真っ白な闇の中に、クラウドはぽつねんと独りで居た。 どこかで呼ぶ声が聞こえる。それは、懐かしい母の声だ。遺伝子に刻み込まれた運命の母、ジェノバの声だった。 クラウドは、あらがいがたい誘惑を感じた。その懐に抱かれてしまえば、悩むことも恐れることもないのだと本能的に感じた。たとえば、幼い子供が添い寝する母のぬくもりを感じて落ち着くような、絶対的な安心感がそこにあった。身を委ねてしまいたくなった。 「だいじょぶ。クラウド、まだ、がんばれる」 不意に聞き覚えのある声が、そんなクラウドの頭の中で語りかけてきた。 真っ白な闇が去り、緑の木々が生い茂った森の中の映像が現れる。木漏れ日が、揺れていた。エアリスが、木の陰からひょっこりと顔をのぞかせる。 「ほら、見えた」 エアリスは、無邪気に笑った。 「どうして……? ここは、どこだ?」 クラウドには、わけがわからなかった。 「あのね、セフィに中継してもらってるの。シンクロできるって便利だね」 「中継だって?」 「うん。この森、古代種の都へ続く……眠りの森と呼ばれているところよ。メテオ、防ぐ方法、わかったの。だから、わたし、行くね。それ、伝えたかった」 「メテオを防ぐって、いったいどうやるんだ?」 「セトラには、奥の手があったのよ」 「奥の手?」 「そ。きっと、びっくりするよ」 『エアリス……』 男の呼ぶ声が、やわらかく反響した。 「セフィロスか?」 クラウドは、弾かれたように周囲を見回す。 『悪いが、これまでだ。シルバー・ドラゴンが現れた』 「あれ? 同時にできないの? けっこう不器用なんだ……」 不満そうに、エアリスは無理難題をふっかける。 「しょうがないなぁ……。じゃ、クラウド、またね」 笑顔で、エアリスは、手を振る。 『クラウド』 これまで、とか言っていたわりに余裕のある男が、話しかける。現実では、銀色の翼を持った強力なドラゴンと対峙しているのだろうに。 『自分を、信じろ』 「えっ?」 その言葉に心の中の迷い全てを見透かされたような気がして、クラウドは狼狽した。 『おまえは、俺とは違う』 「セフィロス?」 『さあ、目をさませ!』 セフィロスの言葉と同時に、意識が蘇った。目を開けると、そこにティファの心配そうな顔があった。 「大丈夫? うなされていたわよ」 「オツムの調子はどうだい?」 バレットのいかつい顔がのぞき込む。 「ああ……。今は大丈夫そうだ」 「そうか」 クラウドは、頭を振って起きあがった。 「古代種の都……エアリスはそこに向かっている。メテオを防ぐ手段があるらしいんだ」 「古代種の都?」 ユフィが身を乗り出す。その背中に、プリンセスガードを背負っていた。 「ジェノバが、いちばん邪魔なのが、エアリスだ。彼女がいるだけで、セフィロスを操れなくなる」 「危険だな」 ヴィンセントが、ぼそりと言った。 「セフィロスは……エアリスを護りきれると思うか?」 クラウドが気にかかるのは、そこだ。もしも、エアリスの力より、ジェノバの意志の方が勝ってしまったら……。 「わからない……」 ティファが首を振った。 「だけど、メテオを防ぐって、エアリス、どうするつもりなのかな?」 ユフィが、当然の疑問を口にする。 「セトラには、奥の手があると言っていた」 「いつ?」 ティファが目を丸くする。 「今だ。セフィロスが、意識を中継してきた」 「そんなすごいこと出来ちゃうの?」 「今までにも何度かあった。俺が気づかなかっただけだ」 「奥の手かぁ……。なんかヤバそうって気がすんのは、アタシだけ?」 「じゃねえよ。みんな、そう思ってる」 バレットが唸った。 「だったら、なんで、そんなにチンタラしてやがんだ? 早く、行こうぜ」 シドが、せっかちにあおりたてる。クラウドは、苦しげな表情になってうつむいた。 「どうしたのよ? クラウド」 ティファも、心配そうだ。クラウドは、吐き出すように言った。 「俺、またおかしくなるかもしれない。ヒュージマテリアの回収中にだってジェノバが降りてきてたかもしれないんだ……」 頭を抱えた。 「怖いんだ。