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  『ニホン語話せますか?』
世界はラテン語でできている
言葉の本質
教養としてのラテン語の授業
ハナモゲラ和歌の誘惑』 
 

  
  マーク・ピーターセン『ニホン語話せますか?』新潮社 2004

10年前の自分の書評(下記)が、FBに出てきて、懐かしく、古書を注文して、再読した。
今回読んでも、とても面白かった。日英言語のギャップの面白さとでも言うのであろうか?

日本に滞在する外国人の日本に対する感情を描いた個所は珍しい。
蜜月期間—無視期間ー調和ルート(または、ひねくれルート)と進むらしい。

中学校の英語教科書7種類、21冊を点検した時の記事が、圧巻である。
日本の英語教育の実情が分る。
  問題点:①冠詞(定、不定、無)の無差別、②数(単、複)の無関心 ③時制への無神経
実例を挙げての説明で面白い。

 この本は、日本人には、『エイゴ、できますか?』にタイトルを変えた方良いかも知れない。

次の英語、あなた分かりますか?(参照頁)

challenge(8), some,any(11), never end(14),crusade(17),pay off(32)
government of the people, by the people,for the people.(38), 一般論のyou(40-),
divine nation(50), lost generation(60),look !(67) practically(68), stable(93)
will/be going to(148)

誤訳を発見するとちょっぴり優越感を感じるし、他人の指摘もちょっと賢くなった気になる。
語学エッセイが面白い理由です。


2024・4・19
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2014年2月2日 

マーク・ピーターセンの『ニホン語、話せますか?』(新潮社2004)を図書館で借りて読みだしたら止まらなかった。この人の『日本人の英語』などもそうだったが、自分はなんと英語の基礎が出来ていないのか!と思い知らされて、ショックを受けるのだが、そのショックは心地よく、ちょっと賢くなった気がする。本書もそんな話題が満載なのだが、その一例として、村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を取り上げている。youは「君」と訳していいのだろうか?
youにまつわる記述は素晴らしい。
この人の日本語のレベルもすご翻訳のく批評をどんどんやってほしい。映画の話題も面白く、今回も「ローマの休日」が登場。在日米人の心情を吐露した文は、ペイソスを伴う。いずれも達意の名文。
 

  
  ラテン語さん『世界はラテン語でできている』SBクリエイティブ、2024

タイトルに惹かれて買った

「世界は〇〇で出来ている」とは、あることに、興味が集中していて、なにも見ても、その中から、
〇〇を見い出してしまうオタク的心情を表しているからである。
  あなたは、〇〇の中に何を入れますか?私はある時は,シェクスピアであり、アリスでしたし、ある人には、モーツアルトであったり、蝶、鉄道、大小さまざ、一過性のものあり、生涯続くものあります。

ラテン語さんは、ラテン語の虜になったのですね。集まった情報は、歴史、経済、科学など森羅万象で、「ここにもラテン語がある!」と嬉々としてメモしたのですね。

この本を何処を開いても、そんな話で、珍しいもの、英語を通じて既に既知のもの、いろいろですが、全編気楽に読めて楽しいです。

 高校野球大会の優勝旗にはVICTORIBUS PALMAE (勝者に栄誉あれ)とラテン語で書かれてると写真付きで示しています。

思いもかけない出会いの一つとして、私はレジオネラ菌による肺炎に罹ったことがあります。
学名をLegionellaといい、legio[軍団」が元になっているのですが、これは1975年、アメリカ在郷軍人会(American Leogiom)の会合で200人弱が感染し、29人が死亡したことに基づいていていることを知りました。

皆さんにもそのような出会いがあるかも知れません。

ラテン語はそんなに面白いのか、一つ勉強してみようという人のために、最後の2頁が割かれています。

     2024・2・17

  
   今井むつみ 『言葉の本質』 中公新書 2023
 秋田喜美

オノマトペの研究から、言語の本質が分かったのか!
ベストセラーになっているというではないか。
それはぜひ読んでみなくてはと、本書を手に取った。

はしがきにある、「記号接地問題」が関心の中心である。(読者の私にとっても)
つまり、
言葉が記号であるなら、その意味をどのように理解するのか?
「ことばの意味を本当に理解するためには、まるごとの対象についての身体的な経験をもたなければならない。」これが感覚との接地(ground)問題である。
AIは所詮、「記号から記号へのメリーゴーラウンド」
この輪からどう抜け出すのか?

