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The Unconsoled 『充たされざる者』はイシグロのそれまでの作品と大きく異なっていて、カズオ イシグロの作品に親しんできた人は、面食らうし、彼のの作品を初めて読む方は避けるべきだと思う。 評価の分かれる小説だが・・・ジャケットの折り返しにAnita Brooknerの評は出ています。 A novel of outstanding breadth and originality: almost cetainly a masterpiece. (驚くべき広がりと独創性のある小説:傑作と言ってほぼ間違いがない。) |
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The Unconsoled by
Kazuo Ishiguro
(邦訳題『充たされざる者』) 平易な文章でもって細部をリアルに描写しており、その表現自体が面白いのだが、前後の関係が奇妙で、時空の感覚がねじれていて、シュールレアリズムの絵を見るように、現実離れした世界を遊ぶことになる。 出来事が夢の中のように不条理に展開するので、頭が変になる。2,3頁読んでは、しばらくは中断するが、それでいて、また、先を読みたい気持ちになりなる不思議な小説であった。 一種の実験小説とも言える、これまでの作風とはかなり異なる。作者が、筆に任せて、自動筆記的に描いたのではないかと思われる節がある。描写自体を楽しんでいるようでもある。 時間の推移を著す日差しの変化を上手く取り入れている。 途中で、何だか時間の無駄をしているように思える時もあったが、著者の筆力につられ、最後まで読み、やはり読み切ってよかったと思った。 物語は次のように始まる。 私( Ryder)は有名なピアニストである。ヨーロッパの中都市で<水曜日の夕べ>に演奏とスピーチをするために、その街に着いた。ホテルのポーターのクスタフとエレベータの中で長い会話交わす。ミス・ヒルデ・シュトラットマン(イベントのスタッフ?)も乗り合わせる。 登場人物は皆饒舌で、自分の事しか関心がない。主人公はこれらの人々に翻弄され続けると言ってよい。 以下下記の「話のあらまし」を参照 |
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カズオ・イシグロ『充たされざる者』古賀林幸訳 ハヤカワepi文庫 原書を読み終える少し前に、図書館から借り出した。 訳者がこの作品をどう捉えているかを知りたかったからである。 しかし、作品論として見るべきものはなく、「ちなみに、この作品はブラック・コメディーとして書いたもので、リアリズムの小説家と二度と呼ばれたくないというのが、本人の弁である。」が目を引いた。 翻訳が難しかったという説明は良くわかった。易しそうな英語はかえって訳しにくいものだと思う。 私は翻訳本文は殆ど読まなかったが、読み易そうだった。 登場人物の一人Sophieは「ソフィー」ではなく「ゾフィー」と訳されていたが、舞台がドイツ語圏らしいことからそうしたのであろうか?それとも著者の意向か? 文庫本にするのなら、冒頭に人物表をつけてあると良いと思った。 |
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話のあらまし 迷宮に入りそうな物語なので、道しるべとして、各章、数行のメモを残して読み進んだ。再読する際の備忘としてここ収録しておきます。 本作品の読みどころは、プロットと並んで、その会話や主人公の感情表現、それに細密な描写にあるので、これを読んだからと言って作品が分かるものではありません。 又、本は、次ぎどうなるかを知らず読むところに楽しみがあるので、本作品を読む積りの人は、下記を読まない方が良いです。 第1部 1.私(Ryder)は有名なピアニストである。ヨーロッパの中都市で<木曜の夕べ>で演奏とスピーチをするために、その街に着いた。ホテルのフロントとのやり取りにはじまり、老ポーターのクスタフとエレベータの中で長い会話交わす。ミス・ヒルデ・シュトラットマン(イベントのスタッフ)も乗り合わせる。エレベータの中の会話としては異常に長いのである。 2.ホテルの支配人ホフマン挨拶に来る。バーでホフマンの息子シュテファン(ピアニスト)も接近。