They are maids who work at the mansion of NASUKA. NASUKA is gentle And a wonderful rich man with many mysteries and connections.The MAID WARRIORS are fights in order to keep employment of them, a mansion, and peace in the neighborhood!
 
 

紫 茄子花/2002/09/01
 その朝、いつものようにレッドの大きな声で一日が始まらなかった。
ナスカ「どうした みんな?」
 何故か5人とも、声が出なくなっているようだった。
ナスカ「なんだ、金魚みたいにぱくぱくして」
レッド「……!」
 なんとか身振り手振りで伝えようとしているレッド。
ナスカ「なに?……コアラと……パンダが……るんたった? 訳判らん」
レッド「!!!」
 レッドの無言の抗議ががっしりナスカを掴んでなされた。
ナスカ「違うのか。ん? カメラが爆発。飛び出せ五臓六腑?」
 そんなレッドを横によけてメイドブルーが前に出る。
ナスカ「どうした ブルー」
 と、言うが早いか、パンチの応酬! 
 お互いに殴り合い、力尽きて地に転がる……
ナスカ「はぁはぁ、やるじゃないか お前……」
 ブルー、無言で親指立ててぐっと突き出す。
 もちろんバックは夕焼け空。空き地と土管。
ナスカ「……って違うだろ〜。どうして拳で語り合わなきゃならんのだ」
 脇に控えている3人に声をかける。
ナスカ「お前たちもなのか?」
 メイドピンクは、【静観中】とスケッチブックに書いて提示。
 メイドグリーン、【思考中】何か目がイっちゃってる。
 メイドイエロー、【黙秘権】……なんでやねん。
ナスカ「わかったわかった。今日は一日、調子悪いみたいだから仕事は出来る範囲でいいぞ」
 5人、いそいそと部屋を出ようとした。
 と、その時、レッドのポケットから一枚の長いレシートが!
ナスカ「ん? なんだこれ……カラオケBOX……ほ〜ぅぅぅ なるほどね」
 5人。ギクッっと振り返る。
ナスカ「こんだけ 歌ってりゃ そりゃ声も出ないだろうよ! 自業自得だぁ! きりきり仕事しろ〜!」
 ばたばたと駆け出すメイド戦隊たちであった。

紫 茄子花/2002/10/20

「ご主人! 今日こそは掃除させてもらいます」
「ふっふっふ、メイドレッドぉ、そうはさせんぞ」
 ドアを前に対峙するナスカとメイドレッド。
「またかい?」
「またですぅ」
 一番いい場所から恒例の対決を見るブルーとグリーン。
「どうしてこの部屋に入れさせてくれないんですか」
「だぁかぁらぁ、ここはいいんだよ」
「いいことありません、ご主人のこの部屋ってどうなってるんですか」
「いいじゃねぇかレッド。こいつが仕事しなくていいってんだから」
 外野のブルーから野次が飛んだ。
「メイドとして、どうしても見逃すわけにはいかない!」
「でもまぁ旦さんも男の子ですからねぇ」
「こらこら、人を男子中学生みたいにいうんじゃねえよ」
「え? えっちな本とかビデオとか乱雑に散らばってるからじゃないのかい」
 不意に円陣を組むメイド戦隊
「もしかしてぇもっとヤバいものがあるんじゃ」
「ヤバいものって」
「アレか、アレ系のヤバもんが……」
「アレなんてもんじゃなくってぇ……」
次第に円陣が小さくなり、声も小さくなる。
 ひそひそひそひそひそひそひそひそ
 そして、レッドが立ちあがり
「うわぁぁぁん、ご主人の○○○○○〜!!」
 とんでもない言葉を口走りながら駆け出すレッド。
「誰が○○○○○だぁ こら待て」
 そして
「で、お前らあの単細胞に何吹き込んだ〜!?」
 グリーンとブルーが極悪な表情を浮かべる。
「ひ・み・つ☆ ふっふっ★」

 それからしばらく、レッドが遠巻きにナスカを牽制する日々が続いた。

紫 茄子花/2002/10/21

「お前達、映画のチケットがあるが、みんなで行ってくるか?」
 こともなげナスカはメイドたちに声をかけた。
 驚いているメイドレッドたち。
「ご主人って……」
「よく映画のチケットを持ってますが……」
「正体は 新聞勧誘員さん?」
「お願いしますよ、奥さん、三ヶ月だけでいいんです。ほら、洗剤と映画の券付けますから」
 つかさず低姿勢で、もみ手をしながら新聞勧誘の真似をするナスカ。
「って何やらす! 嫌なら無理に進めないが、ゾンビがわらわら現れる映画らしいぞ」

