辻まこと (3)   (1)へ  (2)へ  Topへ
   辻まことが魅力的な人間であったことは、彼が沢山の友人を持ったことからでも分る。多くは、山旅やスキーなどで出会った無名の人たちであるが、宇佐見英治、矢内原伊作など、帝国学校(旧帝大)出の、彼よりも有名になった人からも愛され、彼の死後、その思い出を大切にして、文章にしたり、、彼の作品の展示などに一肌脱いだりした。
  そのお陰で、彼に直接接したことのない私たちも、彼と友達になれる。
 

  
   宇佐見英治『辻まことの想い出』湯川書房1978

人を取除けてもなおあとに価値あるものは、作品を取除けてもなおあとに価値のある人間によってつくられるような気がする」  これは辻まことから著者への私信中の言葉である。
本書31頁

  辻まことの、作品を除いて人間としてどうだったか?本書は、質の高い文章で綴ったエッセイである。

 この本の帯に、矢内原伊作が、これまた、名文の文章を書いている。長くなるので、最後の部分を引用すると

本書によってあの高邁なエスプリ、飛翔するユーモア、自由の哄笑、人物から発する独特の爽やかな雰囲気を知るだろう。

 絵の好きな文人たちの集まりで竹林会というのがあって、辻まことも主要メンバーの一人なのだが、
その「会員の一人三輪淑子さんは辻一を偲んでこう書いている。
<「辻さんの作品はとてもいいと思うけど、人間の方がもっと好き」というと「それは光栄だなあ・・・・・・僕はその方がいいや」といわれた>
」 とある。(下記みすず書房版98頁)

この本の中で1篇選ぶとしたら
7 何ものにもなるまいとする精神が辻まことの全体像を捉えていて良いと思う。

「そういえばそうだなあ、ぼくは内職しかしたことがないなあ」彼は或る時、そういったことがある。 (同書59頁)

 作品以外、人間辻まことを愛する方は是非この本、または
下記みすず書房版を手にしてほしい。

  2022・6・18

 
   宇佐見英治『辻まことの想い出』みすず書房2001

上記湯川書房本(81頁)に大幅に増補された本(231頁)である。

第Ⅰ部
前半は、湯川書房本と同じで、その後に追記と補注を載せる。38項目、28頁に及び、様々なエピソード下加えられ、ここだけ読んでも面白い。
註(29)図書新聞に「閑人帖」という囲み欄があって、昭和三十五年(1950)年以来三浦一郎が古今東西の人物のいつはを毎号辻まことのカット風絵入りで、四分の一世紀にわたって書きつづけた。とある。これが後に私の愛読した『世界史こぼれ話』なったと思われるが、そうだとすると、私は、古くから辻まことに接していたことになる。

後半:
辻まことからの来信  著者あての5通の手紙
 
 本を贈られた礼状。発信日時と住所が書いてある。

辻まことを憶う
  ギターほ一休み
  ジャンジャンの夜
  摩喉羅王
  斑銅鉱と品洞

多生の旅
  
広重の東海道五十三次の展示されている富士美術館へ見に行った時の紀行文。駅から美術館へ見知らぬ人の車に載せてもらって行くのだが、その間、本郷隆と辻まことの話が、少し挟まっている。味わい深い文章。

第Ⅱ部 小論3篇

聖機械」は機械をテーマとした珍しいエッセイで、機械の中に原水爆も含めてあり、力作。AI時代に繰り返し読まれるべき文。
迷路の奥」日本旅館の構造の話から、日本特有の空間感覚を説く。
夢の口」夢の中で、自分をどう確認しているのだろうか?夢と現実。古典的テーマを扱う。

最初のエッセイは辻まことに褒められたもの。辻まこととは直接関係はないが、辻まことに読んでもらいたかった文章。3篇とも滋味あふれるもので、上の「多少の旅」と併せて、独立した随筆本とすれば、広い読者の目に触れて良いと思う。

 2022・6・24 改
 

  
   『辻まことの世界』1979
 編集:辻まことの世界展縦鼻委員会・代表宇佐見英治

 1979年12月7日から19日まで、西武美術館(西武百貨店池袋店12階)で行われた展覧会の図録とそのチラシ

 私はこの頃、神戸にいたので、この展覧会を見たはずがない。どのような経路で私の手元にあるのか思い出せない。

 彼の詩文以外の、画業の方にスポットを当てた展覧会で、油絵、挿絵、デッサン、広告、マッチ・ラベルのデサインなど多才の姿を一望できる。

私は山に関連する絵や挿絵を愛するのだが、イラストは、シュールというかダダいうか、凡人には思いつかない奔放な発想がある。

 
 画業の基礎はデッサンで、それを見れば画家としての力量が分る。彼がいつどこで修行をしたのか知らないが、相当なレベルに達していたと思う。



図録には、次ぎ人の小文が挟まれている。

草野心平、宇佐見英治、小谷明、山本太郎、八千草薫、
小林恒雄、三宅修、

最後に年譜

勿論彼の才能のはこれに尽きるものではない。たとえば、ギター、手品、雑務を引き受ける才能も捨てがたい。それらが総合して多くに人を惹きつけた。

   2022・6・19

 

  
   『辻まことの世界』矢内原伊作編  1977
続・辻まことの世界』矢内原伊作編 1978

蔵書を増やしたくないのだが、上の本は、買った。
前半に『虫類画譜』が収録されているし、「わが濫読史」が面白く、手元に置いておきたかったからである。

の方は前半が『虫類図譜補遺』からはじまる。


以下 未完
 


  
   オトカム2題 ーよみがえる辻まことー  赤堀英三
 (1) 『すぎゆくアダモ』再読
 (2)黄金の鮫の牙


辻まこと君の想い出    高柳 正丸
 天津時代
 報道班員で前線へ
 内地での再開ー雪の志賀高原ー