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結婚するの

 

 

結婚するの

 じられないほど簡単に私の結婚は決まってしまった。
 たった一度のお見合いと、たった三回のデート。
 相手の男性は、私より四つ年上の二十八才。中小企業で働く平凡な男。ハンサムでもなく、デブでもハゲでもない。
 趣味はポップスとドライブだという。スポーツは嫌いだ。
 なんてつまらない男。デートをしていても十分ごとに会話がとぎれる。話題があまり合わない。
 彼とはキスしかしていないのに、私は来春結婚する。
 この男の妻となり、この男の子供を生まなければならない。
「昌代さん。どうもお待たせしました」
 四回目のデートだというのに遅刻してくる奴。息咳ききって走ってきたふりをしてる。
 どうせ今日のデートだって食事をして、ちょっとお酒を飲んで帰るだけ。
「いやあ、結婚式をあげるまでは、きちんとしておかないと、おとうさん、おかあさんに申し訳ない」
 ほら、そんなことを言って、フレンチキスだけで門限に間に合わせようとする。
 私は高校生じゃないのに。私たちは結婚しようとしているのに。
「徹さん……私、すこし酔っちゃった」
「おっ、いかん。大丈夫ですか? 気持ち悪くないですか? ああっ、僕ったら調子にのっちゃって」
 他に言いようはないの? 誘ってるのがわからないの? 女の私からよ?
「ううん、へいき……ごめんなさい」
 私たち、お互いを知らないままで結婚してしてしまって本当にいいの? 
「いやあっ、昌代さんといるだけでうれしくって。ついつい舞い上がっちゃうんです。僕」
 童顔を破顔させて徹は笑った。
「だって、こんな美人と結婚できるなんて夢のようだ。昌代さんの写真を会社で見せたら、みんな羨ましがって」
 店を出たエレベーターホールで、徹はやさしく唇を重ねた。そして照れたように笑った。


 次の週末、徹は出張でいなかった。私は一人で徹と行ったワインバーを訪ねた。
 少しでも今の自由を楽しんでおきたかった。グラスワインを、もう三杯も飲んだろうか。
 少し酔いの回った私はそろそろ帰ろうかと、カウンターのバーテンに声を掛けた。
「すみません、お願いします」
「いいですよ。僕の奢りです。金谷さん」
「えっ?」
 突然に自分の名前を呼ばれて驚いた。
 私は若いバーテンダーの顔をしげしげと見つめた。
 まだ二十歳そこそこの茶髪の青年だ。
 若い娘にもてそうなジャニーズ系の明るい顔立ちをしている。でも、知らない顔だった。
「結婚されるんですよね? 先週なんとなく聞いちゃって。僕からのお祝いです」
「えっ、ええっ、ありがとうございます」
 私はどきまぎしてしまって頭を下げた。私と徹は恋人同士に見えるのか、と複雑な気持ちになった。
 まだ愛撫も知らない恋人同士。
「あっ、やだなあ、先生。本当に僕のこと覚えてないんですか? ほら、教育実習のとき、先生のクラスだった鈴木です」
「えっ? 鈴木……君?」
 思いだした。高校に教育実習に行ったとき、クラス委員長をしていた鈴木君だ。
「えーーっ、本当に鈴木くん? 信じられない。わあっ、すごい。いまなにやってるの? 偶然ねえ。元気だった?」
「いま大学いってます。当時の連中はみんな元気ですよ。クラス会じゃいまでも先生のことが話題になります。すごい元気でドジな先生だったって」
「いやだ! 時効よ、もう三年も前じゃない」
 私は楽しかった学生時代を思い出した。
「僕たち男子生徒のマドンナだったから。先生って。みんな憧れてたし。知ってました?」
「まどんな……! マドンナ? いつの言葉? 私が? ああっ、おかしい。信じられないわよ。そんなの」
 私はひさしぶりに心の底から笑った。
「本当ですって。僕なんて先生にラブレターまで書いたんですよ。マジで」
「ええっ? いまごろ言っても遅いわよ。あのとき欲しかったな。ねっ、なんて書いたの? おしえてよ。いいでしょう」
 私は身を乗り出して問いつめた。
 彼は少し困ったように私の眼をみつめたあと、両手を口の横にあてて、内緒話しのポーズを取った。
「ないしょですよ。怒らないでくださいね」
「うんうん。まかせて、私、口が軽いから」
「…………やらせて……って」
 私はばったりとカウンターにつっぷした。
「あははははははっ」
 おもわず大きな声で笑ってしまった。
 これだから男の子って。なんてかわいいんだろう。
「ねえ、先生。今夜は一人なんでしょう?」
 鈴木君は、急に神妙な顔つきで言った。
「えっ? うん。まあね。さみしいの」
 私は彼を困らせてみようと思って、おもわせぶりな仕草でみつめた。誘ってくれるのかしら?
