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はれの姿を照覧あれ  

第4章−3

 

 ルアレイが神の論理により失われることが知られたいま、いままで協力を惜しまなかった各国は掌を返したように態度を変えた。
 船はたちまち港を離れ、港に山済みされた発掘物は無秩序に略奪されていった。
 小競り合いが起きて多くの負傷者が出た。死人が出ていないのが、せめてもの救いだった。
 そしてロスグラード自治軍にも帰還命令が出た。
 エルアレイとロスグラード自治軍の主だった者たちは、エルアレイ首都エルワンの軍令部に集まっていた。
 石造りのテーブルをはさんで、茶の湯気が白く流れていた。
 そこには気まずい空気が垂れ込めていた。
 小さく咳払いをして、イシマは口を開いた。
「マウライ寺のゲイゼウス殿。既に聞き及んでおられると思いますが、我々は五日以内にエルアレイを出発しなければなりません」
 イシマは無骨な顔を、さらに硬くして無表情を装った。事件の渦中にあって、深くことにかかわっていた彼には、それはつらい宣言だった。
「当然のことだ、イシマ将軍」
 ゲイゼウスはカップを置いて顔を上げた。
「あなたは命令に服するべきだろう」
 そこに非難の色はなかった。しかし瞳は苦悩に満ちていた。
 武人に劣らないゲイゼウスの体格が、わずかに痩せて見えた。
「イシマ将軍。お聞き及びと思うが、我々は困難な問題を解決しなければならない」
「神々の論理に逆らうことなどできないでしょう。ゲイゼウス殿」
「……問題は、エルアレイ住民の移住先だ」
「天空に映し出された神は、人々を脱出させてくださると言われましたが?」
 イシマが眉を寄せて聞いた。
「イシマ殿。しかし神は我らに国となる土地を与えてくれるわけではあるまい」
「おおっ」
「我々はエルアレイの人々が、集い定住できる移住先を確保しなければならない」
 いかめしい顔をしたゲイゼウスは、決心した様子でイシマの眼を見つめた。
「事態は急展開している。私はあなたに依頼しなければならないことがある」
「私にできることであるならば、よろこんで」
「お心遣いかたじけない。我々は幾つかの国への派遣史を組織した。それはエルアレイの住民三千人の移住受け入れ先を探すためだ。三千人の男女とは、決して 少なくない人数だ。故郷に帰れる者はよいが、このエルアレイで生まれ育った者も多い。私たちは彼らの行き先を早急に見つけなければならないのだ」
「エルアレイを守護する貴殿が、そのような仕事をされますか」
「神は人間と財産の移動を行なわれるそうだ。しかし行き先は人間の問題である」
「…………」
「派遣使は五組組織された。どうかあなたの船に、その一組を乗せていただきたいのだ。イシマ将軍」
「ロスグラードと交渉されるか」
「すでに先送りの知らせにより、交渉の内諾はいただいた。しかし船がたりない」
「ロスグラードは街に有益な人間を選別しますぞ」
 脅すようにイシマはゲイゼウスの目を見た。
「一人でも多くの者を受け入れていただけるものならば」
「私はロスグラードから派遣されています。その理由はおわかりでしょうな?」
 イシマはいまさらのように語った。
「エルアレイに産出する神々の遺産は、芸術的にも科学的にも、そしてもちろん法呪学的にも貴重なものです。その市場は極めて大きい。庶民のお守り、嗜好品のレベルから、大学、王族の権威に係わるまで、広い範囲の要求を満たしています」
「それが我々の産業である」
 ゲイゼウスが言った。
「その通り。一国が利益を独占することは許されません。それほどまでに各国はエルアレイに産出する神々の遺産を欲しています。他ならぬ我々ロスグラードもです」
「エルアレイはロスグラードに多くの富をもたらせたと自負しているが?」
「そのとおりです。そして同じ程度に、他の国々にも利益を与えています。なぜならあなたたちマウライ寺は商売上手だから」
「なにを言われるか。将軍」
「正直に言って、私にはエルアレイの社会組織がよくわからない。表向きは民主的な島長ショーマン・ネイサン殿たちの議会がエルアレイの内政と外交を担って いるかに見えます。商知り引きの窓口も議会側にあるかのように見えます。ゲイゼウス殿のマウライ寺は軍事と民事を統括する政府の一部門にすぎないはずで す」
「まったくそのとおり。イシマ将軍。我々は政治的野心を持たぬよ」
 イシマは眉を寄せてゲイゼウスの鋭い眼光に耐えた。
「……その姿に各国は騙されています」
