YEW冒険譚
ドタバタ☆ピクニック編
第壱章 ぱぁてぃ結成?
雨だ。
てーか、豪雨だ。
YEW周辺は記録的な豪雨にさらされていた。
「ふう」
ミチコは空を仰いで溜息をついた。
(さすがにピクニックは無理かしら)
日頃の行いってのはやっぱり大事なんだろうか?
特に理由もなく鹿頭の少女が頭に浮かんだ。
ピクニック当日、早朝の出来事だったりする。
……そして朝。
空はからっと晴れ渡り、まさにピクニック日和という感じだ。
ほんの先ほどまで見えていた黒雲は今は欠片も見当たらない。
「まさか、晴れるとはね」
しかも、晴れているのはこの辺りだけ。
付近の海上では未だ豪雨が続いているのだと先ほど漁師から聞いていた。
「不思議なこともあるものよね」
呆然と呟いているミチコに後ろから嬉しそうな声がかかった。
「ミチコー♪」
振り返ったらウゴがいた。
なんかめちゃくちゃ嬉しそうだ。
よく見ると青みがかった髪が僅かに湿っている。
雨がやんだのは今から一時間ほど前。
と、いうことはウゴはそれ以前に外に出ていたのだろうか?
(あの豪雨の中を、あんな早朝に?)
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『明日、晴れるといいね』
『でし。
……ていうか、晴らすでし』
『…晴らすって』
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「……」
ウゴに視線を向けたらにっこりと微笑を返してきた。
「…えーと」
「(にこにこ)」
「その、あの……」
「(にこにこ)」
「……晴れて、よかったね」
「でし!!」
笑顔に負けて追求出来なかったミチコだったりした。
「それじゃ、行きましょうか?」
「でし!!」
「おーー!!」
なんか3人目の声が聞こえた。
ミチコが声のする方に目を向けると三人の人影と一頭のラマ。
赤い服を着込んだ少年、アークは楽しそうに笑っていた。
背中にはリュックまで背負って、なんてーか行く気まんまんだ。
ちなみに先ほどの声はこの少年のものだったりする。
荷物を積んだラマの横に立っていた女性、ヤスコはお気に入りの
白い帽子を脱ぐとどこかばつの悪そうな笑みを浮かべた。
ウゴと同じような鹿の帽子をかぶった女性、ソイソは不貞腐れた様に
そっぽを向いていた。
皆、ミチコの知合い達だ。
「アークちゃんにヤスコさん、それにソイソさん?」
「ピクニック♪ ピクニック♪」
「あの、ヤスコさん。
これは一体…」
「実はね…」
「ピクニック♪ ピクニック♪」
状況がわからずヤスコに説明を求めるミチコ。
それに答えようと口を開きかけたが、アークの喜びの歌(?)に
よって遮られる。
見れば元気一杯に能天気。
ちょっと頭が心配なくらい有頂天だ。
ミチコの言葉なんて聞いちゃーいない。
ソイソは他人のように僅かに距離をとっている。
ウゴは状況が推察できたのか溜息なんかついていた。
状況のつかめないミチコは呆然とアークとヤスコへと視線を走らせる。
ヤスコはにっこりと笑ってアークの頭に手を置いた。
「…アーク」
「ピクニック♪ ピクニック♪」
聞いてやしない。
ヤスコの笑顔の中に硬いものが混じる。
そこはかとなく、額に青筋も見えたような……
「…アークちゃん♪」
少しずつアークの頭に置かれた手に力がこもっていく。
「ピクニック♪ ピクニッ……うぃぃっ!!」
もがくアーク。
だが、ヤスコの手は微動だにしない。
ヤスコはアークににっこりと微笑みかける。
「お姉さん達ね、今お話してるの。
もうちょっと静かにしてくれると、お姉さんとっても嬉しいんだけどなー♪」
「うぃぃぃっす、了解っすぅぅっ!!」
「…うふふ」
ヤスコが手を離すと崩れ落ちるようにアークが倒れる。
細かく痙攣してたりするがゆったりと微笑むヤスコに
何も言えず、とりあえずアークから視線をはずす一同。
「え、えーと、それでヤスコさん。
一体どうしたんですか?」
「え?
ああ、昨日この子に言われたのよ。
明日ピクニックに行くからお弁当作ってくれってね」
そういってアークへと目を向けると苦笑を浮かべた。
「まあ、ミチコ達と一緒っていうのは知らなかったんだけどね」
「…ええ、私も知りませんでした」
「へ?」
困ったようにアークへ視線を向けるミチコにヤスコが驚きの声を上げる。
「昨日、ピクニックの話した時、私とウゴちゃんしかいなかったんですけど」
「盗み聞きしてたでしね」
「……」
ミチコの言葉を後押しするようにウゴが呟く。
ソイソは呆れた様に首を振っている。
ヤスコはゆっくりとアークを振り返る。
アークは漸く回復したのか、頭を押さえて立ちあがろうとしていた。
「…アーク♪」
「うぃ?」
「ちょーと、お姉さんとお話しよっか?(にっこり)」
「ううぃ?」
「いつも言ってるよね?
他の人に迷惑かけちゃダメだって」
「……あの、やす姉目が笑ってないっすよ」
ゆったりと近付くヤスコに後づさるアーク。
アークの額にはうっすらと汗まで浮かんでいる。
その迫力にちょっと腰が引けながらもミチコが助け舟を出した。
「あ、あのヤスコさん。
落ちついてください、私達迷惑してませんから」
「…そう?」
「ピクニックは多いほうが楽しいですから。
ね、ウゴちゃん」
「迷惑でし」
きっぱり言いきった。
「ウ・ゴ・ちゃん♪」
にっこりとミチコ。
「…やっぱり、ピクニックはたくさんの方が面白いでし」
「そうですよねー♪
と言う訳で、まったく問題なしですよ、ヤスコさん」
「ごめんなさいね」
「いえいえ、気にしないでください」
「そうそう、やす姉は細かいこと気にしすぎっす。
人間もっと大らかに生きないと、老けるのも早いっすよ」
「あ・ん・た・は・もー・ちょっと・気に・しなさいよ・ね」
「うぃぃっす!!」
ヤスコの両拳でこめかみをぐりぐりと捻られながらどうにか答えるアーク。
そんなアーク達に呆れて溜息をつくと、ウゴはソイソに目を向けた。
「そういや、ソイソはどうしたんでし?」
「…アークの奴に誘われたんだよ」
「実は後悔してないでしか?」
「……言わないで」
漁師であるソイソはほんとなら、今日は漁に出ているはずだった。
だが、朝の豪雨の所為で漁を諦めたのだ。
今はやんでいるが、いつも漁に行っている辺りは今だ豪雨が続いていると
漁師仲間から聞いていた。
潮も荒れていてとても漁が出来る状況ではない。
仕方なく家で薬でも作っていようかと思ったところでアークに声をかけられたのだ。
アークの誘いを受けたのは今思い返しても気の迷いとしか思えない。
まあ、いつも海に出ている訳だしたまには陸での生活を堪能するのも悪くないだろう。
ソイソはそう考えて自分を納得させた。
そして、未だ漫才を続けているヤスコ達に目を向けた。
(少なくとも退屈はないか)
まあ、そんなこんなでピクニックに向かうメンバーはそろった。
色々あったがようやく出発出来そうだ。