The First Day : September 18, 2002 (Wed)

チェンマイ到着
Bangkok発Chieng Mai行の始発機は予定通り7:40に到着。到着ロビーにはインターネットで予約しておいたPooh Eco-Trekkingのスタッフが迎えに来てくれているはず。なのに、見渡したところ、ゲート前でずらりと並んだガイドが持つネームプレートにオレの名前が見当たらない。仕方ない、これもよくあることだ。
10分位して一人の小柄な男が急いでやってきた。あっ、オレの名前を書いた紙切れを持ってる。
彼の車に乗って事務所へ行く。話をすると彼自身がPoohだという。小柄で、英語が堪能。Poohという名前から勝手にプーさんみたいにでかくて太った人なんだろうと勝手にイメージしていた。
数分だけど車から見るChieng Maiの街は、緑が多く高いビルもなくて落ち着いた感じの街だ。事務所に着くと、奥さんが二人の子供を抱えて店番をしている。アットホームな旅行代理店だった。ここで、もう一人の日本からの参加者と顔合わせをする。シーズンが悪いせいかほかの参加者はなし。外国人が混じっていないので言葉で困ったり気を使わなくてもよさそうだ。ただ、相手の日本人にしてみれば、何で海外に来てまで日本人と一緒にならなければならないのか、と不満かも?
ここで、トレッキングのためにパッキングをし直す。すでに日本を出るときからトレッキング用の装備で来ているのだが、新たにシュラフが加わったので、いらないものや貴重品をリュックから引っ張り出して事務所へ預けていく。奥さんによるとパスポート、帰りのチケット、現金さえも必要ないから置いていっていいという。お金を使うのは山を下りてからのビール代くらいだろうと言う。いったいどんなところへ行くのか。
持ち物で一番迷ったのはレインコートだった。雨季なので雨は降るだろうが、スコールみたいな雨じゃ、とても歩いていられなだろうし...と思いつつも、せっかくここまで持ってきたのだからと、結局持っていくことにする。

8時半にオフィスを出発。年の功で助手席に乗り込む。後部座席には、もう一人の日本人Mさんのほかに現地人が二人並んで座り窮屈そう。こいつら何者?と聞いてみると、シェフとサポートで一緒に行くという。単なる観光ハイキングではなく、本格的なトレッキングの予感。
車は、市内へ向かう出勤の車とは反対に郊外へ向かっていく。路の両側にはゴムの木の大木が並木をつくる。昔の王様が作ったそうだが立派なもんだ。

市場で食料買出し
30分ぐらい走っただろうか。小さな町の市場で食料の買出し。野菜、肉、魚、雑貨まで何でも売っている。
買い物の前に屋台でお茶を飲む。セルフサービスでカップにお茶の葉を入れ、お湯を注ぐだけ。茶葉が開いて沈んだところを飲む。機内でサンドイッチがでたのであまりお腹はすいていなかったが、Poohさんがおいしそうに食べるのを見ていると、つられてほしくなる。ご飯の上に唐辛子の野菜炒めと目玉焼きを載せただけなのだが、うまい。昨日までのレストランの味とは一味違う。こういう現地の食い物のほうが性に合っている。
野菜に卵に水などどっさりと車に積み込み再出発。どこまでも続く田舎道は眠気を誘う。Poohさんがいろいろ話しかけてくるが、申し訳ない。早起きしたから眠くて仕方ないんだ。時折り夕立のようなどしゃ降りの雨がとおり過ぎる。行く手の山々は厚い雲がかかっているずっと雨だったらどうしよう。
途中で脇の国道へ入る。タイの中でもっとも高所を走りカーブが多いハイウェイ(国道)だという。
お昼、国道沿いにある一軒の雑貨屋で車が止まる。ここの店先のテーブルでランチ。朝市で買ってきた焼きそばとここで作ったスープ。雨が止んで青空がのぞいている。