俺は、俺でなくなってしまうかもしれない……」 その場の空気が、固まってしまったような感じだった。確かに、ジェノバの支配力は絶大だ。あの強い意志を持ったセフィロスをも操り、自らの野望を押し進めようとしている。 そのとき、ユフィが、クラウドの胸ぐらをひっつかんで、パンパンと往復びんたをくらわせた。 「その通り。あんたが、セフィロスと同調して、その手でメテオを呼んだんだ。責任を取れっ!」 一同が、えっ? と驚く。メテオを呼んだのは、ティファだったはずだ。が、彼女は引き金にすぎなかったのかもしれない。強大な魔力を持ったセフィロスと、クラウドがシンクロして、黒マテリアの破壊を念じていた。そのエネルギーが高まったところへ、別のベクトルが示される。 「責任?」 クラウドは、ユフィを見た。 「確かにあんたは、いろんな問題抱えてるかもしれない。……でも、クラウドはクラウドなんだろ? あんたはジェノバじゃないし、セフィロスでもない。ここまで戦ってきた自分を、信じなよ!」 自分を、信じろ……。セフィロスと同じことを言う……。 ユフィは、エアリスが残して行ったプリンセスガードを、ぐいっとクラウドの眼前に差し出した。 「もし、あんたが正気を失ったら、これで殴りつけて目を覚ましてやる」 「ユフィ……」 「責任とれなんて言ってもさ、具体性がないよね。だったら、あんたは自分に出来ること、すればいいんだよ。体の中に潜んでるジェノバが、心を呑み込んでしまう前に。……今なら間に合う。きっと」 クラウドは、肩を落とした。5つも年下の少女に、正論をぶちかまされた感じだ。 「こうなってみてわかったよ。セフィロスは、強いな……。俺みたいに、何もかも放り出してしまいたくならないんだろうか……」 ユフィは、クスッと意味深に笑った。 「信じてるからじゃない?」 「何を?」 「自分がどんなに暴走しても、絶対にエアリスが止めてくれるって」 クラウドは唖然とした。そんなノーテンキな、根拠のないことを支えにできるものだろうか。 「だが、エアリスが、どうやって?」 「それこそ、ブン殴ってでも……。ううん。自分の命を賭けて。でなきゃ、正気じゃいられないよ。辛すぎる」 「そうか……。それが、セトラの奥の手ってヤツなのかもしれないな」 「だって、事実、エアリスが側にいたら、ジェノバ、セフィロスに手出しできないじゃん。すごいよね。感動しちゃう」 クラウドには、えへへ、と笑う少女がとてもまぶしく見えた。彼女には、まだ子供なのだということを最大の武器にしているような、フレキシブルな強さがあった。 「ユフィ……。俺、自分でも情けないと思うけど、それ、ずっと持っててくれな」 「これ?」 プリンセスガードだ。 「俺の、側にいてくれ」 「え……」 ユフィは、一瞬、目を点にする。ティファが、その言葉の意味を察してサッと顔をうつむけた。 それは、クラウドがユフィを選んだ瞬間だった。 シドが、少し意外そうにティファとユフィを見比べる。 「クラウド……」 そっとユフィは、クラウドの頭に手を伸ばした。子供を撫でるように、くりくりとツンツン頭をかきまわす。 「クラウド、なにがあっても、ぜったい、護ったげるから……」 テレたように頭をかいて、バレットがまぜっかえす。 「なんだよ。逆じゃねえのか?」 ユフィはゆっくりと首を振った。 「セフィロスだって、エアリスに護られてるよ。ちょっとアタシじゃ、役不足かもしんないけどさ」 「ユフィ……」 クラウドは、ユフィの両腕をぐっと握った。ユフィは、静かに微笑む。いつも元気で、子供っぽい彼女からは想像もつかない、慈愛に満ちた微笑みだった。 ティファは、その表情で全てを悟る。少女がひとりの女性として羽化する瞬間を、見たような気がした。 硬い蛹の皮を脱いで現れた蝶は、七色の翅を持った希有の妖蝶だ。力強く、奔放で、限りなく優しい。 ティファは、そっとバレットを促した。先にたって部屋を出ていく。 「ティファ……」 ユフィが、その後ろ姿に向かって呼びかけた。 「アタシ……」 ティファは立ち止まり、振り向かずに言った。 