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パステルで描いた過去

Action-7

 

「ちょ、ちょっとぉ〜! お〜い、クラウドぉ! たいへんたいへん!!」
  ビーチに泳ぎに行った筈のユフィが、血相を変えて、戻って来た。
「どうした? ナンパでもされたか?」
 ユフィに対しては、どうしてもシリアスを維持しきれないクラウドが、アイテム屋で品物を物色しながら笑う。
「え〜? そりゃあ、これだけかわいいユフィちゃんだから、そ〜ゆ〜こともあるけどさ。そんなんじゃないって。クラウド、神羅を辞めて消えちゃった宝条ってヤツのこと、言ってなかった?」
「宝条?」
 ピクリと眉根を緊張させる。
「たぶん、そいつだと思うんだ。ビーチで女の子はべらせてるよ」
 クラウドは、驚いてユフィの顔をまじまじと見た。ビーチで、女の子を……? 開いた口がふさがらないとは、このことだ。
「わかった。ユフィは、みんなに知らせてくれ」
 そう言い残して、クラウドはビーチへ向かって走り出す。
「え〜? 全員にぃ〜? まったく人使いが荒いんだから……」
 ぶつくさ言いながら、ユフィは、あちこちに散らばった仲間たちに声をかけて回った。
 クラウドがビーチに出ると、ユフィが言った通り、宝条が、水着のお姉ちゃんをはべらせてご満悦だった。
「久しぶりだなクラウドくん」
 宝条は、南国ボケか、とぼけた挨拶をする。
「宝条……」
 クラウドは、絶句した。
「たまにはこういうのも、いいものだね」
「……何をしている?」
「見てのとおりだ。日光浴」
 クラウドは、声を荒げた。
「まじめに答えろ!」
「ふん……。私の目的は君と同じだと思うが」
「……セフィロスか?」
「君たちは会えたのか?」
「答える義務はない」
「ときに、クラウドくん、君は、5年前、セフィロスとともに、あのニブルヘイムへ派遣されたそうじゃないか?」
 クラウドは、その宝条の物言いに何かひっかるものを感じて、目を細めた。
「何が言いたい?」
「いや、君は、セフィロスから何か聞いてはいないのかと思ってな」
「何かって、何だ?」
「おやおや……。それは私が聞いているのだよ」
「セフィロスは、あの時から別人のように変わってしまった。ヤツをそうさせたのが何なのかは、俺にははっきりとはわからない」
「ふ〜む。……それは、変わったというよりはむしろ、目覚めたというべきじゃないかね?」
 目覚めよと、母が言っている……。
 確かにセフィロスはそう言っていた。しかし、何故、この男がそんなことを知っているのだ?
「それ、どういうこと?」
 クラウドが問いただすより先に、駆けつけたエアリスが宝条の背後で訊いた。宝条は、くるりと後ろを振り返る。
「おや、君は、古代種の娘ではないか」
「エアリスよ。それよりも、目覚めたって、どういう意味?」
「さあ、それはひとつの仮説にすぎん。それを確かめるために、こうしてヤツを追っているわけだ」
「ねえ、宝条博士、教えてほしいの。わたし、自分が古代種なのは知ってる。かあさんに聞いたから」
「母さん? ああ、イファルナか……」
「……ねえ、博士。ジェノバとセフィロスは本当に古代種なの?」
「だとしたら、どうする?」
 肯定ともとれるその言葉に、エアリスは、衝撃を受けて立ちすくんだ。
「ほんとなの? ほんとに、父さんが、ジェノバの遺伝子からセフィロスを創ったの!?」
「父さん? ……ああ、君はガスト博士の娘だったな」
 今度は、その宝条の言葉に、クラウドが驚いた。
「ガスト博士の娘……?」
 セフィロスを創ったというガスト博士の娘がエアリスで、そのエアリスとセフィロスは、かつて恋人同士だった……? ガスト博士を取り巻く古代種というキーワードは、果てしなく錯綜しているように思われた。
「わたし、父さんがどんな人だったのか、知らない。それに、かあさん、何も言ってなかった。セフィロスのこと、ジェノバのこと……」