結論に至るには、少々長い、オノマトメ論にお付き合いししなければならない。


第3章で、言語の性格10をあげて、(これはF.Hockett、A.Marinetの説に準拠)
オノマトメの言語性を説く
   10の性格とは、コミュニケーション機能、意味性、超越性、継承性、習得可能性、 
             生産性、経済性、離散性、恣意性、二重性、

オノマトメから次第に言語習得過程の話となり、
このように、「一次的アイコン性→恣意性→体系化→二次的アイコン性」というサイクルによって、当該言語の成人母語話者は、抽象的な記号である言語に対して、抽象性を感じず、空気や水のような自然なものとして、身体の一部であるような感覚を持つに至る。このような図式が記号接地問題に対する答えになるのではないか著者たちは考えているのだ。(p173)

第6章で子供の言語習得過程を再度論じ、アブダクション推論 
  類似性から類推  学習 ブートストラップ・サイクル(ブートストラップとはくつ(ブーツ)の履き口にある摘み。自分で引くとうまく履ける。

  演繹推論,帰納推論の外にアブダクション推論(仮説形成推論)
   観察データを説明するための、仮説を形成するための推論。(チャールス・サンダース・パースの説) これにより言葉を習得する。

 人間とチンパンジーの差:アブダクション推理の一種、対称性推論が出来るか否か?
  対称性推理とはA→Xから、X→Aを推論する。これは人間の赤ちゃん出来る。

終章:言語の本質的特徴を7つ掲げる。(第3章のホッケの向うを張って)
  ①意味を伝える。②変化する。③選択的である。④システムであ�る。⑤拡張的である
  ⑥身体的であ�る。⑦均衡の上に立っている。


所感;

幼児が言葉を習得する過程の説明の中で、「接地問題」の理解は深まったように思う。
 身体感覚よって接地したものを、推論によっ拡張し、体系化する。その過程を通じたものを、身体とのつながり感じ、自然だと感じる。接地している。

人が言葉に意味が分かるのはその過程を経たもの、その範囲のことである。

幼児の調査研究などご苦労の多い研究を踏まえての著作であるが、『言語の本質』とはというタイトルは大き過ぎた!

反論:私の考え
 オノマトペは言語習得に不可欠なものではない
 言語は人間だけが有するものではない。
 アブダクション推論は人間だけが出来るということはない。


  2023・8・14
 



記号接地問題を論じるなら、AIが接地出来ないものは何か?を示して欲しかった。

言葉の「意味」の領域について、殆ど論じられていなかったように思う。

  
   ハン・ドンイル『教養としてのラテン語の授業
      木村凌二[監訳)岡村暢子[訳〕ダイヤモンド社

  あなたが元気ならよかったです。私は元気です
   Si vales, bene est, ego valeo


これは古代ローマ人が手紙を書くときに愛用した”拝啓”のようなあいさつ文だそうです。

  こんな話が満載の先生の授業を受けて見たかった。
  その一端をこの本で味わえます。
  図書館に予約を入れた時には30人ほど先約があったのに、比較的早く廻って来たのは、読みやすいだけではなく、早く、次の人に読んでもらいたいという気持ちが働いたのでしょう。
 ラテン語の世界にまつわる、歴史、文化の話の合間に、ラテン語文法のことも話され、ラテン語への易しい入門となっています。なにより、古典語(勉学)に取り組む学生への温かいアドバイスに満ちていて、心地よかった。