「……あのとき、ニブルヘイムで、宝条を引きずってくるってあなたが飛び出して行ったとき……、もう、こうなること、わかってたのかもしれない」 「え?」 「エアリスも、ユフィも、どうしてそんなに強くなれるんだろう……」 ティファはうつむいた。 「そんなんじゃないよ。ただ、どうしても、譲れないことがあるだけ……」 「譲れないこと?」 「運命に負けてしまうなんて、悔しすぎる」 「それ、クラウドのこと?」 「ジェノバを巡る、全ての、狂わされてしまった運命。きっちり、オトシマエつけてやるって思っただけ」 「そっか」 「ティファ、ごめん。アタシ、身を引くなんてカッコイイまね、できなかった」 うなだれたユフィの肩をポンと叩いて、クラウドが立ち上がる。 「ティファ……」 静かに呼びかけた。 「何も言わないで。私、わかってたんだ。クラウド、芯の強い女の子、好きだもんね。でも、私はダメ。泣いてばかりで、すがりつくことしかできない。護ってあげるなんて、とても言えやしない……」 「違うんだ。ティファがいけないわけじゃない。ただ、ユフィは、本当に俺の運命を変えてくれるような気がする。どんな過酷な戦いの中へでも、自分の力でついてきてくれる。そして、俺がおかしくなってしまったら、ためらわずに、ブン殴って正気に戻してくれる。そう思ったら、もう、止められなかった」 ティファは、目尻を指先でぬぐってクラウドを振り返る。 「ばかね。それ、私に言ってどうするのよ。ちゃんと、ユフィに言ってあげなさいよ」 言い残して、外へ出ていく。他の仲間たちも、気をきかせてティファの後に続いた。 その後ろ姿を見送って、ユフィは、ぽつんと呟いた。 「クラウド、後悔しない?」 「なんだ? 自信がないのか?」 「だって、ティファ、ほんとにクラウドのこと想ってるんだよ」 「おまえは違うのか?」 ユフィは、ちょっとひるむ。 「うわ……それって、ずるいかも。ホント、セフィロスと同じ遺伝子持ってるだけあるよ」 「なんだ? それ?」 「あのね、エアリスが言ってた。セフィロスも、そういう言い方するんだって。もう絶対後へは退けない状況にしておいて、引き返すなら、今だ……とか、平気で言っちゃうらしいよ」 クラウドは、笑った。 「そうか……。迷いの中にいるのは、俺だけじゃないんだな」 「え?」 「おまえ、まだ16だろう? 故郷には親父さんだっている。俺は、おまえを不幸にしかできないかもしれない」 なんとなく、どこかで聞いたフレーズだとクラウドは思った。そうだ、いつか、エアリスの話をしたとき、セフィロスがそう言っていた。 ユフィは、無邪気な笑顔になった。 「エアリスが、セフィロスと出会ったのも、16だったんだって。アタシ、もう、子供じゃないよ。自分のことは自分で決められる。それでもし、不幸になるんなら、自分の責任だよね」 「強いんだな」 「うん。強いよ。アタシ、今までの人生で、後悔したことってないんだ。だから安心して」 「そうか……。護ってもらうのは、俺の方だったな……」 そう言って2人は笑い合った。 クラウドは、ふわりとユフィの体を抱き寄せる。 「この傷、俺がやったのか?」 ユフィの頬に残る、新しい傷を見た。 「ヘ〜キヘ〜キ。なめときゃ治るって」 クラウドは、困ったような顔になる。 「すまない……」 真顔で詫びて、頬にくちづけた。ユフィは、緊張してこちこちの表情でクラウドを見上げる。 「そんなに力、入れるなよ」 「う……。ごめん。慣れてなくてさ」 「じゃ、ゆっくりだな。急ぐと、予定外にブン殴られそうだ」 「え? あ? そ、それは、だいじょぶ。予備知識はインプットしといたから」 「予備知識?」 「うんうん。初めてでもね、あんまり痛くないこともあるって」 「おまえ、何だよ、それ……」 「エアリスに聞いたの。セフィロスって、すごい上手なんだって」 クラウドは絶句した。 「そりゃ……、そうかもな……」 「でも、そんなことどうでもいいや」 きゅうっとクラウドを抱きしめる。細い腕のわりに、けっこうな力だ。 「ね、抱き合うと、あったかいね……」 「……おまえ、挑発してるのか?」 少し、悪戯っぽい目で、ユフィはクラウドを見上げた。 「言ったじゃん。子供じゃないって。もっともっと、アタシのこと、信じて。……ぎりぎり土壇場で、迷わず、アタシを、呼べるように……」 「ユフィ……」 そっと、少女のおとがいをすくい上げた。その唇に、自分の唇を重ねる。 言葉の過激さとは裏腹に、少女は震えていた。 その華奢な体を、抱きしめる。 抱きしめると、ほんとうに、心が温かかった。