グスタフとまた会い旧市街へ行くことを勧められる。そこにいる、娘、ソフィーと孫ボリスにあって欲しいという。 3.旧市街の喫茶店で、ソフィーとボリスに会う。ソフィーとは既視感がある。マイヤー氏から良い家の物件があるという話。ボリスのtorpedoという遊び。 4.ソフィーの先導で、ボリスとフットボール選手のナンバー・ナインの話をしながら、とんどん歩いていくと、中学時代の同窓生、ジェフリー・ソーンダーズ、に出合う。かっての優等生の彼が現況を語る。私は当時のことを思い出す。ソフィーがどんどん先にため行った、見失う。ソーンダーズはバスで行った方が良いと、バス停まで案内する。 6.シュテファンの車でホテルに向かう途中、母の誕生日祝いのことから始まって、音楽の先生のこと、自分の才能ことなどを語る。自信を取り戻し、水曜日のコンサートに臨むと。車はホテルに行く。(シュテファンの自伝の趣がある) 7.ホテルに帰り着く。フロントの若者の饒舌、ボリスの祖父グスタフの長い物語、ソフィーのことを、飼っていたハムスターのことをなど、長々話す。ソフィーからの電話。私は腹を立てている。 8.ソフィーと出会った私は、いつの間にか一緒に映画を見ることになっている。ソフィーは父親のコートのことを絶えず話題に出す。館内売り子からアイスクリームや古本を買う。いつの間にか、私とソフィーとボリスとは家族関係になっている。映画は「2000年宇宙の旅」後ろの席のカール・ペダーセンという男が声を掛けてくる。 9.ペダーセンが、長々と、市の文化の歴史のようなことを語る。(映画上演中にこんなことができると思えないが)クリストフ(チェリスト)とその夫人となったローザ・クレナーの話をはじめ、(カードを楽しむ仲間との冗談など)。群れから離れて、ペダーセンが、大物らしいブロッキーの話も長々するのだが、読者は何のことかよくわからない。 10,やっとホテルへ帰り、部屋着に着かえて横になっている所に、ホフマンから電話。一緒に車に乗って、ある集会へと向かう。道中のホフマンの饒舌。集会での喧噪・・・・ ブロッキーとその犬の話、ミス、コリンズその他、私はスピーチをしようとするのだが、部屋着のまま、上手く行かぬうちに、シュテファンと返る。疲れているのに、シュテファンは自分のピアノを聴いてほしいという。 この章は長く、圧巻。第一部終わる。 第2部 11.朝、電話が鳴って、起こされる。ホフマンからで、新しい部屋の用意が出来て、朝食の間に、荷物は移しておくという。ボリスと元の所へ帰ろうと、出かけたとろろで、地方新聞の記者が、インタヴ―を申し込んでくる。 12記者とカメラマンは離れた所に移動したというので、電車に乗る。車掌が来るのだが、自分は切符を持っていないこと気付く。車掌は何と、9歳、小学校頃親しかった少女、フィオ ロバーツであった。短い時間の間に、彼女の思い出と会話が延々と続く。あとで、会う約束をして、記者とカメラマンと下車。 13.記者とカメラマンについて、丘を登ってゆく。色んな角度から撮影するのが、私が質問しようしても答えてくれない。そこにクリストフ(人気のないチェリスト)はやって来て、ランチに連れて行くという。丘をくだりながら、饒舌に話し続ける。妻との離婚の話を含めて・・・・ 14.クリストフが、仲間が待っているという場所付くと、そこは、安っぽいレストランであった。仲間はすでにランチをはじめていた。そこに、仲間外れのルバンスキー博士という男がいて、攪乱する。このグループはKazanという音楽家について論じているように見える。クリストフが何やらスピーチをしている。(私は、ボリスを喫茶店に残したままであることを思い出す。)帰ろうとすると、ある婦人が私(Ryder)に意見を求める。私が話すと、聴衆は、喝采、学にクリストフに非難が集まり、騒然となる。そこに、ランチのマッシュ・ポテトが運ばれるのだが、出口に案内してもらう。出た所はボリスの待っている喫茶店であった。人工湖への行き方を聞くと、前に止まっているバスで行ける。直ぐに乗れと言う。 15.ボリスとバスに乗り、終着駅の湖の所に就く、ボリスと湖の周りを歩いている。一軒の家で変な男につかまる。ポリスは架空の敵と戦っているように、絶えず空手の形をやっている。クスタフと合流、二人で盗賊団と戦い勝つ。ポリス、盗賊団に向かって演説。ソフィーと私は家。ソフィーはご馳走を作っている。