺すった。
「……ウソだろ?」
 クラウドは、茫然として、その閉じられたままの瞼を見つめた。
「第七の封印は解かれた……」
 クラウドの背後で、低く抑揚のない声でセフィロスが呟いた。
「……だまれ」
 クラウドは、セフィロスの言葉を遮って、怒りに燃える視線で振り返った。
「よくもそんな平気な顔をしていられるな! 第七の封印? そんなもの、何だって言うんだ!? おまえにとってエアリスは、いったい何だったんだ? 愛していたんじゃないのか! それを、どうして、こんな……」
 激情に肩を震わせながら、エアリスに視線を戻した。しかし、その顔に苦痛は浮かんでいない。不思議と安らかな、満ち足りた表情をしていた。
「さだめだ……。運命が、俺を選んだ。後戻りはできない」
 クラウドは、はげしくかぶりを振った。
「だまれ! だまれ! だまれ!! おまえは自分の運命にエアリスを巻き込んだ! エアリスは、もうしゃべらない。もう……笑わない。泣かない……怒らない……」
 華奢な体を抱きしめた。
「俺たちは……どうしたらいい? この、痛みはどうしたらいい?」
 そっと、エアリスの体を横たえる。
「指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱いんだ!」
 クラウドは、怒りと悲しみで爆発しそうだった。立ち上がってセフィロスに向きなおる。
「どうして、何度も裏切るんだ!?」
 セフィロスは、目を伏せて不敵に笑った。
「俺を憎め、クラウド。全ての罪は、我が頭上にある……」
 クラウドは、怒りのままに陸奥守吉行を抜きはなった。それを振りかざし、力の限り斬りかかる。
 セフィロスの正宗が、ヒュンと一閃した。
 刀がぶつかり、火花が散る。鋭い音が響いた。
 クラウドは、至近距離でセフィロスの目を見て、ハッとした。
「セフィロス……」
 日本刀の扱いにかけては、セフィロスはクラウドより数段上だ。手首を返してクラウドを突き放す。
 クラウドは、驚いた表情でセフィロスを見つめた。
「まさか……、正気でこんなことを……」
 動揺して、完全に戦意を喪失した。
 刀を降ろし、立ちつくす。
 セフィロスは、そんなクラウドに冷たい視線を投げた。
 やはり、その瞳にジェノバの影はない。
 セフィロスは、刀を収め、そこに横たわる娘に視線を落とした。傍らにひざまずく。
「さわるな!」
 厳しい声でクラウドが言った。セフィロスは、ふっと口許を笑わせる。
「……いつも、おまえのそばに…………」
 乱れた髪の一房を、左手でそっとすくい上げた。その栗色の髪にくちづける。
 クラウドには、もう、何が何だかわからなかった。何度裏切られても、それでも、たった今まで、セフィロスを信じていた自分を嗤うしかなかった。
 第七の封印……。
 それは、エアリスのことか? エアリスがいなくなれば、自分がどうなるのか、わかっているのか? どうやって自分の内にあるジェノバを退けるのだ?
 セフィロスは、スッと立ち上がった。タン! と飛び上がり、地上に向かって消えて行く。
 クラウドは、その黒い影がクリスタルな階段を駆け上がって行くのを黙って見送った。セフィロスの考えも、最後に見せたエアリスの笑顔も、全てが理解不能だった。
 だからこそ。
 あんな男を忘れられないと言って、頬を染めた、いつかのエアリスの表情だけが真実のように思えた。もしかしたらエアリスは、自分の死をもって彼を思いとどまらせようとしたのだろうか? しかし、そんな彼女のけなげな心も、命を賭けた愛も、通じはしなかったのだ。
 ヤツは、狂っている。でなければ、愛した女を自らの刃で刺し貫くなど、出来るはずがない。
 …………。
 いや……?
 不意に、痛烈な違和感を感じた。
 そうだ。ヤツは何と言っていたか……。
『……いつも、おまえのそばに……』
 死が、2人をより深く結びつけるなどということがあるのだろうか?
