中国の歴史(2)     (1)へ   (3)へ Topへ 
   最近中国の歴史に興味が向き始めたきっかけは(1) 中国TVドラマと中国史 1 に書いています。
清朝は、元朝と同様、少数民族が漢民族を支配下に置いた時代ですが、現代中国にも繋がる多くの要素を持っているので、興味深い時代です。

宮崎市定『中国のめざめ
宮崎市定『科挙 中国の試験地獄』
宮崎市定『雍正帝 ー 中国の独裁君主』
宮崎市定『清帝国の繁栄』
中野美代子『乾隆帝 その政治の図像学
 

   
   宮崎市定『中国のめざめ 中国文明の歴史11』中公文庫

  清帝国が崩壊し、新しい中国が始まろうとする時代、1900年から1930年くらいまでを、鮮やかに映し出した名著。
表紙には宮崎市定責任編集とあるが、全巻、宮崎の単独執筆である。

  清朝が衰退し、英、仏、独、露、日が、中国を植民地支配しようと動く中で、反政府的な革命思想も次第に広がってゆく。
借款を餌に鉄道敷設権や租界の獲得。治外法権の租界の中や日本や国外で、革命家の結束が広がる様が見事に記述されている。
袁世凱が大統領に成るあたりがまでは、まだ追えるが、その後の軍閥同士の集合離散もう混乱を極める。孫文、康有為、張作霖、蒋介石など見慣れた名前がでるが、余りにも多くの人物が出てきて覚えきれない。その内乱の様も著者は冷静に記述して行く。
  アメリカ主導のワシントン会議をはじめ、中国進出に障害となる日本の勢力をいかに割くかなど、国際勢力の力関係も分かりやすく書かれている。
  この間、大きな影響をあたえた孫文の行動も思想も詳しく述べられていて興味深い。蒋介石の台頭、国共分離の動きのあたりで終わり、共産党の政権はまだ生まれていない。

  私は宮崎市定の書によって、中国近代まで追ってきたが、これから私にとって同時代史となる。


  いつもそうなのだが宮崎市定の文庫本の解説は、高弟の礪波 護(となみ まもる)が丁寧に書いており、心温まる。

   2021・3・5
 

  
   宮崎市定科挙 中国の試験地獄』中公新書 1979年33刷
                (初版は1963年、今は中公文庫)

  中国の本を読んでいると、宰相や文人などに「進士」出身というのがよく出てくるが、これは「科挙」合格者に与えられる称号で、官僚になるには、この試験を経なければならない。日本にはこの制度がないので、進士の持つ重みが実感できないが、本書を読むとよくわかる。 科挙は、隋の時代にはじまり、1400年も続いた試験制度であるが、本書では、清朝の例を用いて、面白い挿話を挟みながら、詳細に解説してある
  そして、歴史上の意義や功罪が明らかにされる。国家統治の一手段として、優秀な官僚を獲得し、貴族や軍人の支配をいかに回避するかということに大きな力があった。一応万人に門戸が開かれているのであるが、科挙に合格するには、教育に十分投資できる富裕層に偏ることは避けられなかった。

  本書では触れていないのだが、試験は四書五経から出題され、かつ作詩も課せられるので、これが、中国の思想、文芸に大きな影響を与えたと思う。学校制度、 試験制度など考える際の多くの示唆を与えてくれる。

   私が科挙に興味を持つのは、愛読している『聊斎志異』の著者蒲松齢は何度も科挙に挑戦し、合格しなかったという経歴を持っており、
  www.alice-it.com/ryosaishii/ryousaimokuji-0.htm (alice-it.com)
  『聊斎志異』の登場人物の半数以上が、科挙の受験生(生員)とその合格者(挙人、孝簾、進士)が占めているからでもある。
  www.alice-it.com/ryosaishii/ryousaimokuji-content.html (alice-it.com)
   私がこの本を最初に読んだのは1980年、今から40年も前であるが、再読して全く新鮮であった。これも名著。

   2021・2・19
 

  
   宮崎市定『雍正帝 ー 中国の独裁君主中公文庫

  小説家顔負けの生き生きとした描写で、ぐんぐんと引っ張って行く。同じ著者の『隋の煬帝』と同様、個人に焦点を当てた歴史書である。
  治世60年の康熙帝と乾隆帝の間に挟まれて、治世は13年と短いが、独裁君主の強烈な個性を発揮して様を、宮崎は浮き彫りにしている。

