YEW冒険譚

ドタバタ☆ピクニック編

最終章  そして全ては地の底


 フロットの命の灯火は消えようとしていた。
 そんなフロットを前に途方に暮れたアークの後ろから聞き覚えのある
声がかかった。


「なにやってんだよ?」
「うぃ?
 ソイソ!!
 よかったっすー!!
 助けてくれっすーーーっ!!
 フロット兄がやばいっす!!」

「何これ!!」


 泣き付いてきたアークを器用に避けながら、倒れているフロットを
見つけたソイソは目を丸くして叫んだ。
 そこには首に紐を巻きつけられ土気色の顔をしたフロットの姿があった。
 おまけに頭からの出血で血溜りまで出来ていた。
 アークはどもりながらも状況を説明した。


「は、早くなんとかしないとまじでやばいっす。
 おいらが応急処置をしたら顔が紫になったっすよー」
「…これ、応急手当だったんだ」


 アークの言葉に何故かソイソが呆れた声を返した。


(恨みかなんかで、止めさしてんのかと思った)


 ソイソは溜息をつくと首に巻き付いていた紐を解いた。
 そのおかげでアークの顔色は元に戻っていったが、
それに伴って頭部からの出血もまた始まった。


「あうう、急いでミチコのとこに連れてかないと…」
「それじゃあ、間に合わない。
 私がやる」
「出来るっすか?」
「出来なくても、やるしかないだろう!!」


 アークの言葉を振り切るようにソイソはフロットへと視線を移した。


「…あれ、ニール?
 へ? こっちに来いって?」



 虚ろな瞳で呟くフロット。
 なにげに、結構やばそうだ。

 魔道書を取り出し意識を集中すると静かに呪文を唱える。


「大気に宿りし万能なるマナよ…
 その力、生物の根源とも成りえたり…
 そは癒しの奇跡たりえん!!」



 ソイソの周りに暖かな光が集まっていく。
 ソイソがゆっくりとフロットへと手を伸ばすと光がソイソの腕を通って
フロットへと移っていく。
 フロットの体に全ての光が移ったのを確認するとソイソはゆっくりと口を開いた。


 力の、解放の言葉を。


「Heal!!」


 呪文の発動とともに、フロットの傷が塞がっていく。


「ああ、傷が直っていくっす!!」
「・・・ふう、どうやらうまくいったようね」


 ソイソが荒い息をつきながら言葉を搾り出す。
 その顔には疲労の跡が見れた。


「すごいっす!!尊敬するっす!!」
「ふっ、誉めても何もでないよ」
「うぃ。じゃー、誉めるのやめるっす」
「…おいこら」
「そういえば、ヤス姉はどうしたっすか?」


 いきなり話題を変えたアークに少しむっとしながらも
ソイソは先ほどのことを思い出した。


「うーん、それがはぐれちゃったんだよねー。
 途中まで一緒だったんだけど…」


 落とし穴に落ちた時は確かに一緒だった。
 だが、出口を探して歩っている間にいつの間にかはぐれてしまった。
 辺りの壁には光苔が付着しており、普通に歩く分には支障はない。
 だが、それでも十分な光源とは言いがたい。
 薄暗い場でろくに明かりも付けずに動き回ったのが拙かった。

 幾つかの分かれ道を抜け、気が付いた時にはヤスコの姿はなかったのだ。


「ヤスコ、無事だといいけど…」


 ソイソの呟きは闇に消えていった。





 で、そのヤスコ。

 ちっとも無事じゃなかった。
 えらい数のアース・エレメンタル(土エレ)に追われてたりした。


「うっきゃー。
 何で私だけー!!」



 そんな事を叫んだところで後ろから迫る土エレ達が減るわけもない。
 土エレ自体の速度がそれほど速くない為、大事には至っていないが
薄暗い坑内と足場の悪さが災いして引き離すこともできずにいた。


「ソイソ、どこいっちゃったのよー(><)
 アークの奴ー!!
 絶対、後で泣かしてやる。
 絶対絶対泣かしてやんだからー!!!」



 ヤスコの叫びが遺跡内に木霊した。





 その頃、ヤスコ達の後を追ってミチコ達が遺跡後へと来ていた。


「いないね、ヤスコさん達」
「でしねー」


 見回してもそれらしい人影は見えない。
 まあ、ここに来ていないならそれに越したことはないのだが…


「ここには来てないのかしら」
「…ここに来たのは間違いないでし」
「そうなの?」
「…あれでし」


 ウゴの指差した先にはぽっかりと地面に穴が開いていた。
 それも二つ。
 そして、穴の付近に落ちている白い帽子。
 確認しなくてもわかる、ヤスコのものだ。


「……確かに、間違いなさそうね」


 ヤスコの帽子を拾いながら、もう一度、穴に目を移す。
 恐らくあれがウゴの言っていた『冒険者なら絶対かからない罠』なのだろう。
 冒険者ではないとはいえ(アークは冒険者なのだが…)注意深いヤスコや
ソイソがその罠に気付かなかったとも思えない。