 宝条は、全てを悟ったように喉の奥で笑った。
「言えまい。あれは、大いなる誤算だった。しかし、神の啓示でもあったのだ……」
「大いなる誤算……?」
 エアリスが、怪訝な顔で呟く。
「神の啓示だって?」
 クラウドも疑問の表情だ。
「さよう。セフィロスは神の子だ」
 宝条は立ち上がって両手を天に向かって突き上げた。
「時は満ちた。今こそ、復活のときなのだ!」
「宝条! おまえ、何を知ってるんだ? いったい、何を隠してる!?」
 クラウドは、今にも胸ぐらを掴みそうな勢いで宝条に詰め寄った。
「お願い、教えて! セフィロスに何が起こったの!?」
 しかし、そんな2人を尻目に、宝条は、悦に入った笑みを浮かべたまま、黙りこくった。もう、これ以上は何も喋らない、そんな表情である。
 クラウドは、拷問してでも知っていることを吐かせようと、背負った大剣に手をかけた。
 その、瞬間、エアリスが海の方を見て悲鳴を上げた。
「クラウド! 後ろっ!!」
 巨大なモンスターが、水中からその姿を現した。ビーチでくつろいでいた観光客たちが、大慌てで逃げまどう。
「君たちの遊び相手にはちょうどよかろう」
 宝条は、勝ち誇ったように言い捨てて、さっさと逃げ出して行った。
 クラウドは、襲いかかって来た巨大なモンスター、シートランスの攻撃を避けながら、急いで体勢を整える。
「宝条、何か知ってるね」
 エアリスも、駆け寄って、ロッドをくるりと回して身構えた。
「ああ。ただのマッドサイエンティストじゃなさそうだ」
「あ〜! でっかいモンスター! 2人で大丈夫〜?」
 ユフィが、遠巻きに叫んでいる。
 津波を起こしながら、シートランスが、クラウドの頭上に長い尾を振り下ろした。
「見てないで、手伝え!」
 津波に呑み込まれ、尾に打ち据えられながらも、クラウドは大声で怒鳴る。
 一撃で、人間の頭などぐしゃぐしゃのトマトになってしまいそうな怪物の爪が、唸りを上げた。
 ヒュンと空を裂いて、くの字型の武器が、くるくると回りながら飛んで来る。丸太のように太いシートランスの腕がザクリと切れて、砂浜にズン! とオブジェのように突き立った。ユフィのブーメランである。
 高くジャンプして戻ってきた武器をキャッチして、ユフィは、笑いながら言った。
「かわいいかわいいユフィちゃん、どうか助けて下さいな、くらい言ったらどぉ?」
「ああ、ちくしょう。かわいいかわいいユフィちゃん、どうか助けて下さいな! だ」
 エアリスが、ぷっと吹き出した。苦い表情のクラウドを横目で見る。
「さぁて。助太刀、助太刀……」
 ぴょんぴょんとスキップしながらやってきて、ユフィが戦列に加わった。
 腕を落とされた敵も、怒り爆発である。強烈な攻撃が連続技で繰り出され、クラウドたちはしたたかにやられた。両側の女の子を庇うので、クラウドは特にぼろぼろである。
「フェミニストって、早死にするんじゃないのっ!」
 クラウドの庇う手を振りきって、ユフィが高くジャンプした。両手で印を結び、必殺のリミット技をぶちかます。
 ザクザクと、目にも止まらぬスピードで鱗に覆われた巨体を切り刻み、ドカンとその体を蹴りつけて敵から離れた。
 シートランスは、巨体をぶるぶると震わせて棒立ちになる。低く咆哮したかと思うと、ぐずぐずと崩れるように消えていった。
「ユフィ、すごいすごい」
 傷ついたクラウドに、回復魔法を唱えて、エアリスがパチパチと拍手した。
「まぁね。だから、今度から、あたしのことは庇わなくていいよ、クラウド」
 ユフィは、自信たっぷりにクラウドを見る。クラウドは、そんなユフィのおでこを、指でペシ! と叩いた。
「そんなわけにいくかよ、ガキ」
 エアリスを促して、さっさと引き上げていく。叩かれた額に手を持っていきながら、ユフィは、つんと唇を尖らせた。
「ちぇ。ガキでわるうございましたねーだ」
 エアリスが振り返って、クラウドに気づかれないように、そっとユフィを手招いた。
 ユフィは、唇を引っ込めて、ひょこんと首をすくめた。


