そこは、翡翠色の光に包まれた不思議な空間だった。 全ての事象、全ての真実が、ランダムな情報と化して渦巻き、洪水のように溢れかえっていた。 クラウドは、微小重力空間を漂うようにゆっくりと、星の中心に向かって落下していた。 腹部を貫いた刀が、少しずつ見えない力で引き抜かれていく。痛みも感じなければ、出血もしなかった。その刺し貫かれた傷口に、きらきら輝く光点が集まってくる。寄り集まった光は、次々と体内に侵入して、暖かな癒しのパワーを放った。 上下左右さえも曖昧な光る空間を漂うクラウドは、次第に体が溶けていくような感覚を覚え始めた。指先から、さらさらと砂のようになって全身が拡散してしまう、そんな気分だった。そして、それがとても自然で幸福なことのように思えた。光る空間の輝く光点と混じりあい、ここの一部として漂うことが、あたりまえのように思えた。 それは、甘美な誘惑だった。このまま身をゆだねてしまえば、至上の幸福のうちに還ることができるのだと、無意識に感じた。 還る……? ここは、星に還る場所なのか。ここに、全ては帰結するのだろうか。ここから、全ては始まるのだろうか。 ぼんやりと暖かい感覚に浸っていると、記憶の断片が脳裏に蘇ってきた。 ジュノンから密航した運搬船の内部で、ジェノバ・BIRTHと戦ったとき、不思議な声を聞いた。 何故、私に、刃を向けるのか……。 私? それは、誰のことだ? 五番街スラムの教会で、エアリスに会った。何故だか、ひどく懐かしいような不思議な気持ちになった。愛しくてたまらないような唐突な衝動が沸き上がってきて、とまどった。一度、花を買っただけの相手だというのに。あの想いは、誰のものだったのだろう。 ミッドガルへ来る前のことだった。戦争で押収した魔力を封じた武器を輸送中、潜入工作員のテロルにより、ゲルニカ輸送機が海に墜落してその責任を問われ査問、降格、減俸処分を受けた。引き時を感じたのだ。神羅のやりかた全てに反発を感じていたことも理由のひとつだった。 その前は……? それ以前の記憶が曖昧だった。はっきりと覚えていることは、5年前のニブルヘイムでのことだ。村を炎で焼き払ったセフィロスに、無謀な勝負を挑んだ。 英雄セフィロスに憧れ、ソルジャーになることを夢見て村を出た。村の中央広場の給水塔で、幼なじみのティファにその夢を語ったこともあった。 8歳の頃、母親を亡くしたティファが、母に会いたい一心で、生きては越えられぬと恐れられていたニブル山に登った。その後を追ったが彼女を護りきれず、2人して崖から落ちたことがあった。そのとき、もっともっと強くなりたいと思ったのだ。 両親がニブルヘイムに移り住んだのは、クラウドを妊娠中のことだった。それまでは、1年中を雪に閉ざされた北の村に住んでいたというが、話を聞かされているだけで、当然、覚えてはいない。ただ、子供の頃から、父にも母にもまるで似ていない鬼子だと言われていたような気がする。 回想すると、記憶の空白は、5年前のニブルヘイムから、輸送機警備の任につくまでの5年間だ。その間に何があったのだろうか。 「おまえは、空白の5年間を見て見ぬふりをしてきた。そうすることによって、精神のバランスをとってきたというわけだ」 不意に声が聞こえて、クラウドは辺りを見回した。何もない、魔晄の光が溢れる空間に、ひとつの影が現れる。 「セフィロスか!?」 「思い出せ。おまえは、自分が何者なのか、知っているはずだ」 セフィロスの影が近づいた。すっと左手を前に差し出すと、クラウドの傍らに漂っていた正宗が、吸い寄せられるようにセフィロスの手の中に収まった。 「俺は、元ソルジャーのクラウドだ。それ以外の何者でもない」 セフィロスは、笑った。 「5年前、おまえは、俺に戦いを挑んだ。本気で俺を殺すつもりだったはずだ。しかし、おまえも、俺も、こうして生きている。思い出せクラウド。あのとき、何があったのか」 「あのとき……。5年前のあのときか……?」 「ここには、失われた真実の記憶がある。自分の力で思い出すんだ」 クラウドは、激しい頭痛を感じ、両手で頭を押さえ込んだ。 「あんたは、何を知ってるんだ……セフィロス……」 「おまえに託された役割と、そのさだめ……」 「役割……。さだめだって?」 