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紅蓮の炎に立つ者

Action-4

 

 昔、神羅カンパニーの人間が使っていたことでそう呼ばれている神羅屋敷は、村でいちばん大きな建物だった。
 その屋敷の地下にある研究室に、セフィロスは居た。

 X年X月X日。
 2000年前の地層から仮死状態の生物が発見される。
 研究責任者ガスト博士は、その生物をジェノバと命名。
 X年X月X日。
 ジェノバを古代種と確認。
 X年X月X日。
 ジェノバ・プロジェクト承認。
 魔晄炉1号機使用許可。

 神羅屋敷には膨大な量の資料が眠っている。
 セフィロスは、扉を開ける呪文を探していた。しかし、そのときのクラウドには、彼が何に気づき、何をしようとしているのか、わからなかった。
 何かにとりつかれたように書物を読みあさるセフィロスを心配して、ザックスが、自分も力になれないかと申し出た。
「少し休んだほうがいい。俺じゃ、役不足かもしれないが、話してくれれば力になれるかもしれない」
 勿論、クラウドも同じ気持ちだった。
 いつになく真面目なザックスと、必死の表情のクラウドを見て、セフィロスはふっと笑った。
「やはり、ここに導かれたのは、何者かの罠だったのかもしれない」
 うずたかく積まれた手近な本をひょいと手に取り、ぱらぱらとめくりながら、ザックスは言った。
「魔晄炉でもそんなことを言ってたな?」
「ああ」
 クラウドは、セフィロスとザックスを見比べる。
「罠って……、誰が、何のために?」
 セフィロスは、研究室の奥の書斎に通じる廊下へ出た。クラウドも、その後を追う。
 歩きながら、セフィロスは言った。
「古代種という幻の種族を知っているか? クラウド」
「いえ」
「だろうな。俺は、少しは知っているつもりだったが、ここに残された資料には驚かされた。古代種セトラと、セトラを巡る運命……」
「セトラ……」
 セフィロスは、書斎に入り、机にもたれかかった。
 少し遅れて、ザックスが書斎に入って来る。
「なんだか、嫌な符合を感じるんだが……その古代種ってのは、エ……」
「まあ、聞け」
 誰かの名前を言いかけたザックスを制して、セフィロスは続けた。
「この星はもともと古代種セトラのものだった。セトラは旅をして、星を拓き、そしてまた旅をする。辛く、きびしい旅の果てに約束の地を知り、至上の幸福を見つけるという」
 クラウドは、耳慣れない言葉に首を傾げた。
「約束の地……?」
「だが、旅を嫌う者たちの出現によって、セトラは全ての技術と魔法、そして、この星さえも奪われ、地下に追われた」
 ザックスは、黙ってセフィロスの話に聞き入っていた。彼には似合わないほどの、神妙な態度だった。
 クラウドは悟った。セフィロスはこの数日でここの資料から得た情報を、まとめてくれているのだ。そして、それを自分たちに話すということは、いかな英雄といえども、個人レヴェルで対処できる問題ではなくなった、ということなのか。
 いつもおちゃらけているザックスの真剣な表情が、それを裏付けていた。
「2000年の昔のことだ、この星を厄災が襲った。セトラの手から星を奪った略奪者たちは、逃げ回り隠れたおかげで生きのびることができた。星の危機を回避できたのは、セトラの犠牲によるものだった。セトラは、星を巡るエネルギーになった。それは、神羅が、魔晄と名付け、無為に搾取し続けている星の命だ」
「魔晄エネルギーが……セトラ……?」
 クラウドは、茫然と呟いた。
「そうして、セトラは、その意識だけを残して滅びていった。その後で、のうのうと数をふやしたのが、逃げ出した、略奪者たちの末裔だ」
 不意に、黙っていたザックスが口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ。それが、今回の任務とどういう関係があるんだ?」
 セフィロスは、目を伏せた。長い髪が、はらりと肩から胸元に落ちる。
「2000年前の地層から発見され、ジェノバと名づけられた古代種。そして、ジェノバ・プロジェクト……」
 クラウドは、疑心暗鬼に陥った。
 セトラ、星の危機、2000年前の厄災、魔晄エネルギー、略奪者、そしてジェノバ・プロジェクト……。
 キーワードが、頭の中でぐるぐると渦を巻いた。
 セフィロスは、そんなクラウドの混乱になどおかまいなしで、さらに続けた。
「ジェノバ・プロジェクトとは、古代種セトラの能力を持った人間を創り出すことだった」
「つ、創り出す?」
 クラウドの声が、オクターブ跳ね上がった。唐突な話の飛躍に、思考回路がついていけない。
「そんなに、驚くな。魔晄のポッドに人間をぶち込み、モンスター化させる実験を見ただろう?」
「だからって、人間を創る、なんて……」
「神の領域だと思うか?」
 クラウドは、うなずいた。
「かもしれないな。だが、そうして創り出された俺が、ここにいる」
「え……?」
 クラウドは、冷たい汗が全身に吹き出すのを感じた。不吉な予感をぬぐい去ることができなかった。
「ちょっと待てって」
 顔色も変えずに話すセフィロスの肩を、ザックスは、ぐいと掴んだ。
「そんな顔をするな。真実にうろたえるほど、やわな神経は持ち合わせていない」
 ザックスの手をふわりと払って、セフィロスは続けた。
「ジェノバ・プロジェクトの責任者、ガスト博士が俺を創り出した」
「そんなこと……どうやって……」
 クラウドが呟く。セフィロスは首を横に振った。
「俺がこの世に生まれて来た意味……、成すべきこと……。隠された真実は、あの扉の向こうにある」
 クラウドは愕然とした。驚いたまま、二の句が継げなかった。
 そんなクラウドを見て、セフィロスは静かに笑った。それは、彼が、クラウドに見せた、最後の人間らしい微笑みだった。


