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血の道標

Action-5

 

 の人から、黒いコートを着込んだセフィロスと思われる男が、南東の湿地帯に向かったとの情報を得、彼らはカームの東に位置するチョコボファームへと向かった
 ミッドガルからクラウドたちより一足早く出たと思われるセフィロスが、そこに立ち寄ったことは充分考えられた。彼は、そこに居るだけで目立つ男だ。目撃証言を集めるのは簡単だった。
 チョコボファーム農場主のグリンに、湿地帯には巨大な水蛇、ミドガルズオルムが出没するので、足の速いチョコボを使って湿地帯を越えるのが安全と助言され、それに従うことにした。
 ほどなくして、チョコボの捕獲に成功した一行は、チョコボの背に揺られて、湿地帯を進む。
 危険な湿地帯がようやく終わるあたりで、身の丈10メートルは優に越すミドガルズオルムが、立木に串刺しになっているのを発見した。
 無惨な死体が、凄絶な姿で野ざらしにされている。皆は、しばし我を忘れて、その光景に目を奪われた。
「セフィロスが……やったのか……」
 ゴクリと喉を鳴らし、クラウドが呟く。
「恐るべき力、だな」
 レッドXIIIも、唸った。
「ほんとに、セフィロスなの……?」
 エアリスが、色を失った表情でミドガルズオルムを見上げる。
 一同は、セフィロスの力に圧倒された。こんなことを平気でやってしまえる相手とどう決着をつけようというのか、さすがにクラウドも自信がなかった。
 だが、後戻りはできない。
 彼らは、ミスリルマイン鉱山の廃坑に入って行った。すると、鉱山の出口付近で、嫌な面々とはち合わせした。神羅カンパニーの諜報工作部隊タークスである。
 どうやら、セフィロスが5年の沈黙を破って姿を現したことで、タークスの任務にも変化があったようだった。彼らもまた、セフィロスを追っているらしい。その最終目的は、約束の地だろうか。おかげで、クラウドたちへの追跡の手が緩んだのだ。
 新人タークスのイリーナが思わず漏らした情報によると、セフィロスはジュノンの港に向かったという。
 ジュノンの港……。そこは、神羅カンパニーが支社を置く巨大な軍港だった。西の大陸への定期運搬船が出ている筈だ。
 しかし、彼は、いったいどこへ行こうとしているのだろう。
 と、そこへ、エアリスをさらった張本人、タークスのリーダー、ツォンが現れた。ツォンは、ルードとイリーナを先にジュノンへ向かわせ、のんびりとエアリスに話しかける。
 オールバックにした肩までの黒髪を、無造作に払った。
「いつもの元気がないじゃないか、エアリス」
 エアリスは、無言でツォンを睨めつけた。
「しばらくの間、君は神羅からは自由の身だ。セフィロスが現れたからな」
「……なに、言いたいの? セフィロスに感謝しろって?」
「ふん。そういうことにもなるな。ヤツが、この時期にわざわざプレジデントを殺しに来た真意は、わからんがな」
「なんで、わたしに、そんなこと?」
 ツォンは、何故だか少し、言いよどむ。
「いや……。あまり会えなくなるが、元気でな」
 エアリスは、目を丸くする。
「……あなたに、そんなこと言われるなんて、不思議」
「まあ、そう言うな。では、諸君。できれば神羅の邪魔は、しないでもらいたいものだな」
 そう言い残して、ツォンは去った。
「ツォンって、もしかして……」
 ティファが悪戯っぽい目で、エアリスの顔をのぞき込む。
「な、なに? ティファ……」
「う〜ん。敵同士のロマンスって、ちょっとシビレちゃうよね」
 敵同士……。エアリスの心臓がドキンと跳ねた。この状況下では、確かにそうかもしれない……。
 エアリスが黙り込んだので、ティファは自分の勘も捨てたものではないと確信する。
「あ、なんかイミシン……。これは、恋する女の目だわ」
 そして、肩を寄せ、耳元でささやいた。
「今度、彼の話、聞かせてね」
 そう言ってティファは、うふふと笑った。その、彼女の何気ない言葉が、エアリスの胸に重くのしかかる。彼女たちを裏切り続けているようで、辛かった。


