こいかこせ
恋過去世・神は記憶に恋をする 第一章
わたしはあなたに恋をする
恋焦がれてしんでしまう
あなたの記憶でしんでしまう
あなたの記憶の娘たち
幾万人にただ一人
わたしはあなたに残していくの
永久の記憶に悲しみを
恋するあなたに残していくの
ちんっ……とかすかに音が鳴った。
「言葉樹(ことばぎ)」が葉を鳴らした音だ。
白い湯気がシャーキン温泉から流れだした。
漆黒の闇のなか、かすかな星明かりを受けて、硫黄臭い湯気が周りの木々を濡らしていった。
温泉を囲む熊笹の茂みに、金髪のリ・ラヴァー・アプミリアが身を潜めていた。
彼女は汎神族である由美歌(ゆみか)の命を受けてここにいた。
「……来た」
アプミリアがささやいた。
大きく動く影が、闇の色を奪って輪郭を歪ませた。
それは人を上回る巨体の獣だった。光を集める瞳が黄色に光った。
何者をも恐れない肉食の獣は、茂みをかきわける音を隠しもしないで温泉に足を踏み入れた。
温泉に集まる獣の数はどんどん増えていった。
低く太い唸り声を上げながら、獣どもは泉に身を沈めていった。
「きっと極楽ごくらくって言ってるのね」
アプミリアは、くすりと笑ってつぶやいた。彼らも温泉に入るのは気持ちが良いのだろう。
彼女は色の薄い金髪を小さくアップにまとめていた。
やさしい瞳は灰色がかった青だ。紅い唇は、喉の渇きを鎮める軟膏が塗られてしっとりと濡れて輝いていた。
スリムだが強靭なバネを秘めた四肢は、戦士の汗を香らせた。
アプミリアは汎神族と接触するための装備に落ち度がないかを確かめた。
闇に身を潜めるために装身具は一切身につけていない。薄く黒い羊皮のスーツで全身を覆い、白い顔と手には赤黒い墨で輻射熱吸収の法呪文を書き込んでいた。
よく見ると獣は一種類ではない。明らかに体形と大きさの違う獣がうごめいていた。
肉食獣の餌となるべき四つ足の草食獣までが混じっているようだ。
獣たちは乾期のオアシスへ集うかのように、緊張しながらも肩を寄せあった。
「やだ……混浴してる」
アプミリアは言葉をかみ殺した。
獣たちがつかった温泉は、ゆるゆるとお湯を揺らした。
温まった毛皮を通して、身体の中から老廃物が染みだしていった。
ほっ、とした心が無防備に記憶のかけらを泉に与えた。
気持ち良くなごんだおだやかな魂が、優しい思い出だけを漂わせた。
泉がピンクに染まっていくような空気が周囲を包み込んだ。
獣たちの後ろに不思議な樹が立っていた。
白銀に輝く雪山の樹氷にも似た美しい樹だった。
人間たちはそれを「言葉樹(ことばぎ)」と呼んだ。
樹がなにものであるのかを、だれも知らなかった。
言葉樹(ことばぎ)は生命ある樹ではない。人工物でもない。自然が造りだした奇跡だった。
ここビスチク火山の周りには温泉が多くあった。釣りがね型の山は四方八方に自噴する湯の川を擁していた。
わけても東の一角は、大小様々な温泉が湿原の沼のように散在していた。
温度や成分濃度が違う数々の温泉では、人間や野性の動物が入浴を楽しんでいた。
地中深くから湧き出る湯は、様々な大地の滋養にあふれていた。
ビスチク火山の東の一角。もっとも山に近いシャーキンの泉。子供が遊ぶ街中の公園ほどの温泉だ。そこに言葉樹はあった。
シャーキン泉のちょうど中央。まさにお湯が湧出する泉口に根を下ろすかのように言葉樹は立っていた。
人間の学者が考える言葉樹の正体は、化石化したいちいの木である。
豊かに葉を残したいちいの木が、火山の鉱物成分を吸い上げて、そのまま結晶化したように見えた。
言葉樹はひとつの伝説を持っていた。
