「キール・ロワイヤル」 (2001/08/17発売)
集英社クイーンズコミックスより「キール・ロワイヤル」が発売されました。
今回の話も、いつものように「なんてことない恋物語」なのですが…
とにかく、男性がずいぶん泥臭くなってます。絵柄も性格も。
小椋冬美の描く男といえば、かつては「神経質そうな美形」というのがお約束。
(岩館真理子の「うちのママが言うことには」にも、主人公の「あたし、小椋冬美さんが描くような繊細な美少年が好きなんだもの」というセリフがある。ちなみに、岩館真理子が「週刊マーガレット」から、小椋冬美が「りぼん」からそれぞれ「ヤングユー」に移ったのは同じ1987年のこと。この年に、二人とも同紙での初連載を始めています)
線が細くて無口でオシャレ、でもどこか不器用な美しい男たちに、ファンは心ときめかせたのでしょう。
それが頂点を極めたのが、「ヤングユー」に移って初の連載作「ビーマイベイビー」(1987年)。
超美形のイラストレーターと女子大生の恋物語です。
(もっとも、角川書店「わたしたちができるまで」の自作解説では、「フリーになって気負いがありました。肩に力が入って〜」とこの作品についてコメントされてますが)
それが翌年の「僕の好きなPeach Pie」では主人公の男は冴えないマンガ家になり、しだいに肩の力が抜けたように、これ以降の作品ではより「人間くさい」男性が描かれるようになりました。
今回の新刊は、カクテルの名前をタイトルにした連作をまとめたもの。会社をやめてお弁当屋さんをやっている男性と、男に振られたばかりのOLの話です。
いちおう「キール・ロワイヤル」という表題作で最終回のようですが、このラストシーンが、「りぼん」で1985年に連載してた「夢で逢えたら」とちょっと似ている。
ラスト2ページのモノローグの比較。
いちどめは気まぐれ にどめは本物
たとえば ロマンチックは こんなささいなこと
日曜日が お天気だったら ふたりでお茶をのみましょう
よくはれた空と ふぞろいのカップと あたたかいお茶
いつかわたしは こんな夢をみたような 気がする
「夢で逢えたら」(1985)
晴れた日に ふたりでお祝いした
キール・ロワイヤルで
特別な日には これを飲みたいと わたしが言ったので
笑いながら 乾杯した
おめでとうって
「キール・ロワイヤル」(2001)
「夢で逢えたら」は、当時小学生だった私を夢中にさせた作品。ビルの屋上で一人暮らしするプレイボーイの凍場くんと、ひっこみ思案のさえ子の物語です。
最終回、ふたりの心はすれ違ったまま、さえ子はとあるパーティ(これがいかにも80年代というかんじでよい)に出かける。やっぱりつまんない、とぼんやりしてたところに、巨大なバラの花束を持って凍場くん登場。めでたく抱き合う二人、のあとに続くのが上記のラストシーン。
右ページにひとコマずつ二人を描き、最後にグラス(ティーカップ)のカットでシメる、というところもなんとはなしに似ています。
ちなみに、「キール・ロワイヤル」の初回にある「バーで、自分を振った男が女を連れてるのに遭遇する」というエピソードは、1983年「りぼんオリジナル」に掲載された「花まつり」にも出てきます。これは、上司に振られたばかりのOLが、年下のちょっと調子いい男の子に出会って元気回復するという話。
(今の「りぼん」じゃちょっと考えられない内容だな)
こういうところをみても、小椋冬美のストーリーは、もう似たようなもんばかりといっていい。
それでもいいものはいい。
お茶がカクテルに変わっても、けっきょく「晴れた日に、ふたりでのんびりしましょうね」というのが小椋冬美の描く「恋」。
一緒にお茶を飲む相手は、無愛想な美少年から気のいいお兄ちゃんに変わったけど。
年齢だけは大人になっても、私なんかはいまだにこういうのにひかれてしまうのです。
(01/08/25)