詩の花束(3) エミリー・ディキンソン
     Emily Dickinson
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   読みやすいし、韻律が整っているし、多くの人に親しまれたのも分かる。
「テーマは自然、愛、死、永遠、神というような、ニュー・イングランドの詩人にとって伝統的なものが多い。」(後掲書)という。
 

  
     ノーベル文学賞受賞のルイーズ・グリュックの詩が分からないというFBへの投稿に対して、Rieko Oki先生から「私の印象ですが、エミリー・ディキンソンの作品のように読み解くのに向いてるのではとおもいます。一人で読むのではなく、読書会向きかなと。」というコメントを頂いた。
   『対訳ディキンソン詩集』亀井俊介編(岩波文庫)で読んでみると、確かに読み解く面白さがあった。細かな訳注と翻訳があるせいで、ディキンソンの方が私には易しく、韻律を含めて、心に響くものが多かった。ディキンソンは、半生、ひきこもりのような孤独な生活をしており、人知れず、1775篇の詩を残したという。

エミリー・ディキンソン1861年(31歳の作)

I'm nobody! Who are you?
Are you - Nobody - too?
Then there 's a pair of us?
Don't tell ! they 'd advertise - you know !

How dreary to be Somebody!
How public - like a Frog
To tell your name - the livelong June -
To an admiring Bog !


  拙訳

私はNobody、ただの人、あなたは?
あなたも ― ただの人 ー なのね?
じゃ、私たちはペアだわ。
言っちゃだめ! 言いふらされるわよ。

お偉いさんSomebodyになるなんてまっぴら。
表立つのは大嫌い! ー  蛙みたいに
6月の日永、自分の名を告げるなんて、
褒めてもらおうと沼地に向かって。

  彼女の生活態度を示す一篇だと思った。

  2021・2・25
 

  
  戯れに短い詩を訳しておきます。

 A word is dead
When it is said
Some say.
I say it just
Begins to live
That day.

   〔1872〕

口に出したら
言葉は死ぬと
人は言う
口に出した
その日から
言葉は生きると
私は言う

  言霊的な発想である。彼女が作詩を続けた原点かもしれない。

That Such have died enable Us
The tranquiller to die ー
That Such have lived,
Certificate for Immortality.


あんな人でも死ぬんだから
もっと静に死ねそうです。
あんな人でも生きてるんだから
永遠の命 間違いなし。

     〔1865〕

  35歳の作。本人は1886年51歳で亡くなった。


The Heart has many Doors -
I can but knock -
For any sweet "Come in"
Impelled to hark -
Not saddened by repulse,
Repast to me
That somewhere, there exists,
Supermacy -


心には多くの扉があるのでー
ノックするだけで良いのです。
「お入り」と優しい声を期待して
耳を澄まねばなりません。
断られても悲しみません。
どこかに神様いらっしゃる
それが私の糧なのです。

     〔1883〕

  彼女は何度も失恋をしたという。

  2021・2・28
 

自然教育園にて


【対訳と翻訳】

対訳は行ごとに言葉を日本語に写すので、原詩を理解するのには、極めて有効な方法です。
しかし、韻律まで写すのは、無理があります。
原詩が脚韻を踏むからと言って、日本語でまねると
(言葉のの遊戯として、ナーサリ―ライムなどでよくやることですが)詩にならないことが多いです。
原詩の言いたいことを、日本語の語法、韻律にしたがって翻訳すのがよいと私は思います。

"Hope" is the thing with feathers -
That perches in the soul -
And sings the tune without the words -
And never stops - at all -

And sweetest - in the Gale - is heard -
And sore must be the storm -
That could abash the little Bird
That kept so many warm -

I've heard it in the chillest land -
And on the strangest Sea -
Yet - never - in Extremity,
It asked a crumb - of me.


この詩も楽しい韻律を持っていますので、そのまま楽しめばよいのです。この韻律を日本語に写すことが出来ません。もし、日本語で楽しむのなら、詩意を残し大胆な変換が必要です。
 拙訳

「希望」は小鳥
魂に宿り
歌詞のない唄を
歌い続けます。

そよ風吹けば優しく歌い
嵐ではちょっととちります
いつも優しい小鳥です

極寒の地でも
最果ての海でも
私は歌を聞きました。
でも極限にあっても
餌をねだったことはありません。

   2021・3・2