「言葉樹は女神に生えている」
そのことの意味するところは定かではない。しかし人間たちは、文字通りの意味として信じていた。いつの時代かを生きた汎神族がこの地に眠り、その豊かな記憶を滋養としていちいの木が芽吹き成長したのだと。
そしていつしか木は温泉に飲み込まれて枯れていったが、細胞は大地の奥底から湧出する鉱物に置き換えられていった。同時に女神の記憶が不思議な結晶に作用して、湯の中に漂う生き物の記憶を養分のように吸収、固定するようになったのだと。
人々がそう信じるのは、多く人間が同じ光景を見たからだった。
それはまさにアプミリアの目の前で起きている奇跡に他ならなかった。
言葉樹が、ちりちりと音を立てて結晶を伸ばした。
明らかに獣が泉に入ったことと関係していた。
「獣の記憶のかけらを結晶化して固定しているの?」
アプミリアは神秘の光景に息を飲んだ。
ほう酸の結晶が成長するように、繊細で美しい針のような結晶が先端を伸ばしていった。
アプミリアは記憶の不思議に魂を奪われて、汎神族の接近に気がつかなかった。
「神様だわ……」
彼女が若い汎神族の出現を知ったのは、彼の柱が泉に足を入れてからだった。
白樺のように繊細な汎神族が、茂みの中から姿を現した。短い腰巻きひとつで、褐色の美しい肢体をさらしていた。淡い桃色の光が身体を流れだした。鋭い笹の葉は光の表面を滑り、神の肌を傷つけることはなかった。
若い男神は小さな水紋を広げながら泉の湯を手ですくった。
さきに温泉を楽しんでいた獣たちは、汎神族に目を奪われて身動きできないでいた。目線だけで神の動きを追う姿は、ひどく人間くさかった。
神は神殿舞姫のような足さばきで湯に入り、まっすぐに言葉樹にむかって進んだ。
獣たちは先を争って道をあけた。しかし神のたてる湯の波を受けたいがために、鼻まで湯に浸かり首を神の足元に突き出した。
若い男神は言葉樹のふもとに立つと、まぶしそうに葉をみつめた。
ちりちりと音を立てる瀟洒なたたずまいに、うっとりと見とれているかのようだった。 やがて若い神は意を決したように手を葉に伸ばした。
ぱきり、と枝先を手折り、いとしげに頬に押し当てた。
「…………あ」
アプミリアは激しい動悸に襲われた。
その光景は神の創造物リ・ラヴァーのセンスに触れるものがあった。
彼の柱は汎神族の贄の儀式を行おうとしている……。
「ア、ア、アアアッィィイイイン」
汎神族の高速言語が法呪文を高らかに唱え上げた。
そして若い神は、手にした白い結晶を口に入れた。
びくん、と背がそりかえった。
天を向いた顎が小刻みに震えて、かすかな言葉を形作った。
立ち込める湯気が、桃色の光を受けて美しく光り輝いた。
アプミリアは手にした基憶剥(きおくり)の矢を弓につがえた。印象照準用のバンダナで目を覆い、神の姿を肉眼から隠した。
基憶剥(きおくり)の矢は由美歌と言う名の女神から与えられたものだ。
アプミリアは神々の戦士である護国法兵士・由美歌の命令で動いていた。彼女の使命の第一は、基憶剥(きおくり)の矢で、かの男神を射ることだった。
現実と記憶のあいまいな景色は、アプミリアに神を制する勇気を与えた。
ことの起こりは二日前の日暮れである。
暗い天幕の中で老婆は静かに口を開いた。
すでに歯を失い、唇も口腔に落ち込んだ土毛色の顔は、表情を失ってひさしかった。
「……不憫な娘よ。子を成すことも知らずに神様の元に行く娘よ。すまんのぉ。すまんのお」
独り言のように繰り返す言葉に、集められた十人の男たちは涙を流した。
「婆様。アプミリア様じゃなくてもいいだろう。娘は二百人もいるのに」