 夜半、兵の1人が、セフィロスが倒れたと言ってクラウドたちを呼びに来た。急いで地下室に降りると、奥の書斎で、セフィロスはうずくまっていた。
 驚いて、クラウドはその傍らに走り寄る。
「俺に触るな……」
 セフィロスの厳しい声に、彼の体に触れようとして伸ばした手が硬直した。思わず、クラウドはその場でストップモーションしてしまう。
 セフィロスは、ゆっくりと顔を上げた。その、血の気の失せた整いすぎた横顔が、クラウドを氷りつかせた。
 ものすごい威圧感だった。悪魔に魅入られたような表情だった。
「セフィロス……」
 ザックスは、絶望的な声でその名を呟いた。英雄の副官として、もっともその近くに居た彼には、このとき既にセフィロスの身に何かが起こったことを察したのかもしれない。
 しかし、クラウドは、セフィロスの豹変ぶりにとまどうばかりだった。
 何か、人ならざるものが、とりついているような雰囲気だった。
 セフィロスは、眉間を緊張させ、浅く息をつくと、少しよろめきながら立ち上がった。机の上に開かれていた古い本を閉じる。青い背の分厚い本だった。
 机を回り込み、クラウドたちを残して書斎を出てゆく。あわてて、クラウドはそのあとを追った。
「セ、セフィロス!」
 つと、セフィロスは立ち止まった。
「母が、俺に目覚めよと言っている。邪魔をするな……」
 母……?
 クラウドは、慄然とした。
 母……ジェノバだ……。
 それがどうして、こんなにも恐ろしいのだろう?
 セフィロスを止めなければ。
 何故だか、彼をジェノバに会わせてはいけないと思った。とんでもないことが起こるような予感が、クラウドを恐れさせた。
 開かない扉……。
 JENOVA……。
 それでも、もう、運命の輪は、回り始めているのかもしれなかった……。
「クラウド、セフィロスを追え! ヤツは普通じゃない。ぶん殴ってでも止めるんだ!!」
 うろたえているクラウドにカツを入れるように叫んで、ザックスは駆け出した。
 あわてて、クラウドは、その後を追った。


