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あとがき
「眠れぬ森」
(「りぼん」1985年7月号掲載)
「眠れぬ森」は、「りぼん」本誌1985年7月号に掲載された40ページの読み切り作品です。
「夢で逢えたら」(1984年12月号〜85年5月号)と「パーティがはじまる」(「りぼん」誌での最後の連載、1985年11月号〜86年1月号)の間に描かれました。
当時の「りぼん」はともに佳境に入っていた池野恋「ときめきトゥナイト」と本田恵子「月の夜星の朝」が二枚看板であり、水沢めぐみ、柊あおいらがそろそろ台頭してこようかというころ。そんな中、小椋冬美のこのような抒情的で静かな作品は子供心にもかなり浮いてみえました。
この作品は、いまだに単行本に収録されないままになっています。
「ヤングユー」誌に移るゴタゴタで未収録になってしまったのではないかと推測しているのですが、もしかしたら本人の意向なのかもしれません。かりにそうだとしたらこのように色々記すのは本意ではないのですが、この作品は私にとって思い出深いものだし、サイト開設時から掲示板のほうで何度か質問をいただいているところからしても当時の読者にとって印象的な一作だったのではないかと思い、ちょっと書いておくことにしました。
どうせ単行本に収録されるだろうと「りぼん」誌を捨ててしまっていたため、長年私はこの作品を読み返すことができませんでした。インターネットが普及してからは素人ながらオークションにも目を通していたのですが、この時期の漫画誌は中途半端に古いためなかなか市場に出てきません。
ところが先月、幸運なことにふたたび「眠れぬ森」を読む機会にめぐまれたのです。
この作品は「りぼん」に一度掲載されたきりでなく、のちに「ぶ〜け」(90年12月号)に再録されています。そちらならどうだろうと、某サイトに捜索依頼を出してみたところ、譲っていただけることに。
17年ぶりの邂逅!ページを開くときは感激で手がふるえました。
…というわけで、前フリが長くなりましたが、当時この作品を読んだ方の記憶を呼び覚ますことができるように、あらすじを載せておきたいと思います。
「その家は 偶然みつけた」
「いつもの道を ほんの少し ずれただけだったのに」
季節はもうすぐ夏。高校生・萌は、最近身のまわりのものに違和感を感じることが多い。朝食の目玉焼きでさえ、白身だの黄身だのと考えるとなんだか気持ち悪くなってしまう。
なにより戸惑いを覚えるのは、自分の意思とは無関係に変わってゆく自分の身体。
「この頃 自分の体と 空気の間に うすいベールのような ものがある (ような気がする)」
「それがうっとうしい」
学校では、他愛ないイタズラを繰り返す男子生徒たちのことがバカらしく思えてならない。つい冷ややかに接してしまい、まわりを白けさせてしまう。
とくに「意地悪ばっかり言う」クラスメイトの石橋にはいつも悩まされていた。
そんなときにみつけたのが、一軒の空家。
まるで眠っているかのように静かなそのたたずまいに魅かれた彼女は、自宅からシーツやらなにやらを持ち込み、自分だけの秘密の場所として毎日通うようになる。
「息をひそめてる 壁も 床も 窓ガラスも まわりの木や草も」
「何もない」
「わたし以外 何も 存在しない (不思議に あのベールの 不快さがない)」
「わたしは 羽根のような 布に くるまれて 眠ってるの」
「誰も わたしを ゆりおこさない 時間は ゆっくりと ゆっくりと」
「みんな 眠りにおちてゆく」
あるとき石橋は、彼女が空家から出てくるのを偶然みかける。
後日、いつものように萌をからかう友人をたしなめる石橋。意外な彼の態度に驚く萌。
理科の授業の当番で一緒に居残ることになる二人。
思い切って「わたしってからかいやすい?」と尋ねてみると、石橋はちょっと笑って「わかんないかなあ」「ニブいんだよなあ」と答える。試験管を片付けるその腕をながめながら、「男の子の腕って 女の子と全然違う」と考える萌。
ひょんなことから石橋に髪を触れられ、急に彼のことをオトナっぽく感じてドキリとし、恥ずかしくなるのだった。
その帰り道、近所の人たちのウワサ話から、あの空家が壊されることを知る。
次の日、学校を休んで空家に向かった萌。立ち入り禁止の札がはりめぐらされている。降り出す雨。
そこへ石橋がやってきた。驚きつつも、この家が壊されてしまうことを告げる萌。
「そうよ ここは 穏やかで やさしくて わたしを 守ってくれる 場所だったのに…」
涙をこぼす彼女に、石橋はキスをした。
「きっと あの場所へは もう 戻れない」
「時間は わたしを 変えていく」
「まといつく うっとうしさにも 息苦しさにも きっとわたしは 慣れていく」
「わたしだけだった わたしの世界は だんだん 石橋くんのことで いっぱいになって」
「せつないような 甘さと 苦さが」
「そんなふうに わたしを 変えてゆくんだろう」
家は壊され、流行りのレストランが建つことになった。
萌と石橋はいつも一緒にいるようになった。学校帰り、彼の手をとって歩き出す萌。
「でも 時々 わたしは 思う」
「羽根のような 布につつまれて 眠っている 自分を」
…というお話です。読んだことのある方、思い出していただけたでしょうか?
この前後の連載(「夢で逢えたら」「パーティがはじまる」)の舞台はいずれも私服通学の高校でしたが、この作品では制服を着ています。夏ということで、半袖のセーラー服。主人公の萌はロングのカーリーヘアに、リボンやヘアバンドをあしらっています。
ちなみにこの号にはやはり単行本未収録作である「星草の園」(りぼんオリジナル86年初冬の号掲載)も載っています。できれば次の機会にこちらのあらすじも紹介してみたいと思います。
(02/08/01)
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