立派な身なりの若者が言った。彼は街長の息子だ。十人の男たちは皆、アプミリアと呼ばれた娘の求婚者だった。老婆は悲しみを砂のように噛みしめながら言った。
「神様が望んだのはアプミリアだ。逆らえまい」
アプミリアという名の娘の素性は知れない。しかし汎神族にかかわりのある人間であることはわかっていた。
なぜなら彼女からは甘酸っぱい神の香りがしたから。
「神様がお選びならなれたとあっては、我々にはなにも言えんのじゃ」
「はい。婆様」
アプミリアと呼ばれた娘は、異様に白い顔を上げて言った。
彼女は一年前に、ふらりと現れた。
色の薄い金髪をなびかせた背の高い娘だ。
異国の奇妙な服を着て、旅の支度もないままに、街の中央の噴水に腰掛けていた。
その街ミマラは人口千人。住民は皆、顔見知りだった。
彼女はいやが上にも目を引いた。
「……だれだ? きれいな娘だな」
「声をかけてみろよ」
「なんだか恐れ多いって感じだ。かかわらないほうがいいんじゃないか?」
「って、街の真ん中に座ってるのに放っておけないだろう」
日が高く昇り、暑さが増してくるにつれて遠巻きの人垣は増えていった。
怖いもの知らずの子供たちが数人駆け寄ってアメ玉を渡した。
娘は意外と優しい表情で、にこりと笑った。
娘は街の公民館である天幕に招かれた。わずかに話をするうちに、彼女は法呪に秀でた能力を持つことがわかった。
ミマラの街には法呪を操る者がいなかった。
彼女は才能を請われて街の住人となった。
天幕の中の人間たちが悲しみの議論をしていたとき。
彼らの恐れる巨人が、天幕の外に立っていた。
二体の従者を従えて。
人に倍する身長が、夕日に長い影を引いていた。
若く美しい巨人は汎神族だった。
身体がガラスでできているかのような威厳を身にまとい、見る者すべてを敬虔な気持ちにさせる瞳を輝かせた。
女神は青く輝く薄い金属の甲冑で胸と腹を覆っていた。すらりと長い両手両足は、複雑な多角形を組み合わせた半透明のシールで装飾されていた。
白く長い髪が頭の両側でふたつにまとめられていた。二筋になびく髪は、白銀の粉が塗り込められているのか、きらきらと輝き、女神をまぶしいほどに輝かせた。
女神につき従う従者は、人間ほどの大きさだった。
二人とも絹の白がまぶしいローブを目深にかぶり表情は見えない。一体はローブの下に武装を隠しているらしく、複雑に突き出た突起が不気味だった。
女神は今朝、日が昇るとともに姿を現した。
空を飛んで現れた女神は、広場の噴水に降り立ち言った。
「この地に住むリ・ラヴァー。応えよ」
人々は初めて汎神族を見た。
太陽に目覚めて働きだす街の朝は早い。朝焼けに染まった景色のなかで、かなりの人間が女神の訪れを目にした。人々は女神の言葉の意味を理解できなかった。初めて汎神族を見る者も多く、ただただひれ伏すばかりだった。
リ・ラヴァーとは罪の存在である。それは汎神族が刑罰として生み出した生き物だった。
女神が呼ぶリ・ラヴァーとは、ラブドエリスという名の人間の性転換複製体である。その数は世界中に八千人。ラブドエリスが汎神族に対して犯した罪の代償として造られた人間たちである。
記憶を遺伝する汎神族にとって、自分の属性にある者が複数場所に置かれる、ということは最大級の刑罰だった。なぜなら自分が知らない場所で自分の名誉が
傷つけられたとき、記憶を失わない汎神族は、不名誉の記憶を子々孫々に遺伝してしまう。本人が預かり知らぬ記憶が蔓延してしまうことを彼らは極端に恐れ
た。
それゆえに個人の複製体をばらまくということは、汎神族にとって考えられる最悪の刑罰だった。