「心外ですな。将軍」
「各国政府は、エルアレイを代表するエルアレイ議会と交渉を持つことで、エルアレイにおける商取引を有利にできると考えています。ショーマン・ネイサン島長たちと接触することに腐心しています」
「当然の手順であろう」
「しかしその裏で、あなたたちマウライ寺が、国家に捕らわれない商社ーーコンツェルンと、直接に取引をされています」
「ほお? それはまた。なぜそのようなことを言われるのか」
「国々は政府間の駆け引きのために、私たちのような軍隊派遣まで行っています」
「少なくてもあなたたちのロスグラード議会は知っている。ロスグラード自治軍の派遣は、エルアレイのためでもなければ、エルアレイ議会に対する賄賂でもない。他の国々に対する牽制であると」
 それは図星だった。イシマはゲイゼウスから率直な答えが返ってくるとは予想していなかった。
「エルアレイの商取引の中枢は、あなたたちマウライ寺が握っておられる。なぜですか?」
 ゲイゼウスは、イシマをまっすぐに見て言った。
「エルアレイは……力弱い存在だ。他者の庇護を受けなければ存続できない社会である。いずれかの国に属することを表明すれば、たちまち戦争になるだろう。エルアレイの遺産には戦争を起こすだけの価値がある」
 ゲイゼウスは従えてきた若者三人を前に進ませた。
 ビドゥ・ルーガンの副官だったアミルトンもその中にいた。
 ゲイゼウスは自らが船に乗り、交渉に挑みたかった。
 組織された派遣使たちは、国との交渉経験など持たない若者が多かった。
 本来ならばエルアレイの対外交渉業務は、島長ショーマン・ネイサンら政治家の範疇だった。しかしエルアレイ議会とマウライ寺の表裏背反する役割配分のな かで、ゲイゼウスたちマウライ寺が、対外交渉の実権を掌握していた。軍の掌握、組織としての統一性などから都合がよいのだ。
 対外的なマウライ寺の仕事は各国間の利益の調整であり、彼らは汚れ役だった。各国の要求を巧みにぶつけ合い、天秤にかけて、エルアレイの利益としてきた。
 イシマが言った。
「つまり。エルアレイ議会が各国政府に対して、餌をちらつかせて甘い期待を持たせながら、ゲイゼウス殿のマウライ寺が、国に捕らわれないコンツェルンと取引をされておられた」
 それゆえにマウライ寺の者たちは、事情を知る各国政府から必ずしも好意を持たれていなかった。誠実と狡猾のロープを渡る、小賢しい商人として見られていた。
 エルアレイ三千人の移住のために、マウライ寺が各国との交渉の前面に出ることは、不利な状況を作りだしかねなかった。
 もはやエルアレイは、神の遺産という対価を払うことができないのだ。
 派遣使三人の内に一人はマウライ寺の者が組まれたが、あくまで彼らはサポートだった。彼らは一目でわかる風体ーー頭を剃っていたーーをしていたからだ。
 武人であるアミルトンらをして、正式な政府間交渉における精一杯の誠意を見せることが必要だった。
 だが、それは表向きの理由だった。
 マウライ寺の者たちは、すでに各国に散っていた。
 アミルトンたちにすら知らされていない任務を負って。
 マウライ寺の者たちは、国と国をまたぐ企業との交渉に挑んでいた。
 大陸間の距離をものともしない巨大な商人たちは、エルアレイの最後の一かけらまでを欲していた。
 この期に及んですらマウライ寺は、エルアレイの財産を輸出しようとしていた。求めに応じた出荷はできないが、特定期間における産出物を最優先に購入できる権利を売ろうとしていた。それが彼らの任務であり、アミルトンたち軍人にはできない仕事だった。
 政治交渉よりも経済交渉にマウライ寺スタッフの比重を置いた結果が、アミルトンたち軍人使節の各国政府への派遣だった。
 エルアレイは宝島である。その知名度は各国の国民にも高い
 そのエルアレイの軍人が頭を垂れて政治的に誠意を示すのだ。各国政府にとって抗うことは、倫理的に難しい。
 その裏側では、コンツェルンに対して、マウライ寺が交渉を続けていた。
 宝物の持参金を付けるから、人を受け入れろと。
 宝物を現実に扱うのは各国の企業であり、結果として国家の財政に寄与する。
 しかし人の受入れは、企業の仕事ではない。あくまで国家が由としなければ住むことができない。
 商取引と政治の両面からの工作。
 ゲイゼウスたちは持てる手札をすべて投入していた。
「……ゲイゼウス殿。それほどまでにエルアレイと市民を愛されるか」
 イシマはひとりつぶやいた。
「わかりました。ゲイゼウス殿。私に異存はありません。どうせ船の定員に空きがあることですし」
