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神の死は人を殺す

第1章−4

 

「まずいことになった。見てくれ。カーベル」
 ビドゥ・ルーガンが小さくたたんだ地図を地面に広げた。
 小石を拾い上げると、彼らの立つ場所に置いた。そして自分の指輪をはずすと、海に向かう平原に置いた。
「すごい。ピンクの龍?」
 片眉を上げてカーベルが聞いた。ビドゥ・ルーガンそれにかまわず指輪を弓なりに進めた。
「進路が指数重積に円弧を描いているらしい。急激に右に曲がっている」
「えっ? それがなにか」
 カーベルはそのいく先を指でなぞってみた。
「なんてこと。巨龍は「アッツ」の丘に向かっているの?」
 カーベルはそのことに気がつき狼狽した。
「狙ってるみたいじゃない」
「実はそうなのかもしれない。このままだと数十フンで丘に乗り上げるな」
 ビドゥ・ルーガンは彼方に去りゆく土煙をみつめて言った。
 彼らはよく戦った。市街地は無傷で守られた。
「私たちのせいで「アッツ」の丘に激突するとでも言いたいのかしら。嫌味な奴。防ぐ手段は?」
「やめてくれ。このうえなにができると言うのだ。カーベル」
 ビドゥ・ルーガンはかぶりを振って答えた。彼は土ぼこりにまみれた剣を支えに立ち上がった。
「街は守られたんだ。丘に生きた神がいるわけでもなし、我々がこれ以上の犠牲を払う必要などないのではないか」
「でも、あの丘には神の顕現があるし……」
「兵たちはまだ若い。カーベル。恋人を待つ娘たちを泣かせるのか?」
「……いや、わかった。悪かった。でも見届けるくらいは許してくれるか?」
「もちろんだ。小麒麟を回した。それで行け。龍の足は遅いうえに回り込んでいる。先回りはわけないだろう。残念だが私は残らなければならない。気をつけて行け」
「ありがとう、ビドゥ。大好きよ」
 カーベルは辺りをすばやく見渡すと、ビドゥ・ルーガンにキスをした。彼らは恋人だった。
 カーベルがインスフェロウの主人という微妙な立場から、彼らはその仲をあえて隠していたが、すでに付き合いは半年に及んでいた。
「……インスフェロウを呼んでくる」
 カーベルは頬に両手を当てて立ち上がった。
 ビドゥはハンサムだ。黒い髪と黒い瞳を持つ彼に、島中の年頃の女の子が憧れていた。
 しかし身持ちの堅いことで有名だった彼は、いままで女性との浮いた噂ひとつなかった。
 そんなビドゥが、彼女の誕生日に花束を贈ってくれた。
 従属生物であるインスフェロウと二人きりだったはずのその日は、とつぜんに忘れられない素敵な日に早変わりした。
 カーベルはビドゥ・ルーガンと二人きりでいるとき、結婚という二文字を口の中でかみ締めてみるという、娘らしい夢を楽しむことができる自分に驚きもし、うれしくも思っていた。
 彼らはミスミィという名の隊長が率いる十人ほどの小隊とともに龍を追った。
 島から発掘された高張力素材で作られた鎧をまとった重装備のミスミィらが回りを固め、中心にインスフェロウ。そしてカーベルがいた。
「見てください。龍は迷走しています」
 豹のように速く駆ける小麒麟の背中に身を伏せながらミスミィが言った。ひたすらに平らなエルアレイの大地は、ほとんどが草原と畑で覆われていた。その中を土煙を蹴たてながら巨龍は爆進していた。
「いや、フーリケの揺らぎを描いているにすぎない。基線はあくまでアッツの丘を目指している」
 インスフェロウが確信を持って言った。
「そうね……まちがいない。アッツの丘が見えてきたじゃない」
 カーベルは顎をしゃくって前方を指し示した。地平線の彼方に青く霞がかかった丘が姿を現した。
