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映像のもつ情報量は文字の何千倍なのか? 本は、読んで、自分の頭で展開しなければならない。その快感は映像が与えることができない。どちらも面白い。 (1)The Sense of An Endingと映画「べロニカとの記憶」 (2)映画「さざなみ」とIn Another Country |
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映画「さざなみ」(45 Years) 2015年のイギリス映画。 監督:アンドリュー・ヘイ。 主演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ この映画を見ることになったのは、「ベロニカとの記憶」でシャーロット・ランプリングが素晴らしかったので、彼女の出ている作品を、Amazon primeのビデオを探しているうちに出合ったのである。 驚いたことに、両作品は共に、老人が思わぬことで過去に引き戻されるというテーマを扱っていた。 息を呑むほど美しい田舎の小道をシェパードを連れて散歩している女の姿が遠景に写る。やがて、こじんまりした家に入る。白髪の夫との生活が映し出される。 もうすぐ、結婚45年を迎える夫婦の話。近く友達を招いてその祝賀会を催すことになっている。その夫の方に、50年前スイスの氷河で遭難した結婚前の恋人の遺体が当時のままの姿で見つかったという知らせが来る。妻はその娘(Katya)のことを聞くのは初めてである。夫はそれを見に行こうとしているので、妻は大きな衝撃を受ける。夫婦の間にさざなみが立つ。
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In Another Country by David Constantine Selected Stories (2015)より 原作冒頭: When Mrs Mercer came in she found her husband looking poorly. What’s the matter now? She asked, putting down her bags. It startled him. Can’t leave you for a minute, she said. They’ve found her, he said. Found who? That girl. What girl? That girl I told you about. What girl’s that? Katya. Katya? Said Mrs Mercer beginning to side away breakfast things. このように夫婦の会話が延々と続く。クオテーションマークがないが、誰が言ったか明示しているので、混乱することもない。Katyaとは50年前氷河のクレパスに落ちた昔の恋人である。 スイスから彼に連絡がきたのは彼が近親者(next kin)とされているからで、妻とのやり取りで明らかになることは、当時、恋人と宿泊するのに、夫婦でないと都合が悪かったので、安物の指輪をはめ、夫婦を名乗っているからである。妻の方は、その娘がどんな女性であったか根掘り葉掘り聞いて行くのである。 後半、さらに、これは、世界で自分だけしか知らないことだと言って、娘が妊娠6週間であったことも明らかにする。 そして、妻の旅行中に書き置き残して、夫はスイスに向かう。 Dear Kate, he wrote, I am sorry about the tea again but trust you will understand that I have to go and see her as the next kin and am sure it will all be back to normal here with you and me after that. 終始、易しい英語で、Kindle版で152頁、短編小説は終わる。 映画と比較 映画にあった、結婚ん45周年の祝賀会はなく、したがって、映画のクライマックスとなる夫のスピーチはない。(このスピーチはどこかThe Sense of an Endingのジュリアン・バーンズの考えに似ていると思った。) 映画は、素晴らしい田舎の風景、途中で妻が弾くピアノの甘美なメロディー、近隣、仲間の動き、犬や鳥など沢山の工夫を凝らして、リアリティーを高め、俳優たちの演技によって、原作を凌駕していると思った。 |
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なぜ二組の作品を取り上げたかと言うと、過去(失われた時)を取り戻すことがどんな意味があるか考えているからである。 50年も前の思わぬ出来に人生を顧みざるをいない羽目に立った人の物語であるからである。 「さざなみ」では、夫が屋根裏部屋に上がり、過去の日記や写真を見るシーンが映し出され、妻も夫の留守中、それを見ている。 過去は、記憶、アルバム、日記、自分の持ち物、・・・・様々な形で、自分のアイデンティーを形成しているのだが、それらは逆に現在の自分を拘束しているのである。 過去を取り戻すこと、過去を温存することの功罪は、年を取ると共に、大きなテーマとなる。断捨離や近藤麻理恵さんの「人生がときめく片付け」、さらには高齢者には終活も身近な課題となる。 「失われた時を求めて」にはそんなテーマを追ってゆきます。 2020・6・4 |
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