 数時間後

「お、帰ってきたか、どうだった?」
 神妙な顔の面々。
「今のままじゃダメです、ご主人、メイド戦隊の武器の強化を!」
「……私のイエローフラッシュは効果ない……」
「ピンクドリームは催眠ガス。でもゾンビには効かないと思います」
「今の電圧では一時的なショックにしかならないしぃ」
「使えそうなのはブルーフリージングの冷凍銃か、レッドの捕縛縄」
 5人の統一見解はひとつ。
「絶対的な火力がやっぱり不足なんですよ、ご主人!!」
 テーブルにばんと手を打ってナスカに迫った。
「何言ってる、お前には清掃拳という切り札があるだろう」
 ナスカはレッドの勢いに負けずに切り返した。
「はっ!! そ、そうでした。どんな頑固な汚れから、害虫駆除、一切の掃討」
「そして、お前達メイド戦隊の最大の武器は! 知恵と勇気だ!」
「わかりましたご主人! よ〜し! さぁみんな特訓よ!」
 レッドに押されてメイド戦隊が部屋を出て行った。
 火力をアップした武器でこれ以上被害を拡大されてたまるか。
 大体ゾンビと戦うなんて予定はないだろうが……

 ゾンビという仮想敵を想定し、メイド戦隊はさらに強化されていくのだった。

紫 茄子花/2002/10/22

「旦さぁん〜健康器具やトレーニングマシンをモチーフに新しい装備を作ってみましたぁ」
 メイドグリーンが自信満々に取り出した数々。
「健康器具ってそれじゃ敵が健康になるんじゃないのか」
「じゃ、旦さんが試してくださいな」
 メイド戦隊に試作品の武器が渡される。
「ご主人〜行きますよ〜! ツボ押しフック!」
 曲がったスティックの先がナスカの背中をヒット。
 それがレッドのパワーとなると強烈に痛い。
「うがぁぁぁ!!」
「へっへっへ。バイブレーションブレード」
 両サイドを激しく上下した刃がブルーの技で見事にヒットした。
「いだだだだ!」
「エキスパンダ〜ショット」
 グリーンが5本のバネをぐっと引いて、ナスカに目掛けて放つ。
 バッチィィィィン!
「いってぇぇぇ〜!!」
「足ツボプレート!」
 靴の上からなら大丈夫かと思われたが……
「だだだ、刺さってる×2」
 靴を貫通して足の裏を刺激した。
「……」
「……」
「待て、イエロー。それは単に鈍器だ……死ぬって……」
 イエローの両手に携えられたのはダンベル……
 にじりよるイエローに、ナスカは生命の危機を感じていた。
「どうですかぁ、健康になりました?」
「……確かに武器だな、これ」
「あとぉ、ブルワーカーと、ぶらさがり健康器と、ルームランナーを使って……」
「ああ、勝手にやってくれ」
 一体どうやってルームランナーが武器になるのか考えながらその場を離れようとした。
「旦さぁん、完成したらまた被験者になってくれますぅ?」
「やらん、やらん、ぜぇぇぇぇったいやらないからなぁ〜」
 ナスカの叫び声が屋敷に小さくこだましたのだった。

