The Third Day : September 20, 2002 (Fri)

ジャングルらしくない朝食
夜明けとともに起きだす。といっても谷底にいるので明るくなるのが遅い。

一夜を過ごしたバンブーハウスの中、かなり広い。柱に木を使っている以外はすべて竹製。隙間だらけだが寒くはない。
この人里は慣れた場所に作られたこの小屋は、何の目的で作られているのだろう。男たちが狩をするとき寝泊りするのだろうか?
この小さな蚊帳の中に二人で寝ていたが、虫がいなかったので、蚊帳の外で広々と寝たほうがよかったかも。

谷川におりて顔を洗い歯を磨く。にごり水だが仕方ない。飲まなきゃ大丈夫だろう。朝の用足しに草むらへ、村と違って人や家畜がいないので遠くまで行く必要がない。
朝食は、トースト、スクランブル・エッグにパイナップル。トーストは、二つに割った竹くしに食パンをはさんで火であぶったもの。卵は、チェンマイの市場から大事にケースに入れて持ってきたもの。自分の山歩きでは、食パンも卵も絶対に使わない食材だな。ゲストに気を使っての、白人向けのメニューだろうか?ガイド4人が食べている昨夜の残り物のほうがおいしそうに思えた。

出発前にごみを片付ける。紙類は焚き火で燃やし、生ごみは土へ埋める。プラスチック、ビニール、空き缶など自然に戻らないものはすべてリュックに詰めて持ち帰る。朝方、鼻をかんだティッシュを小屋の下へポイと捨ててしまったことが恥ずかしい。ちゃんと始末しなきゃいけなかったな。

渓流を遡行
今日の予定は、川をさかのぼり、途中こうもり洞窟を探検して、カレン族の村へ出る。そしてそして最後は温泉によってトレッキング終了。
と、一行で済んでしまう行程であるが、地図もなくPoohさんについていくだけなのでどんなコースになるか見当もつかない。
進む方向は、昨日渡ってきた川ではなく(下流の両岸は切り立った崖なのでこっちの方向でなくてほっとした)、宿営地の前で合流する小さいほうの川を遡行する。川幅は4−5メートルあるだろうか。水深は股下くらい。昨日の川ほどではないが、流れは急だ。石ころだらけの川底に足をとられそうになる。ガイド助手君が川を渡るたびに手を貸してくれて、ありがたい。今年は例年になく雨が降り、川の水かさが増しているという。水が多ければこうもり洞窟は通れないかもしれないと、またしてもおどされる。
川のほとりで一部平らな場所がある。以前にキャンプをした場所だという。確かに石を積んでかまどのような形が残っている。これでテント泊となったらエコトレッキングではなくてサバイバル・キャンプになってしまうだろう。Poohさんは鉈を片手にじゃまになる枝を刈り払いながら進む。次回のトレッキングのコース取りを考えているのだろうか。
枝をかき分けてすすんでいると腕に刺すような痛みが走る。棘でも刺したのかと触ってみるが何もない。と、すぐ後ろを来てたシェフ君がアチッ、アチッと叫びながらやぶから飛び出してきた。やはり何かに刺されたらしい。アブに刺されたような感じだが、虫が飛んでいる気配がない。いったいなんだったのだろう。
川幅がだんだん狭くなり水深もひざくらいまでになってきた。
そこにぽっかりと口をあけた洞窟がある。流れはこの洞窟から勢いよく流れ出ている。リュックを置いて一休み。この急流では、洞窟探検は中止かと思ったのだが、たいまつに火をつけ始めたではないか。おいおいいくのかよ、と思い立ちあがる。荷物は置いていくのだと思っていたら、みんなリュックを背負っている。えっ?まさか、この洞窟を抜けなければ帰れないのか!?

こうもり洞窟
洞窟の中は当然真っ暗。乾いた竹を細く割りそれを束ねたたいまつが唯一の明かりだ。ポーカレンの兄ちゃんが先頭を歩き、彼が歩いたとおりに後ろをたどっていく。
思ったより天井が高く、心配していた這いつくばってほふく行進をするような場所もなく、足元も洞窟の外と同じように川の中をジャブジャブと進んでいけばいい。ここは鍾乳洞なのだろう天井からつららのように垂れ下がった鍾乳石がある。天井ではたいまつのあかりに驚いたこうもりが何十頭も飛び回っている。羽を広げると30cmくらいあるだろうか、結構大きなこうもりだ。
洞窟を歩いた時間は10分あまりだが、その倍以上もかかったような気がする。出口部分は大きな空間になっており、乾いた場所もあって、焚き火をして雨をしのぐにはもってこいの場所だ。出口の向こうには明るい林が見えてほっとする。

最後の力を振りしぼって...
洞窟を抜け優しい流れとなった川を進む。流れが曲がったところで、田んぼが現れた。山の上のポーカレンの村は陸稲だったが、ここは日本と同じ水稲が植えてある。川の増水のせいで田の一部を削り取られた場所もある。やはり今年は異常に雨が多いのだろう。Poohさんは今年の収穫のことをとても気にしていた。
昨日から道なき道を進んできただけに、田のあぜ道を見ただけで人の生活を感じる。人里が近くなってほっとして一気に気が抜けてしまったのか、あぜ道でこけてしまった。
田のほとりでバナナの木で囲まれた小屋で一休み。川を歩くのはここでお終いなので、サンダルをトレッキングシューズに履きかえる。あー腹が減ったがまだ昼飯ではないらしい。タイ人の4人は、自家製のタバコを器用に葉っぱで巻いて吸っている。そういえば、村の中に大事に柵で囲った畑にタバコが植えてあった。何もかも自給自足できるなんてすごい。