「感謝する。将軍。しかし空きとは?」
 ゲイゼウスは安堵の表情を浮かべながら聞いた。
「まさか我々がアリウス殿を置き去りにするとお考えではありますまい?」


 翌朝、出発のために彼らは港に集まった。
 ここしばらく移動体としてのエルアレイの活動が活発化していた。航行する島エルアレイには前うしろがない。四角形のいずれかの頂点を先頭にして自在に進んでいた。
 いま港は進行方向の反対側にあるために、港の波は比較的穏やかだった。
 潮風が複雑に巻いて、港の落ち葉を空に飛ばした。
 彼らは、そこで奇妙な光景を目にした。
 港に汎神族が現れたのだ。
 黒髪の女神が大勢の縞馬型従属生物を従えて歩いていた。女神は港に集まった人間たちの間を、硬い足取りで歩いていた。
 本物の汎神族を見たことがないエルアレイの人々は、逃げることもひれ伏すこともできずに、恐れおののいていた。
 黒髪の女神は、赤と黒の帯を二重に締めた黒の装束を身につけていた。
 柔らかく丈夫そうな、ぴかぴかと光る服だった。金属のような輝きを持っていたが、皮のようになめらかだった。
 タイツと靴が一体化したパンツを履いていた。地面までもとどく重そうなマントは、デザインなのか必然なのか、裾に鋸の刃のようにいくつにも分かれていた。
 ティアラともカチューシャともつかない金属製の髪飾りが、太陽の光りを美しく反射していた。
 そしてもっとも人の目をひいたのは、女神の頭上に浮かんだ巨大な二個の巻き貝だった。
 長いマントの裾から金の紐が伸びていた。その先端は、たくさんの白い突起を持つ、浮かぶ巻き貝につながっていた。
 女神の長い黒髪は結ばれることなく、風になびいていた。
 ごおっ、と海風が通りを吹き抜けた。
 マントと黒髪が、黒い旋風のように空に舞った。
 人々はその美しい光景に眼を奪われた。
 マントの下から差し出された二本の腕もまた、継ぎ目のないグローブで、指先まで黒く覆われていた。
 顔にかかる髪筋を払おうともせずに、高い視線が人間を見た。
 その瞳は、なぜかきらきらと輝いていた。
 まるでコンサートに立つ音楽家のように、晴れがましさと緊張が女神を包んでいた。
「……あれは汎神族ではないか……御柱はいったいなにをされているのだ?」
 ゲイゼウスと肩を並べたイシマがつぶやいた。
 人の目に汎神族の感情の機微がわかるとは、不思議な光景だった。
 女神の様子はそれほどまでに明快だった。
 港の中央に立った女神は、数十体の縞馬型従属生物を円形に整列させた。
 そして人間たちの視線が、前からも後ろからも自分に集中していることを確認して、ポッと首筋を赤らめた。
 一瞬、右手を左胸に当てた。まるで人が動悸を押さえるような仕種だった。
 紅潮している、としか見えない頬が天を仰いだ。
「キイイィィィィィィンッ」
 高速言語が発せられた。
 空に消えたメッセージに応えて、遙か上空から稲妻の轟く音が響いた。
「……ああ」
 女神の顔に満足そうな笑みがこぼれた。
 それが汎神族のやりとりであると、人間は知った。
 女神は視線を港の人間たちに戻した。
 その瞳は日の光りを千も映して輝いていた。心にある慈しみと愛情が黒い瞳から溢れ出て止まらないかのようだった。
 両手を高く上げて、巻き貝を叩いた。
「パラリラパパパアァァァーーーン」
 とてつもなく華やかな音楽が巻き貝から鳴り響いた。続けておごそかな音楽が演奏された。
「高きところ、遠きところに住まう汎神族諸衆よ、招覧あれ。我れは使命を果たさんがために、いまここにある」
 雷が、さらに万も鳴って女神の宣言を讃えた。女神の体は金色に輝いて、祝福を受け取った。
「天海女に住まう人の子たちよ。監業官たる私を知るが良い」
 高く細い声が、巻き貝で増幅されて轟いた。
「ビバリンガムによりそなた達は安全な地に導かれるであろう。しかしそれは私が許した者のみである」
 女神は言葉を切って回りを見回した。人間たちの尊敬の眼差しを期待しているかのようだった。
「私は人の子たちを良く選び、天海女と征轟丸の戦いを正しく終結させるという、栄えある役目を担うものである」
「…………」
 人間たちは、言葉を聞き取ることこそできたが、その意味をまったく図りかねた。
 ……私が許した者? ……
 ビバリンガムの説明を受けた者は、一部の人間がマギーの門をくぐれないことを知っていた。それは神に逆らい意見した、カーベルたち限られた者のことだと考えていた。
 そうではなかったのか?