 でもつき合ってあげないわ。これでも一応、徹という婚約者がいるんだから。
「……先生。すいません。ちょっと店、手伝ってくれません? 相棒が休んじゃって」
 ああああっ、なんて子かしら。
 ぶつぶつ言いながら、結局私は店を手伝った。どうせ暇だし、教育実習とはいえ、自分の教え子だった男の子の頼みだし。
 店は一時までだという。十二時を回ったころから席はほとんど空になっていった。
「この時間になったら、みんなホテルですよ」
 鈴木君が笑って言った。そりゃそうだ。こんなデート向きのおしゃれな店にカップルできて、なにもしないで帰るのなんて、私と徹くらいなものに違いない。
 結婚したら徹は私とデートしてくれるのかしら? 普通の恋人同士のように、甘い言葉をつぶやいて、お酒を飲んで、ホテルで優しく愛し合うなんてしてくれるのかしら? 
「先生。どうしたの? 悲しそうだよ」
 鈴木君が私の肩に手を置いて言った。
「……鈴木くん。さっきまでここに座ってたカップルも、いまごろエッチしてるのかな?」
「えっ? そりゃまあ。そういう人たちもいるでしょうけど。どうしたんすか?」
「鈴木くん」
 私はほとんど無意識に、彼の股間に触れた。
「わっ……。せ、先生」
「鈴木くん……!」
 腰を引く彼を逃がすまいとして、私は爪先に力を入れた。
「いたいよ。先生。変になっちゃうじゃない」
 そう言いながらも、彼のペニスはむくむくと膨張を始めた。手の平に熱い感触が伝わる。
「……きゃっ! ご、ごめんなさい。私……」
 私は自分がなにをしているのか、突然理解した。凶器のようにそそり立つペニスが、彼も男だということを教えた。
「……先生。だめじゃないすか。そんなことしちゃ。その気になっちゃいますよ」
 そう言いながら、彼は私の足元にかがみこんだ。スルッと手がスカートの中に入り込む。
「す、鈴木くん。なにしてるの! やめて」
「しいっ、お客さんに気づかれるよ」
 あわててボックスの客に眼を向けると、男性客の怪訝そうな目線があった。
「……や、やめて。お客さんが見てるじゃない。ちょっとやめなさい」
「だから、先生はちゃんと前を向いて立っていてくれないと」
 鈴木君はくすくす笑いながら言った。私はどうしていいかわからずに、されるがままになって立ち尽くした。
 彼の指が太股から足首までをツイーーッとなで下ろしていく。
「…………あっ」
 ぞくぞくする感触が尾骨から首筋までを駆け上がった。
 あのかわいらしかった鈴木君が男だったことを意識した恐怖と、抵抗できない奇妙な状況が私を興奮させた。
 がぶっ、とふくらはぎに噛みつかれた。
「ひっ……やめ……」
 そのまま軽く噛む歯の感触は上に向かい、膝裏を、腿の裏側を、そしてスカートの中のお尻までを強く噛みしだかれた。
 そのあいだにも彼の両手両指は、足首や内股を行き来して巧みな愛撫を続けた。
「す、鈴木くん……どうして……」
 こんなに上手なの……喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。そんなはしたない言葉を言えるわけがない。
「いつもこんなことしてると思わないでくださいね。先生が僕をこんなにしちゃったんだ」
 すこしも悪びれずに鈴木君は言った。指がストッキングに掛かり、そのままスルスルと膝まで下げてしまった。
「……あっ……」
 素足に再び彼の唇が張り付いた。ベロリと生々しい舌の感触がお尻をなめ上げた。身体の奥でなにかが、キュンと収縮した気がした。