クラウドは低く呻いた。頭痛は、耐え難いほどの激痛となってクラウドを襲う。 セフィロスは、すっと刀を正眼に構えた。いつもと違うその構えに、クラウドは驚く。クラウドの目に向けて剣を中段に構える姿を見て、頭の隅がちりちりするような感じがした。 鏡だ。これは、あのときの、自分自身。 セフィロスは抑揚のない声で言った。 「おまえは、もう、俺の知っているセフィロスじゃない……」 そして、手にした刀をぐっと引き寄せる。クラウドの、記憶がフラッシュ・バックした。 「母さんを……ティファを……村を返せ……」 クラウドは、背負っていた大剣を両腕で構える。 セフィロスは、ニッと口の端を笑わせた。 すっと刀を水平に返し、左上に引き寄せる。 いつのまにか周囲の様子が一変し、あの日のニブル魔晄炉の内部に彼らはいた。 ジェノバの魔晄循環パイプの上で構えを取るセフィロスと、それを見上げるように大剣を正眼に構えるクラウドの姿が蘇る。 「あんたを尊敬していたのに……憧れていたのに……」 クラウドは、剣を振りかざしてパイプの上を駆け上がり、セフィロスめがけて斬りかかる。 しかし、クラス・ファーストに上がったばかりのソルジャーが、太刀打ちできる相手ではなかった。 ヒュン、と目にも止まらぬ早さで、銀色の輝きが下から抉るように迫って来る。鋭利な刃が、クラウドの体に触れる直前、それは、起こった。 おやめなさい! 頭の中に唐突に響いた声と同時に、セフィロスの体に、パシッ、と落雷したような光が走る。 セフィロスは、低く呻いて膝を折った。 培養ポッドが壊されむき出しになっていたジェノバの瞳が、まばゆく、青く光った。 「ジェ……ノバ……」 セフィロスは、膝をつき、刀を支えにした体勢で背後を振り返る。 私の、子供たち……。 「子供たち……?」 セフィロスは、訝るように目を細める。クラウドは唖然とした。自分の頭の中に反響する声が、このジェノバのものなのかと恐怖した。 「どういうことだ?」 セフィロスは、ゆっくりと立ち上がり、ジェノバに向き直った。クラウドは、剣を握った自分に向けられた無防備な背中にとまどう。 今、斬りつければ……。 殺意の衝動につき動かされ、クラウドは大剣を腰だめに構え、体ごとセフィロスの背中にぶつかっていった。確かすぎる手応えを感じた瞬間、セフィロスの肩越しにジェノバの瞳が再び光るのを見た。 まばゆい光に目を射られ、脳の芯までショートしたような、痺れたような衝撃を受ける。剣を引き抜いた反動とジェノバの念力で、後ろに吹き飛ばされた。 セフィロス……私を、彼の地へ……。 そんな声を聞いたような気がした。 薄れゆく意識の中で、セフィロスが刀を水平になぎ払う光を見たように思ったが、すぐに気が遠くなり何もわからなくなった。 セフィロスは、何を斬ったのだ……? 「そう。よく思い出したな、クラウド」 セフィロスの声がして、気絶したはずのクラウドはその半身を起こした。幽体離脱するように半透明になった体が、横たわる自分を見下ろす格好でふわりと宙に浮き上がる。 過去の回想には、続きがあった。 クラウドの大剣に刺し貫かれたセフィロスは、傷をかまいもせず、ジェノバに向かって水平に刀を走らせた。 白刃が一閃し、その首が斬り落とされる。 JENOVAと記されたヘッドパーツがぐらりと揺れて、セフィロスの足元に転がり落ちた。 首……。 クラウドは、背筋が凍るような気がした。 母親の、首を……。 その首を片手に、セフィロスはよろめきながら循環パイプを降りてくる。つと立ち止まり、そこに倒れているクラウドを見下ろして低い声で言った。 「ジェノバより生み出されし者よ、来るがいい」 すると、クラウドはむくりとゾンビのように立ち上がった。正体ない様子で、ふらふらしながらセフィロスに従う。 階段を下り、魔晄炉の内部通路に出た。セフィロスは、ふわりとクラウドを振り返る。失血し、人形のように真っ白な顔色だった。 「さだめか……」 クラウドを見つめて、呟く。 その瞳に理性が戻っているような気がして、天井から見つめるクラウドは動揺した。 セフィロスは目を閉じ、しばし、じっと天を仰ぐ。 これを……本当に……止められるのか……? …………リス……。 男の迷いが、クラウドにも伝わって来るようだった。