The Second Day : September 19, 2002 (Thr)

早朝の散歩
明け方、ニワトリ声で目覚める。村中のニワトリが朝を知らせるために騒ぎ出したようだ。あたりはまだ暗いのに人も起きだす。
山の上から日の出を見ると、村に朝日があたる様子がとてもきれいで、運がよければ雲海も見えると、昨夜寝る前に言われていたので、散歩に行くことにする。幸い雨は上がっているが、曇っていて日の出が見えるかどうかはわからない。
散歩の目的は、もうひとつ。朝の用足しである。この村にはトイレというものがない。みな家の周りで適当に済ませ、排泄物はブタが始末してくれるという。小便なら道端でもどこでもサッと済ませられるのだが、大便のほうはそうはいかない。家の周りでは、人に見られていそうでとても用足しなどできない。そこで、村から少し離れた畑まで行き、茂みの中で済ませることにする。
村の中は、なぜかコンクリートで舗装された道があり歩きやすいのだが、村から出ると泥の道。昨夜の雨でぬかるんでいて歩きにくい。土の上を歩くのが当たり前だったのに、いつの間にか泥で汚れることを避けるようになってしまった。
結局、雲が多くて晴れそうにないのと、山へ上るための小道も見つからなかったので、日の出はあきらめて村へ帰る。
村では、家の軒下にある臼で女たちが米をついている。臼は木をくりぬいたもので、杵のほうは4、5メートルの棒の先についており、シーソーのように真ん中に支柱があって反対側を足で踏んで杵を上下させるものだ。こうして毎朝、その日のご飯のために精米しているのだ。

朝の通学、出勤のため家々から人がたくさん出てきた。若者が意外と多い。小学生は村の上の小学校へ。中学生は、ほかの村まで歩いていくのだろう。若者や大人たちはどこへ行くのだろう?畑仕事に行きそうな人もいるが、町まで行く人もいるのだろうか?一晩だけの滞在じゃ、そんなことまでわからない。
いったいここの人たちは、どうやって生計を成り立たせているのだろうか。

朝食は、シェフ君が腕をふるってくれて、パンケーキとジャムに紅茶。パンケーキの中にカスタードクリームが入ってる。生焼けの生地かと思ったけどちゃんと甘かった。囲炉裏の火にフライパンひとつでよくこんなにできるもんだ。

村の酒屋

午前中は、村人との交流。ということでPoohさんが村の中を案内してくれる。
まず、入っていったのは、昨日から飲んでいるお酒を造っている家を訪問。今朝は、ちょうど酒造りの仕上げにかかっていて、もうじき出来上がるところなので、運がいいといわれた。
家の中に入ると少し暑くてむっとした感じ。囲炉裏に大きな瓶がかけてあり、密閉したふたから筒が下に向かって伸びて、そのまま水をはったタライにつけた小さな瓶につながっている。これが蒸留装置なんだ。
二つの瓶は素焼きの土器、二つをつなぐパイプは竹かな?接続部分は、蒸気が漏れないように、発酵させた後の酒粕を固めてつめている。それぞれを縛っているのは、竹を細く裂いて作った縄だろうか。すべて、このあたりで手に入る材料でまかなえる。酒造りは、大層な技術と道具が必要なんだと思っていたけど、原理さえあっていれば意外と身近にできるものなんだ。
おばあさんが囲炉裏のそばに座り込み、小さな瓶に水をかけ、蒸留されたアルコールを冷やす。いくら間単にできるといっても手間と時間はかけなけらばならないのだ。
出来上がった酒をビンに移して出来上がり。ビールの大瓶くらいのビンに4本半くらいできただろうか。時間をかけて作った割にはちょっと少ない気もする。これでは村人みんなに行き渡らないのではないか。普段はあまり飲まないのか。
さっそく出来上がったばかりの酒をいただく。昨日飲んだ酒よりずっと香りがいい。焼酎のようだがクセがない。

この家のご主人の刺青を見せてもらう。ポーカレン族の風習で腕や脚に細かい模様の刺青がある。3日ほどで一気に仕上げたという。痛そう。最近では刺青をする若者はおらず、このおじさんの世代が最後の刺青世代になるのだろう。
機織り
別の家の軒先では、機織りを見をしていた。綿花から糸を紡いで、染色し、織物にするまですべて村の中で自給できるそうだ。
ただ、最近では自然の素材で染色するのではなく、色鮮やかに染色された糸を買ってきて織ることが多いそうだ。確かにそのほうが手軽だし、色もきれいだろう。