ポリスとグスタフ帰ってくる。伯母キムが来る。フィオナが・・・ちょっと支離滅裂。 (2か月ほど中断) 16.フィオナに導かれて部屋の入ると、二人の女性が居て、彼女たちの出会ったビッグニュース話すのである。それは、動物園で、ブロッスキーとミス・コリンの出会いを見たという。さらにライダーにもあったと言っている。ライダーが自分が本人であると名乗り出ると 気まずいことになり、ライダーはすごすご退場。(前章のとのつながりが不明。この章は一気に読めた。) 17.15の続きのように見える。ソフィーとボイス載せて、カールウインスキー・ギャラリーに向かおうとするのだが、道順が分からない、駐車場の男に聞くと、赤い車について行けと言う。途中、サービスエリアで飲み物を取る。二人の女性の会話から、ミス・ストラードマンに電話をする。 18.ソフィーはこれから行くレセプションに乗る気がない。カールウインスキー・ギャラリーはソフィーが見つけた。降りた所、父が愛用していた車が捨てられていて、思い出にふける。その車に乗って、子供用の自転車を買いに行った思い出など。 19.太った女中にドアを開けられて、広い玄関ホールに入る。机に、自分の写真が一面に出ている新聞が置いてある。奥へ入って行くが、誰も案内しない。知った人を探す。誰も相手してくれず、会話の中に割り込む。それを遮ったのは、ミス・コリンズ。そして、彼女と ブロッスキーの話を聞かされる。ボリスにせかされて、その場を出る。 20.3人が家に着く。ライダーにとって、基地の家のようである。ソフィーの夕食の準備、ボリスの挙動、そして、ソフィーの一人ゲーム。私はずっと新聞を読んでいる。急にホテルへ帰りながら、後悔とミス・コリンズのことを考えている。(この章もリアルだが奇妙な章) 第3部 21.朝食に食べそこね、ミス・コリンズズに会うため出た所で、仕事中のクスタフに出会う。彼に、スピーチに空らに言及することを頼まれる。ミス・コリンズずンの家には先客が居て、それが、イギリス時代の学友パークハーストで、彼の昔の仲間に会った時の話を聞かされる。自分は学寮生活を回想する。そこへブロッキーが登場する。 22.(長い上刺激の多い章)待ち合わせ中に、ブロッキーと私の会話は、彼の、ミス・コリンズとのセックスのことに触れるアケスケなものであった。ミス・コリンズが出てきて彼と口論になり、ブロッキーが追い出されるように家を出るが、それを又、ミス・コリンズが追う。(カメラとマイクが自在に動いているようである。私の聞こえないはずの二人の会話が細かく描かれているので。) 23.演奏会に前に、2時間ばかり練習しようと、ホテルへ帰るのだが、ホテルの支配人ホフマンはつからず、ソフィーやボリスと会う。ホフマンが帰って来て会えるのだが、予定の居間はふさがっているだけでなく、彼と会うために市民団体の人々が待っているという。それを無視して、練習の場所を探す適当な場所はない。 24,別館で練習を行うことになって、ホフマンの運転で移動。その間、ホフマンの夫婦のなれそめから現在に至る物語を延々と聞かされる。(ここだけで一篇の小説)
26.迎えに来ていたホフマンの車に乗って、コンサート・ホールに向かう。ホフマンの饒舌。 コンサート・ホールの屋根が見える所で降りて、徒歩で向かうが、途中、古い塀が立ちはだかって行けない。喫茶店で休んでいるとグスタフに見つかり、ポーター仲間の居る店に連れて行かれる。 27.ポーター仲間に大歓迎され、ポーター仲間の余興が延々と続く。ボリスが来ている。 カフェの店主が、今夜のイベントに備え、少し休んではどうかと、別室に案内する。 そこで寝る。第4部 28.間が覚めると明け方に近いようで、寝過ごしたことで、パニックと後悔に襲われる。 表に出て、ホフマン夫人に出合う。彼女の不思議な感情を延々と聞く。彼女の案内委でコンサート・ホールへ入ることが出来る。(短いが不思議な章) 29.ホフマン夫人の指示は誤りで、肺いた所は厨房だった。今度は、グスタフが倒れたとポーター仲間が呼びに来る。グスタフはソフィーを呼んで欲しいと言う。私は、ホフマンを探し当てると、彼は盛装して何やらリハーサルのようなことをしている。ソフィーの所へ行くのに車を手配して欲しいと言うと、ブロッキーとコインズ嬢の話を延々と話す。最後にやっと彼の車を貸してくれた。 30.車でソフィーの家に向かう途中、道端でたむろする数人のグループに呼び止められる。 