このとき、彼は間違いなく、果てしなく続く狂気と迷妄の淵にいたのだ。 序曲が、聴こえる……。 復活劇の緞帳は上がった。つまらない悲劇が、極上の喜劇に変わるまで、舞台に上がった者たちは死力を尽くして演じ続けなければならないのだ。 セフィロスは、腕にぶら下げたジェノバの首に視線を戻した。 「……母さん……」 切なく呟き、その首を携えたまま、魔晄炉の底に向かって身を踊らせた。クラウドは、あっと思って目をこらす。セフィロスの後を追うように、回想の中のクラウドも、魔晄の海にその身を投じた。そうして、あのときもここに来たのだ。 周囲の映像が、暗転して消えた。もとの、魔晄輝く、翡翠色の何もない空間に戻る。 「あの首はどうしたんだ?」 思わずクラウドは訊いた。しかし、そんなことよりももっと大切なことがある。セフィロスは、クラウドの質問には答えず、時間を惜しむように言った。 「俺たちは、ここで全てを知った。自分が本当は何者なのか、何故、生を受けたのか……」 クラウドは、自分がこんな静かな気持ちで、あのセフィロスと相対しているのが信じられなかった。たとえ、どんな事情があろうとも、彼が村を焼き払ったことで両親が無惨な死に方をしたのは事実なのだ。 しかし……。 クラウドは思い出した。自分もまた、セフィロスと同じことをしようとしていたのではなかったか? あの白紙の本に触れ、強大な意志の力に支配されて……。 「あの本はなんなんだ?」 「わかっているだろう? あれは、目覚めの書だ」 「目覚めの書? ジェノバの意志そのもののような気がしたが……」 「いや。あれは、ジェノバの封印を導き出すためのものにすぎない」 クラウドは愕然とした。それに触れただけで、あのパワーだ。では、ジェノバとは、いったい、どれほどの力を持っているのか……? 「ジェノバが古代種などではなかったのは、知っているな?」 「ガスト博士が言い残したと、コスモキャニオンの長老から」 セフィロスはうなずいた。 「ジェノバは、2000年前、宇宙から飛来した厄災そのものだ。そして、この星を支配し神となるために復活の時を待っている」 「復活? どうやって?」 「黒マテリアを知っているか?」 「黒マテリア?」 「それは、究極の破壊魔法が封印された、禁断のマテリアだ」 「究極の破壊魔法だって?」 「そう。宇宙に漂う小天体を引き寄せ、星に向かって落下させる、メテオという魔法だ」 クラウドは、その魔法に覚えがあった。それを知ったのは、いつだったか……。 「思い出したか? クラウド。メテオを呼ぶことが出来る、禁断のマテリアとは……」 クラウドは、激しい耳鳴りを感じて、とっさに耳を押さえた。 脳裏に、美しい女の顔が蘇る。 青い青い魔晄の瞳を輝かせた、髪の長い、美しい女性……。 セフィロスに生き写しのその女性の額がぱくりと割れて、第三の邪眼が見開かれた。 黒曜石のような、黒くつややかな瞳だった。 「ジェノバ……」 クラウドは、激しい耳鳴りと頭痛で気が遠くなりそうだった。 「ジェノバの黒い瞳だ……」 「あれは、ジェノバの封印だ。メテオは全ての物を破壊する悪魔の使者であり、同時に大いなる封印でもある」 クラウドは、すっと頭が軽くなるのを感じた。顔を上げると、セフィロスがクラウドの額に左手をかざしている。補助してくれているのがわかった。 「そうか、古代種たちは、ジェノバにたくさんの封印を科したんだ……」 「すべての封印が解かれるとき、ジェノバは宇宙からの厄災として復活する」 「セフィロス、あんたは、それを俺に思い出させて、どうしようというんだ?」 セフィロスは、フフフ……と笑った。 「気づかないか? 俺は、ジェノバの使者。目覚めの書は、同じ遺伝子を持つ者にのみ反応する……」 急にセフィロスの態度が変わったような気がして、クラウドは緊張した。 「第一の封印は、クラウド、おまえだ!」 セフィロスがそう言い切ると同時に、空間がぐにゃりと歪んで巨大なモンスターが現れた。 ジェノバ・LIFEだ。 クラウドは、突然のことに体勢を整える暇もない。不意打ちで放たれた青い光を全身に浴びた。しかし、それは、不思議な感覚だった。 青い光……。 魔晄の輝きだ。クラウドは、全身に力がみなぎるのを感じた。 ジェノバ・LIFEは、続けざまに、青い光を放つ。