 その遥か上空には、青い炎のような歳老いた女神の姿があった。
 悲鳴にも似た高速言語が、かすかに聞こえ始めていた。彼らはすでにアッツの丘まで四ケーメンツルに接近していた。
 小さな農業集落があった。人々は避難していたが、巨龍は右に左にふらつきながらもささやかな家々を直撃し、ふみ潰してしまった。
「容赦がない……いったいあの龍はなにものなんだ? なぜエルアレイを目の仇にするのだ?」
 ミスミィは、いままで幾度も繰り返された言葉を言わずにはいられなかった。他の地で巨龍の被害など聞くことはない。エルアレイに訪れる様々な国の人たちも、この稀な現象に驚いた。
「龍は速度を上げたな……だめ。とても止められない」
 カーベルがつぶやき、小麒麟の足を止めた。他の者たちも土煙と小石をまき散らして、その場に止まった。
 アッツの丘まで、すでに二百メンツルの距離にある。
 巨龍は丘から広がる聖なる森に突入しつつあった。緑の木々が圧倒的な質量に根こそぎさらわれて、高く空中に舞った。
「……ああっ、アッツの神様が……」
 壮年の兵が悲壮な声でつぶやいた。彼の故郷はたったいま蹴散らされた集落だった。
 幼いときから親しみ愛した思い出の丘が見るみる剥されていく。
 豊かな恵みとやすらぎをもたらしてくれた緑の木々が踏みにじられていく。土くれが激しく飛び散り、黒く光る巨龍の肌にはじかれていった。
 どおおぉぉおんん…………。
 龍が頭から丘に突入した。すさまじい質量が流れ星のように大地をえぐった。
 木と岩の塊が爆発を起こしたように数百メンツルの高さにまで吹き上がった。
「ィッ……アアアンンンン」
 悲鳴のような高速言語が響きわたった。
 それはいつもと変わらぬ言葉なのかもしれないが、彼らの耳には消え行く神の断末魔にも聞こえた。
「ああっ、アッツの神様が消えちまう」
 故郷を失った壮年の兵が、子どものように泣き声を上げた。
 人にとって自分の知る神を失うことは、親を失う以上の悲しみだった。
 まさに大爆発と言って良い力の噴出に、膨大な土くれが大地から引き剥がされた。
 蒼い女神の炎の中を、土砂の奔流が互いの色を混ぜながら登っていった。
 身悶えするように炎が揺らいだ。鈍い振動と地鳴りが映像を追うようにカーベルたちに届き、小麒麟たちは首を振り立てて恐れおののいた。
「おい! 見ろ。あれを!」
 兵のひとりが叫び、ちぎれゆく炎を指さした。真っ青な大空に舞った様々なもの。放物線の頂点を回り、落下を始めた岩と木々に混じり、異様な赤みを帯びた 肉の破片のようなものが見え隠れしていた。白い雲と太陽の逆光にさえぎられながらも、土砂とはあきらかに違うものが人の目にとらえられた。
 赤く長いものをまとわりつかせながら、百メンツルもの高みから、それは落ちてきた。
「……うっ……おい……あれ」
 歳老いた兵士が瞳孔を開いて身をこわばらせた。
 ゆっくりと音もなく、ずたずたに裂けた赤く鮮やかな色のものが落ちてきた。
 ばしゃっ、としぶきを散らして、砕けた不定型の物体は地面に張り付いた。
 わずかな土埃のみをはじかせて、しずくを含んだそれは地に広がった。
 白く細い棒のようなものが無数につきだした柔らかそうな塊。
 くちゅり、と音を立てて命あるもののようにうごめき形が変わった。
 だがそれは閉じ込められた空気の逃げる音に過ぎない。
 彼らの目の前に落ちてきたものは、明らかにたったいま生命を失った生き物の肉と骨だった。わずか二十メンツル先に、桃色と白の塊は柔らかく広がった。
 遅れて吹き寄せた風が肉をなぞりかすめて、甘ずっぱい匂いを彼らに吹きつけた。
「…………」