 コスタ・デル・ソル・インに先に引き上げたエアリスとクラウドは、部屋にこもり、沈鬱な雰囲気で向かい合っていた。エアリスには、彼が何か聞きたそうなのがわかっていたし、クラウドも、何をどう切り出していいのか考えあぐねていた。
「クラウド、わたしのことどう思ってる?」
「どうして?」
「だって、何も聞かないんだもの。ホントは、聞きたいこといっぱいあるくせに」
 クラウドは、ベッドに身を投げ出してひっくり返った。
「正直言って、驚くことばかりで、何から聞いたらいいのかわからないんだ」
「そっか、そうだよね」
「君がガスト博士の娘だってことも、宝条の研究所に居たってことも……」
「あのひとのことも……でしょ?」
 クラウドは、半身を起こした。
「それ、聞いてもいいのか?」
 エアリスは、うつむいた。
「セフィロスね……、かあさんと、宝条の研究所から逃げ出したとき、傷だらけになりながら助けてくれたの。わたしとかあさん、逃げられたのは、彼のおかげ」
「助けたって、どうやって?」
「あのひと、マテリア、使わなくても、魔法、使えるって、知ってるよね? 子供の頃から、そんな力、持て余してたみたいなところがあって、いつも、野生の獣みたいで……。たったの12歳だったのに、もの凄く強かったわ……」
「野生の獣……」
「うん」
「で、輸送機の墜落事故で再会したんだな?」
 エアリスは、うなずいた。
「わたし、ずっとあの人が怖かった。あの、何も見ていないような青い瞳も、冷たい雰囲気も、獣みたいな激しさも」
「なんか、俺の知ってるセフィロスとは、違うんだな」
「そうかもしれない。再会したときのあのひと、子供の頃とぜんぜん違ってて、びっくりした。すごく無理してるみたいだった。ほんとは、あんなに、醒めてる人じゃなかったのに……。でも、それって、必死に自分を抑えてたんだって、知ったとき、わたし、もう、目が離せなくなってた」
「君には、そういうこと、話してたのか?」
「どうかな? ただ、ときどき自分を抑えられないかもしれないと思うことがあるって、言ってただけ」
「どういう意味だろう? それは……その……」
 クラウドは、言いにくそうに言葉を探す。
「つまり……君に対しての……。何て言うか……そういう意味じゃないのか?」
 エアリスは、クラウドの言わんとするところを察して、頬を染めた。
「やだ、クラウド。そうじゃないよ。だって、そのときは、もう……」
「もう?」
 すかさず、クラウドは言葉尻をとらえる。
「あん、もう……。わたし、何言ってんだろ……」
 エアリスは、真っ赤になってベッドのシーツを抱き込んだ。
「あ、いや、すまない。プライベートなことに立ち入るつもりはなかったんだ」
 あわてて詫びて、クラウドはエアリスから目線をそらした。ベッドサイドの薄暗いライトを見つめて、ため息をつく。
「しかし、信じられない。君がセフィロスと……」
「ごめんなさい。隠すつもりじゃなかったんだけど……」
「アイツを追って、どうするつもりなんだ?」
「……ホントは、会いたいだけなのかもしれない」
「正直なんだな。アイツがどんなヤツなのか、知ってるだろう?」
 エアリスはシーツを抱きしめた。
「たとえ、あの人がどんな罪を背負っているのだとしても、それが、決して許されないものなのだとしても……愛してるわ」
 クラウドは、そんなエアリスが哀れだと思った。5年もたっているのになお、あの男の存在が彼女を苦しめている。
「もし、忘れられるなら、忘れた方がいい。でないとエアリス、君まで……」
「わかってる。でも、あのひと、止めること、できるのは、わたしだけだから」
「止める、だって?」
「うん」
「確かに、セフィロスは、君のことを覚えてるみたいだ。不意打ちみたいなマネもしない。だが、アイツは、君が考えている以上に、恐ろしいヤツだ」
「だからこそ、誰かが目を醒ましてあげなくちゃ」
 そう言って微笑むエアリスに、クラウドは無謀なまでの強い意志を感じた。圧倒されるような、力強さだ。そんなふうに彼女を支えているものは何なのだろうと、不思議に思った。