 廊下を駆け抜け、螺旋階段を登って神羅屋敷から外に出る。
 クラウドは、思わず息を呑んだ。
 村が、灼熱の炎に包まれていた。
 炎の赤い舌が、メラメラと空に向かって伸びている。見知った人々が、地獄の業火に焼かれ、助けを求めて叫んでいた。
 クラウドは、眩暈がした。
 これは、セフィロスがやったことなのか……?
 今までセフィロスは、決して民間人には危害を加えなかった。戦争中、どんなに峻烈な判断を迫られても、自分の命を盾にすることで非戦闘員を護ってきた。
 それなのに……。
 そのセフィロスが、何故、罪もない人々を……?
「おっ、あんたか! あんたは正気なんだろうな?」
 茫然とするクラウドを呼ぶ声があった。ティファの師匠だという格闘家だった。
 先に飛び出した筈のザックスの姿を探したが、炎の勢いが強すぎて視界がきかなかった。 クラウドは、急いでその格闘家のもとへ駆け寄った。
「俺はこの家を見てくる。あんたはそっちの家を!」
 男は、そう言って、炎に包まれた家の中に消えて行く。
 クラウドは示された家を振り返った。そこは、クラウドの生家だった。
 母が、中にいるかもしれない!
 矢も楯もたまらず、炎燃え盛る玄関に飛び込んだ。しかし、もはやそこは人が入れるような状態ではなかった。フラッシュオーバーで、吐き出される煙自体が燃えていた。
 絶望だった。
 クラウドは、崩れ落ちる屋根から逃れ、やっとのことで外へ出た。喉がひりひりして、目が霞んだ。
 燃え盛る炎よりなお熱い、正気を失いそうな怒りで、髪が逆立ち、全身がぶるぶると震えた。
 心臓が、破裂しそうだった。
「セフィロス……ひどい……酷すぎる……」
 ゆらめく炎の向こうに、長刀がひらめくのが見えた。
 ハッとして目をこらすと、炎の中でザックスと対峙するセフィロスの姿があった。
 その、冷酷な表情が燃え盛る炎の中に浮かび上がる。
 青く輝く魔晄の瞳が氷のように輝いていた。
 口許にうっすらと笑みが浮かんでいる。
 それは、見る者を石に変えてしまうのではないかと思うほどの、魔性の微笑みだった。
 この美しい魔物が生を受けたのは、神の啓示か、それとも悪魔の罠か……。
 男は、白銀の髪を狂気の炎で赫く染め、ゆっくりと背を向ける。
 左手に、何人もの血を吸った狂刀正宗を携え、紅蓮の炎の中に消えていった。
クラウドは、そのセフィロスのあまりに強烈な視線に、足元が大地に縛り付けられたような錯覚を覚えていた。
 すぐには、動くことができなかった。
 ザックスが、彼を追って駆けていくのが見えた。
 まるで、醒めない悪夢の中に閉じこめられてしまったようだった。