 ミスリルマインを抜け、一路、海岸線を北へ、海洋都市ジュノンを目指す。
 途中、森の中で不思議な忍者の少女と遭遇した。
 手足が棒のように細くて華奢な、少年のような雰囲気の女の子だった。異国の奇妙な装束を身にまとっている。左足だけにつけた重そうなガーターやら、機能しているのだかいないのだかわからない部分的に体を覆う鎖帷子が、妙な感じだった。
「あれ? あんたって、もしかして……」
 くノ一の少女ユフィは、クラウドに顔を近づけ、じろじろと嘗め回すように見つめた。怪訝な顔をして首をかしげる。
「な、なんだよ?」
 その唐突な接近遭遇に、クラウドは思わず身を引いた。
「おっかしいなぁ〜? アタシの記憶も曖昧だなぁ〜、う〜ん……」
 ユフィは、ひとりで悩み狂う。
「おかしなガキだぜ。つきあってられねえ」
 バレットが、呆れてさっさと先へ進もうとした。ユフィは、ピョンと跳んでその行く手に立ちふさがる。
「ちょっと待ったぁ、オッサン」
「オ、オッサンだぁ?」
「この、ユフィちゃんは、すっごく退屈してるワケよ」
「ママにでも遊んでもらいな、ガキ」
「あ、失礼しちゃうな、まったく。かあちゃんなんか、顔も覚えちゃいないね。アタシにいるのは、あんたみたいなわからんちんの親父だけだよ、オッサン」
 そのやりとりを見て、ティファがプッと吹き出す。
「もう、いいだろう。俺たちは先を急ぐんだ。遊んでいる暇はない」
 クラウドが、ユフィとバレットの間に割って入る。ユフィは、クラウドをじっと見つめた。
「やっぱ、なんか、似てる気がする。その目のせいかなぁ?」
 目、と聞いて、エアリスはクラウドの青い目を見た。似ている。確かに最初はそう思った。ちょっとした仕草が、ふとした表情が……。似ていたから、今度こそ、独りで残されるのは嫌だと思った。
 よく見ると、どんなソルジャーの瞳も、彼の持つ独特の色とは違っているのだが、クラウドの瞳は、不思議と似ているような気がした……。
「誰に似てるってんだ? いい加減にしてくれ」
 クラウドは不機嫌に言い放った。しかし、ユフィはまるで悪びれない。
「そりゃモチロン、英雄セフィロス!」
 少女は、ニッと笑う。一同が、弾かれたようにユフィを見た。しらけかかっていたムードが、一転して緊張感あふれるものへと変わってゆく。
 これには、ユフィのほうが驚いた。
「や、やだなぁ? なんか、変なこと言った?」
 その雰囲気を最初に破ったのは、ティファだった。
「そんなこと、考えてもみなかったわ」
「そ、そうだよな。よしてくれよ、縁起でもねえ」
 バレットも、ティファに同意する。
「え? なんで? なんで縁起でもないの?」
 腑に落ちない表情のユフィに、クラウドが説明した。
「俺たちは、わけあってセフィロスを追っている。必ずしも、いい意味ではなく、な」
「えっ? セフィロスって、生きてるの!?」
 ふざけてばかりいるのかと思われた少女の瞳が、サッと緊張した。
「そういうことだ。だから、時間がない」
 ユフィは、まっすぐにクラウドを見た。意志の強い瞳だった。
「アタシも行く」
 一同は、仰天する。
「きっと役にたつよ。ウデにはちょっと自信があるんだ」
 実際、この少女はまだ16歳だが、珍しい形の武器を自由自在に使いこなす、末恐ろしいような娘だった。
 そして、彼らは行動を共にすることにした。この出会いが、過酷な運命に抗する第三の力となることに、彼らはまだ、誰ひとりとして気づいていなかった。