(と、すれば…)


 ミチコとウゴの頭にノー天気に笑う少年の顔がありありと浮かんでくる。


「「はぁぁぁ…」」


 我知らずに二人して溜め息なんか出たりした。
 これから、地下まで降りての捜索を行うと思うと気が重くなる。
 かといって、見て見ぬ振りなんて出来る筈もなかった。


「…はぁ」


 また、溜め息をつくミチコの横でウゴは僅かに眉を寄せていた。


(でも、下に落ちたとすると…ちっとやばいでしかね?)





 フロットの症状は落ち着き、もうそれほど心配はないだろう。


「うぃ?」


 アークは立ち上がると首をかしげた。
 ソイソが視線をアークへ移す。


「どうしたの?」
「なんか、変な音聞こえないっすか?」


 アークの言葉にソイソが耳を澄ますと確かに妙な音が聞こえてくる。

 地響きのような唸りと……女性の叫び?


「きゃぁぁぁぁ!!!」


 確認するよりも先にその女性がソイソ達の後ろを駆け抜けていった。

 当然、ヤスコである。


「ヤス姉?」
「って、土エレぇぇぇぇ!!」


 その女性がヤスコだと確認すると同時に、そのヤスコを追いかける
無数の土エレが目に入った。

 かなりの数だ。

 いきなりの土エレ達の登場にソイソとアークも駆け出した。
 無論、フロットを忘れてはいない。
 アークがちゃんと
を持って走っている。

 がごっ

 なんか鈍い音がしまくってるが、後ろからの地響きに紛れて誰も気にしない。


「…!? がっ!! アーク、ちょっと待て!!
 ……ぐほっ!!」


 聞き覚えのある声も聞こえるような気もするが今は逃げることのほうが大切だろう。

 …誰も気にしてないし。


 アーク達はフロットを引き摺りながらもヤスコを追いかけた。
 元々、基礎体力が違う上に走り疲れていたヤスコに追いつくのは簡単だった。


「あー、アークにソイソ!!
 こんなとこにー!!」
「なんなのよ、ヤスコ!!
 この土エレはぁ!!」
「知らないわよー!!」



 ソイソの問いにヤスコが半泣きで叫んだ。
 そんな様子にアークは静かに頷いた。


「やっぱり日頃の行いが…」
「黙れ、馬鹿アーク!!
 あんただけには言われたくないわよ!!

 こうなったのも、あんたの所為なんだからね。
 責任とんなさいよ!!」

「うぃ? なんで?」


 素朴な疑問だ。
 アーク自身は自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってないのだから。
 その言葉にヤスコの額に青筋が浮かぶ。


「ふざけたこといってないで、体張ってなんとかなさいね♪」
「!? うぃぃ……


 言葉と共に隣を走っていたアークの足を払う。
 絶叫と共に転がり土エレの群れに飲み込まれるアーク。

 ……そして、
当然のごとく巻き込まれて飲み込まれるフロット

 さくっと踏み潰され蹴散らされる。

 それでも、土エレたちの勢いは止まらない。
 ヤスコは悔しげに口元を歪めた。


「くっ!!
 足止めにもならないなんて!!」

「あ、あの…ヤスコ。
 いいの?」
「へ?
 あー、気にしちゃ駄目よ。
 いつもの事なんだから」
「いつもって…」


 呆れるソイソの隣にふっと人影が現れた。
 慌てて視線を向けるとアークが土エレの群れから抜け出して
いつのまにか帰ってきていた。


「うぅ、ひどいっすよ。
 びっくりしたじゃないっすかー」
「…びっくりってあんた」


 ものの見事に無傷だ。
 かすり傷一つ見えない。

 …ていうか人か、こいつは?