そこは、つい最近、魔晄炉の爆発事故で多数の死者を出したというゴンガガ村だった。メルトダウンした魔晄炉の様子が、村から眺望できる。 ユフィを促して宿屋から外に出たクラウドは、仲間たちと合流してその壊れた魔晄炉を見た。 「魔晄炉……」 何か心にひっかかるものがあって、クラウドは考え込んだ。不意に、脳裏で青い魔晄の光がフラッシュする。 「あ……」 頭を押さえて膝をついた。 「おっと……」 バレットが身を引く。ユフィが、プリンセスガードを握りしめた。 「大丈夫だ……。この、魔晄炉が爆発したのは……いつだ?」 クラウドは、頭を押さえたまま呻くように訊いた。 「さあな。最近って言ってたが……。オレたちがミッドガルの一番魔晄炉を吹っ飛ばした頃じゃねえか? それが、なんだってんだ?」 「一番魔晄炉……? 違う。その前だ……」 クラウドは頭を振った。 「この魔晄炉が爆発して……俺たちは目覚めた。俺は、ライフストリームから吐き出されて、神羅の実験体としてあのゲルニカ飛空艇で運ばれる途中だった……」 「それは、海の底に沈んでいた飛空艇のことか?」 ヴィンセントが、確認する。 「そうだ。あの飛空艇を墜としたのは……俺だ……!」 誰も、驚きの声を上げたりはしなかった。そのとき、ジェノバにコントロールされていただろうことは、容易に想像出来たからだ。 「そして、俺はミッドガルに、ジェノバの体を迎えに行ったんだ……」 「の、割には、目的を忘れていたんじゃない?」 ティファが不思議そうに訊く。 「確かにそうだ。ミッドガルに入ると、そんなことは忘れてしまった。あの街が発しているエネルギーが、俺をジェノバから引き離したのかもしれない」 「なあ、それじゃあ、5年ものあいだ、ライフストリームの中で、何してたんだ?」 バレットが、難しい顔になる。 「時間の概念は曖昧だが……。ジェノバとともに眠っていたんだと思う。そのあいだに、いろんな知識が頭の中に入ってきた。パンクしそうなくらいの知識の量だ。それで……、俺は……、封印された」 「封印!?」 皆が、異口同音に叫ぶ。 「みんなには言ってなかったな。このあいだ、ニブル魔晄炉からライフストリームに落ちたときセフィロスが言っていた。第一の封印は、俺だって」 「新しい封印と古い封印が渾然一体だな……。どういう順序で解いていくと全てが解放されるのだ?」 ヴィンセントが、考え込む。 「逆じゃねえのか? 封印てのはジェノバを封じたモンだからよ。わたさねえようにすればいいんだぜ、きっと」 「でも、少なくとも、黒マテリアの封印は解かれたんだよね」 ユフィは、確かめるように言った。封印のひとつは確実にジェノバの手に返ったということになる。 「ね、クラウドを封印したのって、誰?」 「セフィロスだと思う」 「思うだぁ? はっきりしねえんだな」 「いや、きっとそうだ。でも、そのときのセフィロスは、ジェノバに支配されていたのかもしれない」 「ジェノバが自らを封印するってか? なんでだ?」 「エネルギーバランスの問題ではないか?」 ヴィンセントが、考察する。 「自らが、もっとも効率よく完全なる復活を遂げるために、エネルギー配分を考えた結果ということもありうる」 「ヒュージマテリアも、そうか……。順に解放して自らの力にするつもりなんだな」 「ヒュージマテリアか……。もうひとつ、残ってるな。神羅26号を使って、メテオにぶつける算段をしているはずだ」 シドが、煙草をもみ消した。 「行こう。ロケット村だ」 クラウドが決断する。 「エアリスはどうするの?」 思わず、マッタをかけるティファを、クラウドは振り返った。 「今は、セフィロスを信じるしかない。本当にエアリスを愛してるなら、命を賭けて護り抜くだろう」 「そっか……そうだよね」 それは、皆の共通した見解だった。崩れゆく大空洞から彼女を連れだしたのは、自らの手で護る決意をしたからなのだと考えるしかなかった。だとしたら、もはや第三者がとやかく言うことはない。 「じゃあ、早いトコ、ヒュージマテリアを回収して、セトラの奥の手とやらを見物に行こうぜ」 バレットが拳を振り回す。皆がうなずき、ハイウインドに向かって走り出した。