『さだめだ……。運命が、俺を選んだ。後戻りはできない』
 運命が、俺を選んだ…………。
 俺を……選んだ……?
 運命というのは、ジェノバのことか? それとも……?
 クラウドは、水の祭壇に横たわるエアリスのそばに膝をついた。
 エアリスは、ここで何をしていたのだろう? そして、なぜ、セフィロスに……。愛した男に殺されなければならなかったのだろう? 彼女は何を知り、どんな切り札を持っていたのか……?
 すべてが混沌としていた。
 このことが、どう影響するのか、わからなかった。
 駆けつけた仲間たちが、エアリスの亡骸に別れを告げた。ティファが、その髪の乱れを撫でつけてやる。ユフィは、たまらずしゃくりあげ、クラウドの胸の中で泣きじゃくった。
 ユフィを落ち着かせ、クラウドは、そっと、エアリスの亡骸を抱き上げた。驚くほどに軽い、はかなげな細い体だった。彼女に体に触れると、ほのかな花の香りがした。心がやすらぐような、やわらかな香りだった。
 ふと、その肩に、銀色に光る細くて長い一筋の糸を見つけた。
 糸? いや、ちがう。
 それは……。あの男の髪の毛だった。そんなものが体に残るほど、近くに寄り添っていたということか? それは、いつだ? それなのに、あんな無惨な殺し方をしたというのか? 仲間たちの目の前で?
 クラウドは、混乱を押さえることができなかった。
 アイツはこの香りを抱きしめたとき、迷いはしなかったのだろうか?
 背後から、心臓を、一突きだった。
 セフィロスのいつもの太刀筋とは、明らかに違う。
 クラウドは、やるせない気持ちになった。多分、いちばん苦しくない方法で、彼女を死に至らしめた……。
 やはり彼も、胸中に、割り切れない思いを抱いていたのか?
 クラウドは目を伏せてかぶりを振った。
 わからない……。
 けれども。それでもなお、彼を凶行に駆り立てるものは何なのだろう?
 仲間たちが見守るなか、クラウドはエアリスの亡骸を水中深くに解き放った。
 透き通った水の中に、ゆらゆらと漂い、消えてゆく。
 彼女は、還ってゆくのだろうか。星の懐に抱かれて、ライフストリームの中へ。この星に残された最後のセトラは、約束の地を見つけられなかったのだろうか。
 それとも……。
 疑問ばかりが、あとからあとから沸きいでた。
 彼らは、ミッドガルで彼女が約束の地をみつけたことを知らなかった。
 全ての答えは、今、セフィロスの胸の中にある……。
 クラウドは、ジェノバに操られ、エアリスに剣を向けたことを思い出した。皆を見回して、懺悔するように言う。
「俺は、もしかしたら、とんでもないヤツなのかもしれない」
 バレットは、豪快に空笑いした。
「何をいまさら言いやがる。てめえの問題は、てめえでカタつけろよ」
「それで、いいのか?」
 とまどったように、クラウドは言った。
「私が生き恥をさらし、ここまで君たちについてきたのも、そういう理由だ」
 シニカルにヴィンセントが言う。
「こういうのも、エアリスさんの弔い合戦と言うんでっしゃろか?」
 クラウドは、複雑な表情でケット・シーを見た。
「わからない。もしかしたら、エアリスの死でいちばん苦しんでいるのは、アイツかもしれない……」
「冗談じゃねえ! そんなもんは、オレは認めねえぞ! オレだったら、たとえどんな理由があるにせよ、愛する者を殺したりなんかできねえ! ……マリンをこの手で殺しちまうなんて……考えたくもねえ!!」
「バレット……」
 ティファが、大男を見上げる。バレットの叫びは、皆の気持ちを代弁していた。エアリスが何を考え、どんな奥の手を持ってここにいたのか、そんなことすらわからなかった。
「どぉしてぇ……!」
 ぺたんと座り込んで、ユフィがプリンセスガードを抱きしめる。幼い子供のように、人目をはばからず泣き崩れた。
 と、そのユフィの抱きしめたロッドが、何かに共振するように震えた。