  もうラテン語の習得など諦めている人にも、(私もその一人ですが、)古代ローマなどの豊富な話題と人生への洞察が含まれた、味わい深いエッセイとして、お勧めです。

 韓国では35万部のベストセラーとなったそうです。

  
  2022・12・29
 
 
   記念に、各章の見出し語に使われているラテン語をリストアップしておきます。

 1  胸に秘めた偉大な幼稚さ  Magna puerilitas quae est in me
 2  最初の授業は休講にします  Prima schola alba est
 3  ラテン語の品格  De Elegantiis Linguae Latinae
 4  私たちは学校のためではなく。
人生のために学ぶ
 Non scholae sed vitae discimus
 5  長所と短所 Defectus et Meritum
 6  ひとりひとりの”スムマ・クム・ラウデ”  Summa cum laude pro se quisque
 7  私は勉強する労働者です  Ego sum operarius studens
 8  カエサルのものはカエサルに、
神のものは神に返しなさい
 Quae sunt Caesaris Caesari et quae sunt Dei Deo
 9  たとえ神がいなくても  Etsi Deus non daretur
 10  与えよ、さらば与えられん  Do ut des
 11  時間は最も優れた裁判官である  Tempus est optimus iudex
 12  すべての動物は性交後にゆううつになる  Post coitum omne animal triste est
 13  あなたが元気ならよかったです。
私は元気です
 Si vales, bene est, ego valeo
 14  今日は私へ、明日はあなたへ  Hodie mihi,Cras tibi
 15 今日を楽しみなさい  Carpe diem
 16  ローマ人の悪口  Improperia Romanorum
 17  ローマ人の年齢  Aetates Romanorum
 18  ローマ人の食事  Cibi Romanorum
 19  ローマ人の遊び  Ludi Romanorum
 20  物事は、知っているものしか見えない  Tantum videmus quantum scimus
 21  私は欲望する。ゆえに存在する。  Desidero ergo sum
 22  韓国人ですか?  Coreanus esne?
 23  しかし、今日も明日も、またその次の日も私は進んで行かねばならない  Verumtamen oportet me hodie et eras et sequenti die ambulare
 24  真理に服従せよ  Obedire Veritati
 25  みな傷つけられ、最後に殺される  Vulnarant omnes, ultima necat
 26  愛しなさい、
そしてあなたが望むことを行いなさい
 Dilige et fac quod vis
 27 これもまた過ぎゆく  Hoc quoque transibit
 28  命あある限り、希望はある  Dum vita est, spes est
     

  
 
   笹 公人『ハナモゲラ和歌の誘惑』 小学館 2017  
  漢詩は詩形、平仄、押韻がしっかりしており、英詩には「韻律学」(Prosody)があるのに、言霊の幸ふ国、日本に韻律の学が発達しないのはなぜだろう。日本の詩歌の韻律について、なかなか良い本に出遭わない。
  そんな興味から、笹公人『ハナモゲラ和歌の誘惑』小学館を手にした。ハナモゲラ和歌とは、例を挙げると「みじかぴのきゃぷりきとればすぎちょびれすぎかきすらのはっぱふみふみ 大橋巨泉」のような和歌である。和歌の韻律を持ちながら、意味不明なのである。全く無意味かというとそうではなく、何か解釈を許すところがまた一つの特徴である。
キャロル・ファンにはお馴染みの『鏡の国のアリス』のJabberwockyの詩のようなものである。ハンプティ・ダンプティが解釈して見せるが、もともと詩して、韻律を楽しむよう作られたものである。
  韻律に関して、本書は前三分の一ほどに、母音を中心とした考察、57577の不思議といったことが述べられているが、私には目を見張るものはなかった。中程は、短歌における様々な冒険、後半は著者の和歌遍歴の自伝的な文章、俵万智の「サラダ記念日」への言及など面白く、最近の和歌の世界に触れる良い機会となった。
最後に収められた、著者とジャズ・ピアニストの山下洋輔との対談が、ハナモゲラ和歌の発生の現場を見るようで、興味深かった。
同じ興味から、栗原敦監修、杉田洋子編『宮沢賢治のオノマトぺ集』ちくま文庫も覗いてみたが、使われている事象によって分類はされているのだが、韻律の面での掘り下げはほとんどなされていない。「知的・思惟的では切り捨てられがちな生理的・肉体的存在感の奥深さに満ちた賢治オノマトペの魅力はとうてい言い尽くせませんね。」と結ばれている。
日本語の韻律について、良書あればお教えください。
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Toshiro Nakajima

世界的に流行した「ピコ太郎」現象は、まさに英語の押韻を日本語に応用したものです。中村真一郎、九鬼周造、土居光知、兼常清佐などの日本語の韻律研究・実践はいいものです。
とくに常兼はお薦めです。マチネポエティックの運動もご参照ください。

宮垣弘
nakajima先生
色々ご教示有り難うございました。
折を見て、ご紹介の方の著作を覗いてみます。
韻律論で私の記憶に残るのは、別宮貞徳『日本語のリズム』(講談社現代新書、再版、ちくま文庫)くらいです。
      2017・7・9