YEW冒険譚

ドタバタ☆ピクニック編

第弐章  巻き起こる騒動


 過程をさくっと無視して、ここはYEW近郊の高原。


 風は暖かく、辺りには季節の花々が咲いていた。
 朝からの雨の所為で多少地面が湿っていたが気にするほどではなかった。
 むしろ雨上がりの清涼な空気が辺りを満たしていて心地いい。

 

 ミチコは木陰にシートを引くとそこに荷物を置いて腰を下ろした。
 ヤスコもまたそれに習う。

 そんな様子にまったく見向きしないで元気一杯なアーク。


「よし。じゃー、探検に行くっす!!」
「勝手に行くでし」
「ウゴ、来ないっすか?」
「ウゴは朝の儀式で疲れてるでし。
 ゆっくりくつろぐんでし」
「儀式って…」


 思わずウゴを見つめるミチコ。
 ウゴは気にすることもなく、寝転がってミチコの膝へと頭をおろした。
 いわゆる膝枕って奴だ。


 鹿の角が股にあたってけっこう痛い。
 てーか、角がうざったい。


「ウゴちゃん」
「でし?」
「その鹿、取ってくれる?」
「だめでし。
 昨日も言ったけど、これはウゴのポリシーなんでし」
「ウゴちゃん。
 それ取ってくれないなら、膝枕は中止ね」
「……」


 ウゴは起き上がってじっとミチコの股を見つめ…


 ポリシーVS膝枕


「…寝るには帽子は邪魔でし」
「うふふ、そうよね」


 
……ポリシー完敗


「んじゃ、ソイソ。
 行こうっす」
「わたし?
 まあ、いいけど…」


 アークの言葉に頷くソイソ。

 せっかく遊びにきたんだ。
 ここでのんびりするのも悪くはないがせっかくここまで来たのだから
あちこちを見て回りたい。

 アークについて行こうとするソイソを横目で見ながらヤスコが腰をあげた。


「そんじゃ、あたしも行きますか」
「あら、ヤスコさんも行きます?」
「ええ、アークをほっとくと何するかわかんないですから」
「…あはは、がんばってくださいね」
「…はい」


 ミチコからどこか乾いた笑いと同情の視線を受けながら
ヤスコは肩を落として頷いた


「それじゃー、しゅっぱーつ!!」


 なんか、ノー天気なアークの掛け声にむかついて
ヤスコが無言で殴ったりしたのはここだけの秘密だ。


 …怖くて誰も突っ込めなかったし。





 そんでもって、高原付近の森の中。

 目の前には朽ちた廃墟があったりした。


「うにゅ、何これ?」
「遺跡か何かみたいね」
「もう、盗掘された後みたいだ。
 めぼしいものは残ってないだろうね」


 ソイソの言葉を気にする風もなくアークは遺跡へと足を向けた。


「もしかすると、何かあるかもしれないっす。
 冒険っす!!」
「「…はあ」」


 すでに説得は諦めて後に続く二人だったりした。



 遺跡の中は完全に調べ尽くされていた。
 めぼしい物も魔物の影も見えない。


「やっぱり、何もないわね」
「まあ、こんな目立つとこにある遺跡だしね。
 第一、何か残ってたら逆に厄介よ。
 私達じゃあ何も出来ないんだから」
「ま、そうなんだけどね」


 実際、敵が現れたとしても純粋な戦力はノー天気の塊の
アークくらいしかいない。
 ヤスコはもともと荒事は苦手だし、ソイソも陸の魔物相手では
勝手が違うだろう。

 そもそも物見遊山的な気持ちで来たのだから別に何もなくてもかまわない。
 安全に事が進むならそれに越した事はないのだ。

 そんなことを考えていたヤスコにソイソが声をかけた。


「…でも、まったく何もない訳でもないか」
「ん?」
「ほらそこ」


 見ると
あからさまに床の色が違う一角があった。
 わざとらしすぎて呆れてしまう。


「…罠?」
「でしょうね。
 といっても、あからさま過ぎて誰もかかってないみたいだけどね。
 ほらそこにも…」


 そういってソイソはすぐそばの壁を指差した。
 視線を転じると、そこには壁に埋め込まれたボタンらしきものがある。
 これまた
怪しさ大爆発だ。


 その近くには何故かアークの姿。


 ぽち


 何のためらいもなくボタンを押すアーク。


「…今、何押した?」
「うぃ?」
「あからさまに罠じゃない!!」
「うぃ。でも、ボタンがあったら押すのが人としての義務…
ぐふっ
「そんなふざけたことを聞いてるんじゃねー!!
 余計なことするなっていってるんだ!!!」


 ソイソの怒りの一撃を受けて華麗に空を舞うアーク。
 その直後、ソイソ達の足元がぱっかりと割れてに漆黒の闇が広がった。


「「きゃぁぁぁぁっ!!」」


 ソイソ達はそのまま闇へと落ちていく。

 アークはソウルフルに捻りを加えて回転しながら、先ほどの色違いの
床へと激突した。

 その直後、崩れる床。


「うぃぃぃぃぃ…


 アークもまた闇へと落ちていった。





 その頃、ミチコとウゴはまったりとくつろいでいたりした。

 春の日差しが心地いい。
 そろそろ、太陽は中天へと上がろうとしていた。

 昼寝も一段落ついて、ミチコ達は少し早いお弁当を広げていた。


「ヤスコさん達、遅いね」
「あの森、小さな遺跡があるんでし。
 たぶん、そこに行ってるんじゃないでしかね」
「え?
 ヤスコさん達だけじゃ、危なくないの?」
「大丈夫でし。
 あの遺跡ならウゴも行ったことあるでし。
 もう隠された危ない罠なんかみんな解除されてるし
 モンスターも出ないでし。
 その分、なんも残ってないでしけどね」
「へー。
 じゃあ、罠とかもう全部ないんだ」
「一応、いくつかは残ってるでし。
 でも……あれにかかる奴は冒険者じゃないでし」