「人の子どもよ。私の仕事を長く記録せよ」
 女神が笑った。
 高らかに宣言する姿の、なんと誇らしげなことか。
 女神はマントをなびかせて、人が草原で遊ぶように従属生物を操った。
 その動作はきびきびと美しく、明るく浮かれた様子とは裏腹に、使命を帯びた者が持つ、強い意志の力が秘められていた。
 縞馬たちは、女神の栄光を背に人間に歩み寄っていった。
 そして立ち尽くす人間のそばで、角に結わえた鈴を鳴らした。
 ときどき鈴が赤く光った。すると縞馬は「ミュウ」と聞こえる不思議な声で啼いた。
 縞馬が啼くと、その人間は黒っぽい色に染まって凍りついたように動きを止めた。
 そのことがなにを意味するのかわからなかった。しかし人々は逃げだす不敬を犯すわけにもいかずに縞馬の徘徊を見つめていた。
 明らかに目的を持って動く縞馬たちは、高い知性を感じさせた。
「従属生物か……しかしいったいなにを」
 イシマは自分たちに近づいてくる縞馬を、困惑した目でみつめていた。
 縞馬はイシマの服の裾に鼻を寄せると、すこし考え込む仕種をしてから顔を上げた。
「うっ……!」
 イシマは声を上げそうになるのをこらえた。
 彼を見つめた縞馬は、魚の眼を持っていた。
 まるで蛙の卵のような眼。透明な球の中央に、黒い玉が浮いているような、奇怪な眼だった。その顔が困惑の表情を浮かべてイシマを見上げた。
 鈴は赤く光らなかったが、縞馬は彼の匂いに何かを感じたらしい。しばらく何かを考え込んでいたが、やがて歩を翻してゲイゼウスのほうに向かっていった。
 やがてスンウンという名の兵士の元に至ったとき。鈴がこうこうと赤い光を灯した。
 カーベルとともに老神を救い出した坑夫であり戦士である男だ。
「みゅぅぁあ」
 ひときわ高い声で縞馬は啼いた。法呪がすばらしい速さで展開した。
「スンウン」
 ゲイゼウスが声をかける間もなく、スンウンは縞馬の法呪に捕らわれて黒く硬直した。
 そして縞馬は群れに戻っていった。
「おい、スンウン軍士」
 イシマは彼の肩に手をかけて驚いた。
 身体が堅くこわばり、足も大地に根を生やしたように動かなかった。
「時間遅延場だ。これでは動かせない。船に乗れないぞ」
 状況を察した人間たちが、あちらこちらで騒ぎだした。
「パパ、パパ!」
 父親を捕らえられた妻と娘が叫んでいた。
 ロスグラード自治軍の中にも捕らえられて、固められた者たちが多数いた。
「……神よ。これは」
 ゲイゼウスは、理解できない神の仕業に驚いて声を上げた。
「神よ! この者たちをエルアレイから出さないと言われるのか!」
 しかし黒髪の女神は、真四季のように人と語らうのを由としないのか、軽く視線を流しただけでゲイゼウスを無視した。
 港を一周した女神は、縞馬の群れに囲まれたまま、ゆっくりとエルワンの街にむかって歩きだした。
 黒髪の女神は武装していた。
 鎧を着て、刀を下げるわけではない。
 黒の装束に黒のマント。まがまがしいものひとつを身につけているわけではないというのに、なにかが女神の身体を被い守っていた。
 大通りに入ったとき、人々は神の姿に驚き家に走り込んだ。
 ときどき縞馬の鈴が赤く光った。すると縞馬は閉められた家の扉の前に立ち「みゅう」と啼いた。
「神は人を選別されておられるのか? それはなにゆえのことであるのか」
 ゲイゼウスは足早に女神の後を追いながら叫んだ。
 噂はたちまちエルワンの街に広がった。人々は恐れて家や集会場に逃げ込んだが、縞馬たちは着実に人間を狩りたてていった。
 しかしその基準がわからなかった。なにを基に人間を捕らえているのかが、皆目わからなかった。
 人々は神に逆らうこともできずに、おろおろと逃げ回るだけだった。
 そうしているあいだにも、時間遅延場に縛られる人々はますます増えていった。
「ミロウド様、これはいったい……」
 イシマは手をこまねいて見ていることに焦れて、法呪の天才である娘に呼びかけた。
「…………」
 しかしミロウドとて初めて見ることである。
 縞馬が一匹、ミロウドの元に寄ってきた。後ろから近づいた縞馬の鈴が、彼女の服の裾に触れたとたんに激しく光った。
「みゅうううぅぅぅ」
 ひときわ高く啼き声が響いた。
「……あっ!」
 ミロウドの口から悲鳴が漏れた。青白い閃光が走り、縞馬が時間遅延場に捕らわれた。
 ミロウドのローブに仕込まれた反呪札が働いたのだ。彼女の強力な法呪によって編み込まれた反呪が、縞馬の法呪をそっくり逆返しした。