紫 茄子花/2001/10/23

「……ふぅ、まいったな」
「旦さぁん……」
「……こよーぬし、振り込みにするのやめる?」
 午後2時55分、銀行の床にナスカとメイド戦隊の五人が座っていた。
 いや、正確には座らされていた。他のお客さんと同様に……。
「てめえら。さわぐんじゃねぇ、おら、さっさと金を用意しろ!」
 メイドたちの賃金を振り込みにするかどうか相談に来た矢先の出来事だった。
 覆面姿の三人組が、銀行に押し入り、客を人質に銀行員を脅していた。
「ご主人! 銀行強盗です!」
「れ、レッド、静かにしなきゃ危ないよ」
「こんなに身近な銀行にも強盗っていらっしゃるのねぇ」
「オレとレッドならあんな奴等、敵じゃねえさ」
「お前ら、こんな時くらいおとなしくできんのか!」
 いつもと変わらないメイドたちに渇を入れた。
「他の皆さんを危険な目に合わせる可能性があるだろう」
「でも、他の人が危険な目に合うより、私が代わりに」
「目立つなって言ってんだろう目をつけられたらどうする!」
 ナイフを持った犯人が近づいた。
「いいか、特に人質にでもされたら大変だろう、おとなしくしてろ」
「そうですよ、ここはナスカさんのいうとおり、大人しくしましょう」
「ちっ、仕方ないな」
「せぇのっ! じっ」
 車座になって体育座りするナスカとメイド戦隊。
 っていまさらおとなしくしたところでばっちり目立っている。
「特に人質にしてもらいたいみたいだな、変な格好のお前等だよ」
 刃物と銃を向けられ、ナスカはたじろいだ。
「うっ、こいつらは許してやってくれ、変わりにこっちはいいから」
 イエローとピンクをかばい、ナスカはブルーとレッドを差し出そうとした。
「そういうことをいうかこいつは! 先にてめぇから始末してやろうか」
 ブルーに胸座をつかまれているナスカ。
 あまりいつもと変わらない二人をよそにレッドは手を上げて進言した。
「私が人質になりますから、他の人は解放して下さい」
 レッドの申し出を尻目に、犯人はメイドイエローに目を付けた。
「どっちかっつーと、この小さい子の方がいいな」
「……」
「あらら〜やめておいたほうが」
「うむ、俺もそう思うが、先方がそうおっしゃるなら仕方ないな」
「イエロー……」
「……平気……」
 立ち上がり、イエローが大人しく犯人達のそばに近寄った。
 囚われの少女の頭に銃口を向け、声をあげる。
「さっさと金を用意しねえとこいつの命がねえぞ!」
 その時、レッドが
「イエローあぶない! やっぱり私が人質になります!」
 イエローを心配するあまり、不用意に立ち上がり、レッドが犯人に向かっていた。
「ちっ、まったく……あいつときたら」
 小さく溜め息をつくと、胸一杯に息を吸い、
「みんな床に頭を伏せろぉ〜〜!!」
 と、ナスカが大きな声を出した。
「……イエローフラッシュ……」
 激しい閃光が犯人たちの目をくらませた。
「目、目が!」
「一番さらっちゃまずい奴を捕まえたもんだぜ」
「だから申しましたのにぃ」
 光の中、メイド戦隊は各自行動を開始した。
「メイド戦隊! 状況を確認。皆さんの安全が最優先だ」
「犯人は3人、武器はナイフに、銃、それから威力不明の爆弾」
「イエロー、皆さんの避難を急げ! ブルー、レッド、気を付けろ!」
 幸い、縛られていなかったので、避難は迅速に進んだ。
「……こっち……でいいの? みんな急いで!」
 メイドイエローが銀行員と連携しながら客を誘導する。
 ナイフを持った相手とメイドブルーが向かい合った。
「このやろう、このナイフが見えな……」
「遅いんだよ!」
 脅しをかけようとしている間に、ブルーはナイフを蹴り上げ、その勢いのまま、拳をみぞおちにぶち込んだ。
 ナイフを持っていた犯人は崩れ落ち、動けなくなっていた。
「さぁ、無駄な抵抗をするのはやめなさい! このメイドレッドが相手です!」
「うわああ」
 銃を持っていた犯人がたじろぎながらレッドに向かった。

 バキューーーーン!!

 硝煙の匂いが当たりに漂う。
「!?」
 銃口の先にいたレッドが後ろに吹っ飛んだ。
「あわわ、そんな、撃つ気は……」
「うわぁ〜レッド〜!」
「てめぇ、よくもレッドを!」
 ブルーとピンクが同時に犯人たちに飛びかかった。
 ふわりと宙に舞ったかと思うと、ひらひらとしたメイド服のスカートが揺れ、その中から、鋭い回し蹴りが炸裂した。
 普段のピンクからは想像もできない力で、銃を持った腕ごとひねりあげ、床に組
敷いた。
「まったく、レッドのやつ、自業自得だ」
「なんだと!てめぇ」
「ひどいです、ナスカさん」
 二人が、レッドに対してあまりにも冷たい台詞を吐くナスカを非難した。
「そうです、ひどいですよ ご主人〜」
 三人目もいた……メイドレッド本人からだ。
「安心しろ、ブルー、ピンク! レッドは大丈夫だ」
 レッドを撃った犯人をサンドバッグのように殴りつづけていた二人に声をかけた。
「なんだと?」
「お前たちの装備している特殊エプロンはこの程度の拳銃の弾じゃびくともしないんだよ」
「びくともはしますよ! あぁびっくりした」
 弾丸の当たった辺りを擦りながらあまりたいしたことなさそうにいう。
「と、いう訳でぇ、メイド戦隊のエプロンは胸の開いているものじゃぁないんですよぉ」
「誰に向かって説明してるんだよ、グリーン」
「でもぉ、旦さんがご所望なら、ちゃぁんと用意はありますよぉ」
 そう言いながらグリーンは厄介な武器は取り押さえた。
「さて、あとはその爆弾だが、絶対逃がしゃしないからな、死なばもろともだ」
「その覚悟があるなら、やりやがれ」
 仲間二人は倒された。
 人質は全員銀行の外へ避難し誰もいない。
 リーダー格の犯人は、手に切り札の爆弾を持っているにもかかわらず、脅し文句の一つも言えず、完全に戦意を喪失していた。