ロケット村では、神羅26号の発射準備が着々と進んでいた。 またも行く手に立ちふさがるタークスのルードを撃退して、ロケット内になだれ込む。 しかし、時すでに遅く、神羅26号は、クラウドたちを乗せたまま、迫り来るメテオに向かって飛び立った。 シドの記憶に頼り、ヒュージマテリア回収のパスコードを探り当てたクラウドたちは、脱出ポッドで宇宙に飛び出す。眼下に青い母なる星を見下ろして、彼らはそれぞれの想いに浸った。 神羅26号は、メテオに向かって一直線に飛んで行った。神羅が開発した、最初で最後の宇宙ロケットは、一縷の望みをかけて迫り来る悪魔の星に体当たりする。巨大な爆発が起こり、メテオが真っ赤な爆炎に包まれた。星の空を赤く染め、まばゆい閃光が星とその周辺を呑み込んでゆく。 しかし、そんなことでメテオを破壊することは出来なかった。 メテオは、いよいよ赤く、不気味にその姿を変えながら星に向かって落下を続ける。大地に衝突するまでに残された時間は、あまりないように思われた。 脱出ポッドで海上を漂いながら、クラウドたちは朱に染まった空を見上げた。 「メテオとジェノバ、どういう関係なんだろう?」 その、クラウドの傍らに、ユフィが寄り添って立った。 「額の邪眼でメテオを呼ぶんだから……。やっぱ、ジェノバに必要なものなんだよ」 「星に傷をつけ、精神エネルギーを集めるという目的以上にって意味か?」 「多分。……ジェノバってさ、もしかして、メテオに乗って来たんじゃないかな? 2000年前に」 「げ。あれが乗り物かよ?」 シドが、呆れたように言う。 「っていうかさ、この星だって生きてるし、意志を持ってるわけじゃない? ウェポン創ったりするくらいだもん。だから、ああいう破壊しか目的じゃないような星にだって意志があるって、考えられない?」 その、ユフィの突き抜けた考えに、一同は唖然とする。 「じゃ、何かい? ジェノバは、メテオの化身だとでも言うのかよ?」 「星とひとつになるって、そういう意味じゃないかな?」 クラウドが、ユフィを見た。 「メテオのエネルギーを受け、パワーアップした力でこの星を乗っ取って自分のものにするってことか!?」 「星を乗っ取る!?」 その、とほうもない考えに、皆が放心したような顔になる。 「この星全体に、ジェノバの意志が満たされて、みんな狂っていくのね……?」 ティファが震える声で呟いた。クラウドは、うなずいた。 「ジェノバは、そういった形で星に寄生する宇宙精神体なのかもしれない……」 「おまえさんがそう言うんだから、間違いねえのかもしれねえな……」 バレットが、どかっと腰を下ろした。 水面に漂うポッドがかしいで、皆が、あわててバランスを取る。 「とんでもねえ話だぜ」 「そういうことならば、ウェポンの存在はどう説明する? あれは、世界を再生させるという名目で星が生み出した、地上のもの全てを破壊しつくす怪物だぞ。星自体を乗っ取られては、意味をなさない」 レッドXIIIの光る尾が、宙に残像を描いた。 「そうだな……。乗っ取られる前に、動き出すさ、最強の力で」 「この上、さらに、ウェポンか……」 バレットが、考え込む。 「アイツが、そのへんのタイミングはわかってる」 「セフィロスか……」 ヴィンセントが、遠い北の空を眺望する。 「行こう」 クラウドは、皆を見回した。 「古代種の都だね?」 ユフィがうなずく。 そのとき、上空にハイウインドの影が迫った。脱出ポッドの軌道を計算し、彼らを迎えに来たのである。 シドが、おーいと叫んで手を振り回した。 |