 神の従属生物ですら耐えられないミロウドの強烈な反呪が、時間遅延場を跳ね返した。
 その異変は、たちまち他の縞馬たちに知れ渡った。
「逃げろ。ミロウド殿」
 イシマは、部下に命じてミロウドを取り囲んだ。
 腰から下げた「バイガング」を手にした。それは細いバネ板で作られた自動傘のような法呪具だった。手練の手つきで二度三度手首を返すごとに、バチンバチンとはじけたバネ板が凧の骨組みのような対法呪盾を展開していった。
 イシマはミロウドを縦長の対法呪盾バイガングと、その巨体で守りながら街にむかって後退した。
 すたすたと、牧歌的な雰囲気をまき散らして縞馬たちは迫ってきた。ミロウドの回りに次々と群がる縞馬の数は、たちまち十体にもなった。兵士の中には、自分に向けられた鈴が赤く光るのを見て、あわてて盾を縞馬にむける者もいた。
「なんだ! 鈴はいったいなにを見て光るのだ」
 イシマは声にださずにいられなかった。女神はそのことに答えることはなかった。
 そればかりか女神はあらがうイシマを見て、自らの疑問を口にした。
「やよ。そこな人間たち。なぜ逃げる。なぜ私の監業に従わぬか?」
 その声には心からの驚きの響きがあった。
 人間が逆らうことなど、まったく想像もしていなかったかのようだった。
「神よ。けっしてそのような…………」
 ゲイゼウスが答えようとするのを、イシマは口をふさいで止めた。
「女神と語らってはいけません。神の論理に取り込まれますぞ。目線もそらして」
 逆らいがたい神の声が重ねて聞いた。
「人間たちよ。私の言葉が理解できるか?」
 目をつむり耳をふさいでも、頬が痙攣するほどの神に従いたい衝動が突き上げてきた。
「いったいなぜに……」
 女神は信じがたい理不尽に直面したかのように、絶望の唄を歌った。
 そして縞馬の群れを下がらせた。
「人の子たちよ。このような始末をつけることは、私の本意ではないことを記録せよ」
 長いローブの下から、サッシュにつながった幾本もの細いチューブを取り出した。その先端は金の指輪になっていた。それを十本の指にはめると、両手を強く打ち鳴らした。
「来よ。私の意を受けし働く者ども。人の姿をした従属生物どもよ」
 女神のよく通る声が、灰色の虚空に呼びかけた。
 両手が高くかざされた。鉤爪のように曲げられた指先は、見えないピアノをひくように、複雑にして華麗な軌跡を描いていった。
 イシマはそれを見て命令を発した。
「第一小隊、物理障壁・貝片用意! 第二小隊、反呪場起こせ」
 訓練されたロスグラード自治軍の兵士たちは、剣に手を伸ばすことなく、すばやく法呪文を唱えた。
 女神の呼びかけに応じて、従属生物の一団が位相遷移で姿を現した。それは空中の見えないカーテンが剥がされるかのように、なにげない出現だった。
 街角の風景が、目の錯覚のようにずれた。
 いきなり攻撃が襲ってきた。
 紫色の液体が、つぶてのように飛んできた。
「うわっ!」
 法呪攻撃を予想していた兵士たちは、物理攻撃の前にたちまち三人が打ち倒された。
 位相遷移をくぐり抜けて現れた者たちは、生理的な違和感を持つ化け物だった。人を恐れさせるもっともいやらしい姿は、限りなく人に近い異形である。
「怪物め!」
 兵士が悲鳴を上げた。そこに現れた者たちは、首を持たなかった。
 分厚い胸板の上、本来頭があるべき位置には、冗談のようなものが乗っていた。
 葡萄だ。紫色のたわわに実った葡萄が一房のっていた。
 その姿は全員が男だった。特殊木で作られた、軽く丈夫そうな鎧に身を包んだ、屈強な兵士たちだった。
 赤黒い塗装を施した鎧は、法呪に対する耐性を持っていることが明らかだった。
 彼らの手には、紫の麻痺性毒を射出する空気砲が握られていた。背中に背負ったタンクに圧縮空気を詰めて、その圧力で毒液を飛ばすものだ。つまり農薬散布に用いる水鉄砲のバケモノである。しかし収束も散布も自在なために、至近距離での威力は絶大だった。
 筋肉の盛り上がった首なしども二十体は、横一列に整列すると、腕をぐるりと回してから、指先を伸ばして虚空に弓をひくような奇妙なポーズを取った。
 彼らに続いて、羽の生えたスイカのようなものが、いくつも踊りだしてきた。それらは、兵士たちの頭上を数回旋回したのち、一気に上空に舞い上がっていった。
「ぐっ……」
 飛ぶモノに眼を奪われた瞬間。さらに二人の兵士が紫のスープを受けて倒れた。