 荒れ狂う爆風の中で、人間と小麒麟は、時間が止まったかのようにその場に立ち尽くした。
 つぶされた肉など見慣れたはずの彼らが、その一塊の死骸に目を心を奪われた。
 理由などない。
 本能的ななにかが身体の芯から突き上げてきた。
 わずかな間の後、小さな破片と霧状の赤いものがあたり一面にふりそそいだ。
 ぼたぼたと頬を叩く肉片は、最前列にいたカーベルを、頭からつまさきまで濃い染みで朱色に染めあげた。
「うっ……ううっ……!」
 べしゃり、とかけらを鼻先に受けた老兵士が、胸を抑えて倒れた。
 どくんっ、と思いだしたようにカーベルの心臓が鼓動を打った。
 胃と肺を見えない手で鷲掴みにされたような、恐怖と後悔と罪悪感の黒いペーストを鼻の奥に塗り付けられたような、およそ考えられない狂気の感情が身体と言わず、指先までを痺れさせた。
 彼らを包み込む甘くせつない香り。
 すえたワインにも似た、誰もが知る匂い。
 それは貴くも恐ろしいものだった。
「キュキイイィィーーッ」 
 小麒麟たちが悲鳴をあげて棒立ちになった。
 乗っていた人間たちはでくの棒のように振り落とされて、地面に這いつくばった。それでも誰れも動くことができない。
「……ギュウ……」
 小麒麟の一頭が、口から泡を吹き、ドウッと横だおしに倒れた。
 かすかなきっかけが、緊張の糸を切った。
「ぎ、ぎゃーーーっ!」
 男たちの口から魂切る悲鳴がほとばしった。
 恐慌が人と小麒麟のすべてを襲った。
「か、かみ……」
 駆けつまろびつ、幼子のように兵士たちはその場を逃げ出した。無様に地面を蹴り立てて、手にした武器を打ち捨てて。
 悪魔に対面した娘のように金切り声をあげて。
 恐怖に目を見開き、閉めることのできない口の端から唾液を垂らして、人間も小麒麟も後ろを向いて己にできる一番の方法でその場を去ろうともがき走った。
「やめ……やめ……ろ」
 言葉は呪いと化していた。
 意味ある言葉、理解できる記号は命までを奪う威力を持つことが現実の恐怖として迫り来た。
「かみ……かみさまぁの……死体だあーー!」
「ぎゃああああ」
 真実を口にした兵士が、呪を受けて地面に倒れ伏し、心の臓を止めた。
 しかし誰も助けようとはしない。
 耳を塞ぎ現実から逃避しようとした。
 死んだ兵士の言葉はあまりに正確だった。神以外のものが口にすべき言葉ではなかった。
「ああーーっ」 
 逃げ出したのはカーベルとて例外ではなかった。
 涙を流し、重い鎧に足を取られながら兵士たちの後を追って走った。
 女性のプライドも人の尊厳もない。たとえ脚もとに幼子がいたとしても踏みつぶすほどの狂乱に捕らわれていた。
 それは自己保存の本能なのだろう。理性をかなぐり捨てて、己をその場から離れさせることだけが目的だった。そこに断崖絶壁があったなら、全員が奈落に落ちることを選ぶほどに。
「カーベル!」
 強い声が彼女を呼んだ。しかしその声は彼女の耳に届かない。
「カーベル。待て。ここにとどまれ!」
 それはインスフェロウの強力な呼びかけだった。
「そに負う理の正しきを示す者はこの地に留まりて我が神の意を知りたて奉ずべし」
 彼の口から短い法呪がほとばしり、カーベルに炸裂した。
 ぎしり、と彼女の鎧が反応した。
 鎧は法呪の論理の正しいことを知り、持ち主の意志に反して動きを止めた。
「あっ!」
 とつぜん全身を縛り付けられたかのようにカーベルは顔面から地に転がった。
 インスフェロウはいまだ降り注ぐ神の血しぶきの中をゆうぜんと歩いて、彼女の際に立った。
 その姿は異様だった。いかに従属生物とは言え、神の血を浴びて恐慌に陥らないとは。
「カーベル。おまえともあろうものが、その様はなにごとだ」