 クラウドは、爆発しそうな怒りを抱えたまま、セフィロスの後を追ってニブル魔晄炉へ走った。
 目覚めよと、母が言っている……。
 セフィロスはそう言い残した。
 目覚め。その言葉が持つ計り知れないものに、恐怖感を覚えた。
 そして多分、彼の母ジェノバは、魔晄炉の奥の閉ざされた扉の向こうにいるのだ。
 セフィロスは、扉を開ける呪文を見つけたのだろうか?
 魔晄炉の内部に駆け込むと、通路の向こうにティファがいた。傍らに、ティファの父親が倒れている。
「パパ……。セフィロスね! セフィロスがやったのね!」
 ティファは、泣きながら叫んでいた。クラウドは、急いで梯子を降りて行く。
「セフィロス……悪魔……許さない!!」
 ティファは、懐に忍ばせた山歩き用のサバイバルナイフを取り出し、しっかりと握りしめた。
 魔晄炉の奥に向かって、ダッと駆け出す。その後を、クラウドはあわてて追いかけた。
「ティファっ!」
 どう考えてもセフィロスは、ティファがどうにか出来る相手ではなかった。しかも、今の彼は普通じゃない。立ち向かうのは自殺行為だ。
 必死で、クラウドは叫んだ。
「ダメだ! ティファ! 戻れっ!!」
 JENOVAと記された扉の前に、セフィロスがたたずんでいた。
 階段の下にたどり着いたティファが、その後ろ姿に向かってあらん限りの声で叫ぶ。
「よくもパパを! よくも村のみんなを!」
 ナイフを振りかざして、階段を駆け上がった。背後から、セフィロスに斬りかかる。
 しかし、そんな攻撃が彼に通用するわけがない。セフィロスは、振り返りざま刀を逆手のまま振り上げて、ティファのナイフを弾き飛ばした。そのまま返す刀で、逆袈裟に少女の体を斬りしだく。
 悲鳴が、魔晄炉の中にこだました。
 ティファの体は宙を舞い、階段を伝って落下する。
 しっかりとロックされていた筈のJENOVAのドアが、ひとりでにシュンと開いた。セフィロスは、振り返りもせずに扉の向こうに消えて行く。
 ザックスが、哀れな姿で、魔晄冷却ポッドのところに倒れ込んでいた。例え、副官といえども、あのセフィロスとまともにやりあって勝てる訳がなかった。深手を負って虫の息だった。
 クラウドは、激しく動揺した。自分が今、どんな立場に立たされているのか、冷静に判断できなかった。
 やっとのことで、クラウドはティファのもとへ駆けつけ、その痛々しい体を抱き起こした。
「……どして……あんなヤツ……信じて……バカだよ、クラウド……」
 ティファは、あえぎながら呟いて、力を失った。
 そっと、少女の体を横たえた。
 あまりのことに理性が吹き飛んでいた。どんな戦闘のときでも確かには自覚したことのない、殺意というものを感じた。
 許せない、絶対に。
 クラウドは、セフィロスの後を追って禁断のドアをくぐった。
 そこには、機械に囲まれた生体維持装置が室一杯に張り巡らされた、一種独特な空間だった。翼を広げた天使を模して造られた魔晄循環パイプが、象徴的な女性の姿で維持装置を守っている。
 その正面に、セフィロスはいた。
「セフィロス……。俺の家族を! 俺の故郷を! よくもやってくれたな!」
 クラウドは、大剣を握りしめた手に力をこめて、怒鳴った。
 彼に背を向けたまま、セフィロスは不敵に笑う。
「そんなに、俺の邪魔をしたいのか?」
「ふざけるな! 自分が何をしたのか、わかっているのか!?」
 セフィロスは、クラウドの存在などまるで意に介さない様子だった。
「ジェノバは、約束の地を手に入れ、優れた能力と知識、そして魔法で、この星の支配者になるはずだった……」
 セフィロスは、循環装置の上に登った。
「しかし、強欲な略奪者たちが、その全てを奪い去った……。幾重にも重なった重い封印を科して……。その封印を、今こそ解き放つときだ……!」
 循環装置の人型部分に手をかけ、パイプ接合箇所をメリメリと引きちぎる。
 人型の眼窩から培養液が溢れ、涙のように糸を引いて散った。
 その奥に控える生体維持装置の培養ポッドから魔晄の培養液が流出し、秘密のヴェールに包まれていたジェノバが姿を現す。
 ジェノバの瞳が、確かな意志を孕んで、青く輝いていた。
 クラウドは、必死だった。何とかセフィロスにわかってもらおうと、声を張り上げた。
「2000年も前のことが何だって言うんだ? それがあんたの悲しみなら、俺の悲しみはどうしてくれる! 家族、友だち……故郷をうばわれた俺の悲しみは……! あんたの悲しみと同じじゃないのか!?」
 セフィロスは、ジェノバを背に庇うように向き直り、刀を高くかかげて哄笑した。
「俺の悲しみ? 何を悲しむ? 我は選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在……。この星を、愚かなる略奪者たちからとりもどし神になるために生をうけた……。何を悲しめというのだ?」
 狂人の科白だった。しかし、この男の圧倒的な力を持ってすれば、それが可能かもしれないと思わせるところが恐ろしかった。
「セフィロス……信頼していたのに……」
 2000年前の恨みが、この男を狂わせたのだろうか。気の遠くなる時を経てもなお、現世に残る怨念の正体は何だ?
 目覚めよと、母が言う。
 彼は狂ったのではなく、ジェノバによって覚醒しただけなのかもしれない。
 ジェノバ……。古代種……。
 古代種とは、いったい……?
「おまえは、もう、俺の知っているセフィロスじゃない!」
 クラウドは、握りしめた大剣を、ぐっと引き寄せた。今にも斬りかからん勢いで、セフィロスをぐいと睨みつける。
 セフィロスも、長刀を水平に返し、ゆっくりと構えを取った。
 クラウドは、精神を集中し、気息を整える。
 一触即発の緊張感に包まれた。
 そして…………。