ポーカレンの村へ向かって
ここから先は、ピックアップ(小型トラック)へ乗り換える。乗るのは座席ではなく、後ろの荷台。かぼちゃと一緒に風に吹かれていい気分。標高が高いので風がさわやかだ。山の斜面に張り付くように畑と点在する村が見える。Poohさんはすれ違う人皆に声をかけて親しそう。このあたりに住んでいたことがあるのだという。
車は谷へ向かって下っていく。いつしか舗装道路から砂利道へと変わり、こんな急勾配の坂、下りはいいけど登りはどうするんだ、というような道になり、突然川が出てきて、行く手をさえぎられる。対岸にも道は続いているのだが、橋はない。乾季には水量が減って車でもわたれるのだろう。鉄筋なんかの工事材料が積まれているのを見るとどうやらこれから橋を作るらしい。
村人の乗ったピックアップが先に着いていた。見ていると、みな靴を脱ぎズボンのすそをまくって川を渡り始めた。
えー!いきなり渡渉かよ。と、びっくり。Mさんと顔を見合わせる。ここで車から荷物を全部降ろして今夜泊まる村まで歩いていかなければならないという。1リットル入りのミネラルウォーターを2本手渡され、リュックに押し込む。シューズをサンダルに履き替えていよいよ出発。
川は、茶色の水が勢いよく流れており、水底が全然見えなくて深さもわからない。先に行く村人の様子を見ると、女でも渡る位なのでなんとかいけそうだ。水深は股下まで水につかり短パンの裾が少しぬれる程度。水底が砂だったので歩きやすかった。


車はここまで、荷物をまとめる

ホントに川を渡り始めた

力を合わせればバイクも渡る

川を渡ると後はひたすら坂道を登らなければならない。山の中の登山道ではなく、一応車も通れるように切り開いた山道(林道)だ。サポート君が道案内で先頭を歩き、Mさんと俺が続く、シェフ君はずっと遅れて歩き、Poohさんはちゃっかりとバイクに2人乗りして先に行ってしまった。
赤茶けた乾いた土が粘土のようにカチカチに固まってる。雨が降ればドロドロになるのだろう。木陰がないので陽射しに負けそう。少し上り坂を歩いただけで汗がどっと噴きだす。国道沿いのコンビニで買ったリフレッシュ・タオルを鉢巻にして汗が流れ落ちるのを止める。目の前を歩くのは、年寄りに女子供が10数人。さっき川を渡っていた人たちだ。この先の村人なのだろう。途中で休んだりしながら楽しげだ。中には妊婦もいるけど、荷台で揺られたり、ハードな歩きをして大丈夫なのだろうか。
もくもくと歩いていると、「なんでオレこんな南の国の山道を、現地人と一緒になって汗をかきながら歩かなきゃならないんだろう?」と考え込んでしまう。
「四十にして迷わず」なんていうけれど、厄年を迎えたこの年になっても、いまだに迷いっぱなし。「人生を折り返しはじめた今、オレはいったい何やってんだろう?」
...てな、ことを考えつつも歩くこと1時間たって、やっと小休止。斜面の畑には陸稲が栽培されていてちょうど開花時期だ。道端にはオジギソウがいっぱい生えている。ここでは、ただの雑草扱いだ。
さらに30分ほど歩き、4輪車が通れないような道になったころ、谷をはさんで目的の村が見えてきた。山の上のほうの斜面に何軒かの茅葺のような屋根が見える。山の中から牛の首につけた鈴の音がカランカランと聞こえてくる。谷を流れる川にはひしゃくが置いてあり、人の生活が感じられる。村の手前からなぜか道路がコンクリートで舗装されている。車も来ないのに。