ここまで来たら村まですぐ、と思っていたら甘かった。山の中の急な登り道を30分。汗びっしょりだ。ポーカレンの兄ちゃんはゴム製のぼろ靴をはいて、ずんずん先を進んでいく。
小屋にあがったときに彼の足をみたら、すごくごっつい足をしていた。われわれのような薄っぺらい甲ではなく、足に厚みがあるし、筋肉が盛り上がっている。
尾根道に出て歩き出した頃、雨が降り出した。リュックの中にはレインコートがあるのだが、着るのが面倒だ。川でずぶぬれ、登り道で汗をびっしょりかき、いまさら雨に濡れたところで気にならない。むしろ、雨をシャワーのように浴びるほうが気持ちいい。
山に入ってたった3日なのに、すっかり山の生活に適応してしまった。

歩き疲れて、へとへとになってやっと村に着いた。ここは、車は入ってこれても電気まではまだないようだ。ピックアップトラックが、われわれを待っていてくれた。
一昨日とまった村から男が来ていて、鶏を買いに来ていた。豊作を祈るための生贄にするのだという。自分の村の鶏だけじたりないのだろうか?
ポーカレンの兄ちゃんはとは、ここでお別れ。われわれと一緒に車に乗って、初日に歩いた道を帰るのかと思っていたら、再び、山を下り川を渡って歩いて帰るという。彼にとっては車で遠回りするよりもそのほうが早いのかもしれない。しかし、この降りしきる雨でまた増水していることだろう。大丈夫なのだろうか。
トラックの荷台に乗って、さあ出発。幾重にも連なる山と、パッチワークのように斜面に広がる焼畑。これで見納めかと思うとさみしくなってくる。村の夜もジャングルの夜も、感動の体験だった。

国道沿いの雑貨屋に到着。Poohさんはそのまま車に乗って自分の車を取りに行く。待っている間、雨はますます激しくなり土砂降りだ。店の横のドラム缶にためられた水で体を拭く。雨に濡れた上に、車の荷台で風に当たったせいで寒くて仕方ない。店のおばさんが、インスタントラーメンを作ってくれた。あったかいものがうれしい。普段なら山から下りたあとのビールが何よりもうまいのだが、今日はビールよりも暖かいインスタントラーメンの方がうまかった。

温泉
帰りの車に乗ってからは、疲れきってもう話をする元気もない。コース案内には、最後に温泉に寄るとあったけどいったいどこにあるんだ。
国道からわき道に入りしばらく行くとなんとなく湯気のたっている原っぱがあるが、大きな看板もないし、ホテルもプールもない。
管理棟とおぼしき建物に行ってみるがカギがかかっていて誰もいない。あたりで草刈でもしているのかとクラクションを鳴らしても誰も出てくる気配がない。どうやら雨季で人もこないので今日は休みらしい。
源泉とおぼしきあたりでは、何分間おきかに蒸気とともにお湯が噴出している。近くまで行って流れに触れてみると手をつけられないくらい熱い。竹の皮がまわりに散らかっているところを見るとここで竹の子をゆでる人もいるのだろ。日本人としては。ぜひ温泉卵を作りたいところだ。
サービス精神旺盛なガイドPoohさんとしては、疲れた客をこのまま返すことはできないと考えたのか、強硬手段にでる。なんと湯船のあるバンガロー風の建物のカギを外して無理やり戸を開けてしまった。
建物の中は、ブロックの床になっており、まん中に5m×5mくらいの浴槽がある。バルブをひねってお湯をたっぷりと注ぐと見る間に湯気が立ちこもる。ガイドもみんなでお湯につかってのんびりする。疲れたあとはこれでなくっちゃ。

あとは、ひたすらチェンマイに向かって車を走らせる。それにしても、Poohさんは細い体に似合わずなんてタフなんだろう。あれだけ歩いた後によく運転していられるもんだ。
途中、市場により魚を買う。チェンマイに戻ったら晩ご飯をご馳走してくれるという。最終便の飛行機までどうしようかと思っていたので本当にありがたい。
市内に近づくとともに車の数が増えてきて、街の広告塔の光が増えてきた。山から帰るとき、このときが一番いやだ。街の明かりが見えてくると、楽しかった時間から現実の時間へと一気に連れ戻される。

Poohさんの事務所に戻ると、奥さんが子供をあやしながら迎えてくれた。1歳と2歳くらいだろうか年子の男の子で一番手がかかる頃だろう。Mさんは、紹介してもらった近くのゲストハウスへ荷物を置きに行く。私は、3日ぶりに無精ひげを剃ってさっぱりする。
夕食は、事務所の前のテラスで、元ホテルシェフが作ってれた魚をみんなでいただく。大きな魚を中華風に料理してくれて本当にうまい。
最後は、Poohさんに空港まで送ってもらいチェンマイを後にする。
商業主義ではなく、現地のポーカレン族のことを本気で考えている、Pooh Eco Trekkingのやり方が、もっと広まってくれればと願わずにはいられない。

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