『りぼん』時代の作品紹介です。
リストで読みたい作品を選んでとんでくることもできます。
お月さま笑った?(1979年りぼん10月号)
両親に先立たれたため、宇宙飛行士になる夢を捨て、お好み焼き屋をついだ耕平ちゃん。
二人をつないでいた糸が切れたような気がして、幼なじみのチイちゃんは少し寂しい。
しかし、耕平ちゃんが何をしようと傍にいたいだけなのだと気付いた彼女は、その気持ちを告白します。
そのあとの彼の言葉。「月をじっとみてたら」「チイの顔に見えてくるんだ」「それからどうなるか知ってる?」「それから笑うんだ」「笑うんだ」。そこで終わり。
どこか乾いたかんじのする、印象的なラストシーンです。
コットンシャツに夏の風(1978年りぼん夏の増刊号)
デビュー作。
舞台はフォークソングクラブです。
プレイボーイの穂坂さんに、自作の恋の詩を聞かれてしまう澄。「少女シュミのかたまり」と散々からかわれ、「なんて無神経なの!」と激怒するものの、とあるハプニングによって彼の優しさを知ります。
最後、部室での二人の会話。「わたしの詩、少女趣味だからだめよ」「あれっ、知らなかったの?」「え?」「実のところ、おれ少女趣味なんだ」
高橋由佳利が描く男性が皆持っているとぼけた優しさが、すでにこのシーンに表れています。
3月はミステリアス(1979年りぼん3月増刊号)
自分とそっくりな顔の少女・芹子を、ひょんなことから居候させることになった駆け出し作家の音無。
仲良くなる二人だが、どうやら彼女の家出にはわけがあるようで…
芹子のモノローグで幕が開き、2ページ後には音無しの視点で物語がはじまるという、少々わかりづらいオープニングです。
これもラストがいい雰囲気。なんとなく次のページに続きそうな終わり方というか。
ねむり姫とお茶を…(1979年りぼん6月号)
おカタい優等生の芙記子さんと、学園のプリンス・姫野くんの恋物語。
実は姫野くんは、慢性居眠り症。(ナルコレプシーか?)たまたまその秘密を知ってしまった芙記子の、彼を見る目は変わります。「周りの貼ったレッテルに振り回されている」二人は、なんとなく惹かれあう。
集団の中でちょっと浮いている女の子、という主人公が描かれたのはこれが最初でしょうか。単語帳命の彼女が、「大学生になったら大人の恋をするんだ」という夢を持ってるあたり、親近感が湧きます。
「ねむり姫」というのは姫野くんのこと。かわいらしくていい。
玉ねぎ畑のシティ・ガール(1979年りぼん8月号)
イナカで玉ねぎづくりに精を出すおじさんと嗣人のところへ、東京からイトコの実梨がやってくる。
子供のころは仲良く遊んだふたりだが、17になった実梨は化粧もハデな、スレた少女になっていた。
自分からやってきたくせに、ふてくされてイナカの生活に文句を言う実梨。しかし嗣人とのふれあいで、しだいに心を開いてゆく。
こんなふうに、すべてを捨てて逃げられる場所があるというのは羨ましい。
ちょっとファンタジー風なオチも楽しい、好きな一作です。
それからのパスカル(1980年りぼん1月号〜3月号)
初連載作です。
時代はおそらく文明開化の頃。町の人気探偵・蓮軽(ぱすかる)にウリ二つの葵は、死んだ彼の相棒だった業平にさらわれてしまいます。蓮軽のフリをさせて、おとり捜査をしようという算段。
はじめは戸惑っていた葵ですが、次第に彼になりきって大活躍。しかし、自分は蓮軽の身代わりにすぎないのかと少し寂しい気もします。
大鷲やら飛行機やら出てきて、荒唐無稽な話なんですが、このあたりの時代を舞台にすると、とても雰囲気が合っていていい。かんじのいいコメディになっています。
高橋由佳利の場合、例えば「プラスティック・ドール」では芸能界、「なみだの陸上部」ではスポーツ界が舞台なのですが、普通このような設定の漫画というのは、もっと真剣勝負というか、ドラマチックになるものです。この「それからのパスカル」にしても、ほかの人が同じ設定で描けば、一味の陰謀や、恋敵との葛藤なんかがもっと熱っぽく描かれるんじゃないでしょうか。そこを外してしまうところが、私が高橋由佳利を好きなゆえん。
大鷲だって飛行機だって、ドラマチックになりすぎるのが照れくさいために敢えて出してきてるのかもしれない…というのは私の想像ですが、適度な真剣味、適度なロマンチック、適度な破綻、そのへんがいいんだなあ。
杏里クンの恋(1979年りぼん1月増刊号)
放課後には魔女(1980年りぼん9月号)
勝手にセレモニー(1981年りぼん4月号〜8月号)
名門女子校の「海猫寮」に転入してきたニ詩子。寮生たちは皆、映画づくりに夢中。
しかし、映画監督である父親が仕事ばかりしているため、彼女は映画を好きになれず、周りともなかなか打ち解けることができない。
そんなおり、寮に泥棒が。どうやら彼女達のフィルムが狙われているらしいのだが?