 ちなみに、フロットの姿は既に見えなかったりする。

 ヤスコは特に気にした風もなく帰ってきたアークに目を向けた。


「ほら、問題ない」
「…みたいね」


 ソイソが呆然とつぶやく。


「さあ、アーク。
 ちゃんとあいつら何とかなさい!!
「うー、仕方ないっすねー。
 じゃー、がんばってみるっす」
「うんうん、がんばれ♪」


 アークは背中に背負っていたワーアクスを取り出した。
 さすがにピクニックということで鎧や盾は持ってこなかったが
愛用のワーアクスだけはしっかりと持ってきたのだ。

 そのワーアクスは使い込まれた歴史を感じさせた。

 てーか、ぼろぼろだった。
 少なくとも手入れをしているようには見えない。

 だが、アークは気にもせずそれを手にとって土エレへと殴りかかった。


 ぱきゃ


「ありゃ、壊れた」


 当然というか、あっさりとぶち折れるワーアクス。
 ちなみに土エレには傷一つない。


「あああ!!!」
「まあ、ぼろぼろだったし寿命だよね」


 叫ぶヤスコにどこか達観した感のあるソイソ。
 アークはソイソの言葉にうんうんと頷いていたりする。


「てか、手入れしてなかったしね」
「何でそんなになるまで使うの!!」
「やっぱり、どんなものでも壊れるまで使ってあげるのが愛情…」
「壊れる前に、ちゃんと、手入れくらい、しなさいね」
「うぃぃぃっす!!」


 走りながら器用にアークの両こめかみに拳を押し当てて捻りを加えるヤスコ。
 そのまま宙吊りにされながら呻くアーク。

 そんな二人を見ながらソイソはこっそりと溜め息をついた。


(なんで…あたし、ここにいるんだろ?)


 そんな不毛なことを考えながら…





 ミチコとウゴの前にぼろ雑巾のようにずたぼろになった人影があった。


「フロットでし」
「ううう…」
「どうしたんでし、こんな所で?」
「いや、仲間って何なのかな〜って考えてたんだ」


 フロットの哀愁漂ったその姿は何か涙を誘った。
 ミチコはその姿に何か感じたのかフロットに近づいた。


「あら?
 ひどい怪我じゃないですか!!
 すぐ手当てしますね」
「…うう、人の情けが身にしみる」


 ミチコの回復魔法を受けながら静かに涙するフロットだった。





 薄闇の中、朗々たる詠唱が響く。


「大気に宿りし万能なるマナよ!
 天かける紫電の編み上げて
 すべてを貫く閃光となれ!!」


「Chain Lightning!!」


 ソイソの放った電撃が土エレ達を薙ぎ払う。
 だが、その後から土エレが現れ数はいっこうに減らない。


「ったく、きりがないわね」


 顔をしかめて呟くソイソ。
 数度の魔法詠唱と疾走によってその顔に疲労の色が濃くなってきた。
 ヤスコにいたってはもう話す余裕もなさそうだ。

 薄闇の中の疾走というのは想像以上に精神を削っていった。


 ……ちなみにアークは元気だ。
 
無駄に元気いっぱいだった。


 そんな三人に横から声がかかった。


「こっちよ!!」
「ミチコ!!」


 声のする方にソイソが視線を向けると遺跡の扉の影から
手招きするミチコの姿があった。

 ソイソ達が扉の中に飛び込むと同時にミチコが扉を閉め
ウゴが鍵を掛ける。

 ヤスコは粗い息の中、部屋の中を見回した。
 部屋には今入ってきた扉が一つあるだけ。
 頑丈な鉄製の扉だ。


「ここならしばらくは大丈夫でしね」
「…と、いってもそれほど長くはもたないかな」


 ガンッガンッガンッ


 土エレが追いついて来たのか、鋼鉄の扉が打ち付けられる音が響く。
 音と共に扉が揺れている。


 ヤスコは荒い息のまま、呻ように呟いた。


「まったく、いったい何なのよ、あいつらは」
「わかる訳ないでしょ、そんなの」
「……予測は、つくんだけどね」


 部屋の奥の暗がりから、その答えは帰ってきた。
 転じた視線の先にずたぼろになった皮鎧をまとった少年の姿。
 壁に背を預け、腕を組んで悠然とこちらに視線を向けた。

 かっこうをつけているようだが、服装がずたぼろの為にそれ程効果は見えない。


「フロット?」
「うぃ」
「怪我はいいの?」
「…しくしく」


 せっかく颯爽と登場したのにさくっとソイソに突っ込まれて
先ほどの空しさがこみ上げてくる。
 思わず涙を零すフロット。
 そんなフロットに事情をよく知らないヤスコが激を飛ばした。


「泣いてないでちゃっちゃと話す!!」
「うぃ」


 フロットは涙を拭うと他のメンバーを見回した。


「精霊力が乱れてるんだよ。
 あの土エレの大発生はその所為だと思う。
 土エレだけじゃなくて他の所では火のエレメンタル達もいた」
「「…げ」」


 フロットの言葉にソイソとヤスコが嫌そうに顔を歪めた。
 火エレは力押しの土エレと異なり魔法も使う。
 あまり闘いたくはない相手である。

 フロットはこう見えて精霊魔法を使う。
 精霊の存在や精霊力の乱れを感じることができるのだ。
 その言葉に嘘はないだろう。


「そもそも、おいらがここに来たのだって精霊力の乱れを調べる為なんだから。
 もっとも、入ってあんま経たないうちに土エレに殴られて気絶しちゃったから
あんまよく調べらんなかったんだけどね」


 そういって苦笑する。
 その後、アークとソイソに助けられたのだが、今考えると助けられなかった方が
傷は浅かった気がするのは気のせいだろうか?