「……先生。先生のヒップだ。なんてきれいなんだ。夢みたいだ」
 鈴木君はスカートの中に頭を入れて、頬ずりをした。
「……す、鈴木くん。本当にやめなさい。怒るわよ。お願い」
 自分の声が震えているのがわかる。恐怖のためなのか、これ以上を期待してなのか。
 でも生まれて初めて味わう興奮に捕らわれていた。自分の気持ちがわからなかった。
「先生……先生。ああっ、クラスの連中に見せてやりたいな。いま僕って先生の臭いを嗅いでるんだぜ」
 くんくんと鼻を鳴らしながら、鈴木君はパンティ越しにお尻の割れ目に鼻をねじ込んだ。
「……いやっ……いや、ほんとうにやめて。はずかしいことしないで……あっ、痛!」
 彼がパンティといっしょにお尻の肉まで噛んだ。私は膝にストッキングがからまった不自然な格好のために逃げることもできずに立ち尽くしていた。
「先生……いい臭いだ。すごいや。パンティまで濡れてきてる。ホラッ」
 グイッと指を秘穴に押し込んだ。
「……ひっ……」
 しかし彼は決してパンティを採ろうとはしなかった。あくまで薄い布切れ越しに、私の恥ずかしい割れ目を刺激した。甘いうずきにとり肌がたった。
「先生の太股だ。真っ白で柔らかい」
 彼の右手が股間をすり抜けて、後ろから前に突き出された。
 私は力をいれて足を閉じようとしたが、その手はやすやすとクリトリスを捕らえた。パンティと陰唇の上から彼の指がぐいっと刺激を加えた。
「あっ……ああっ」
 電気のように快感が走り、思わず顔を伏せた。自分の口から漏れ出す声が信じられない。なぜこんな雑な愛撫で感じてしまうのか。
「……みつけた。先生のクリトリス」
 厚い肉と布の上から、ぐりぐりと乱暴につぼみを揉みまくられて、私はたまらなく切ない気持ちになった。
「か、感じないわよ、そんなんじゃ」
「うそだ。このあったかいのはなに?」 
 左手が、秘穴のあたりをさすった。じわっとなにかがしたたるのがわかる気がした。
「ぜんぜん……だめよ。女の喜ばせ方も知らないんじゃ。やっぱり子どもね」
 彼は少し焦った様子で、お尻の割れ目に舌を這わせた。漏れそうになる声を懸命にかみ殺して私は言った。
「……だめよ……へたね。鈴木くん」
 理性はこんなことはやめさせなければならないと呟いていた。でも私の言っていることは挑発以外のなにものでもない。
「じゃあ先生。教えてよ。生徒にさ」
 むっとした口調で鈴木君は言った。明らかに気分を害した乱暴な手付きで、パンティが一気にむしり取られた。
「足をあげて」
 ストッキングも靴も瞬く間にはぎ取られた。
「す、鈴木くん。なんてこと……」
 その瞬間、スッと彼は私を離れた。
「いらっしゃいませ」
 お客さんが入ってきた。彼はなにごともなかったようにフロアに出て行った。
 私の下着を丸めてズボンのポケットに入れると、にこやかにオーダーを取っている。
 ち、ちょっと待って。私は下半身が裸の情けない姿のまま取り残された。
 ぽーっ、と熱の残る虚ろな気持ちでいるうちに、彼はてきぱきと飲物を作り、注文のオードブルを運んだ。
 どうして男ってこんなに簡単に切り替えられるんだろう。
「おまたせしました。先生」
 まだ眼がうるんだままの私を見て、鈴木君は余裕を取り戻した。
「じらしちゃった? 今度は最期までね」
「な、なに言ってるの。だめ、やめて……」
 彼は私の脚にすがるように、しゃがみ込んだ。そのままくるりと、前に回り込む。
