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とけない呪文

Action-19

 

 テオが発動し、北のクレーターが崩壊してから3日がたった。
   メテオは、その空に赤く不気味に迫って来ている。そしてまた、クレーターの底で眠っていたウェポンもその眠りから覚め、各地を荒し回っているという。
 一方、崩壊して出来た北の大空洞は、その上をエネルギーバリアに閉ざされ近づくことができない。
 ティファを抱えていたバレットは、逃げ遅れ、神羅のジュノン支社医務室に軟禁されていた。
 そこで、ティファが目を覚ました。
「ここ、どこ?」
 首を巡らせて、バレットの姿を確認する。バレットは、部屋の隅の壁にもたれかかったまま太い声で答えた。
「ジュノンだ。神羅の支社があったろう?」
「うん。で、……あれから、どうなったの?」
 ティファは、体を起こした。
「3日たってる。ずっと目を覚まさねえんで、心配したぜ」
「私、記憶がないの。黒マテリアは、破壊できたの?」
 バレットは、口をへの字にひん曲げた。
「見るかい?」
 窓の装置を操作して、シャッターを開放する。ティファが窓に歩み寄ると、そこから見える空に不気味な赤い星が輝いていた。
「メ……テオ……?」
 愕然として、ティファは、バレットを振り返る。
「どうして?」
 バレットは、ティファから目をそらして、首を振った。
「こうなっちまったもんは、しかたねえ。あとは、なんとかしてあいつが落っこちるのを防ぐ算段をするまでだ」
「だって、でも、それじゃあ、あのとき……」
 ティファは、必死に記憶の糸をたぐり寄せようとする。そんなティファの肩を掴んで、バレットが厳しく言った。
「もう、いいだろう? ジェノバだよ。全ては、ジェノバがやったことだ」
「ジェノバ……」
 ティファは、うつむいた。そこで何があったのかは覚えていないが、ジェノバがメテオを呼んでしまったというのは、容易に理解できた。
「みんなは?」
「わからねえ。たぶん、逃げられたとは思うが……」
「セフィロスも?」
「ああ、あいつはさっさと消えちまった。エアリスを連れて、な」
「エアリス、行っちゃったの? ……そっか、とうとう男に走ったか……」
 そう言って、クスッと笑った。
「あん? なんだあ?」
 バレットは、ティファがあのときのことを覚えていないのでホッとしていた。それに、いつも通りの笑顔だった。ジェノバの遺伝子を導入されたクローンだなどとは、にわかには信じられないことだった。もっとも、バレットにとって、知り合った彼女はすでにクローンTだったのだが。
 その後、メテオを呼んだ張本人として、ルーファウスによって処刑されそうになるバレットとティファだったが、そこへ、ウェポンが来襲、彼らはどさくさにまぎれて脱出した。
 海から迫り来るサファイヤ・ウェポンに向けて、ジュノンのキャノン砲が火を吹く。
 飛空艇ハイウィンドの乗組員が、シドに共感して反乱を起こし、クラウドたちはそれに乗って空へとはばたいた。
 スカーレットによって、ガス室に閉じこめられたティファが逃げ遅れた。ハイウィンドは、その救出に向かう。
 ティファが意識を回復するまでの3日間、彼女は宝条の手によって遺伝子検査を行われていた。再生の際に導入したジェノバ遺伝子の変異を、追跡調査するという名目だったらしい。しかし、その結果は芳しいものではなかったようだ。
 メテオ発動の瞬間、シンクロ率の低い彼女が、無理矢理ジェノバに憑依されたショックは計り知れないものがあった。そのときに、染色体上の遺伝子に転座が起こり、もともと異質のジェノバ遺伝子は無効化されてしまったのだ。まさに一度きりの伏兵、隠れているがゆえに効果的な、ジェノバの切り札だった。
「宝条は、すっごく落ち込んでたけどね」
 そうつけ加えて、ユフィは、ティファについての調査報告を締めくくった。
「すごいな、おめぇ、ひとりでそこまで探ってきたのか? 近頃のガキはたいしたもんだ」
 ハイ・ウインドの作戦会議室で、シドが、大げさに驚いて諸手を上げて見せた。
「えへへ〜。だから、これでも忍びの端くれなんだってば」
 ユフィは得意そうにくるりと回る。
「ティファは何も覚えちゃいねえ。ここは、そっとしといてやろうじゃねえか」
 バレットの言葉に、異を唱える者はいなかった。それは、彼女がジェノバに操られてメテオを発動させてしまったことも、彼女自身が実は一度死んでいて宝条の手によって創り出されたクローンなのだということも、全て伏せたまま行動を共にするということだ。
「キャノン砲首に、ティファさんです!」
 パイロットが、ティファの姿を確認して、叫んでいた。
「おう、ちょっくら、拾ってくらあ」
 どすどすと、バレットが甲板に向かって走り出す。
「あいつめ、歳がいもなく……」
 シドが、口の端にひっかけた煙草をくゆらせながら、バレットの後ろ姿に向かってニヤニヤと笑った。