「え?」
 驚いて、ユフィが天使の飾りを見上げる。
 一瞬、エアリスの笑顔が見えたような気がした。
「ねえ、見て」
 ユフィが翼を広げた天使の中央に輝く赤い宝石を指さした。みるみる色を失って、別の色に変わってゆく。それは、深い魔性の緑色だった。
「これ、エアリスの瞳の色……」
 一同は、その不思議な光景に目を奪われる。
「悲しまないでって言ってるんじゃない? ずっと見てるからって」
「古代種セトラ、か……。不思議なネエちゃんだったよな」
 シドが、煙草の煙を吹き上げた。
「セトラの奥の手……。それは、いったい、何だったんだろう?」
 結局、それがわからなかった。一同は思案したあげく、古代種のことに詳しい、コスモキャニオンの長老ブーゲンハーゲンに助言を求めることにした。
 エアリスが、命を賭けて何を成し得ようとしていたのか、究明しなければならないと、焦っていた。


 ニブルエリアの山の中に、湖があった。滝のカーテンに覆い隠されたその奥の洞穴に、贖罪の隠遁生活をおくるひとりの女性がいる。
 名は、ルクレツィア。二十数年前、禁断の人体実験に自らの身を提供し、セフィロスを生んだ科学者だ。
 激しく流れ落ちる滝をくぐる気配がした。ルクレツィアは、そっと滝のほうに視線をさまよわせる。
 つい最近、ヴィンセントがここに来たばかりだった。外の世界では、何か恐ろしいことが起こっているに違いない。ヴィンセントは、ここに籠もることでかろうじて生きながらえている愚かな女を憂慮してか、何も言わなかった。
 けれども……。
 ルクレツィアの体の中に眠るジェノバの遺伝子が、時は満ちたと告げていた。
 時は満ちた……。
 このままでは、全身を騒がせる不思議な衝動につき動かされて、いつしか自分が自分でなくなってしまうのではないかと、怯える毎日だった。
 頭を左右に振って、降りかかった水滴を飛ばし、左手で長い白銀の髪をかき上げた男がそこに立っていた。
 ルクレツィアは、驚きのあまり茫然と男を見つめたまま、その場に立ちつくす。喉の奥からかすれた声を絞り出した。
「セ……フィロス……?」
 生み落としてから、ついに一度もその腕に抱くことのかなわなかった数奇な運命の息子が、成長し、戦場に出て、英雄と呼ばれるようになったのを知っていた。その姿も、映像を通して何度か目にしていた。いつでも、彼のことを気にかけていた。
 しかし、5年前、不運な事故で死亡したと公式発表され、先日、訪れたヴィンセントもまた、彼は死んだと言い切った。多分、彼が生きていては不都合なことがあるのだ。
 科学という魔物の欲望から生み出された生命が背負った十字架は、それほどに重い。崩壊した倫理の、行き着く先にその存在があった。
「生きていたのね……? セフィロス……」
 光の祭壇を下り、ルクレツィアは息子のもとへ駆け寄った。
 魔晄の色をたたえる青い瞳が、静かに女を見おろす。セフィロスは、穏やかな声で言った。
「ルクレツィア……。あなたを、殺しに来ました……」
 一瞬、ルクレツィアは息を呑む。驚いた瞳を見開いて、逞しく成長した我が子を見上げた。
「そう……。やはり、許してはくれないのね……」
「俺は、あなたを許すとか許さないとか、そういうことには興味がない。宝条のことも同じだ」
「宝条……。彼は、どうしているの?」
「あの男は、自らジェノバを体内に受け入れ、破滅への道を進んでいる」
 ルクレツィアは、ああ……と呟いて、ふらりとよろめいた。その、倒れ込んだ体を、セフィロスが抱き止める。
 ルクレツィアは、とまどった視線をセフィロスに向けた。
「なんだか、不思議ね……。あなたはもう、生まれたばかりの赤ん坊じゃない。誰よりも強くて、誇り高い……。生んだというだけで、母親だなんて言えないかもしれないけれど……。でも、あなたがお腹の中にいるときが、私の人生でいちばん幸福な時間だったのよ……」