ポーカレンはツーリストに無関心??
3時半。やっと村に着いた。女の子が何人か道で遊んでいる。一足先にバイクで着いたPoohさんが、高床式の家の縁側に村の男たちと一緒に座って、われわれを呼んでいる。道端にリュックを下ろし、シューズを脱いでサンダルに履き替えてやっと人心地ついた。この村で作ったという酒、無色透明の焼酎のような酒だ。グイ飲みくらいの杯で回し飲みをする。ウォッカのように一気にあけなければならないのか、あるいは、少しずつ飲んで杯を回すのかよくわからないが、勧められるままに飲むしかない。思いっきり汗をかいて疲れた体に、よく効く。

少しほろ酔い気分で、今夜の宿へ向かう。といっても、十数軒あるバンブー・ハウスのうちの一軒だ。コンクリートの道からぬかるんだ坂道を数メートル入ったところの家だ。梯子を上るとテラスがありそれをはさんで右に囲炉裏がある母屋(といっても一部屋だけだが)、左に一部屋の離れ?がある。この離れの部屋が今夜のホテルだ。
いつもは誰かが寝起きしているらしく、天井の梁に洗濯したパンツが干してある。村人との雑魚寝じゃなくて少しほっとする。汗で濡れた服を着替えて、さっぱりとする。暑くもなく、蚊やハエもいない。家の下にはニワトリとブタがごそごそとえさを探して歩き回り、犬はその辺で残飯をあさっている。
Mさんと2人で村の散策にでる。小さい子供がかずらのような長い紐で大縄跳びをやっている。女の子の無邪気な顔がかわいいので写真を撮ろうとカメラを向けると草むらに隠れてしまう。なんて素朴な村なんだ。今まで旅行してきた国では、どんな田舎に行ってもマネーマネーとよってくる子供はいても、カメラを向けて恥ずかしがるような子はいなかった。
ここの村では、外国人が村の中を歩いても、全然声もかけてこないし、後をついてもこない。外国人を受け入れるのに慣れているのか?それにしては、観光客向けのみやげ物も物売りもいない。こちらも、村の人たちを邪魔しないよう気を使う。きっと、これがPoohさん自慢のエコ・トレッキングということなのだろう。

お茶を飲んだ後、サポート君が村の中を案内してやるというのでついて行く。一軒の家の縁側に上がりこんで、おばさんに糸巻きの道具を見せてもらう。写真を撮ろうとするとさっき縄跳びをしていた女の子がやってきた。ここの家の子だったんだ。おばさんは、結構乗り気で服の襟を直してポーズをとったりしている。試しにデジカメで撮って、ほら、こんな具合に写ってるんだよ。と見せたら、大騒ぎになってしまった。ここの人たちには、まだ刺激が強すぎたか。村中の子供が集まってこないうちに早々にしまいこむ。

しかし、騒ぐといってもほかの国のようにまとわりついてくるほどの騒ぎ方じゃない。珍しいものをよく見たいんだけど、恥ずかしくて、少しと遠巻きにして、どんなものなのかな、と様子を気にしている様子。シャイな部族なのか。

村の小学校
次は、村の一番上にある小学校を訪ねる。さっき子供たちが一斉に家に向かっていたので、今日の授業は終わったのだろう。まず最初に見えたのは、壁のない屋根と柱だけの細長い建物。黒板に向かって机と椅子が並んでいるので教室とわかる。九九の表と全員の歯磨きセットが、壁のベニヤ板にかかっている。さらに奥にはいろうとすると、若い女の先生と出会った。なにやら不審者を見るような目つきで、あまり歓迎されていない様子?今までの旅行者はここまでやって来ないのか?そのまま通り過ぎるわけにもいかず、日本からのTouristであやしものではないと説明し、生徒数とか当たり障りのないことを聞いてみる。この小学校へはここの村だけでなく、近くの2つの村からも通学していて、児童数は130人とか言ってたかな。中学は、ほかの村まで行かなければならないらしい。
グランドには、バレーボールくらいのネットが張ってあり、セバタクローをやっていた。1チーム3人でバレーのようなルールだが、違うのはボールを足でけること。小学生くらいの子供からヒゲをはやしたオヤジまで一緒に遊んでいる。ボールを足で操るのはむづかしそうでとても仲間に入れそうにない。