「でもぉどうして旦さんしか写ってませんのぉ?」
 次の日の新聞紙面には子どものようにピースサインをしてアップで写ろうとしているナスカの姿しかなかった。
「当たり前です。こんなメイド姿を全国に写されたらボク恥ずかしくて死んじゃいます」
「……肖像権の折り合いが着かなかったから……」
「ウザいんだよ、マスコミってのはよ」
 様々な理由から、メイド戦隊の面々は表舞台には姿を見せなかった。
 紙面には『町の変わり者とその使用人』のお手柄といった書かれ方をしていた。
「まったく参るな、お前たちの存在を隠すために俺が嫌々、仕方なく、マスコミに目立つような奇行をしなきゃならんというのは」
「え!? ご主人、嫌々だったんですか!?」
「仕方なくな奴が新聞全紙買い込んでスクラップするのかよ!?」
 またひとつ、ご町内の平和を守ったメイド戦隊とナスカ。
 その顔はいつもと変わらず、にこやかだった。

紫 茄子花/2001/10/24

「旦さぁん、珈琲が入りましたよぉ」
 書斎にいるナスカにワゴンを押したグリーンがやってきた。
 机に向かっているナスカ。
「おっ、ちょうど飲みたいところだ、すまんな」
 どんなに性格に不思議系が入っているとしても、グリーンの入れるお茶はうまい。
 ナスカはいつも、そう思っているが、口に出して言ったことはない。
 言うと調子に乗るからという理由で……。
「大変ですねぇ、大学受験も……」
「そうなンス、今度ダメだとクニさ帰ぇってこいって田舎の両親がぁ……」
 どこから取り出したのかぐるぐるメガネをずりあげた。
「って 誰が受験生だ! 何で俺がまた大学受験せにゃならん」
「……違いましたぁ?」
「仕事だ、仕事! ノせるんじゃない」
「あんまり仕事、仕事言ってますと、終いには仕事星人になりますよぉ」
「ならないっての!」
 仕事を中断されて、独特のメイドグリーンワールドに引き込まれるナスカ。
「旦さん、そんなにプリプリ怒るとプリプリ山のプリプリ様がプリプリしますよ」
「するか! 誰だ、プリプリ様って!? そんな奴がいるなら連れてこい。逆に俺が登りたいわ、そんな山があるなら!!」
「もう、旦さんったらぁ〜キムチ雑炊みたいな顔して〜」
「どんな顔だよ! じゃなにか、ここが白菜か!? ここはなんだ」
 次第にナスカも身振り手振りが入り、動きも激しくなってきた。
「げほっ、まったくお前に付き合ってると疲れるわ」
「わかりましたぁ つまり、お腹が空いているというサインだったんですねぇ〜」
「ど・こ・を・ど・う・し・た・ら そ〜ゆ〜結論になるんだ メイドグリーン君」
 お茶を運んできたワゴンの下からなぜか土鍋を取り出した。
「旦さんっ、おかゆができたわよぉ」
「ごほっ、いつもすまねぇな……」
「それは言わない約束でしょぉ」
「って コラ! やんなっつ〜の」
 ツッコミチョップが炸裂。

「あれ? イエロー、何してるの? ビデオなんて持って」
「……お笑い芸人として売り込むの……」
 廊下から部屋の中にいるメイドと主人の掛け合いを撮影していた。
「いや、気持ちはすごくわかるけど」
 ピンクは、二人がブラウン管の向こうの住人になってしまいそうな気がした。