 その後、ケット・シーがもたらした情報は、驚くべきものだった。
 クラウドたちの意気に触れ、神羅のやり方に疑問を持ち始めていた彼は、逆スパイに転じたのだ。
 そしてその情報とは、メテオを破壊するために神羅の立てた計画がそれである。普通のマテリアの330超倍のエネルギーを持つというヒュージマテリアを魔晄炉から回収し、それをロケットに乗せてメテオに直接ぶつけようというものだった。
 ヒュージマテリア、それはいつか、兵器開発部門統括のスカーレットが探し回っていた、ビッグでヒュージでラージなマテリアだ。
 その話をしている間中、考え込んでいたユフィが唐突に言った。
「アタシ、ずっと考えてたんだけどさ、どうしてマテリアには魔法とか戦いの知識ばっか、封じ込められてるんだろう」
「え?」
 一同が、ユフィの言葉に顔を見合わせた。
「古代種ってのは、戦ってばかりいたのかな?」
 クラウドが、驚いた顔でユフィを見る。
「おまえ、ときどき、すごく賢いな」
「なんだよ、ときどきって……」
「確かにそうだ。マテリアは、魔晄エネルギーから出来ている。古代種の知識、古代種が封じ込めた力だ。それを人工的にどんどん吸い出したために、枯渇の危機が訪れた。それと同時に、ジェノバが復活する……。2000年もの間、ジェノバを封じ込めていたもの、それは……」
 ユフィは、ピョンと飛び上がった。
「うわ、もしかしたら、マテリアは、封印?」
 クラウドは、自分の腕輪にはめ込まれた、緑色の石を見つめた。
「この、膨大なパワーが、ジェノバの本当の力だというのか……?」
「だめだよ、かないっこない……」
「神羅が回収し、メテオにぶつけようとしているヒュージマテリアは、もともとジェノバの力だったんだ」
「じゃあ、メテオにぶつけたりしたら、敵に塩を送るってコトじゃねえか?」
 さすがのバレットも顔色を失う。
 クラウドは、重い気持ちになった。
「ヒュージマテリアは、封印だったのか……」
 マテリアは本来、人間が持つべきものではないのかもしれないとクラウドは思った。しかし、今は、ジェノバを倒すためにその力が必要なのだ。たとえそれが、もともとジェノバがもたらした力なのだとしても。
「よし、神羅より先に、ヒュージマテリアを手に入れるんだ」
 クラウドは、進路を北コレルに向けさせた。
「ね、エアリス、捜さなくていいの?」
 そのクラウドの耳元で、こそっとユフィが囁く。
「セフィロスがついてる。大丈夫だろう?」
 ユフィは、ちょっと言いよどんで、エアリスが残して行ったプリンセスガードを差し出して見せる。
「じゃ、なんで、これ、置いてったんだろ?」
 自分の最強の武器を置いて行くということがどういうことを意味するのか、クラウドは、不吉な結論を出してしまいそうになって、そんな考えを意識的に振り払った。
「あのな、セフィロスといっしょなら、たいがいの敵は眠ってても倒してくれる。武器なんか、必要ないってことだ」
 ユフィはうなずいた。なんとなく釈然としないものを感じてはいたが、どうすることもできないというのが、現状だ。
「それに、邪魔しちゃ悪いもんね……」
 クラウドは、破顔した。
「そうだな」
 彼らが姿を消したのは、そんな幸せな目的ではないということは、充分にわかっていた。それでも、まだ、少しなら時間はある……。
 クラウド、お願い、あのひとを、セフィロスを殺して……。
 エアリスが、ガストの家で言った言葉を思い出した。彼女が、どんな思いでその言葉を口にしたのかと考えると、辛かった。
 しかし、それしか道はないのだろうか?
 そして、本当にそれは可能なのだろうか?
「クラウド」
 迷っている顔色を読んだように、ユフィがクラウドの脇腹をこづいた。
「あんまり悩んでばっかだと、禿げるぞ」
 コロコロと、ユフィは笑った。思わずガックリときて、クラウドもつられて笑った。
 まだ、時間はある。そう自分に言い聞かせることで、活路を見いだそうとした。
 

 

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