 俯いて悩み始めたフロットにソイソが声を掛けた。


「でも精霊力が乱れるなんてよくあるの?」
「軽いのはたまにあるんだけどね。
 ここまで乱れてるのは初めてかなー。
 多分この異常気象に関係してるとは思うんだけど…」


 そういって上のほうに視線を向ける。
 無論ここは遺跡の地下であり、空なんて見えない。
 まあ、気分的な問題だろう。


「どういうこと?」
「この辺りだけ火と土の精霊力が異常に強くなってるんだ」
「それが関係あるの?」
「天気ってのも大きな流れで見れば精霊の営みのひとつだからね。
 火の精霊力が強ければ晴れの日が、水の精霊力が強ければ雨が降るんだ。
 周りが豪雨なのにこの辺りだけ快晴ってのは変すぎるよ。
 なんで土の精霊力まで強いのかはわからないけど…」


 そういってまた黙り込むフロット。
 精霊使いにとって精霊の力の調和を保つのは当然のことだ。
 だが、未だ何の手がかりも得ていない。

 それが悔しくもあった。
 こんなことならかっこつけずにラッコ達に助力を求めるべきだった。


 そんな時、ミチコはじっとウゴに目を向けていた。


(…天気、ね)


 疑問というより確信に近い。


「ふむ…ウゴちゃん♪」
「!? …でし?」


 フロットの話に視線をあらぬ方へと向けていたウゴが
ミチコの声に硬直する。

 ミチコは両手でウゴの顔を挟むとゆっくりと自分の方へ向かせる。
 そしてにっこりと笑った。


「わたし、正直な子が好きよ♪」
「…でし」


 観念したように項垂れるウゴ。
 そして、周りを見渡してから口を開いた。


「この遺跡には天候制御の装置があるんでし。
 今朝、大雨だったんで態々ここに来て晴れにしたんでし。
 さっさと晴らそうと最大出力にしたのが悪かったみたいでしね」
「…土の精霊力の異常暴走は?」
「眠いの我慢して、操作したでしからどっかで間違ったと思うでし」
「……てーことは、これは全部ウゴの所為ってことだな」


 ソイソの言葉に辺りに危険な雰囲気が満ちる。
 それを打ち破るように声が響く。


「待ってください」
「…ミチコ」
「ウゴちゃんを許してあげてくれませんか?
 悪気はなかったんだと思うんです」
「…でも」
「お願いします」
「まあ、ミチコがそういうなら…」


 納得はできなかったが、ミチコにああ言われては
表立って反対する者はいなかった。
 ミチコ自身、ウゴのした事を許す事は出来ないが
それでも、自分とピクニックに行きたかったというのが
理由では怒るに怒れない。

 それは、それだけウゴが自分とのピクニックを楽しみにしていたということだから。


「とりあえず、天候制御装置のとこまで行かないとな」
「といっても、扉の向こうは土エレでいっぱいよ。
 どうやってそこまでたどり着くのよ」
「そうねー、なんか囮とかで土エレを引き付けて残った面子で
制御装置を目指すとか…」
「囮ったってあの数よ。
 囮になった奴なんてどうなるか…」