  乾隆帝については、若干イメージが出来たので、その前の乾隆帝の時代がどんな時代だったのか興味があって読み始めのだが、雍正帝の時代に典型的な独裁君主制が確立したことが分かる。極めて、具体的に描いて見せるのは、「雍正硃批諭旨」という文献を8年もかけて読み込んだ成果でもある。
  この文献は、官僚、軍人が、雍正帝に宛てた親展の書簡に、帝自ら朱筆で意見を付けて返したもので、当時、出版されていたのである。当時の事情、帝の考えがつぶさに分かるのである。この文庫版の後半に「雍正硃批諭旨解題 その史料的価値」という本人の52頁の論文が収録されていて、これだけ読んでも価値がある。
 独裁君主と官僚制とのせめぎ合いを分かりやすく説いており、フォーマルとインフォーマルなネットワークを如何に駆使するは、現代でも、政治機構を考える上でも重要である。意思決定の迅速化に力を発揮した清朝の軍機処も雍正帝の時代に始まったと著者を見ている。

   2021・2・13
 

   中国TVドラマと中国史 5

宮崎市定『清帝国の繁栄』中国文明の歴史9 中公文庫

  清朝の歴史を、人物を具体的に浮かびあがらせながら描き、歴史の大きな動因もを示していて、通史として名著だと思う。
  前の同じシリーズ、同じ著者の『大唐帝国』比べ、ゆったりと、経済、文化面も十分記述されいる。
  明の没落過程、新興「清」への抵抗勢力の様子が浮彫にされ、少数の満州人の漢人支配はある意味で見事であったことが分かる。辮髪の持つ意義も釈然とした。独裁政治が確立するまでの過程、その政治機構、周辺民族への支配拡大も生き生きと描かれている。(清朝の領土が現在中国が主張する中国領土なのである)
  康煕、雍正、乾隆とある意味で名君が続いた後、下降線を辿る。ヨーロッパとの交流が相互に影響を与えた様、考証学、『四庫全書』など文化面、経済面では
  蘇州、揚州の繁栄など、知らないことばかりで終始面白く読めた。

中国TVドラマ「瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」は、    娯楽映画として、極めて優れているだけではなく、歴史を読むうえに大きな刺激を与えてくれる。
  その一つは彼らの住い、衣装で、活字本では分からないことが、一目瞭然である。そろそろ終盤に差し掛かるが、ここで、乾隆帝は実は漢人の子であるという出自の秘密が暴露される。これは面白いのだが、中野美代子『乾隆帝』よると俗説であるという。(同書107頁)歴史の真実は誰も分からないのだから、俗説も歴史を味わう立派な手立てとなる。
  先日は科挙の「殿試」と思われるシーンが少し流れた。これなど本では表現できないものである。

     2021・2・6
 

  
  中国TVドラマと中国史 4

中野美代子『乾隆帝 その政治の図像学』文春文庫 

中国TVドラマ「瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」は乾隆帝の寵愛を得ようと繰り広げられる後宮の女性たちの、嫉妬、いじめなどドロドロした人間関係の中で、瓔珞という女性が成り上がってゆく物語である。紫禁城の中で、美女、美男が高価な衣装を纏い、見事な演技で演じ、映像の美しさと緊迫感ある映像はひとたび始まると釘付けになる。この作品には48億かかっているという。満州族清朝の風俗が珍しく、世界史上最も大きな権力を持ったと思える乾隆帝の日常の一端が伺えて面白い。  
  中野美代子『乾隆帝 その政治の図像学』の1部は「皇胤(たね)と母胎(はたけ)の物語」であるが、本文を読む前に付表:「乾隆帝后妃表」が、テレビを見る上で大変役立った。皇帝の側室に位は、常在、答応、貴人、、妃、后妃、があり、正室の皇后を含め、乾隆帝には約40人側室があった。この付表には、嬪以上の18人の生年、卒年、何時そのくらいに付いたか、生まれた子供が一覧表になっていて、ドラマを見ながら参照した。もちろんドラマでは、それぞれの側室に付く女官も大切な役を演じる。

  Ⅱ 仮装する皇帝は、皇帝に漢服を着た肖像画の分析であるが、残念ながら、新書版の写真では、著者の記述は味わえない。以下も同じであるが、写真は展覧会の図録レベルの印刷の本でないと内容にそぐわない。

 Ⅲ 庭園と夷狄の物語:スケールの大きい造園とそれが真の世界観にと対応している様は、本書のサブタイトル―「その政治と図像学」にふさわしい。
 Ⅳ 楽園の中の皇帝:皇帝の作詩5万編のことや戦功、西洋への影響、四庫全書など盛り沢山なことが述べられており、乾隆帝の人間像を築くには役立つが、マニアックな専門家に付き合わされているという感もある。

  図像学と銘打った本なのに、肝心の図(写真)が貧弱で、新書版では無理があったのではと思う。本書は私のような初学者にはちょっと高級すぎた。
     2021・1・12