月明かりの夜
夕暮れのひと時は、バンブーハウスのテラスで過ごす。西側が山なので日が暮れるのが早い。
あたりが暗くなりソウソクの明かりが灯るころ夕食の準備ができた。食べる場所は、メインの部屋へ入る前室の軒下の一間、一応靴を脱いであがらなければならない。料理の内容は現地メニューではなく、チェンマイの市場で買ってきた食材を、シェフ君がうでふるって料理してくれたもの。野菜と肉の炒め物、スープ、カレンライスの3品だ。炒め物もスープも香辛料が効いて程よい辛さ。旅行5日目にして、もうタイの味に馴染んでしまった。カレンライスは赤米だ。この家の人たちとは別の料理のようで、Mさんと二人だけで食べる。
Poohさんが料理をつまみながらいろいろと話してくれる。今はまだ、この村は道路も電気もない状態なので、ポーカレン族としての生活が残っているが、数年先、道路が開通したときに村の生活がどうなるかとても心配している。急に文明が入り込み、観光客などが押しかけてきたとき、この村の人たちは一体どういう道を選択するのだろうか。Poohさんは、急激な変化が何もかも打ち壊してしまうことを恐れている。
"Slow Change"流れに巻き込まれないよう、豊かな生活と彼らの文化を守ってほしい。

夕食後、テラスにゴザを敷き寝転んでを見る。雲の合間に見える月は、半月よりちょっと満ちている。それでも村の建物とか周りの木々が見えるほどに明るい。月明かりがこんなに明るいということを忘れていた。学生の頃、山の中にキャンプして電灯のない夜を体験していたずなのに、こんなにゆっくりと月明かりを見たことはなかった。人のいない自然だけの山の中でひとりぽつんといるのではなく、人が生活している村の中で、月明かりを見ているから、不思議に感じるのかもしれない。
しばらくすると、今度は家の中に招き入れられる。囲炉裏のそばに男たちが集まって、酒を飲み話をしている。囲炉裏のそばでは、ちょうど煮あがった肉をくしに刺して、囲炉裏の上の棚に並べていた。冷蔵庫がないからこうして、燻製にして保存するのだ。酒は、村で作ったローカル・スピリッツのほかに、中国の紹興酒をウィスキーだといって飲んでいる。これはPoohさんからの差し入れなのだろう。見かけがナツメのような木の実をざるに入れて持ってきた。ゼリー質の果肉に真ん中に大きな種がある。ちょっとすっぱいが、みなおいしそうに食べている。種を出して床の隙間から床下に捨てていると、向かいにいた男が、いや、種子ごと食べるんだと、口の中が空になったのを見せる。大丈夫なのかよと言いたくなる。
Poohさんの説明によると、今年の農作物の出来だとか。今後の村の発展はどうあるべきか等など。熱く語っているのだという。かくいう、Poohさんも自分が始めた、エコ・トレッキングについて熱く語るのであった。

にぎやかな夜
この村に入ってから時計をはずしているので、何時に寝床に入ったのか覚えていない。
竹の床に竹の壁、屋根はかやぶき。床の竹は、細く割って板のように広げてあるので、節や竹の丸みが背中にあって痛いなんてことはない。寝袋に入ってろうそくを消すと真っ暗。
車もテレビもラジオもない生活だから、きっと静かな夜だろうと思っていたのだが、予想外に騒がし夜だ。まず、バンブー・ハウスには防音効果がまるでないので、隣近所の団欒のおしゃべりが全部聞こえてくる。楽しい笑い声ならいいけれど、夫婦喧嘩なんかしたら、村中全部つつ抜けだな。
人の声のほかにも、昼間はあまり気にならなかった犬の鳴き声、鳥か動物の声が聞こえてくる。
夜半に雨。萱の屋根でも雨音が聞こえる。毛布1枚では寒くなってきた。明日の天気を祈りつつ再び眠りに。

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