「いやっ、やだ。鈴木くん……!」
 私の下腹に若い頭が来た。三角の恥ずかしい毛に唇が触れた。驚くほど長い舌が汗ばむ割れ目を正面からこじ開けて進入した。
「……ひぃ……」
 漏れ出す声を止められない。いきなりクリトリスを捕らえられて、露骨な快感が腰骨を痺れさせた。腰が引けて、脚がわずかに開いてしまう。 
 ニチャッと肉が音を立てた。彼の唇が、かぶりつくように私の柔肉を捕らえた。
 繊細な指が恥ずかしい毛の先端をさわさわとかすっていたかと思うと、グイッと力を込めて、陰唇を左右に引き裂いた。
「あっ……やっ……」
 とがった舌先がクリトリスを直撃した。じらされ続けていたソコは、真っ赤に充血して刺激を求めていた。ペロペロとすばやい動きで舌がひらめいた。
「……ひっ……ばか……やめて」
 彼の中指が強引に私の膣に潜り込んできた。
 ぐりぐりとえぐるように指は自在に動いて、Gスポットを巧みに探り当てた。
「あっ……い……すご……」
 私は自分の拳を噛んで必死に声を抑えた。それをいいことに指はますます侵入して、薬指は蟻の門渡りを、小指はあろうことかアヌスまで刺激しだした。
「す、鈴木……くん……やっ……ほんとに」
 いっちゃいそう。もう、本当にいっちゃいそう。お客さんのいる前で、私は年下の男の子に愛撫されてイカされそうになっている!
「イッてよ……先生」
 蜜壷の中で指がキュッと曲げられた。火花が目の前で炸裂し、あたりが真っ白になった。
「……イッ……イクゥ……!」


 カウンターの下に座り込んだ格好で、私は意識を取り戻した。信じられない。失神していたらしい。
 心配そうに彼は私を見つめていた。
「お客さんは帰りました。大丈夫ですか?」
 セックスで失神したことなんて、いままでない。雑誌の大嘘だとばかり思っていた。 
「あっ……わたし……」
 いつのまにか全裸になっていた。鈴木君の顔が近づき、たっぷりとキスをされた。
「……んっ……うん……」
 狭いカウンターの内側で、彼は私をよつんばいにした。
「いやぁ……いやよ、こんなかっこう……」
 力が抜けそうになる両手は、ぜんぜん彼にあらがえない。されるがまま、彼に女のすべてをさらすあさましいポーズを取ってしまった。
「だめ……はずかしいよ……見ないで」
 彼は両手で私のお尻をつかむと、敏感な宝石に、プチュと音を立ててキスをした。
「先生……ここはなに?」
「ク……クリトリス……」
「このヌルヌルの、あったかい穴は?」
「膣口……えっちするの」
 くすくすと笑いながら彼は私の手をお尻の肉に当てがわせた。
「ひらいてよ」
 私は自分の手で尻たぶを鷲づかみにすると、左右に押しひろげた。ヒクつくシワのひとつひとつまで空気にさらさられるのがわかる。
「……チョコレート色だ……まる見え」
「いやいやっ! 見ないで、見ちゃイヤ!」
 自分でアヌスの奥までさらしながら、私は髪を振り乱して叫んだ。
「どんな味かな? やっぱり甘いのかな?」
 彼の視線が肉の奥まで食い込むのがわかる。
「先生……知りたくない? 自分の肛門の味」
「ばかっ、ばかばか……はずかしいのイヤよ」
 アヌスが濡れているのがわかる。肛門全体がヌチャヌチャと収縮しているのがわかる。その光景を想像するだけで、恥辱と興奮に失神してしまいそうだ。
「ああっ……見せちゃってる。私……鈴木くんにこんなトコまで……ぜんぶ……」
「……ん……」
 彼のとがった舌先が、アヌスに一直線に突き刺さった。