紫 茄子花/2001/10/25

 それはある晴れた土曜日のこと。
 メイドレッドこと赤巻紙ちはや、そしてメイドブルーこと青木ヶ原樹が買い物に出た。
 もちろんナスカも一緒に。
「お、ガシャポンでかわいいフィギュアがあるな」
「ご主人、これ! お気に入りですよね!」
 道の途中、見かけないところにぽつんと機械があった。
「まさか、金にものを言わせて買い占める気じゃねぇだろうな」
「大人買いっていうやつですね」
「ふふん、そんな大人げないことはしない」
 と言ったかと思うとおもむろに販売機の前で手を合わせ祈る。
「どうか この黒髪のかわいいキャラのが出ますように〜!」
「(大人はこんなところでそんなことしねぇよ)」
 メイドたちの思惑をよそに、ナスカは硬貨を入れ、レバーをぐりぐりと回す。
 コロン カチャ
 ドキドキしながら取り出してみると
「なんだこれ? はずれか」
「ほらほら、ご主人! 行きますよ!」
「待て、せめてあと一回!」
「往生際の悪ぃこといってんじゃねえよ」
 レッドとブルーに両サイドから引きずられてナスカが連行されていった。

 屋敷へ戻り、組み立てようとカプセルを開けてみると
「……人形じゃないな、コレ」
 豊かな表情で愛くるしい姿をするフィギュアではなかった。
 小さくて無機質な回路のようなものが出てきた。
 およそ景品とは思えない。
 この手のものはメイドグリーンに聞くのが一番!
 メイドグリーンを探していると、当のグリーンから連絡が入った。
「旦さぁん、ちょっと来てもらっていいですか〜」
 メイドグリーン、緑乃森メイ子(仮名)。
 何回名前を聞いてもその都度名前が違うグリーンに、
「わかった、もうお前はメイドのメイ子さんだ!」
「ま☆、冥土の冥子さんですかぁ」
「……微妙にニュアンスが違うような気がするが」
 と、いったいきさつがあったものの、メイ子さん(仮名)が定着しつつあった。

「どうしたグリーン?」
「浸入者ですぅ」
「今度はなんだ? 三毛か? ぶちか?」
 グリーンの報告といえば毎度どうでもいいようなものばかり。
 領空侵犯したカラスだの、不法侵入のノラ猫だのに呆れた顔で対応する。しかし
「ちょぉっと 厄介な黒ネコかもしれませんよぉ」
 スクリーンに映った映像は、赤外線スコープにガスマスク。手には大きなライフルを持っていた。
一糸乱れぬ統制のとれた動きでじわじわとナスカの屋敷に接近してくる黒ずくめ集団だった。
「……これは、確かに厄介そうだな」
 一目見ただけで、戦うために訓練された部隊だとわかる。
 状況によっては人の命も何とも思わない存在かもしれない。
「イエローとピンクを先に帰したのは正解だったな」
「……そう……」
!?
「ぬわぁっ!?」
 ナスカがのけぞるのも無理はない。
 帰らせたと思ったメイドイエローがそこにいたのだった。
「キミは何をしているのかな えぇ? イエローちゃんよ」
「……」
 ひきつり笑いで、こめかみに浮かぶ怒りマークを押さえつつ問いかけた。
「すみません、ナスカさん。イエローがどうしても戻るって……」
 申し分けなさそうにピンクが後ろに付き添っていた。
「……後を付けられていたから、それに」
「それに?」
「……五人揃ってメイド戦隊……」
「ったく」
 イエローの言葉に呆れ顔のナスカ。
 レッドは手を取り合って喜んだ。
 メイド戦隊の五人は地下室に結集した。
「とにかくあの物騒なものを何とかしないとな」
「あの程度ならガードエプロンで大丈夫だと思うが」
 一見すればただの白いかわいいエプロンだが、特殊素材で作られたそれは防・防弾効果もあった。
「セクシーに胸の開いた、どこかのエプロンみたいなのではダメですね」
「そんなのつけたことないだろ、俺はみたことないぞ!」
 ナスカのツッコミを無視して、
「旦さんも危ないですからこれをっ」
 メカニック担当のグリーンが、そっとあるものを差し出した。
「腹巻き?」
「心臓はもちろんですがぁ弾丸がお腹に当たってもキケンですから」
「そ、そうか」
 ナスカは素直にいそいそとラクダ色の特殊腹巻きを装備した。
「頭も守らなければいけませんわぁ! さぁ、このヘルメットを」
「……」
「目はこれで保護」
 すだれ頭のペイントのヘルメットに瓶底みたいな丸めがね。
「おまけのお守りですぅ。」
 ぴとっとちょびひげを付けられたその姿はまるで加ト○……。
「昔は髭を生やしている飛行機乗りは撃墜されないというジンクスがあったんですよぉ」
「おまえなぁ〜この非常時に!! だいたいいつこんなもんつくった〜」
 どアップでグリーンに迫るナスカを直視できないピンクだった。
「ある意味怖いです。決して暗闇で突然出会いたくないかも」
「これなら敵も逃げ出すかもしれないですよ!」
「じゃ、お前がつけるか? レッド!」
 すだれ頭ヘルメットを押し付けあうナスカとレッド。
「……こよ〜ぬし、怪我したら労災でる?」
「出せるが、ビタ一文出したくないから、絶対怪我するな」
「……了解……」
 ナスカはメイド戦隊それぞれの装備を万全にさせた。
「グリーン、状況は?」
「裏口から浸入するようです」
「できることなら進入される前に追い出したいところだな、物を壊されたくないし」
「大丈夫! 壊されたら片づけますから」
「壊されたら大丈夫じゃないんだよ!」