 海洋都市ジュノンでは、支社をあげての新社長歓迎式典の準備にわきたっていた。
 新社長に就任したルーファウスが、新任の挨拶にやってくるのだ。
 そんな中、クラウドは神羅兵に化けて、単身ジュノンに潜入する。
 兵士たちが噂話をしていた。黒コートの男が二、三日前に現れて、何人も兵士が殺されたが、それがどうも英雄セフィロスの仕業らしいというのである。クラウドは、複雑な思いでその話を聞いた。
 セフィロスは、クラウドたちの行く先々で、血の道しるべをつくっている。まるで、自らを追わせるように……。
 その後、クラウドたち一行は、皆で神羅兵に化け、西の大陸にあるリゾート地コスタ・デル・ソルへ向けて出港する船に潜り込んだ。正体がバレさえしなければ、快適な船の旅である。ただひとり、船酔いで苦しむユフィを除いて、の話だが。
 船内では、神羅の宝条が、会社を辞めると言い残して行方不明になったという情報を得た。あのマッド・サイエンティストが今ある地位を捨ててまで何を目論んでいるのか、彼こそが重大な鍵を握っているのかもしれなかった。
 しかし、今はセフィロスを追うのが先決だ。
 そんなとき、優雅な船旅に終わりを告げるように、急を告げるアラームが船内に鳴り響いた。誰かが見つかったのではないかとあわてて皆が甲板に集まったが、欠けた顔はない。
「あれ? みんないるわね」
 ティファが、首をひねった。
「てことは不審人物ってのは、まさか……」
 バレットが、武者震いする。
「セフィロス!?」
 異口同音に、皆が合唱した。
「……確かめよう」
 クラウドの言葉に、皆がうなずいた。
 彼らが、船内の探索を始めると、あちこちで船員が倒れていた。
「……機関室だ……あれ……人間なんかじゃ……な……」
 機関室の前で倒れていた船員は、そこまで言うと意識を失った。
 クラウドたちは覚悟を決め、機関室のドアを押し開けた。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。低くもなく高くもなく、心地よく胸に響くような声だった。どんな雑踏の中でも聞き分けられるような、艶のある声だった。
「……長き眠りを経て……時は……満ちた……」
 機関室の奥がまばゆく輝き、白銀の髪をなびかせた男の姿が現れた。
 黒いコートを着込んだその男は、まぎれもない、セフィロスである。
 クラウドが叫んだ。
「セフィロス! 生きていたんだな!」
 光の中の男は、青い魔晄の瞳をわずかに細めて、ゆっくりと一同の顔を見回した。
「……目をさませ」
 低い声で、クラウドに言った。
「どういう意味だ? あんたは何を知っている? 何をするつもりなんだ!?」
 クラウドは、声を大にする。
「私は、約束の地を得、神になる」
 色のない声で平然と言い切った。
「冗談じゃないぞ! あれが……罪もない人々を焼き払うのが、神だとでも言うのか!?」
 怒りに震えるクラウドの様子になどかまわずに、セフィロスは静かに笑った。
「……全ての封印を我が手に……。目をさませ、クラウド……」
「封印だって?」
 クラウドは、頭を振った。
 と、突然。
「目をさますのは、あなたよ!」
 凛とした声で、エアリスが叫んだ。
 セフィロスの視線が動いて、エアリスを見つめる。
「エアリスか……」
 一瞬、セフィロスの瞳に理性が宿ったような気がして、クラウドは驚いた。
 だが、それも束の間、セフィロスを包んでいるまばゆい光が収縮し、輝きを増して一気に拡散する。
 セフィロスの姿が、かき消えていた。
「何だ? ヤツは……いったい……」
 まぶしさに目を覆うクラウドに、レッドXIIIが言った。
「今のは、どこからか投影された映像かもしれない」
「幻……?」
 しかし、深く考えている暇はなかった。
 拡散した光の中から、巨大なモンスターが現れたのだ。
 ジェノバ・BIRTHだった。
 体勢を整える間もなく、強引に戦闘に突入した。
 ジェノバ・BIRTHは、時間魔法を巧みに操り、クラウドやエアリスの周囲の時間を順に止めてくる。
 Wレーザーが左右から襲いかかり、テイル・レーザーが、一同をなぎ払う。
 何度目かの衝撃を受け、倒れたときだった。クラウドの頭の中で不思議な声が反響した。
 何故、私に、刃を向けるのか……。
 ぎょっとして、クラウドは、ジェノバ・BIRTHの巨体を見上げる。
「クラウド!」
 エアリスの声で我に返ったクラウドは、フォースイーターを握りしめた。
 ぎりぎりの戦いだった。魔力も弱く、バリア系の呪文も知らない彼らは、ジェノバの強力な攻撃に翻弄され、何度も叩きのめされた。
 動きを止められ、レーザーで灼かれながらも、クラウドのリミット技、クライムハザードが炸裂し、からくも勝利をおさめた。
 クラウドは、ふうと息をつき、天を仰いだ。
「エアリス、もしかしてセフィロスと知り合い?」
 戦闘でついた服の埃をパタパタと払うエアリスの背に、ティファが言った。
「え……?」
 とまどった顔で、エアリスはティファを振り返る。
「だって、確かに言ったわ。エアリスって……」
 バレットもレッドXIIIも、不審な目でエアリスを見つめる。
「あ……黙っててごめんなさい。わたし、7歳まで、死んだかあさんといっしょに宝条の研究所にいたから……。彼には、その頃、何度か会ってるの」
「7歳……? だったら、セフィロスだってまだ一二、三の筈よね? 同じ古代種の血を引いてるから、すぐわかるのかしら?」
 エアリスの不十分な説明に、ティファは首をかしげる。そんな2人の間に、ユフィが割って入った。
「そんなこと、どーでもいーじゃん。こんなところでぼやぼやしてると、神羅の新手が来てメンドーだよ」
 この飄々とした少女は、事態がわかっているのかいないのか、重要な作戦会議でさえも聞かずに、マテリアを磨いていたりするようなヤツなのだ。
「そうだな。港に着けば、また何かわかるかもしれない」
 クラウドがユフィに同調して、皆を見回した。一同は、うなずいて、それぞれの持ち場に散ってゆく。
 軽い足どりでエアリスを追い越しざま、ユフィがこそっと耳打ちした。
「あんなイイ男、どやってつかまえたの?」
 エアリスが、驚いてユフィを見る。
「えへへ〜」
 ぱちんとウインクして、ユフィは駆けていった。
 

 

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