 セフィロスの瞳に、一瞬のとまどいが浮かぶ。
「それが、ジェノバという得体の知れないものの末裔だとしても?」
 ルクレツィアは、遠い昔を思い出しながら微笑んだ。
「……男の子にはわからないかもしれないわね。あなたはとても元気がよかったの。お腹を蹴られるたびに痛くて痛くて……。でも、それが嬉しくて幸せだったわ。そんな悦びもこの世にはあるのよ」
 セフィロスは、言葉を失い、目を伏せた。確かに、エアリスも、胎内に宿った子供のことばかり言っていた。それほどに、命を生み出す性が受け継ぐ本能は、強く、ゆるぎないものなのか。
 そっと、ルクレツィアの細い指先がセフィロスの額の濡れた髪を撫でる。
「疲れた顔をしているのね……。かわいそうに……」
 少し驚いた目で、セフィロスは女を見た。
「最近、よくあなたの夢を見るの……」
「俺の、夢……?」
「……そう。古代種の都の夢も見たわ」
「ルクレツィア…………」
「愛してたのね、あの娘を……」
 セフィロスは浅く息をついた。
「やはり、あなたを殺さねばならないようだ」
 ルクレツィアは、うつむいた。
「これは、ジェノバの力? 私の存在が、あなたの妨げになるのね?」
「もうじきジェノバが復活する。そのとき、あなたの書き換えられた遺伝子は、ジェノバと同調し……恐らく……」
「わかったわ……。でも、最後にひとつだけお願いしてもいいかしら?」
「…………」
「お母さんって、呼んでほしいの」
 ルクレツィアは、すがるような目でセフィロスを見上げた。首が痛くなるほどに背が高い。悪魔に魅入られたように美しい我が子だった。
 しかし、セフィロスは、ゆっくりとかぶりを振る。
「俺の母親は……ジェノバだ」
 ルクレツィアの瞳から涙が溢れた。
「……そうよね。ごめんなさい……セフィロス……」
 ルクレツィアは、泣き崩れた。声を押し殺した、寂しい泣きかただった。
 セフィロスは、左手に握った長刀を、くるりと逆手に持ち変えた。
 凍りついた無表情のまま、その刃をルクレツィアの背に突き立てる。肉を裂く独特の手応えが、柄を握る手に伝わった。
 先の記憶がオーバーラップして、腕に蘇る。
 …………。
 扱い慣れた長刀正宗が、ひどく重く感じられた。キュッと唇を噛み、哀れな女の亡骸を見降ろす。
 狂気は、どこまで続くのか……?
 腕に力をこめて、刀を引き抜いた。しばし、その場に立ちつくす。周囲から、全ての音が消え去り、白い沈黙の中にたたずんでいるような感覚を覚えた。
 息が苦しかった。
 目を閉じて、天を仰いだ。その身を引き裂かれそうなほどの、痛切な孤独を感じた。
 口許を、薄く笑わせた。
「我は選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在……。この星を、愚かなる略奪者たちからとりもどし神になるために生をうけた……」
 いつかクラウドに言った言葉を繰り返した。
 星の支配者……? 神……? 知らず、自嘲的な笑みが漏れた。まるで、尊大な幻想を抱いた誇大妄想家の世迷い言だ、と思った。
 そのとき、ふわりと、優しい気配に、頭を撫でられたような気がした。
「エアリス……俺を嗤っているか……?」
 すうっと深く息を吸い込む。
 それでも……。
 道化にならねばならないのだ。
 セフィロスは、魔性の瞳を見開いた。
 時は、満ちた……。今こそ、黙示の時だ。
 女の死体にくるりと背を向け、滝の洞穴を後にする。
 外に出たところで振り返り、洞穴に向かって封印の破壊魔法を唱えた。
 全てのものを焼き尽くす炎が燃え盛り、巨大な爆音とともに、洞穴が、がらがらと崩壊する。
 その様子を、セフィロスは静かに見つめていた。炎が、銀色の髪に照り映えて、美しく染まっていた。

 

 

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