 その瞬間、力抜いていた私は開いたアヌスの奥まで舌を招き入れてしまった。
「ひぃ……あっ……い、いやああぁぁ!」
 あわてて力んでしまったために、彼の舌先をアヌスに飲み込んでしまった。ゾクゾクッとすさまじい快感の波が背骨を駆け上がった。その中で舌はえぐるようにのたうった。
「ああっ……ダメッ! へんになっちゃうぅ」
 私はアヌスを締め付けながら、でも両手はお尻の肉を裂けんばかり押しひろげた。
「す、鈴木くんの……舌が……入ってるよお」
 もう、気が狂うような興奮。さらに快感を求めてお尻をつきだそうとしたとき、ヌルンと舌がアヌスの緊縛から逃げ出した。
「ひっ……ひぃ」
 排泄物が漏れだしてしまいそうな、ものすごい違和感がアヌスを襲った。
「……甘いよ……先生」
 そのまま腰を背中をナメ回しながら、彼はとろけるような声で言った。
「ほら、先生の味だ。初めてでしょ?」
「……えっ?」
 彼の唇が私の唇に重なった。舌が口いっぱいに飛び込んできた。反射的に舌で応えてしまった。その瞬間、理解した。
「ん! ……んんんっーー! い、いやあ!」
 痺れるような不思議な味が口いっぱいに広がった。わ、私の肛門の味! 
「す、鈴木くん! な……ひ、ひどい!」
 自分の肛門の味をなめてしまった! 
 手の甲で口を拭おうとしたが、両手を彼に押さえつけられてしまった。そのままねじるように両手を体の後ろに回されて、きつく抱きしめられた。
「だめ……キスをするの」
 彼のアップが迫り、唇を奪われた。
「……ん……ふっ……いや……いやよ」
 舌の表から裏まで、粘膜という粘膜のすべて。彼はナメ捕ろうとするかのように、執拗なディープキスを続けた。
 舌に残る味は消えても、彼の顔を濡らした私の愛液は、じっとりと生々しい臭いをまき散らした。
 吐き気をもよおす嫌悪感と、快感をむさぼろうとするあさましい魂が、どす黒い塊になって私の中を暴れ回っていた。
 こんなひどいセックスはいや! 女の尊厳も性行為のマナーも無視した、獣のようなセックス。セックスでこんなに臭いと味を感じたのは初めてだった。
「こんな香りはきらい?」
 私の考えを察したかのように、彼は耳たぶに息をふきかけながらさささやいた。
 でも、生臭い匂いも、舌を刺激する味も、排泄器官をねぶられるタブーも、汚いと感じるすべてのことが、信じられない興奮と快感を湧き起こしていた。もう自分で自分がわからなかった。
「私ったら……なにやってるんだろう……」
 なぜか涙がこぼれてしまった。小さな子供のように、ポロポロと大粒の涙がとめどなくあふれ続けた。
「先生……」
 それに気がついた彼は、少しだけ驚いたようすで私の涙を見つめた。そして後ろに回した両手を自由にして優しく抱きしめてくれた。
「………………」
 私は自分でも信じられないほどしおらしく彼に抱かれて泣いた。顔を埋めた彼の胸に、私の涙があとをつけて流れ落ちた。
 たくましい男の胸を自分の涙が濡らしていく。……そんなことを考えたとき、たまらなく自分自身がかわいそうに思えて、涙が止まらなくなってしまった。
「ごめんなさい。調子にのっちゃって」
 彼は素直に謝った。震える私の肩に柔らかい唇を押しつけて、そして頬ずりをした。
「……先生を傷つけるなんて思わなかったから……すいません。やっぱまだガキなんすね」
 少しだけおろおろした様子で、彼は言葉を選んでささやいた。その手は、私を刺激しないように、体に直接触れないでいた。