 
 そういってお弁当に手を伸ばすウゴ。
 ミチコはそんなウゴを見て溜息をついた。


「……ウゴちゃん」
「でし?」
「……そこに向かったのはアークちゃんよ」
「……でし」
「……行こっか」
「………でし」


 どこか疲れたようにお弁当を片付け始めるミチコとウゴ。
 その姿にはどこか哀愁が漂っていたりした。





 そんでもって、そのアーク。


 目が覚めると真っ暗だった。
 辺りに人の気配もない。


「うにゅ?
 ヤス姉? ソイソ?」


 周りを見まわすが周りには誰もいない。
 ソイソの一撃を受けた段階で既に意識の飛んでいたアークは
自分一人だけ別の穴に落ちたことなんて知らなかった。


「みんな、どこっすかー?」


 返事がない。


(迷子になるとは二人ともまだまだお子様っすね)


 ヤスコ達に聞かれたらそのまま三途の川が渡れそうなデンジャーな
考えを抱きつつ辺りを見まわすアーク。
 とりあえず、その場に腰をおろす。

 はぐれた時はその場で待機して仲間を待つのが常套手段だ。


 ……が


「…飽きたっす」


 待ってるのは
5秒で飽きた


(まあ、いいっす。その内会えるっす)


 そう考えるとアークは何も考えずに奥の方へと足を進めた。
 どっちが出口なのかとか、そんなこと考えてもいない。
 当然ながらその足取りに不安なんて微塵もなかった。
 
やばいくらいに陽気な足取りだ。


「…うう」


 そんな、アークの耳に誰かの声らしきものが聞こえた。


「うぃ?
 誰かいるっすか?」


 声のする方へと近づいてみると倒れた人影が一つ。
 どこかで見たような人影だった。


「…フロット兄?」


 そこに倒れていたのはアークの義理の兄フロットだった。
 どう言う過程でフロットが倒れているのかはわからないが
フロットの倒れている辺りは血溜りが広がっていた。

 フロットは意識がないのかアークが近付いても反応はない。


「あうう、大変っすぅっ!!」


 とりあえず、フロットを起こしてその両肩をつかんだ。
 見た感じ意識はない。


「起きるっす!! 
 起きてどうなるもんでもないっすが、
 とりあえず起きるっすぅぅぅっ!!」



 全身全霊を込めて
がっくんがっくんと揺する。


「…う、アーク?」


 一瞬、フロットが反応したような気もしたがアークは気にせず揺する。
 こういうのは、
最後まで全力でやることが大切だ。


「…きゅぅ」


 激しいシェイクに再び意識を失うフロット。


 しばらく揺すっていたが、
途中で飽きた
 とりあえず、フロットを横にするとやれやれと言った感じで首を振る。


「これだけやっても起きないとは困ったものっす」


 仕方ないので、とりあえずフロットの傷の確認をしてみる。

 どうやら頭部に裂傷を受けての出血らしい。

 頑張って昔ココナに習った応急処置のやり方を思い出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『いい? 頭に傷を負った患者は無理に動かしちゃダメよ。
 症状が悪化しかねないからね。
 脳とかに影響が出ることもあるし』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……」


 ……遅いし。


「…ま、過ぎたことは気にしてもしかたないっす」


(それにもともとフロット兄の脳には問題があったっす。
 もしかすれば、これで直るかもしれないっす)


 そんなひでぇことを考えてる間にもフロットの出血は続く。
 さっきのシェイクのおかげで出血も当社比25%増しって感じだ。

 はっきりと傷は確認してないが、このままにしておけば
命の危険もあるだろう。


(あぅぅ、おいら応急処置なんかやった事ないっすよぉ。
 …でもやらないとフロット兄、死んじゃうっす。
 おいらが助けるッす。
 と、とりあえず状況を確認するっす)


  固い決意の元、怪我の具合と手荷物を確認する。


 患者:フロット兄
 性別:男     年齢:15才
 状態:頭部に裂傷(出血多し)

 
 視線を背中のバックに移してから意を決して開けてみる。


「……」


 …おやつしか入ってないし。


(だめっすぅぅ。こんなんじゃ直せっこないっすぅぅぅぅ…)


 ・・・いきなり挫折しかかった。

 だが、目の前に倒れているフロットのことを考えると諦める訳にはいかなかった。


(でも、何とかしないと…)


 パニくる頭を何とか落ち着かせて打開策を考える。


(とりあえず頭の血だけでも止めるっす。
 それから、ミチコのとこ連れて行けばきっと何とかなるっす!!
 た、確か、止血は血の出てる所から心臓に近い位置をきつく縛って…)


 確かそうココナに習ったはずだ。
 アークはリュックの口を縛っていた紐を抜き取るとフロットへと視線を戻した。


 ぎゅっ!!

 とりあえず、手近にあった布で傷口の心臓よりである
をきつく縛る。

 その甲斐あってか、フロットの頭の出血は止まった。


(こ、これで大丈夫っす。
 おいらにもちゃんとやれたっす。
 後はフロット兄をミチコのとこに連れて行けば…)


 そんな事を考えながらフロットに視線を戻すと、先ほどまで血で朱に染まっていた顔が
今は何故か
どす黒い紫に変わっていた。

 気のせいだろうが、呼吸音も聞こえてこない。


「まずいっすぅぅぅぅぅ!!」



 ……フロットの命の炎は今まさに消えようとしていた。




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