「……ひっ、ひい……」
 歯の根が合わない。全身を襲うけいれんにも似た震えが、言葉を紡ぐ暇を与えない。彼女は蒼白な面を、やっとの思いでインスフェロウに向けた。立ちこめる神の臭気の中で、彼の眼はすさまじい黄金色に輝いていた。
「イ、インスフェロウ……」
「そうだ。話せ。考えろ」
 彼のたくましい掌がカーベルの両頬を包んだ。インスフェロウは騎士のようにひざまづき、恋人のように眼をみつめて言った。
「これは予想もしなかったことだ。丘に神がおられるとは。カーベル。どう考える。すでに丘はひとつが失われている。そしてこれがふたつ目だ」
「……り、龍の目的は最初から丘を襲うことだと?」
「その可能性は高い。では龍とはいったいなにものだ? 神を殺す倫理を持つ者とは」
「か、神……を」
 恐怖が再び雲のようにカーベルの心を塗り込めた。がたがたと震えが全身を襲う。
「考えろ。理解しろ。我々は非常な困難に直面しているのだぞ。遺跡に住む神を殺そうとする者がいる。それは我々の島を戦いの舞台としているらしいぞ」
「神……かみさまを誰が……そんな。まさか」
 カーベルはインスフェロウの言葉が甘く強い暗示力を持って、彼女の理性を呼び戻してくれるのを感じた。
「か、かみさまを冒すなんて、人にできるはずない。考えただけで気が違ってしまう」
「その通りだ。非現実的だ」
「そんな、いったいだれがそんなことをできるの……そんな、絵そら言のような」
「当然だ。生きとし生けるもののすべてにおいて、汎神族に危害を加えられる種などあるはずはない」
「き……が狂いそう……かんがえさせ……ないで。いや……」
 涙が唾液が汗が、彼女の端正な顔をめちゃくちゃにした。
「考えろ。カーベル。それはおまえの役目だ。人をすら狂気に陥れる神への危害という行為を、なにものが成しうるというのか」
 恐ろしい可能性が彼女の脳裏をよぎった。
「じゃあ……じゃあ、まさか」
「言葉を紡げ」
「や……インスフェロウ……いや」
「法呪は言葉であり、言葉は呪を操り世の理を法ずる手段であるぞ」
 ごくり、とカーベルの喉が音をたてた。
「か、神様たちの争い?」
「私はそう思う。カーベル」
 カーベルはうろたえて首を振った。
「そんなばかな。神様が……争うなんて」
「カーベル。汎神族には四大閥があり宗派があり、互いに考えを異にすることは、よく知られたことだ」
「でも、それって……そんなこと人間には」
 人間には神の争いの形が理解しずらいことは事実だった。
 その感覚は人の幼子に、愛する両親の不仲を正しく認識しろというにふさわしい。正しく論理として感知できない種類の概念だった。
「カーベル。どう考える? 丘はあとふたつある」
 インスフェロウは彼女の視界いっぱいに巨体を近づけた。
「そ、そんな。そうね。そういうこと?」
「神々の争いであるなら、我々は関与すべきではないのかもしれない。しかし我々はすでに知ってしまった。この島に神が住まうことを。そしておそらくはまだ他にも住まわれることを」
「守るべきね。インスフェロウ」
 カーベルの瞳に光が戻った。
 明確な目的が盲目的な恐怖を和らげて、彼女を現実の世界に引き戻した。
「そうだ。カーベル。その行為が正しいことかどうかはわからない。神々の理に反する行為であるのかも知れない。しかし人間であるなら、己の知る神を守るべきだ」
 シャン、とカーベルの鎧が音を立てて動きだした。法呪の呪縛からとき放たれて、羽のように軽く彼女の身体を守ることを始めた。
「カーベル。神の血がおまえを染めあげている。そのことを福音と知り、誇りに思え」
 カーベルは恐怖と興奮で、胸の動悸がおさまらないことを恥じた。目を固くつむり、精神の確立と集中を喚起した、
