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私は知らない…… メイドさんのお部屋に目覚まし時計が無いことを。 私は知らない…… 朝になると小鳥たちがメイドさんの窓をノックして、お寝坊しないように応援して くれていることを。 私は知らない…… 起きたばかりのメイドさんの、ぼぅっとした可愛いお顔を。 私は知らない…… 寝起きはメイドさんのツヤツヤの黒髪がヤンチャに飛び跳ねているところを 私は知らない…… パジャマから着替えて、いつものエプロンドレスになる姿を 私は知らない…… メイドさんが一体 いつ朝食をとっているのかを 私は知らない…… 私は知らない…… この屋敷へ来る前のメイドさんの事を
私は知っている…… エプロンドレスがとっても似合っている事を 私は知っている…… メイドさんの入れてくれるお茶がとてもおいしい事を 私は知っている…… メイドさんが町の人たちに愛されているのを 私は知っている…… 甘いものが大好きで、ついついケーキを食べた後、神妙な面持ちで体重計を 見つめていた事を。 私は知っている…… 私は知っている…… 朝、決まった時間にドアをノックするメイドさんのエプロンドレスのお姿を 私は知っている…… そしてメイドさんが素敵な笑顔で次に言ってくれる言葉を 私は知っている…… 「おはようございます ダンナ様☆」と…………。
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メイドさんが抱えて持ってきた小包を開けてみた。 「あ、これは!」 包みを開けてみると、中からカラフルな箱が姿を見せた。 先日、メイドさんが注文したというテレビショッピングの洗剤だった。 「なんでも外国の偉い博士が発明した洗剤なのだそうです」 メイドさんがいつになく、ワクワクして子どものような瞳をさせていた。 「今までの量よりちょっとで綺麗にぴかぴかになるそうなんですよ」 メイドさんが実演したいらしく洗濯機の前までやってきた。 「よろしいですか!? こほん、見ていて下さいね」 私は黙ってみていた。ちょっぴりとは? 「今までの量が、パッパッパ、だとしたらですね」 薄い計量スプーンですくって入れていた。 「これでしたらパッでいいんです。ネ! 凄いでしょ」 ちょっと誇らしげなメイドさんの隣りで洗濯機が震え出した。 ガタガタガタガタガタガタガタ そう思うと、まるでポップコーンが次から次へ出来上がるように、洗濯機の口 からぶくぶくと泡が溢れてきた。 「え? あら大変!」 慌てたメイドさんは溢れた泡で濡れている床に、ツルッと脚を滑らせた。 「きゃ!」 「メイドさん!」 すっと、メイドさんを抱き抱えようと手を差し伸べると、肩を掴むつもりが、偶然 ……本当に偶然メイドさんの胸に触れてしまった。 「きゃぁ〜ん☆」 「す、すみませんメイドさん! わざとではないのです……」 と、手を引っ込めたので、私もメイドさんも滑って転んでしまった。 泡だらけの床に座り込んで、顔を見合わせるとメイドさんは苦笑いした。 やっとの事で機械は止まったが、私たちは泡まみれ。 「つ、ついでに 床もピカピカにしますネ、ダンナ様」 シャボンだらけで照れ笑いをする様子に私は微笑ましくなってこう言った。 「お願いしますね。ですが、まずシャワーを浴びて着替えて下さい」 風邪をひきますよメイドさん!
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「どうしたんですか? 何か嬉しそうですが?」 春の朝、メイドさんが日差しのなかで微笑んでいた。 「お便りが届きました」 「お便り? 郵便屋さんはまだ来ていないようですが」 「もっと小さなお便りです。風が運んでくれましたの」 そう言って両手の中に大事にしまい込んだソレを、メイドさんはそっと私に 見せてくれた。 そこには小さな薄ピンク色の花びらがあった。 「もう春ですよ?って伝えるために、ひらひらと舞いながらやってきたみたいです」
桜の花びらが春風に乗ってメイドさんのもとに届いたようです。 「かわいらしい招待状ですね。お招きを受けたならご挨拶に参りましょうか」 この屋敷に届けられた春からのお便り。 桜の花をみつけに、私はメイドさんと屋敷から出掛けた。 つくし、たんぽぽ、ふきのとう。 見つけるたびにメイドさんの明るい声が上がる。 春からのメッセージが町のあちらこちらに見かけられた。 「でも、こうしてダンナ様と御一緒に歩けるなんて、とっても嬉しいです」 「私もですよ、かわいいメイドさん」 こぼれそうな満面の笑みを浮かべるメイドさん。 「お屋敷に来てから、初めての春ですね」 二人で満開の桜を眺めながら、お互いそこから先に言葉はなかった。 それから雑貨屋さんで色々な種を買いました。 ひまわり、あさがお。花の種をチョイスする私に 「こちらのほうがよろしいのでは?」 メイドさんはトマトやキュウリの種を選んでいた。 「夏になったらサラダにしますね」 花、野菜、そしてハーブ。 庭が少し、賑やかになりそうな春の一幕でした。 |
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