 インに戻って来たティファが、なにやら話し込んでいるクラウドとエアリスを見つけた。ちょうどいい、エアリスに聞きたいことがあると思って、そちらに向かう。
 と、横からひゅっと出てきた手に、止められた。
 気配なき何者かの存在に、ティファは思わず身構える。
「まあまあ、抑えて抑えて」
 悪戯っぽく笑うその少女は、ユフィだった。
「やだ、ユフィ。おどかさないで。ここで、ずっと見てたの?」
「一応、これでも忍者のはしくれだもんね」
「べつに、こんなところで潜んでなくても、向こうに行けばいいじゃない」
 ユフィは、指を立て、チッチッチと舌を鳴らした。
「大人の話してるみたいだもん。これでも気ぃつかってんの」
「大人の話……?」
 ティファは、急に不安になった。そんなティファの複雑な気持ちを知ってか知らずか、ユフィは、パチンとウインクしてみせる。
「大丈夫。エアリスは、絶対、裏切ったりしないよ」
「え?」
「それを、心配してんじゃないの? それとも、2人が仲良さそうで不安?」
「そういうわけじゃないけど……。ちょっと気になるってゆーか……」
 ユフィは、クスクスと笑った。
「それよか、アタシのほうが、ぜんぜん怪しいって。ホント」
「ユフィ、エアリスのこと、信じてるんだ?」
「う〜ん……。信じる信じないより、なんか、すごいなって思う。あの、鬼のように強くて、悪魔みたいに綺麗な男と相思相愛だなんて、かっこよすぎるじゃない?」
 ティファは大げさに驚いて、思わず両手を振り上げた。
「相思相愛? セフィロスと!?」
 ユフィは、自分の失言を悟ったが、もう遅い。
「うわ。気づいてなかった? やっばー……」
 ティファは愕然とした表情だ。
「……なんか、さすがにそれって、圧倒されちゃうわね」
「でしょでしょ? バレットなんかには、内緒だぞ」
「もちろんだわ」
 ユフィは胸をなで下ろす。
「アタシさ、星の運命なんて関係ないけど、エアリスのことは応援したいんだ」
「応援って言ったって、相手があのセフィロスじゃ、どう応援していいんだか……。想いを貫き通すのも命がけだわ」
「言えてる。でも、よくよく考えるとさ、セフィロスってヤツも救いがなさすぎるじゃん」
「どうして?」
「アイツ、もしかしたら最大の被害者だよ。強すぎるし、やってることがアレだから、誰もそう思わないけど。好きな女のひとりぐらいいたほうが、ホッとしちゃう」
「ユフィ、あなたって……。子供なんだか大人なんだか、わからないわね」
「あれ? 知らないの? 女の子はね、一五、六の頃がいちばん達観してんの。そのあとはおまけみたいなもん。本能が、護りに入っちゃうから、勘が鈍るんだって」
「へ〜え」
「アタシも、そろそろオマケに突入しちゃうんだよな〜。やだやだ」
 そんなことを言いながら、ユフィはティファに伝言を告げる。
「あのね、ジョニーってヤツが、夕飯おごってくれるって言ってたよ」
「ジョニー?」
「ミッドガルで、近くに住んでたんだって?」
「えぇ? もぉ、ユフィったら、どうしてそんなに情報が早いの?」
 ユフィは、へへへ、と笑う。
「だから、これでも忍者のはしくれなんだってば」
「なんだか、かなわないわね」
 ティファは、首をすくめた。
 そうして、2人は、連れだってインを出た。

 

 

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