「我が名は由美歌。私はおまえの助力を得たい」
しかし人々は、道に伏せるか家に閉じこもるかで、女神の問いには答えなかった。
女神は甘い風を巻いて歩を進めると、ベンチで硬直している老婆の頭に手を置いた。
「リ・ラヴァーを知らないか。このような顔だちの娘だ」
老婆は女神の脇に人間の姿を感じた。それは由美歌が作りだした立体的な幻影だった。
老婆は神様の姿を見ないように、そうっと目線を上げた。
そこにあった姿は、血にまみれて戦うラブドエリスの映像だった。
「うひいぃぃぃ」
老婆はものすごい勢いでベンチごと後ろにひっくり返った。
その姿は聖火香と言う名の女神の城で、彼女が戦ったラブドエリスのものだった。
「おまえもこの姿を美しいと思うか」
なにか勘違いした由美歌は喜んだ。そして路上に伏せていた男に視線を合わせた。
「おまえはどうか」
女神が歩むのと同時に、ラブドエリスの映像も男に向かって歩いてきた。
殺気にぎらついた目で、抜き身の剣を構えた姿のままに。
「あっ、あわわっ。あ! ああっ。わかったアプミリア。アプミリアです!」
男は必死に叫んだ。
「アプミリア。リ・ラヴァー七千二十か。その者を得たい」
男は神の命令を受けている自分が信じられなかった。
「アプミリアを洗浄し清めよ。塩を髪に盛り、真珠を左右の頬にふくませよ。私は夕刻に受け取る」
「は、ははい」
「おまえの顔を訪ねてくる」
「はーーーっ!」
そして街の人々はアプミリアを天幕に呼んだのだった。
アプミリアは街に伝わる守り札を胸に、女神の前に歩み出た。
女神は満足そうにうなずくと、高速言語を操り位相遷移の白い闇を周囲に巡らせた。それは他者が干渉することのできない究極の密室だった。
女神と従者は柔らかい地面……のようなもの……に腰を下ろした。そして温かい茶をアプミリアにふるまった。
由美歌と名乗る女神が微笑みながら言った。
「アプミリア。数字である名前の不憫な者よ。おまえはおまえのオリジナルであるラブドエリスを見たことがあるか?」
「いいえ。由美歌様」
「おまえはとてもよく似ている」
それはそうだろう。アプミリアはそう思った。自分は彼の複製体なのだから、と。
「魂に熱いたぎりを感じる。アピアとは明らかに違う。リ・ラヴァーがこのような多様性を見せることは興味深い事実だ」
由美歌は青磁の器から茶を飲むと、アプミリアにもすすめた。
「さて。おまえに頼みがある」
「はい」
「この地に住む汎神族である雪矢(ゆきや)様を救ってもらいたい」
淡々ととてつもないことを言われてしまった。
アプミリアは返答に窮した。
「あ……あの、神をお救い申し上げるのですか……わたしが?」
「おまえにしかできない」
「…………」
アプミリアは言葉もなかった。
「雪矢(ゆきや)様という名の汎神族だ。彼はこの地に永く住む。彼は汎神族の病に冒された」
「記憶溢れでしょうか?」
汎神族にとって、もっとも恐ろしい種としての病「記憶溢れ」。記憶を遺伝する汎神族にとって、いずれ避けられない運命の病だった。
それは神個人の最期のみならず、彼の子孫の途絶を意味した。
「違う。彼の病は「恋過去世(こいかこせ)」だ」
「こいかこせ……」
アプミリアは、不思議な音の言葉を噛みしめた。
由美歌はアプミリアの動揺を意に解することなく言葉を続けた。
「雪矢様は人の言葉でいう言葉樹を食べた。それは汎神族にとって麻薬にも等しい快楽だ。言葉樹とは結晶化した記憶の断片である。汎神族は結晶を食することによって、固定された記憶をかいま見ることができる」