 なんて優しい子。ちょっとエッチだけど、女の子を気遣う素敵な気持ちを持った、とても良い男の子。それでいて、女の子を喜ばせようと、一生懸命にしてくれる。女の子なら誰でも母性本能を、そして女の官能をくすぐられるに違いない。
「……僕、先生のなら……たとえ、なめてる最中に塊が出ちゃったって……平気ですよ」
 なんてこと言うの、この子ったら。これ以上、恥をかかせないで。死んじゃうわ、私。
「やめて……鈴木くんったら変態だったの?」
「先生だから……先生のだから、こんな気持ちになっちゃうんだ」
 彼は私の乳房の谷間に顔を埋めてささやいた。熱い吐息が敏感な肌を愛撫した。
「……ん……」
 きゅん、と体の芯が切なくなった。
 彼は吹き出しちゃうほど情けない表情を私に向けてつぶやいた。
「こんな……こんな僕のこと嫌いですか?」
 私を下から見上げるその顔の、なんて哀れなこと。畏れと後悔で、いまにも泣き出しそうな、かわいそうな男の子。
「……ばかね。年上の女に言わせないで……」
 後悔したばかりのはずなのに、私は彼を誘っていた。年上の女の余裕を演技して、彼を困らせていた。
「ああっ……先生! 先生、好きだ!」
 息が止まるほどの抱擁に私は振り回された。
「……先生。ちゃんとやろう?」
 彼はそう言うと、私を抱き上げた。それほど体格差があるわけではない。
 すこしよろめきながら、懸命に彼は私をエスコートした。 私はホール窓際の飾り用長椅子に横たえられた。おしゃれなスチール椅子ばかりの客席にあって、ロココ調の長椅子はあくまで、高価なディスプレイだった。
「……やだ、鈴木くん。外から見えちゃう」
「見せてやろうよ。みんなにさ」
 大きな窓ガラスの外は、ミラーボールのようにネオンが瞬いていた。赤や青の原色が二人の体を染めあげる。鈴木君はシャツを脱ぎ捨てて裸になった。若い引き締まった体が私を見おろしていた。
「……どきどきしちゃう。はずかしいな……」
 いまさらのように、私は両手で胸を隠した。
「僕もさ。先生……ほら、触って」
 彼は私の手を取ると、天に向かってそそり立つペニスに導いた。
「……すごい、どくどくいってるよ」
 赤黒く、でもまだピンクの残る若々しい肉棒は、私がわずかに触れただけで、ピクピクと敏感に反応した。
「せ、先生……」
 その先端からは、透明な樹液が滲んでいた。 私は自然に、なんのためらいもなく、その先端を口に含んだ。
「う……わ……せ、先生」
 ふんわりとやわらかい亀頭を舌でころがして、きゅっとしまったカリの部分をチロチロとなめあげた。
「先生……う、うまいや……すごい」
 彼は情けない声を出して腰を振った。私だって本当は男性のモノをくわえるなんて初めて。
 女性雑誌の体験コーナーを思い出しながら、一生懸命やってみてるだけ。彼が喜んでくれるのがたまらなくうれしかった。
「だ、だめだ……いっちゃう」
 彼は私の頭を掴むと、腰まで使ってグラインドし始めた。私はなにがなんだかなんだかわからなくなるほど興奮してしまった。
「ん……ん……うんっ……ん」
 チュボッ、チュボッといやらしい音が自分の口から出ている。
 私は唇をすぼめて、彼に感じてもらうことだけを考えていた。不思議な味が少しずつ舌の上に広がってきた。
「で……でちゃうよ……い……いく!」
「……んっ!」
 ドックン! と、すごい勢いで、塊が喉の奥に飛び込んできた。ペニスが口の中一杯にまで膨張した気がした。
 いった! 男の子が私のフェラチオで感じてイッてくれた!