 相変わらずな掛け合いをしているのと同時に、某国の精鋭部隊は屋敷に侵入を開始していた。
 てきぱきと進入路を確保、訓練通りに屋敷に侵入……
「?!」
 どんな状況にも対応できる訓練を受けているかもしれない。
 が、しかし……

 ベタッっ 

 武器、ガスマスク、それらが粘着床に奪われた。
 メイドグリーンの改造を受けた床は、スイッチひとつで粘着床になったのだ。
 侵入者を捕獲するため! とグリーンは言うが、メイドたちとナスカは満場一致で
「(絶対、等身大のゴキブリ捕獲器っていうシャレに違いない)」
 と思っていた。
「……まさか本当に役に立つ時があるとはなぁ」
 地下にある司令室から、黒尽くめの侵入者たちがゴキブリのようにべたべたと張り付いている姿をみていた。
 敵も、およそ男一人と女使用人の屋敷へ浸入するだけだと思っていたのがゴキブリ捕獲器のようにべったり粘着床に絡め取られるとは思わなかった。
「よし、予備の武器には気を付けろ、いけ! メイド戦隊」
「了解!」
 屋敷の中に5人のメイド戦士たちが飛び出した。

「あ、もしもし、消防署? 今、害虫駆除してるんで……」
 メイド戦隊が屋敷の中で戦っている最中、ナスカは関係各位に電話をしていた。
「……あ、もしもし 隣のダンナ? ナスカっス」
 隣接する屋敷にも電話をしていた。
「そうなんですよ、黒いでっかいのが出ましてね」
 司令室から状況を見ながら、電話を続ける。
「そちらのメイドさんはお元気? ちょっと外に出ない方がいいと思いまして」

「……閃光、イエローフラッシュ……」
 メイドイエローが幻惑技を放つと、ゴーグルを無くした敵はまばゆい光に視覚を奪われた。

 窓からこぼれる閃光。
「え? 光った? そうなんです煙の少ない閃光型で」
 
「誘眠! ピンクミスト!」
 マスクの外れた侵入者に向けて、ピンクは催眠ガスを放った。
 視覚を奪われ、目を閉じたところに催眠ガスのコンビネーションで、何人かの侵入者は倒れた。
 しかし戦闘向きでないイエローとピンクは先手を打ってそれから後方へ下がった。
「……よろしくブルー……」
「レッド、充分に気をつけて!」
 戦闘担当の二人にバトンタッチした。
「OK、ありがと」
「さがってな、怪我するゼ」
 メイドレッドの繰り出す清掃拳の技。
 後ろに下がりつつ、見えない箒が足払いをかけたかのような。
「ハッ!」
 モップをかけるような型を踏襲し、するどい拳が侵入者にめり込んだ。
「くらえ!」
 メイドブルーは屈強の兵士と互角に戦っていた。
「ちっ、悔しいがレッドとの戦いに比べたらこんな奴等なんでもねぇぜ」
 我流の喧嘩殺法に加えてメイドレッドとの戦いで清掃拳の基礎を身に付けていた。
 敵は予備の武器を取り出そうとした。
 しかし、メイド戦隊の方が反応が早かった。
「レッドロープ!」
 侵入者を次々に捕縛していった。
「ブルー、ヒートレス! フリージング」
 しゅうしゅうと熱を奪い凍結波を撃ち放つと、足元が靴ごと凍り付いた。
 閃光による視覚遮断+催眠ガス+粘着床+捕縛ロープ+凍結と幾重にも敵を拘束した。