小学校
出発まで時間があるので小学校を再訪する。昨日覗いた壁のない低学年の教室は、子供たちでいっぱいだ。
グランドでは今日もセバタクローをやっている。ここの校長先生だと紹介されたおじさんは、昨日子どもたちと一緒に遊んでいたひげのおじさんだった。今日は、校庭の隅で何か作業をしている。やっぱり用務員さんかなんかと間違いそうだ。
低学年の教室ではお昼ごはんの時間。教室の後ろに置いた大鍋でかぼちゃのスープを作っていて、先生が順番におわんについで行く。御飯は各自が家から持ってきている。食後は、壁にかけてある歯ブラシでちゃんと歯を磨くように教えているのだろう。

トレッキング出発
11時。二日目の行程に向けて出発する。今日も川を渡らなければならないのだが、雨のため川の水かさが高くて渡れないかもしれないが、とにかく行けるところまでいってみよう。村の若者がヘルパーとしてひとり加わり6人のパーティとなる。
昨日、谷から上がってきた道とは反対の方向に小道をたどっていく。雨上がりで多少ぬかるんでおり、道幅は田んぼのあぜ道くらいか。車は通れそうにない。
山の斜面には陸稲やキャベツの畑が見える。朝の酒が効いてほろ酔い気分のトレッキングだ。

次の村でランチ
1時間ほど歩くと次の村にたどり着いた。昨日泊まった村より家の数が少ない。
一軒の家に上がってランチタイム。ここの囲炉裏を借りて調理を始める。
食事ができるまでの間、メロン(というよりウリ)を切って勧めてくれる。硬くて甘みはないが、歩いて疲れているのでさっぱりとしておいしい。ここでは外国人がちょっと珍しいのか、家の者や近所の2、3人がおしゃべりしながらわれわれを見ている。昼間から10代の少年が家にいてぶらぶらしている。学校は終えたけど、進学はせず家の仕事をしているそうだ。町の生活を知ったらこういう若者は村に帰ってこなくなるんだろうな。
その少年がカブトムシを見せてくれた。捕まえたカブトムシを餌になるサトウキビに糸で結びつけて、軒下につるしている。2匹の角をがっぷりと組み合わせ、相撲をさせて遊ぶのだ。

昼食は、マカロニにトマトソースを絡めたもの。昨夜燻製にした肉が入っている。少し甘い味付けだ。
囲炉裏では、タイ人用にもうひとつ別の料理ができていた。野菜の炒めものに魚が入っている。一口大のご飯を手にとってまるめ、具をつけて食べる。魚は塩付けにされたものでかなりしょっぱい。昨日の市場で買ってきたのだろうか。この山の中では塩漬けの魚でも珍しいのだろう。
Poohさんは、村の中のいろんな家を回りながら薬や日用品を配っている。お金をもらっているのかどうかわからないが、こうして月に何度か村人の必要物資を運んでくることで信頼を得ているのだろう。村人が旅行者に物売りに来ないのは、Poohさんが村に対して何らかの還元をしてくれているのだろう。

村人の話では、この先われわれが行こうとしている道は、川の水かさが多くて、今朝出かけた村人が渡れずに帰ってきたという。心配ではあるが、ここまできたらわれわれはガイドに付いて行くしかない。
村を出てさらに狭い山道を歩く。今度は登山道のような道だ。人が一列でないと歩けない。ずっと急な下り道で、川が渡れなくてこれを引き返せといわれたらさぞかし大変だろうと思いながら、ひたすら1時間ほど下る。

川を歩く

やっと視界が開けたと思ったら、そこが川だった。両側は急な斜面の森が迫っていて、川原なんてほとんどない。茶色の泥水が勢いよく流れている。昨日渡った川よりずいぶんきつそうだ。ここから先、この川を三度わたらなければならないという。登山靴をサンダルに、ズボンをトランクスの水着に替えて、カメラなどの濡れてはいけない物をビニール袋につつんでリュックにしまい込む。
ポーカレンのお兄ちゃんが先頭を行き、続いてPoohさん、Mさんとわたし、シェフとヘルパーがそれに続く。最初は、川岸の茂みの中とか岩を巻いて水際を進んでいたが、ついに渡渉ポイントに付く。
まず、ポーカレンのお兄ちゃんが、われわれの荷物を頭に載せて向こう岸へ運んでくれる。見ていると深いところでは胸の下まで水につかり、流れに押されている。荷物も先に運んでもらい、いざ、水の中へ入ってゆくと、流れがかなり速い、川底は砂ではなく大きな石がごろごろしていて不安定だ。サンダルが流れに押されてなかなか前に踏み出せない。半分くらい渡ったところで、あっ、左足がすべた!と思ったととたんにバランスを失い水に流されてしまった。と、その時ポーカレンの兄ちゃんが川に入ってきて、手をつかんでくれたのでやっと助かった。手をひてもらってやっと対岸にたどり着いた。
全身びしょぬれ。こけたときにひざを突いたらしく血が出ていたが、どんな格好で倒れたかなんてぜんぜん覚えていない。あ〜、こんなタイの山中で行方不明にならなくて良かった(ちょっと、大袈裟か)。この後、2回の渡渉ははじめっから手を引いて渡してもらった。ポーカレンの兄ちゃんに感謝!