 胸一杯に甘ずっぱい感動が広がった。すごい味の精液が後から後から私の舌の上にそそがれた。その量に驚いて、私は口の端からそれを垂らしてしまった。
「先生……! すごい、最高だ!」
 彼は少しも元気を失うことなく、私を押し倒した。乱暴な愛撫で全身をもみくちゃにされ、彼の唾液と、溢れ続ける私の愛液でふたりの体はヌルヌルに濡れていた。
「おいしい、先生のおいしいよ」
 彼の舌が私の淫唇にそっと触れ、ゆっくりとなめまわした。
 自然に脚を椅子から垂らして、私は自ら股を割った。もっと見て欲しいと思った。
 もっと彼を感じたかった。やさしい唇が固くすぼまり、チュッと音を立てて、私の蜜をすすり上げた。
「い、いい……吸って……もっと、もっとぉ」
 私は素直に快感に身を任せていた。彼の愛撫に応えて、自然に反応することが心地よい。
「ああっ……あふれちゃう……あ、ああっ」
 両手が高価な椅子を掻きむしり、脚がたまらずにバタついてしまった。目を閉じて、眉間に深いしわを刻んでいるのがわかる。でも恥ずかしいと思う余裕もないほど今の私は乱れていた。
「……あっ、イッ……ク……」
 軽い絶頂が背中をのけぞらせた。淫らにとろけていく自分をどうしようもない。
 感じて、感じすぎて、彼にすがりついていく、でも快感を欲しがる気持ちを止められない。
「せ、先生、もう……がまんできないよ」
「……うん……いや、もっと……なめて……」
 彼は私の唇に人差し指をあてて言った。
「やだ。もう、限界。先生の中でイキたいよ」
「……いじわる……」
「どっちが」
 彼は私の脚を持ち上げると、少しの躊躇もなく挿入してきた。
「ああっ……ああ……ん。鈴木くん……!」
 私の淫唇がめくれあがる。敏感なつぼみが圧迫され、こすられる。
 恥ずかしいアヌスまで愛液がしたたっていく。みだらな穴一杯に彼のものが満ちていく。
「入ってくる……ああっ……すごいの」
「先生……! きついや。感じちゃうよ」
 しなやかな彼の腰が力強いスライドを始めた。あとからあとから蜜液が溢れでて、彼の下腹部までも汚していく。
「う……ん……深い、深く入ってる……」
 膣の奥でコリコリとしたものが膨らんでいく気がした。彼のたくましい先端がズルズルとその奥まで入り込み、刺激を加えていく。
「す……すごいよ先生。こんなにヌルヌルに濡れて柔らかいのに……締め付けられて、喰べられちゃいそうだ」
「い、いやぁ……だれのせいよ……あっ……んっ……音が……音がはずかしいよお」
 ヌチャヌチャと、濡れた肉と肉がこすれあう音が止まらない。クポンッ、ピチュなんて信じられない音まで聞こえてきちゃう。
「やっ、いやあぁ……だめ……もう、どうにかなっちゃいそう……あっ……ああん!」
 恥ずかしくて恥ずかしくて。それでももっと感じたくて、彼のペニスに腰を押しつけてしまった。自然にお尻が収縮して締めあげる。
「あっ……だめ……イッちゃう……いやっ……きて……鈴木くんのもきてぇ……」
 彼はさらに腰を深く沈ませて、リズムを速くした。私は背中を反らしてもっと、もっと深く感じようと身もだえた。
「うっ、うっ……こ……こわれちゃうぅ」
「あっ、あっ、せ、先生、も、もうだめだ」 もう、なにがどうなっているのかわからない。自分がどんな恥ずかしいことになっているのかわからない。
「んっ……ああっーー……い、イキそう。もうイキそう……あっ、いやっ……いや……」
「せっ、先生。僕……い、いくっ!」
「あっ……やっ……イ、イクーーッ!」
 窓ガラスに写るふたりの白い裸体が、とても印象的だった…………。


 私は女。人生を掛ける結婚は妥協できない。
 私は会社をやめて、専門学校にかよい始めた。徹のために、良い妻になるために、色々なことを勉強したいからと言って。
 そして結婚式を一年延期した。
「せ、先生! だめだっ、イッちゃうよ!」
 私の下で鈴木くんが悲鳴をあげた。
「ダ・メ……イッたら結婚しちゃうわよ」
 そして彼とは昼間に堂々と逢っている。ちょっと胸がうずくけど、みんな徹が悪いのよ。



 

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