 安全を確認し、ナスカがイエローやピンクと一緒にホールまでやってきた。
「ドッキリ……じゃ、ないよな。実弾だった。俺たちの命を奪う気だった……」
「……こよーぬし……」
「拘束したのは悪いと思うが、こっちも命がけだったからな」
「ナスカさん、その前にお願いですから、そのヘルメットとメガネは外してください」
「なにまだ、そんな格好してやがったんだ、てめえは」
 加○茶の格好のまま気取られても……
「お前たちは何者だ?!」
 鍛え上げられた屈強の兵士らしき男達は喋らない。
「……」
 ナスカはおもむろに奇妙な動きを始めた。
「ことば わかるか? おまえ たち なにもの? もくてき なんだ!?」 
「ご主人、何をしてるんですか?」
「ん? 見りゃわかるだろ、ボディランゲージ、ジェスチャーだよ」
「……」
「い、いや、あの、ちょっとわかるかな、あの、わからないかもアハハ」
「目的はなんだ? コレか?」
 昼間出てきた回路のようなものが入ったカプセルを見せる。
「!!」
 動揺がはっきりと伝わる。
「下手な行動はしないことだ、さもないと」
 と、ハンマーを見せ、敵の動きを制止する。
「こうだぞ!!」
 大きく振りかぶって、寸止めで振り下ろす……つもりが

 ガヂャン!!
「!!!?」

 もう取り引きも駆け引きもない。

「……」
「……」
「……あ゛っ」
「あ じゃねぇだろ」
「爆発するものだったりしたらどうするつもりだったんですか」
 敵味方双方が信じられない光景をみている目をした。
「……ていていてい!!」
 証拠隠滅とばかりにハンマーで粉々に、完膚なきまで破砕した。
「こんなものがあるから争いがおきるんだ」
 絵に描いたようなとってつけた言い訳。
 侵入者の目には言葉も話も通じない、宇宙人でも見ているような目に変わった。
「どうする、お前たち。目的のものがなくなった今……」
 あまり動揺したそぶりも見せず、ハンマーを振るう。
「腹いせに俺達を殺すか? さぁコレ持ってとっとと失せろ!」
 粉々のカプセルの破片を侵入者のリーダーらしき相手にぶつけた。
「……動けないと思う……」
「イエローが冷静に状況を見詰めていた」
 足元は凍結。身体は縄でグルグル。
 粘着性のある床にへばりついている侵入者達。
「グリーン、セバスで処分してくれ」
 正規のごみの日でもない収集所に不審な屈強の兵士たちがごみ扱いで捨てられていた。

 世界に災いをもたらす兵器の国家機密。
 その取引は訳のわからない人物の手によって阻止された。
 ハンマーで粉々にされて。
 その偉大な功績を果たしたメンバーは何も知らずに……

 後日

「いいんですか、また来るかも」
「復讐にか? そんなに暇なのかな、ああいう部隊って。目的の物もないのに」
「……弁償……」
「うっ、それは……あれって高いのかな」
「何言ってやがる、不法侵入、殺人未遂とどっちが罪が重いってんだ」
 あの夜の後始末をしながら話をしていた。
「文句があるなら、傭兵なんかをこそこそ差し向けないで責任者が来いってんだ」
「ところでご主人! また第六おもちゃ箱がいっぱいになりましたよ」
「おもちゃ箱っていうな、大事なもの箱だ」
 十字架、水の入ったコルク栓の硝子瓶。欠けたマグカップ、ブーメラン、ランプ、シャボン玉製造マシン、ドライフラワー、謎の鍵、水晶玉。などなど思い出の品や興味を引いた珍しいものをみつけてはそのままぽいぽいと箱に入れていた。
「旦さん、メモリがいっぱいになりました」
「お、いいな その言い方。そうなんだよこれらは俺のメモリーなんだ」
「全消去しまぁす」
「するな!」
 箱を転がして逃げるメイドグリーンと追いかけるナスカ。
 苦笑いしているメイドレッドが第五ガラクタ箱を見ると
「あれ? ご主人これ?」
 ガラクタの詰まっている箱の奥底に侵入者が狙っていたカプセルに似たものがあった。
「うぅん ま、いっか。何でもないです」