「く、首だ。首が飛んでいるんだ」
 兵士が盾をかざしながら言った。
 うなじのあたりに鶴の羽をつけた生首だ。それが羽ばたいて飛んでいた。
「退却。建築物を俺体として、市街地に退却する!」
 イシマが命令した。
 煙幕が展開し、視覚と聴覚に錯覚を与える幻惑の符が兵士たちの足元に張られた。
 煙幕の白い煙に、ダミーの兵士が数十人も投影された。
 石造りの街を、兵士たちは相互に防御しあいながら巧みに退却していった。
 その道筋にも、縞馬に捕らえられた人間たちが固まっていた。
 街頭でパフォーマンスをするアーティストのように、不自然な光景が広がっていた。
 しかしイシマたちも、いまはそれにかまってはいられない。必死の退却が続いた。
 そして細い小路にさしかかったとき。
「うわあああっ」
 兵士の一人が悲鳴を上げて倒れた。頭から紫の液体をかぶっていた。
 横の小路から首なしが二体、飛び出してきた。
「先回りされた! 突撃デュウ。発射!」
 イシマが叫んだ。
「なぜ奴らは地理に長じているのだ!」
 それはイシマの悲鳴だった。
「首だ。首が空から誘導しているのだ」
 ゲイゼウスが優れた洞察力で、空を飛ぶ首を指さした。
 ミロウドはすばやく反応した。
 白紙の紙札を二十枚も取り出すと、金串でつらぬき胸に抱きしめた。
 複写機能札を両頬に張りつけて、さらに一枚を手にして、金串の把手をかたく掴んだ。
「その首巡らして見るは空の深さよ雲の白さよ。誉れある天の高見に泳ぐ者こそ幸いあれ」
 短い強制言が紙札に刷り込まれた。
「イシマ将軍、これを!」
「おう」
 イシマは金串から抜かれた紙札を受け取ると、射撃に秀でた兵士四人に託した。
 転写能力を持つ突撃デュウの銃身に紙札が巻きつけられた。ミロウドにより刷り込まれた紙札の法呪を、弾丸に転写するのだ。
「上空の首どもだ。撃て!」
 イシマの命令一過、パパパッと銃口が閃いた。 
 いくつかの首は銃弾を受けて法呪に捕らわれた。すなわちくるりと空に顔をむけてしまった。ぷかぷかと浮かぶ首は、はるか上空の白い雲に視線を奪われた。対をなす体は、放心したように立ち尽くして動きを止めた。
「短デュウ弾を麻酔珠に換装。撃て」
 イシマのすばやい命令が飛んだ。心を空に飛ばして身を守る法呪を失った異形の者、六人は、ライオン獣をも爆睡させる麻酔珠に倒れていった。
「殺さないのか」
 ゲイゼウスが驚いて聞いた。
「戦闘生物をむやみに殺すのは危険です。爆発をおこす罠が仕掛けられていたらどうしますか」
 肉薄してきた首なしを、細身の女性ほどもある剣の峰で叩きふせながらイシマが答えた。
 彼らはエルワンの街に逃げ込み、複雑な裏道を利用して退却を続けた。
 突撃デュウ程度の弾では首なしの鎧を撃ち抜くことができなかった。十分な戦闘装備を持っていない兵士たちは、携帯しているわずかな兵器で果敢に戦いを挑んだが、彼らを倒すには至らなかった。
 首なしどもは、強力な物理障壁に守られながら、小走りで確実に迫ってきた。
 逃げるイシマたちの一群は、地理を熟知したエルアレイの兵士が先導して複雑な路地を巧みに使ったが、首どもを引き離すことはできなかった。
「だめです。上空から首どもが見ています」
 兵士の一人が怒りに声を荒らげた。
 細い路地の上空には、羽を打ち振る首どもが常につきまとっていた。
 そして首なしどもは、誘導を受けて道に迷うことはなかった。
「しまった! この先はアパート街だ」
 エルアレイの兵士が叫んだ。
 追い立てられる彼らが出たところは、狭い通り沿いに白亜の四階建てアパートが1ケーメンツルも続くピット・ストリートだった。緑の街路樹が並び、白い石畳で整備された町並みはとても美しかったが、戦闘には最悪の場所だった。
 身を隠すところがまったくない。
「デュウをお貸しください!」
 ミロウドが兵士の手から大口径ニ十ミル・デュウを奪った。
 兵士が止めるまもなく、ミロウドは首なしの手前の地面に向けて弾を撃ち込んだ。
「ああっ!」
 ミロウドは悲鳴を上げた。激しい発射の衝撃に、銃口が跳ね上がり、弾は首なしどもに命中した。
 直径ニ十ミルの強力な弾丸は、首なしどもをなぎ倒した。
 石畳が砕け散り、もうもうたる土埃が巻き起こって視界がさえぎられた。
「ミロウド殿。なにをする」
 イシマはミロウドの手からデュウを奪い言った。
 しかしミロウドは、怒るイシマをも圧倒する気迫で言った。