「しかしこの泉には動物やクンフしかおとずれません」と、アプミリアが言った。
「熊の記憶。野性のライオン獣の記憶。草を食むもろもろの生き物の記憶。それは我々にとって人間の記憶となんら変わるものではない」
「神々は娯楽として、生き物の記憶を観ると言われるのですか」
「鹿や虎の記憶を観たことがあるか? 栗の実が持つ記憶。桜の花びらにまとわりつきこぼれる記憶。人に伝える言葉はなけれども、その美しさ、おぞましさは比べるものがない」
「神は他者の記憶をどのように理解されるのですか」
「記憶に触れる染覚(せんかく)を言うは、生まれながらの盲人に視覚を語るに等しい」
「染覚(せんかく)?」
「記憶を測る感覚である。人間にはない。おまえも汎神族の創造物たるリ・ラヴァーならば知るだろう」
アプミリアは恐怖で胃が縮むのを感じた。
色を語るように記憶を観る。
自分の持つ記憶しか知り得ない人間には、けっして理解できない概念だった。
「しかし問題がある」
由美歌が言った。
「体系だてられていない記憶は危険なのだ」
アプミリアは理解できないことを首を傾げる仕種で示した。
「染覚で得られた記憶は、我々の中で自分自身の記憶へと変化していく。一時記憶としては問題ない。しかし遺伝のレベルまで固定される過程で、記憶の防衛機能が働くのだ」
「防衛機能とは?」
「それが虎の主観としての記憶ならばまだ良い。記憶を見る側も、虎のものとして理解できるからだ。自分の記憶と混同することはない。しかしなにものが経験
したかもしれない記憶。そして愚かな獣をして、いつまでも覚えている種類の記憶がある。それが危険な記憶だ。アプミリア。なにかわかるか?」
「獣が忘れない記憶……恐怖にかかわる記憶でしょうか?」
「賢い魂よ。そのとおりだ。死に直面するほどの恐怖は、長く強く記憶されている。何者ともしれない獣やクンフの、恐怖の瞬間の記憶を、我々は観ることとなる」
「それが娯楽であるのですか」
「この世に生きとし生ける多くの生き物の考えを知り、感情に触れることは、汎神族にとって大きな喜びである」
「…………」
「そこに防衛機能が働く。印象が強力でありながら断片的すぎる記憶は、記憶の混乱をもたらす。これを制御しようとして汎神族の生理は、記憶の代償張りつけをおこなうのだ」
「記憶の代償張りつけ。それはいったいなんでしょうか」
「己の記憶の中から適当な先祖を選びだし、断片化した記憶を、その先祖の記憶として整理統合しようとするのだ」
「しかし外部から得られた記憶と神自身の記憶が、区別できなくなる道理とは思えませんが」
「そのとおりだ。明確に区別がつく」
「余剰の記憶によって「記憶溢れ」が近づくことに問題があるのでしょうか」
「違う。きわめてメンタルでロマンティックな問題だ。アプミリア」
「ロマンティック?」
「我々も生物だ。無意識のうちに異性を求めるのだ。記憶を整理統合するために、本能が選ぶのは異性だ。歳若く美しい異性の先祖を選ぼうとする」
「汎神族もまたそのような迷いを持つのですか」
「もちろんだ。汎神族も恋をする」
「……はい……」
なんとも不思議な気持ちだった。超越の汎神族が人間のように、愛だ恋だと浮かれる様は想像がつかなかった。例えて言うなら、両親がファーストキスにときめいている姿を思い浮かべるようなものだ。言葉で理解しても、ピンとくる情景ではなかった。
「雪矢(ゆきや)……さまは、ご先祖様を愛されたのですか」
「そのとおりだ。アプミリア」
由美歌は悲しげな瞳で言った。
「雪矢は記憶に恋をしてしまったのだ」
続く
|