最後の渡渉をする前に、やっと今夜とまるバンブーハウスが見えた。今歩いてきた川ともうひとつの谷川が合流する地点。大きな木の下の小屋が見えてほっとした。先が見えたことで、3度目の渡渉に元気が出る。

森の中のサバイバル

宿営地に着いてほっとするものつかの間、暗くなる前にみんなそれぞれの仕事をこなしていく。
ポーカレンの兄ちゃんは、山から青竹を切り出してきて、大きな鉈ひとつで竹の枝を落とし、青竹の筒を細工していく。Poohさんと助手君は火をおこし、調理の準備を始める。筒状にきった青竹を使ってお湯を沸かしたり、ご飯を炊いたりする。シェフ君は、今夜の食材にと、山の中に入って野草を取りにいった。
さて、Mさんと私は、さて何をするか。事前にみたトレッキングの説明では、「2日目の午後、ジャングルの中でサバイバル術を学ぶ」とあったので、自分で火をおこし、竹を切り出してこなければならないのかと思っていたのだが、どうやら、お客さんは彼らが行うのを見て、説明を受けるだけらしい。かといって、自分でやれといわれても、川を歩いてきてヘトヘトに疲れて、そこまでやる元気はないが...。小屋の前でぼんやりしていても仕方ないので、薪にするため流木を集めたり、鉈を借りて、青竹の端材を使って箸作ってみる。削って形を整えているうちに、だんだん細くなってしまった。こんなはずじゃなかったのに。
ポーカレンの兄ちゃんは、使い慣れた鉈一丁で器用に竹からカップやスプーンを作ってくれる。カップは片方の節を残して輪切りにすれば簡単に作れそう。スプーンの方は、手が込んでいて、節の部分を上手に使って食べ物を掬うための丸い部分を作り、口に入るものなので痛くないようにと丁寧に磨いてくれる。
もう一人の職人、シェフ君は焚き火と中華なべひとつでカレーや炒め物など3種類の料理を作ってくれた。一つの料理が終わると、なべに灰を一掴み入れ、川の水でさっと洗って汚れを落とし、次の料理に取り掛かる。灰を使えば油汚れも落ちて、環境にやさしい。さすがエコトレッキングだな。んー、それにしても段取りがいい。


今夜のメニューは、カレー、現地調達の山菜の炒め物、それに、これまた途中の倒木で見つけたキクラゲ入りの野菜炒め。青竹を半分に切った器に盛り付ける。
ご飯は、両端の節を残した青竹にの側面に小さな穴を開け、米と水をいれて火にかけて炊いたもの。竹の黒くこげた部分を鉈でそぎ落とし、たて半分に竹を割ると、おいしそうな炊き立ての白いご飯が湯気を立てて現れた。うまそう。
バンブーハウスのテラスにロウソクを立てて食卓の完成。6人みんなで車座にすわり料理を囲む。いろいろ話を聞きたいのだが、ポーカレンの兄ちゃんは寡黙だし、英語、タイ語、ポーカレン語の全部がわかるのはPoohさんだけ、通訳を頼むには忙しすぎる。

ジャングルの夜
寝る前になって着ている物がやっと乾いた。川でぬれるのを避けるため、腕時計をはずしたままなので、何時ごろなのかわからない、というか、日が暮れて暗くなり眠くなったら寝ればいいという生活なので時間を確かめようとも思わない。
テラスから空を見上げると、雲が多いながら山の尾根から十三夜の月が出ている。川の音と風の音だけ。木々の影がはっきり見える。こんなところに一人でいたら心細くてたまったもんじゃないが、4人のガイドのおかげで隙間だらけの小屋が立派なゲストハウスに思え、安心できる。
小屋の中に蚊帳を吊ってくれて、その中で寝袋にもぐりこむ。

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