クラウドの体を、青い輝きが包んだ。剣を握った手がひとりでに動き、空中で印を切り結ぶ。 ザァッと空間が唸り、宇宙の意志とシンクロするような眺望感に満たされた。高く跳躍し、真っ青に輝く大剣を勢い良く振り下ろす。 すさまじいエネルギーの爆発が、辺りを光の渦に呑み込んだ。 その光は、遺伝子を狂わせる。 アポトーシス・ブレイクの炸裂だった。 ジェノバ・LIFEは、その一撃で、辺りを包み込んだ光とともに消えてゆく。あとには、自分の繰り出した技に茫然とするクラウドの姿があった。 「な……んだ? 今のは……」 「封印は解かれた……」 セフィロスの声が、響いた。あわてて周囲を見回すが、その姿は既にない。 「封印だって? どういう意味だ!?」 誰もいない空間に向かって声を張り上げる。しかし、答えは返らなかった。 クラウドは、自分の手に握られた大剣を見た。 アポトーシス・ブレイク……。それが、ジェノバの封印なのか……? 不意に、くるりと目の前が暗転した。大きな流れに呑み込まれたような、押し流されるような感覚が全身を襲い、息が苦しくなる。 そして、唐突に視界が開けた。懐かしい空気の匂いだ。遥か上空に、太陽が輝いていた。帰ってきたんだと思うのと同時に、猛烈な脱力感に襲われ、意識を失った。
クラウドを捜し求める仲間たちは、水上ジャイロで、ミディールを目指した。 途中、ゴンガガエリアの武器職人の小屋で、キーストーンなるものの存在を聞かされた。それは、古代種の知識を封じた古代種の神殿を開くことが出来る、特殊な鍵なのだという。 珍しい物好きなゴールドソーサーの園長ディオの、コレクションの中にあるらしいというが、今はクラウドを見つけるのが先決と、南の島を目指した。 途中、ウッドランドエリアのジャングルの中に、ピラミッド型の建物を発見した。石造りの、荘厳な神殿である。 「ここ……」 エアリスが、顔色を変えて神殿の中に走って行った。皆は、あわてて追いかける。 「エアリス、ここが、そうなの?」 真っ先に追いついたユフィが、物珍しそうに不思議な建築物を観察した。 「あぁ……。たくさんのセトラの意識が……」 エアリスは、ひざまずいた。 「えっ? 封印? 第一の封印が解かれた? なんのこと……?」 「第一の封印?」 何故だか計り知れない恐怖を感じて、ユフィは息を呑む。 「わからない……」 エアリスは、激しく頭を振る。追いかけてきた皆が、そんなエアリスを黙って見守った。 「ジェノバを封じた……第一の封印のこと? それが、解き放たれたのね?」 エアリスは、弾かれたように立ち上がった。バレットがエアリスに詰め寄る。 「ジェノバが復活しちまうのか?」 「ただ、封印が解かれたとしか……。ここからじゃ、セトラたちの意識が遠すぎて、よく聴こえないの」 「チッ。キーストーンがなきゃ、扉は開かねえか。とにかく、まず、クラウドを捜そう」 バレットがその場を仕切って、タイニーブロンコに戻っていった。 ひとまず、古代種の神殿を離れ、東のミディールエリアを目指す。 ミディールは、のんびりとした雰囲気の田舎の村だった。 彼らは、手分けして村の探索に当たる。と、診療所のそばで立ち話をしている人の声が耳に飛び込み、ユフィが、大声を上げた。 「うっそぉーっ! 海岸に打ち上げられてたでかい剣を持った若者って、金色のツンツン頭で、青い目じゃないっ!?」 ユフィの剣幕に押されて、立ち話の2人は、何度も何度もうなずく。 「そそそそ、そうそう。そこの診療所にいるけど、知り合い?」 ユフィには、そんな問いに答える余裕はない。 「うわぁ……。クラウドぉ!」 ピョンと飛び上がって勢いをつけ、地を蹴ってダッシュした。そんな、ユフィの騒ぎようを遠くで見て、他の面々も診療所を目指す。 扉を蹴破りそうな勢いで、ユフィは診療所に飛び込んだ。突然、現れた妙な格好をした少女に、医者と看護婦は仰天する。 「クラウドは? ねえ、クラウド、どこ!?」 医者に掴みかからんばかりに興奮して、ユフィは喚いた。 「ク、クラウド……?」 医者は、ユフィのパワーにタジタジである。 「もぉぉ! じれったいなぁっ!!」 じれたユフィが、どん! と床を踏みならしたとき、隣の部屋から、聞き覚えのある声がした。 