得体の知れないニ詩子の「足長おじさん」、狙われるフィルムの謎、それにスタントマンの青年との恋がからみ、連載作品の中でも群を抜いて複雑な筋書きです。
この主人公のように、誤解や頑固さのためになかなか素直になれない女の子、というのは高橋由佳利の描く主人公に多い特徴。
そういった女の子が、ときには盛大に、ときにはおずおずと心を開いていく様子が絶妙のテンポで描かれる。読んでいて快感です。
02/06/20追加:
掲示板でかわたろうさんに教えていただいた、連載当時についていたというサブタイトルです。
Part1 海猫たち
Part2 ミッドナイト・シネマクラブ
Part3 生花市場でフリージアを買った
Part4 バス・ターミナル
Part5 後見人(スポンサー)とパイナップルパーティを開く
どのタイトルみてもエピソードがすぐ頭に浮かんできます。
ピアニッシモで聞かせて(1980年りぼん6月号)
8日目の野菜スープ(1980年りぼん11月号)
やさしい訪問者(1981年りぼん1月号)
プラスティック・ドール(1982年りぼん4月号〜1983年5月号)
ひょんなことから、人気歌手・阿月マリエの声の代役をすることになった高校生・篤郎。
しかし彼が歌った新曲「プラスティック・ドール」は大ヒットし、あげくの果てにはデビューさせられるはめに。
歌への思いや葛藤、スキャンダルからの逃亡、二人は衝突を繰り返しながらも、ひかれあっていく。
自信満々の小娘・マリエ、ルックスはいいものの、いまみっつほど決まらない篤郎。主役二人も好きですが、やっぱり脇役がいい。
まずマリエのマネージャー・降ちゃん。なんともいえない男性的魅力の持ち主です。いつも黒いサングラス姿ですが、眼鏡を外すとソフトな男前。20代とは思えない枯れた落ち着きがあります。
ライブハウスで降ちゃんに拾われ、ずっと育てられてきたマリエは、彼のことを好きになっていたようです。
彼女が、夜の公園で篤郎に告白する場面。
「たとえばね… ウデをこうひろげるでしょ このなかでわたしはバシャバシャおよぎたいの 右にいったり左にいったり自由自在にね 降ちゃんのウデの中では およいでもおよいでも まだひろかったのよ」
このセリフがものすごく印象的で、10数年前に読んだときからずっとアタマに残ってます。
私もそんな男の人と縁があればいいなと思ってたのですが。ま、今はウデがないところで泳ぎたいと思ったりします。波が荒いかな。
そして、もう一人面白いのが歌手の久野。なんでこれが人気歌手なのかさっぱりわからない、ゴツい男ですが、とにかく目立ちたがり屋で強引な自信家。しかしマリエには最後まで振りまわされっぱなしでした。
クライマックス、マリエと降ちゃんのちょっとしたラブシーンには、かなりドキドキさせられました。結局篤郎が乱入してくるんですが、そのあとのオチも良かった。マリエに言わせれば「女に降りまわされて、スター人生を棒に振」ったわけですね。
「マリエの歌をきいた」というシンプルなモノローグで終わるラストも好きです。
過激なレディ(1984年りぼん1月号〜6月号)
昭和初期。家の借金を返すため、映画女優のオーディションを受けにきた元華族のお嬢様・繭子。
運良く主役に選ばれたものの、監督の風月堂、ベテラン女優の田ノ倉真珠などに囲まれ、行く手は困難…
風月堂は、実は親同士が決めた繭子の許婚。クールでワンマンですが、映画にかける情熱はすごい。そんな彼と、大志を抱くカメラマンの安西、二人の男が繭子に好意を抱きます。
いかにも高橋由佳利、というキャラクターなのは監督のほうですが、さわやか青年の安西さんもなかなか…子供のころは、どっちもいいなあとドキドキしながら読んでました。
それからライバルの田ノ倉真珠。「おしん」がモデルだそうで、たたきあげの迫力がいい。
繭子がおにぎりを勧めると、「わたしはお昼はでんでん亭のカツ丼と決めているのです」なんてはねつけたりするところ、好きでした。
クライマックス、スタジオが火事になってしまい、繭子はフィルムを取りに行った監督を追って火の中へ。