 ソイソの提案に答えようとしたヤスコが途中で言葉を切った。
 扉を打ちつける以外の音が消える。


「「「「……」」」」


 無言のまま、全員の視線が一箇所に集まった。


「…うぃ?」


 視線の先には当然というか、アークの姿。


「問題解決ね♪」
「そだね」
「まあ、仕方ありませんね」
「でし」
「ま、無難な選択だな」


 全員一致だ。


「うぃぃぃぃ!?」


 アークの叫びは当然のごとく無視された。

 扉を打ちつける音は激しさを増し、既に扉は歪み今にも
打ち破られそうだ。
 ヤスコはソイソへと声を掛けた。


「んじゃ、ソイソ。
 お願いね」
「あいよ」
「うぃぃ!?」


 ソイソはアークの首元を掴むと軽々と持ち上げた。

 その直後、扉が破られた。
 扉の向こうに見える無数の土エレの姿。

 ソイソはそこ目掛けてアークを投げつけた。


「そーれ!!
 行ってこぉぉぉい!!!」

「うぃぃ…


 土エレの中に埋没するアーク。
 土エレ達はソイソ達はそっちのけでアークに群がる。

 程なくして土エレ達がある方向へと去っていく。
 恐らく抜け出したアークがそちらの方向へと逃げていったのだろう。


 しばらく様子を伺って周りが安全なことを確認すると
ヤスコ達は行動を起こした。


「じゃ、行こっか」
「そうね」
「大丈夫かしら、アークちゃん」
「まー、大丈夫でしょう。
 頑丈なだけが取得の子だから」
「そーそー、心配するだけ無駄無駄」
「でしよ」


 ミチコ以外、アークの心配をする奴は一人もいなかったりした。


「うぃぃぃぃ……」


 アークの叫びが遥か遠くに聞こえた気もしたが誰も何も言わなかった。





 そんで数分後。

 天候制御室。

 あっさりと到着した。
 数体の土エレがいたのだが、それはソイソの魔法によって
あっさりとかたが付いた。

 部屋には制御装置と思われる物体が中央に鎮座していた。
 思った以上に大きな装置だ。
 円柱状のその形態からいくつもの管が伸びて部屋中を覆っている。
 手前には恐らく制御版だと思われる板状のものも見える。


「うーん、あっけなく着いたわね」
「ほんとに、全部引き付けたみたいね」


 呆れたように呟くヤスコとソイソ。


「そんじゃ、さっさと治すでし」
「そうね」


 ウゴが制御版にたどり着くより早く制御版に手を伸ばした人物がいた。


「えーと、こうっすかね?」
「そうそうって、
アーク!!
「うぃ?」


 アークはヤスコの声に振り返りながらも制御版を適当に動かしていた。
 そこに規則性は見えない。
 まさに適当だ。


「あんたどこから!?」
「そこの入り口からっす」


 アークの指差した先にはヤスコたちが入ってきたのとは違う扉が見えた。
 制御装置を挟んでちょうど対面にあった為、今まで気付かなかったのだ。

 呆れてアークを見る一同をウゴの声が正気に戻した。


「ちょっと待つでし!!」
「うぃ?」
「…やばいでし」
「やばいってどうしたの?」
「アークがでたらめにいじった所為で暴走し始めたでし」
「…へ?」


 見れば制御装置が明滅を繰り返している。


「早く何とかしないと…」


 ウゴが制御装置に近づこうとした時、置くの扉から無数の影が
部屋に踊りこんだ。


「!? 土エレぇぇぇ!!」
「アーク、あいつら何とかしてきたんじゃないの?」
「うぃ?
 おっかけっこに飽きたんで帰ってきたっすが何かまずかったっすか?」
「まずいもクソもあるかぁぁぁぁ!!」


 ソイソの怒りの鉄拳によってまたも華麗に宙を舞うアーク。
 その間にも土エレは部屋へと押し入る。

 既に制御装置付近は土エレで溢れている。
 制御装置の暴走は続き、今では火花が散っていた。


「あああ!?
 制御装置がぁぁぁ!!」
「もうだめでし。
 逃げるでしよ!!」


 アークを置いて逃げ出す一同。
 それを追う数多のエレメンタル。





 その後の事ははっきりと覚えていない。
 気が付いた時、ヤスコ達は爆煙立ち上る遺跡跡を前に呆然と立ち尽くしていた。

 ちなみに、アークはいつの間にか追いついていた。


 辺りにはエレメンタルの姿はなく、遺跡への入り口も先ほどの
爆発によって完全に埋もれてしまっている。
 制御室から離れた地上の場所でもこれだけの状況なのだ。
 恐らく遺跡内部はおして知るべしだ。

 唯一幸いなのは制御装置の破壊によって乱れていた精霊力が
元に戻ったことくらいだろうか?


 乱れていた精霊力が戻るとどうなるか?


 辺りは当然の如く、豪雨に見舞われた。
 今まで押さえつけられていたものを晴らすかのような降りッぷりだ。

 結局、ヤスコ達一同は雨に濡れながら疲れきった足を引きづる様に
YEWへと帰っていった。

 その後、アークを除いた一同が風邪をひいて寝込んだのは余談である。

 何とかは風邪ひかないとはよく言ったものだ。



 …また、研究中の天候制御装置が完膚なきまでに破壊され
廃墟を前に呆然とたたずむブリテン出身貴族の兄妹の姿も
あったりしたが、これも余談以外の何物でもない。


 まあ、今日もYEWは平和って事なのだろう。





<ホーム>   <戻る>