「カーベル。血に染まっても、肉にまみれても、そなたは美しい」
 ひざまずき、かしずくようにインスフェロウは彼女を見上げた。
 だんっ、と足を踏みならしてカーベルは立ち上がった。その脚元は仔犬のように震えていたが、眼差しはまっすぐにインスフェロウを見据えていた。
「……よしてよ、インスフェロウ。従属生物に……言われたってうれしかないわ……!」
「それでこそカーベルだ」
 インスフェロウはふくろうのようなおだやかな笑い声をあげた。
 いつしか風向きは変わり、むせかえるような神の臭いは薄らいでいた。カーベルは神の死体から目を反らすように丘を見上げた。丘は半分ちかくの体積を奪われて、無惨な姿をさらしていた。土砂に埋もれた木が、まだ緑色の葉をのぞかせている様は、あまりにも哀れだった。
 そのとき、わずかな地響きがあたりを揺らした。
「な、なに? これ」
 エルアレイに地震はない。慣れない不快な感覚が背筋を駆け上がった。
「カーベル、見ろ」
 インスフェロウが原型を止める丘の端を指し示した。丘が爆発したように土を吹き上げた。
「……ゴ……ガォ……」
 一瞬遅れてやってきた爆音のなかに、巨龍の声が混じっていた。ふたりの間に緊張が走った。どおっ、と丘の一角がはじけ飛び、再び巨龍がその姿を現した。
「生きてる! まだ生きてるわ」
 カーベルが叫んだ。しかしその龍の姿と動きは奇妙だった。
「崩れているな。身体の半分が失われているぞ。見ろ。あの腹の中を」
 インスフェロウが指さす龍の腹は、無惨に裂けて、右下肢まで激しく裂断していた。もう使いものにならないだろう右半身をひきずりながら、地中深くから巨龍は這い上がってきた。
「な、なに? あれ。どうしてあんなものが入ってるのよ」
 巨龍の腹の中からは灰白色に光る金属質の塊が無数に覗いていた。
「神の機械学だ。手ごわい道理だな。カーベル」
 肩をすくめてインスフェロウが笑った。
「ちょ、ちょっとなに余裕かましてるのよ。あんなのとどうやって戦えばいいのよ」
「龍のここでの目的は果たされた。次はどうすると思うか」
「もし龍がほんとうに神様のものであるなら、論理を憶測することはできっこない。進路を類推する」
「よし。行け、カーベル。街に戻り皆にこのことを伝えて対策を講じろ」
「インスフェロウ。おまえは?」
「あの神を捨ておくことはできない。獣ほどの知性があれば、畏れいって食おうともしまいが、さすがに肉を腐らせる菌どもは頓着しないからな。神をみすみす腐敗させる不敬は私にも見過ごすことはできないよ。正式に埋葬するまで時間遅延場に囲み置く」
 カーベルは不思議な気持ちに捕らわれてインスフェロウをみつめた。なぜ彼は神を恐れないのだろう。従属生物だから、ということは考えられない。汎神族の威光は知性を持つすべての生き物に等しく作用するのだから。
「……インスフェロウ。おまえ……」
「グ、ゴォアアァンンン」
 巨龍の咆哮が天を揺らした。傷ついた首を振り立てて前進を始めた。
「なにをしている。行け。カーベル。時間がないぞ。龍は海を目指している。まだ目的を持って動いているぞ」
「わ、わかった。マウライ寺にいる。早くもどって」
「気をつけろ。皆を恐れさせないように」
「おまえはいつも人の心配ばかりする」
「カーベル。私は従属生物だ。当然だろう?」
「ええ、そう。そうよ。知っているわ。インスフェロウ」
 カーベルは街に向かって二本の足で歩き始めた。人が神のためにできることをするために。


 

 

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