「イシマ将軍。囮になってください」
「なに?」
 イシマが嫌も応もないうちに、ミロウドは聞いたこともない法呪文を唱えだした。
 カーベルが法呪の高速化のために板符を使うように、ミロウドはノートを使った。
 それは薄い半透明の紙で作られたノートに、様々な法呪を彼女流の手続きで書き込んだものだった。几帳面な小さな字でびっしりと書き込まれた法呪起動支援の文字を指先でなぞることにより文字が言葉として活性化されて、法呪展開を強力にバックアップした。
「ああああああっ…………あっ・あ・あ……あっ!」
 すさまじい気合がイシマの顔面を襲った。
 それは、つい先日にも聞いた法呪文だった。
 イシマは脳味噌が裏返るような感覚に意識を失った。
「きゃああーーーっ」
 イシマが意識を結びなおしたとき、彼の周囲で女性の悲鳴が鳴り響いていた。
「なにごとか」
 イシマは目を開けてすばやくあたりを見回した。
 ぐるりと振り回した視界が、飛ぶような速さで動いた。
「うお?」
 めまいが起きた。なぜかいつもよりもたくさんの景色が見えた。
 そしてイシマは気がついた。女性の悲鳴は自分に向けられていた。
 しかも悲鳴をあげているのは、アパートの三階、四階にすむ者たちだった。ベランダの植木鉢越しに、眼をまんまるにして騒ぎ立てていた。
 イシマはなぜか三階の窓で悲鳴を上げる女性と、正面から向かい合っていた。
 振り向くと、まるで摩天楼から街を眺めるような高い視線にいることに気がついた。
 彼はあやうく腰を抜かすところだった。
 イシマは巨大化していたのだ。
「奥様方、奥様方! たいへんです」
 ミロウドがみごとなソプラノで、四階建ての白いアパート群いっぱいに聞こえる声を上げた。
「淫乱魔神が美しきあなた様をのぞき見しようとしています」
「なにを……!」
 びっくり仰天のイシマがうろたえた。
 黒い女神が巻き起こした街の騒ぎに浮足立つ住民たちは、一斉に窓を開いた。
 そこには異国人の顔をした恐ろしい巨人が立っていた。
 巨人はなにかに狼狽し、あやしい表情を浮かべていた。右に左に視線をさまよわせる姿は、理屈抜きに変だ。
「きゃああああ。きゃああああ、きゃあああああああ」
 まっ黄色の悲鳴が次々と起こった。悲鳴は伝染し、相乗効果でヒステリーの大合唱を巻き起こした。
「奥様方! 淫乱悪辣魔神を打ち倒すには、清い青竹で打ちすえるのです。恐れないで」
 ミロウドの声には強制力が働いていた。しかし女性たちは、あまりの突飛な情景に誘導されていることも気がつかず、清い青竹を手にした。
 つまり物干し竿だ。
「竿をたわめて鞭打つのです!」
 ミロウドが命令した。
「きゃあ、きゃあ、きゃーーーーっ」
 騒ぐわりにはたくましい腕で、女たちは子供の腕ほどもある青竹を、二本ずつも弓なりに曲げた。
「こ、これはいったい。待て。待たれよ」
 フェミニストのイシマは、女性に拳を上げられたと言うだけで、頭の中が真っ白になった。無様に動揺するのだが、鬼のような容貌がしどろもどろに言い澱むさまが、ますます怪しさに輪をかけた。
「首どもが来ます!」
 兵士の一人が叫んだ。
 イシマの怪異は、当然首どもも見ていた。
 首なしの体たちには巨大すぎるイシマに向かって、空飛ぶ首どもは、牙を剥いて襲いかかった。
「きしゃああああぁぁぁーーーっ!」
 人間離れした声をあげて首どもは殺到した。
 女たちは二階、三階のベランダで物干し竿をたわめて待ち構えたいた。
 棒高飛びの棒のように弓なりに曲げられた夢想竹は、釣り竿にも使われるほど弾力に富む。
 首どもが身も世もない態のイシマに齧りつこうとした瞬間。
 ミロウドが両手を上げて叫んだ。
「ドリフ!」
 意味などない。しかし驚いた首が彼女に視線を集中した。
 そして女たちは、それが淫乱魔神を打ち倒す合図と知った。
「きゃあーーーー!」
 たくさんの女の嬌声とともに、物干し竿が放たれた。
 イシマの巨大化は、カーベルの法呪と同じものだ。つまり爆煙に映し出された映像にすぎない。頭に殺到した首どもが攻撃する実体など本当はない。
 翼をうならせる首どもは、スカッとイシマを素通りした。
 そこへ青竹が襲いかかった。
 女の剛碗で力いっぱいたわめられた竹が、うなりをあげて飛んできた。
 左右のアパートの窓という窓から、数えきれない物干し竿がはじけ飛んだ。
「……けぇ……」
 首どもが驚愕した瞬間。
 バチィィ……ン!