息を飲む周囲ですが、二人はなんと牛に乗って脱出してくる!ここがいいんだなあ。
そして、映画「アメリカン・グラフィティ」方式(ラストに皆のその後をテロップで説明する)で幕が降りる。
テンポも快調、いつ読んでも面白いコメディです。
姫女苑(ヒメジョオン)(1981年りぼんオリジナル秋の号)
舞台ははおそらくアメリカの片田舎。小学校教師としてやってきたキャサリンは、なんと6年前自分をこっぴどく振ったウィリーと同僚に。かつての名サッカー選手は、イナカの先生になっていた。
一方、かつて彼に「イモ」と言われた彼女のほうは、化粧にくわえタバコのスレた女になっている。
そんな二人の恋物語。橋渡し?をするのが小生意気な生徒のクインシーなんだけど、いい味出してます。
最後に明かされるウィリーの秘密がいいオチになってます。
倫敦階段を降りて(1982年りぼん2月号)
3年生を2回やっている此春は、白けた女子高生。1年前、卒業できずに泣いているところを見られた梶とはクラスメイトである。
学校では頼りになる姉御肌タイプとして通っているだけに、彼に対してはなんとなくひけ目を感じていたのだが…
梶が卒業記念に挑むのが、学校の「北壁」。10年前、とある山岳部部員がこの壁を登って失敗し、伝説になっているとのこと。
受験シーズンにそんなくだらないこと、と此春はバカにします。
若いときはとかく急ぎがちなものですよね。先へ進むということが、人生の目標ではないはずなのに。
伝説の山岳部部員の正体も、これまた意表をついていて面白い。
王様たちの菜園(1983年りぼん7月号)
「勝手にセレモニー」の舞台となった海猫寮の数年後。
ちなみに、前作でマンガを描いていた「小田空子」という女生徒は、今や少女マンガ界の巨匠になっている…こっちの話でも、仲間の一人・菊子が彼女にあこがれてマンガを描いてます。
男の子と口をきいたこともない海猫寮の女生徒たちは、「男女交際」に興味津々。
その中のひとり、蜜子はひょんなことから美術教師・鳥嶋とデートすることになる。
しかし学校にばれてしまい、先生はやめさせられることに。
「この菜園のなかにいるうちは けっしてきずつくことなく ぜったい安全な日々を送れることを みんな なんとなく かんじとっていたのだった」
狭い世界を出て自由になるということは、怖かったり案外つまらなかったりするもの。いつかは出ていかなければいけないんですが…
蜜子をインド絵画展や喫茶店に連れて行ってくれる鳥嶋先生をみて、「オトナだなー」と思ってたもんですが、いまや自分がその歳を超えてしまいました。
王様たちのカフェテラス(1983年りぼん9月号)
生真面目な多海子と、農業高校生・植草くんの物語。ハプニングがもとでつきあいはじめた二人だが、ちょっとした誤解からぎくしゃくしてしまう。
ラストシーンは台風で浸水し、取り残された喫茶店なんですが、ここのマスターが可笑しい。
ためいき森の七つの食卓(1984年りぼん8月号)
とある理由でスランプに陥っている少林寺拳法部の主将・エリカ。部員と合宿に出かけるものの、足をくじいてしまい、山奥で一人暮しをしている少年のところで世話になるはめに。
しかし、そんな不便な地にも関わらず、なぜか彼は毎日毎日すごいご馳走を出してくれる。
ファンタジーかと思わせておいて、実はそうではなくて、でも最後にかわいらしいどんでん返しがあるという、楽しい一作です。
なみだの陸上部(1985年りぼん1月号〜10月号)
中学時代、競技中の事故で相手にケガをさせてしまったるう子。それ以来走るのをやめていたが、高校の陸上部長・北別府にムリヤリ入部させられてしまう。
彼はあの事故の相手・しのぶのイトコであり、自らもかつて陸上の名選手であった。るう子は再び走り始める。
るう子は頭脳派ではないものの、走ることが好きで、足だけはとにかく強い。
スランプや葛藤などのエピソードはほとんどないので、スポーツものとしてはかなりあっさりしていますが、とにかく読みやすい。私のようなスポーツ嫌いでも楽しく読めます。