「……ユフィか? でかい声だな……」 ユフィの表情が、ぱぁぁっ、と輝く。 「うわ……クラウドっ!」 それっとばかりに、身を翻す。隣室へのドアを騒々しく開け放った。 そこに並んだベッドの上で、半身を起こして座っている懐かしい笑顔があった。ユフィは、硬直して立ちすくみ、クラウドの顔を凝視する。 「心配、かけたな……」 急に勢いを失ったユフィは、ふらふらとベッドに歩み寄った。 「よ……かった……」 今にも泣きそうな、かすれた声で呟いた。クラウドのベッドにすがりつくような格好で、へなへなと床にくずおれる。 「おい、だいじょうぶか? ユフィ……」 その少女のただごとならない様子に、クラウドの方が心配になった。彼女はいつも、元気印100パーセントだ。まるで、電池が切れたみたいだった。 「アタシ……」 涙でウルウルした瞳で、クラウドを見上げる。 「クラウドにもしものことがあったら、ぜったい、ぜったい、カタキとるって、決めてた……。アタシが、この手で……」 ベッドについたクラウドの手を、ぎゅっと握りしめる。ユフィの細い指が、クラウドの指に絡まった。 「ああ……」 ユフィの手を握り返して、クラウドはうなずく。この少女ならば、本当にそうするだろうと思えるところが心強かった。 隣室から、医者が顔をのぞかせる。 「やあ、気がついたようだね。海岸に打ち上げられてから、君は、7日ほど眠っていたんだよ」 「そうですか……」 そのとき、外に通じるドアが開いて、ティファを先頭に仲間たちがどやどやと押し寄せる。 「クラウドぉっ!!」 ティファが、泣きながらベッドの上のクラウドに抱きついた。ユフィは、そっと立ち上がり壁際に後ずさる。 「ティファ……」 クラウドは、ティファの背中をポンポンと叩いた。 「私、心配で死んじゃうかと思ったわ。クラウドがいなくなったら、私、どうしていいか……」 そう言って、クラウドの胸で泣きじゃくる。ユフィは、茫然とその様子を見つめた。 「おう、体の調子はどうだい? それと、オツムの調子も、よ」 バレットが、野太い声で訊く。 「ああ。悪くない。何か、こう、吹っ切れた気分だ」 「だったらいいが、もう、あんなのは、ナシにしてくれよ」 ぶっきらぼうだが、彼が心配していたのが伝わってきてクラウドは嬉しかった。 「だが、どうやら、厄介なことになりそうだ」 ティファが体を離し、不安な顔でクラウドを見る。 「セフィロス、何か言ってた?」 それを見越したように、エアリスが訊いた。 「第一の封印だ……」 皆が、えっ!? と驚いて、互いの顔を見合わせた。 「知ってるのか?」 クラウドも、驚く。エアリスが説明した。 「古代種の神殿っていうのがあるの。そこで、わたし、セトラの意識から、第一の封印が解かれたって聞かされた……」 クラウドは、目を細めた。 第一の封印は、クラウド、おまえだ! セフィロスは確かにそう言った。しかし、今、それを皆に説明する気にはなれなかった。何が何だかわからないというのが本音だ。 「そして、第二の封印が、黒マテリア……」 クラウドは、黒マテリアに封じ込められた禁断の破壊魔法のことを説明した。 「何だか、物騒なことになってきやがったぜ」 バレットがガラにもなく考え込む。 「その、古代種の神殿には、すぐ行けるのか?」 ティファが、キーストーンを手に入れるため、ゴールドソーサーに行かねばならないと言った。一も二もなく、クラウドは決断する。 「よし、行こう!」 そう言い放ち、ベッドから飛び降りた。だが、グラリとよろめき、バレットに支えられる。 「おいおい、無理すんなよ」 「無理でも何でも、俺は行く」 「なんだか、人が変わっちまったみてえじゃねえか。根性はいってるぜ」 「それに、……もし、俺が倒れても、きっちりカタキをとってくれるヤツもいるし、な」 ちら、とユフィを見て、右手の親指を立てた。ユフィは、パチンとウインクする。 「イヤよ。そんな、縁起でもないこと言わないで!」 心配ばかりが先にたっているティファを安心させるように、笑顔でうなずき、クラウドはエアリスを見た。 「エアリス、あとで、話がある」 その、話というのが、セフィロスに関係あるのは明白だった。真剣なクラウドの目を見て、エアリスはふっと微笑む。そして、当然のように、うなずいた。 |