中に、中学時代の同級生ソンダ―が居て強引に彦込まれる。ライダーが酔っぱらって交通事故に遭い、足を切断しなければならない事態になっている。ホフマンの車に刃物がないか探す。やっとのことでソフィーと公衆電話で連絡が取れる。(18でのことを謝る)ライダーに手術を囲んでいるグループを振り切って、ソフィーを連れに向かう。 31.ソフィーとボリスが外で待っている。母と子は後ろのシートに座り、父親のことを話している。コンサート・ホールに着く。酔っぱらいの一群に会う。ポーター仲間たむろするところを抜けて、ボリスがグスタフに会う。私はホフマンを探しに二人から離れる。 32.足を切断したはずのブロッキーがアイロン台を杖にして来ている。やきもきする外科医。ブロッキーの饒舌。ミス・コリンズについて、もともと義足だったことなど。やっとホフマンに会えるが、ブロッキー欠席のための演説の稽古をしている。ライダーは父母のありかを訊ねるが知らない。息子のステファンがその母の異常を伝える。グスタフのことが気になる。 33.グスタフの所には、すでにボリスが入っている。ソフィーは外でコートを持って立っている。親子の対応が奇妙。コートの話。ボリス、教室のようなところ本を読んでいる。 ソフィーはライダーの状況(演奏会が迫っている)を全く理解しようとしない。 34.廊下に出ると料理人が覗いている小部屋があって、そこから、ステージが見える。会場はまだ明るい。ステファンが退場した父母を追う。父との会話。ステファンの名演奏、詩人の登場、ブッロッキーは指揮をし、途中で倒れる。ミス・コリンズとの壮絶なやり取り。 とても変化の多い章。 35.会場は照明が付き、聴衆はいなくなっている。私は、ミス・コリンズを追うが、睨みつけられて追うのを諦めた。観客の会話。ホフマンとの出会い。奥さんのスクラップブックを見るという約束が果たされていないことをクドクドいう。ホフマン夫人との会話、3人のちぐはぐなやり取り、夫人去る。ホフマンはShambles(台無しだ)という。ホフマンに両親のことを訊くと知らない、ミス・シュトラットマンに聞けと言う。 36.事務所で、ミス・シュトラットマンに会う。彼女は電話で朝食の手配をしているようであった。私を怒りをぶちまけ、両親のことを問いただす。彼女は、両親受け入れのために、様々な配慮をするが、両親は来なかったという。私は、馬車でこちらへ来た姿を見たと思っているのだが、勘違いだったようだ。私は泣き出す。彼女は、以前に、両親がこの町を訪問した時のことを話し、私も問いただしながら、また泣く。ボーイが朝食を運んでくる。ボーイがその後の様子を話す。私は演奏をしなければとその場を立ち去る。 37.朝の光が差し込んでいた。会場は座席まですっかり片付けられていた。私はどうすべきか考えた。ホールを突っ切って進むと、シュテファンに出合い、話す。彼は大きな都会へ出ようと決意していることを述べ、私も賛成する。ブロッキィーは施設されたという。温室で食事を取っている皆に一言、スピーチしたいと言うと、ステファンは反対する。自分も空腹を感じるが席がない。温室は広大で、その中ポーター仲間もいて、グスタフが亡くなったことを知る。グスタフが最後までライダーが約束の言葉をスピーチに入れてくれたか気にしていたと。ソフィーとオリスが帰路に就く姿が見えたので、私は彼らとのやり取りを打ち切る。 38.ソフィーとボリスの跡を追うが追いつかい。市電に乗る後を追って乗車するが、二人との席と離れる。間に技術者らしい年配の男と会話をはじめ、彼の両親のことを訊ねる。何年も前のこと、母親のことだけは思い出す。前部でボリスがソフィーに抱かれて泣いているのが見え、私は近づく。ソフィーが気付くが、無表情。私は謝るが、冷たく「自分たちを放っておいて、あなたは私たちの愛情の外にいたのだから」ボリスは一緒に居たいというが、ソフィーたちは降りて行った。私は席に戻り泣いた。先程の技師が、朝飯を食べることを勧める。来るもの後部はビュフェになっており、色々の食べ物を提供している。けさヘルシンキに向かうためホテルに帰らなくてはと心配するが、この電車は循環電車で、ホテルの前にも止まるという。その男と色々と取って食べながら会話が続く。・・・ |
改行の少ないのもこの作品の特徴。 |
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