(これは作者の本意ではないでしょう。スポーツ好きと公言してるから)
私がマンガの中の男性を好きになったのは、この北別府さんが最初で最後でした。今読むと、こんな高校生いるわけないだろ、というほどオトナなのですが、とにかくかっこよかった。まず顔が好きでした。
夜貴子の髪形にもあこがれてました。あのワンレンボブというのは、実際にしてみるととても鬱陶しいうえに、なかなか似合わない。るう子の髪形も実際にはかなり難しそうですが。
マイ・クラシック(1984年りぼん10月号)
なみだの週番日誌(1985年りぼん12月号)
カリフォルニアの休日(1983年りぼんオリジナル冬の号)
わたしはサボテン(1986年りぼん3月号〜11月号)
三つ子の長女・木綿は、ジャカルタに父を残し、はるばる大阪までやってきた。二人の妹・絹と麻は、漫才コンビ「クリームソーダ」として有名な売れっ子。
ひょんなことから代役として出演した木綿は、大鳥芸能の若社長に気に入られ、自分のところへ来るよう説得される。
「なみだの陸上部」あたりから兆候はあったんだけど、目がかなり大きくなり、以前とは雰囲気がすこし変わってきているように感じます。
筋書きも最終回も、かなり強引な展開で、そのわりにはサービスシーンというか木綿と社長さんのラブシーンは濃厚。なんというか、これ以降の連載ものは、突っ走ってる感があるのですが、どうなんでしょう?
「クリーム・ソーダ」のネタがちっとも面白くないのはご愛嬌。でも高橋由佳利の、お笑い芸人に対する愛情が感じられる、楽しい一作です。
狸穴中学バナナ事件(1987年りぼん9月号〜12月号)
夏休み、屋上から墜落して亡くなった一人の女生徒。
彼女の幼なじみ、男友達、そして家族…不審人物が次々と浮かびあがり、事件は思いもかけない方向へ。
「中学生のころ読んだ、学園ミステリーものにあこがれて」とカバーに書かれてますが、コバルトシリーズとかそういうのかな。そんな雰囲気が出てるかもしれない。
第一話あたりは、なんだかとんちんかんな話だなあ…という印象があるんですが、通して読むと、面白い冒険ものになっています。
祭りのあと(1987年りぼん5月号)
これも幼なじみの女の子二人の物語。
子供のころ、ハヅミを散々いじめていた明羅が、町に帰ってきた。ガキ大将の男の子だと思っていた明羅は実は女の子で、今はとびきりの美少女。しかも自分が初恋の相手だと告白され、ハヅミは戸惑う。
クライマックスが「畳すべり」というところがいいですね。自分を追ってやってきた恋人の前で、精一杯強がる明羅をみて、彼に畳すべりを挑むハヅミ。そこからの展開は泣けます。
兎のダンス(1988年りぼんオリジナル冬の号)
お笑いコンビを組む丹治と民生は、幼なじみの高校生。
内気で要領の悪い民生としっかり者の丹治は、抜群のコンビネーションを誇っていたのだが、民生が一目ぼれした女の子が丹治とつきあい始めたことにより、二人の間はぎくしゃくしはじめる。
同性愛でも女の子同士のネタは(ギャグ風味のものを含めて)これまで数多かったのですが、男の子同士の話というのは初めて。
クライマックスが多少気恥ずかしい気もするのですが…民生くんがあまりにかわいらしいのでまあいい。
「おれ高校出たらはたらく 料理もするしそうじも洗濯もする それで一軒家借りて一緒に住もう」なんて私が言われたい。
ほうせんか(1986年りぼんオリジナル初冬の号)
保健の先生と高校生の駆け落ちもの。
ちょっと情けない二人が、手に手を取って愛の逃避行をする姿がほほえましいです。
水玉姫乱心(1986年りぼんオリジナル夏の号)
ちょっと「稲村ジェーン」を思い出させる一作。
海辺で流行送れの食堂をやっている義理の甥のところにやってきたたまきは、得意の怪談で店を立て直す。二人はひかれあうが、店には多大な借金が。
せっかくやってきた12年に一度の波を、戸板で乗り切るはめになってしまうというのが笑えます。
(01/06/12)