 青竹は首どもの顔面をひっぱたいた。
 見ていた者すべてが同情したくなるような音を立てて、ムチのような竹のしなりが首どもを打ちすえた。
「…………!」
 首どもの悲鳴すらあがらなかった。
 鼻血を散らして落下した首は、水スイカを包むネットに捕らえられた。
「そおれ」
 兵士たちはネットをぐるぐと回しはじめた。
 首と首なしどもは繋がっている。
 たちまち首なしどもは千鳥足でよろめきはじめた。中には腹を押さえてじたばたする者もいた。
 首がないので吐き気に悶絶しているのだ。
「いやはや。珍妙な戦いであった」
 イシマが額の汗をぬぐいながら言った。
 ミロウドはネットに捕らえられた首のひとつを押さえつけて聞いた。
「あなたに聞きます。首の方」
 ぎょろり、と黒い瞳が動いてミロウドを見た。
「あなたたちの目的はなんですか。なにゆえに人を法呪で捕らえたのですか」
「……かっ……くぁ……」
 首は口をぱくぱくさせるだけで言葉を発しない。
「話すことができないのですか?」
 ミロウドはなにかの予感を持っている様子だった。そして焦っていた。
 首の両耳を掴んで、力まかせに引っ張り上げた。
「ぎっ、げげげっ」
「話しなさい。首の方」
 すさまじい気迫で、ミロウドは正面から首を見据えた。
「……ガッ!」
 首の開いた口から、真っ赤な舌が飛びだした。銛のように鋭くとがった先端が、ミロウドの顔面に突き刺さるかに見えた。
 ごしっ。
 鈍い音がして、腕ほどの長さがある舌ははじき返された。
 ミロウドの眼前には、半透明の物理障壁が展開されていた。
「……話しなさい……」
 物理障壁が、ミリミリと音を立てて首を包み込みはじめた。
 透明な濡れ紙のように、密着する物理障壁は、たちまち首を窒息させた。
「死にますよ。あなた」
 蜘蛛の糸に捕らえられた虫のように、羽までくしゃくしゃにねじ曲げられた首が地面に転がった。ミロウドは人形のような冷たい瞳でそれを見下ろした。
「わかりました。他の首に聞きます。あなたはそこで死になさい」
「……ま……まて。聞け。人の女……」
 首が人語を語った。
「言う。羽を折るのはやめてくれ」
「…………」
 ミロウドはそれに答えず、羽の先端を爪先で踏んだ。
「ぎぎっ……天海女に深く因縁を持った者は、戦の一部として天海女と運命を共にしなければならない」
 三日月の眉を寄せてミロウドは聞いた。
「どういう意味ですか?」
「ビバリンガムによって天海女を出ることができるのは、汎神族と天海女の属性に深く触れていない者だけだ。それは当然であろう」
「……天海女……エルアレイの固有の物に、接していた者たちは、エルアレイの戦に加担したと見なされるのですか?」
「ぐう」
「その者たちは、エルアレイから脱出することができないと?」
「ぐううむ」
「なぜですか!」
 ミロウドは強制言を叩きつけた。
「……かっ……道理であるからだ。天海女にかかわりを持ち、属性に染まったものを戦の外に出すことは、正しからざる記憶を振りまき世界を汚染する。記憶汚染は許容できるものではない……」
「なにを言っているのかわかっているのですか? この地に住む者たちは、エルアレイの発掘を生業としているのですよ。住民のほとんどがエルアレイの属性に 触れているのですよ! その者たちはすべて、滅びを告げられたエルアレイと、運命を共にしなければならないと言うのですか」
 首の眼が聖者のように語った。
「……かかわりを持たない人の子たちは、我々が全力で救う。それが使命だ」
 その理屈の説得力にミロウドは目眩を覚えた。
 神の論理と慈愛が心に染みてくる。
 首の言葉は説得力を持ってミロウドの意識を縛り上げた。
 ーー首は正しいことを言っているのではないか? ーー
 だめだ。首の立場を理解してはだめだ。
 相手を理解した瞬間に戦いは負けるのだ。
「……女神は? 女神はどこにいかれました?」
 ミロウドが緊張した眼で聞いた。
「黒い女神様かい? それなら病院のほうに行ったよーー」
 アパートの窓から恰幅のよい女房が叫んだ。
「いつですか?」
「ええっ? あんたたちがここに来る前だよ」
「なんですって……!」
 ミロウドは白い顔をさらに青ざめさせて走りだした。
「ミロウド殿!」
 イシマの呼びかけにも答えない。
「……カーベル様が、あぶない……!」
 女房が指さして方向には、佐竹とカーベルが収容された赤立病院があった。

 

 

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