 ……訂正。
 世界の国家機密は、とある屋敷の片隅にあるガラクタと一緒になっていた。
 そして、密かにすり変えた張本人は、きっとそれを忘れて、メイドさんに処分され
てしまうことだろう。
 それも世界の平和を守ったといえるだろう。

紫 茄子花/2001/10/26

 サロンで椅子に座りながら新聞を読むナスカ。
 そばにお茶の用意をしているメイドピンクがいた。
「ほぅ……。なあピンク……」
「なんですか?」
「沖縄でホステスをしていた子が実は中学生で、さらに男の子だったそうだ」
 どんがらがっしゃん! 不意に言われてピンクはカップを落とした。
「なんですかいきなり!!」
 何も言わないナスカ。
 もくもくと欠けたカップを片付けていると
「……ピンク……」
「なんですか?」
 ちょっと不機嫌な声のピンク。
「……俺は知ってるから……」
「だからなにがですか! みんな知ってますってば!」
 こんなナスカの日常。

 メイドピンクと一緒に歩くナスカ。
「あの、ナスカさん」
「……なんだ?」
「恥ずかしくないですか?」
「お前から言われたくないな」
 不思議と男からも女からも熱いまなざしを受けているような気がするピンク
「堂々としてろ」
「そんなこと言ったって」
 もじもじと恥らう姿
「だから、恥ずかしがってると……」
 周囲の目が熱い。
「余計注目浴びてるゾ」
 こんなナスカの日常。

「あの、ナスカさん」
「どうした? ピンク」
 部屋から出てきたナスカにメイドピンクこと桃谷間 薫が声をかけた。
「ナスカさんってよく僕たちと一緒に歩いたりしますが……」
「なんだ、恥ずかしくないかって?」
「違います! ナスカさんくらいのお金持ちなら車を使うのかと思ってたんですが、車嫌いなんですか?」
「別に嫌いじゃないな、まぁ車に詳しくはないし、人を乗せて快適に走ってくれればそれでいい程度の認識だ」
「ちょっと気になったのが、このお屋敷には自家用車がないですよね?」
「ああ、ない」
「運転免許をお持ちでないとか?」
「いいや、いつか見せてやろう、十年以上、無事故無逮捕記録の光り輝くゴールドカードを!」
「……今、さらっと言いましたけど、なんですか、無事故無逮捕って」
「まぁ、無違反だ! と胸を張るほど嘘つきにはなれないんでな」
 そう言った後、少し遠い目をして
「昔は『ハイウェイのミニ四駆』と恐れられたものだ」
「……言葉通りなら確かに恐れられたでしょうね……」
 ピンクの頭の中に、高速道路の道筋に従って、まったく曲がれない暴走カーが激走する図が浮かんだ。
「しかし、健康のためにも車はやめたんだ。それに俺一人くらいって言われるかもしれないが……」
 ナスカは地球環境のために、限りあるエネルギー資源を無駄にせず、排気ガスを減らすためになど車に乗らない訳を語った。
「何より、このご町内の事を知り、平和と安全を見守るには、車のスピードでは見落としてしまうこともあるだろう」
「ナスカさんはそこまで……」
「自分の足で歩いて、町の様子を知る……それが大切じゃないか」
「ナスカさん……僕、感心しました」
 まっすぐ純真な目でピンクはナスカを見つめた。
「よせやい、照れるゼ」
 およそ誉められ、尊敬されることの少ないナスカは芝居がかって照れた。
 そこへメイドイエローが静かに歩み寄った。
「……こよーぬし……」
「ん、どうしたイエロー」
「タクシー来たよ……」
「え? ナスカさん、タクシーって?」
「……」
「……」
 妙〜な空気がその場を包んだ。
「それじゃ! そういうことで!! 行ってくる」
 大袈裟な手振りをしてナスカは玄関から出ていった。
「ナスカさ〜ん! さっきの話はなんだったんですか〜!」
 逃げ出すナスカの背中にピンクの声が響いた。
「ったく、ま〜だおめぇはあいつの本質をわかってねぇらしいな」
 呆れ顔のメイドブルーがピンクに向かってつぶやいていた。

Tokinashi-Zohshi 

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