「……この話はここで終わりなんだ」
 クラウドは、ふうと息をついた。
「ちょっと待てよ! 続きはどうなったんだ?」
 バレットが、当然の質問を繰り出す。
「……覚えていない」
 クラウドは、かぶりを振った。
 ベッドに腰掛けてじっとしていたエアリスが、真っ青な顔をしてうつむいている。膝の上に置いた両の手を、指が白くなるくらいぎゅっと握りしめていた。
「セフィロスは……どうなったの?」
 かすれる声で、エアリスが訊いた。
「実力から言って、俺がセフィロスを倒せたとは思えないんだ」
 すかさず、ティファが言う。
「公式発表ではセフィロスは死んだことになっているわ。5年前、大騒ぎだったじゃない」
 確かに、英雄の死は、かつてセンセーショナルな事件としてメディアで大きく扱われた。
「新聞もテレビも神羅が関与している。鵜呑みにはできないな」
 レッドXIIIが、ウラの事情を悟りきったように、もっともらしく言った。
「……俺は確かめたい。あの時、何があったのかを。セフィロスに戦いをいどんだ俺は、まだ生きている。セフィロスは、なぜ俺を殺さなかったのか……?」
 ティファも、自分の手足を眺め回す。
「……私も生きているわ」
「人の記憶は曖昧なものだが、どうも矛盾が多すぎるようだ。クラウド、神羅ビルにいたジェノバが、そのジェノバなんだな?」
 レッドXIIIは、首を伸ばす。
「ああ。神羅が、ニブルヘイムからミッドガルへ運んだのは確実だ」
「そのあと、また誰かが持ち出したの? 神羅ビルからもなくなってたわよ」
 ティファは、神羅ビルの惨状を思い出して納得できない表情だ。
「がーーーっ! わけがわかんねえ!」
 バレットが、吠えた。
「オレはいくぜ。オレはいくぜ! オレはいくぜ!! 考えるのはオマエたちにまかせた!」
 盛り上がって、まくしたてる。
「おい、クラウド! しおれてねえで、出発の準備を整えろ! セフィロスが約束の地に向かうのを、だまって見ていられねえ。セフィロスも神羅も約束の地には行かせねえ。行かせちまったら、とりかえしのつかねえことになる!」
 どかどかと階段を踏み抜きそうな勢いで、バレットが階下に駆け下りて行った。
「明解だな」
 レッドXIIIは腰を上げ、しなやかな動作でバレットのあとに従った。それを見送って、ティファが、クラウドを見た。
「……ねぇクラウド、セフィロスに斬られた私は、どんなふうだった?」
 クラウドは、とまどった顔で答えた。
「もうダメだと思った。……悲しかったよ」
「……なんか、おかしいね」
「ああ……。でも、あのときの炎、怒り、ヤツの表情が、全て幻だったとは思えないんだ」
「うん。私も、途中までは覚えてるもの」
 クラウドはうなずいた。
「行こう。答えは、ヤツが知っている」
 エアリスに視線を移した。セフィロスを狂わせたジェノバが、古代種セトラだと知ってか、ショックで打ちのめされた表情をしている。
「エアリス……」
 クラウドは、エアリスの傍らに歩み寄った。
「わたし……どうしたらいいの……?」
 ふるふるとかぶりを振る。
「古代種……セトラ……ジェノバ……セフィロス……わたし……止められなかった……」
「え?」
 クラウドとティファが顔を見合わせる。
「でも、セトラは、星を支配しようなんて、考えないと思う……」
「どうして、そう思うんだ?」
「わからないけど、でも……」
「じゃあ、何がセフィロスをあそこまで変えた? 説明がつかない」
 エアリスは、うるんだ瞳でクラウドを見上げた。
「セフィロス、止めなきゃね」
 結局、それが全てだった。真実への鍵は、彼が握っているのだから。
「行きましょう。バレットが待ってるわ」
 ティファがうながし、クラウドとエアリスも階下へ降りていった。

 

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