スパイ・警官・ミステリー (2)      (1)へ  Topへ
   ペーパーバックで読むミステリーは翻訳で読むより何倍も面白い。

 Godwulf Manuscript Robert B. Parker 
  Early Autumm Robert B. Parker「初秋」
 Pastime  Robert B. Parker 「晩秋」
 
Valediction  Robert B. Parker  「告別」「
 The Bone Collector   Jeffery Deaver  「ボーンコレクター」
 Down River  John Hart  「川は静に流れ」
 The Bodies Left Behind   Jeffery Deaver 「追撃の森」
 

  
   Robert B. Parker Godwulf Manuscript

  かて、この作者のEarly AutumnPastimeを読んで面白ったので、主人公のスペンサーとするシリーズの最初の作品はどんなののだろーかと、その時買って置いた本である。
  この度日赤に入院の際に持って行って、読んだ。
  ミステリーを絡めたハードボイルド小説で、最後まで飽きずに読んだ。
  スペンサーは、私立探偵で、腕力、胆力、忍耐力もある、タフガイであるが、私はこの探偵が好きになれなかった。
  性的魅力を時々使う点である。
  登場人物の服装に細かな描写がある。

    2024・10・18 読了

 
     
   Early Autumn  by Robert B. Parker (1981)
     邦訳『初秋』  菊池光  ハヤカワ

  ハートボイルド小説。40年続き39作品もある「スペンサー」シリーズの一作。
私にとり初めてのパーカ―であり、スペンサーである。

スペンサー:主役、私立探偵。タフ・ガイ。知力、腕力共にすぐれ、教養もある。
スーザン:精神科医。スペンサーの恋人。美人、知性的。
ハー:スペンサーの信頼する友人。腕力ある黒人。
シモリ:スペンサーの信頼する友人。元ボクサー。

  事件は、離婚した妻が、元夫が15歳になる息子ポールを拉致しているので、取り戻して欲しいと、スペンサーに依頼するとこらから始まる。息子の居場所は分らない。取り戻した息子ポールは、テレビに齧りついて無気力な生活を送っている。
 ポールは再度拉致されるがなど事件は展開するが、物語はこのポールに自立(autonomous)の気概を持たせようと、スペンサーはひと肌脱ごうとする所にある。

 一章が短く読みやすい。
 歴史書やコ―リッジ、キーツ、シェイクスピアを引用し、スペンサーは教養のレベルを示しながら、暴力的現場にもポールを連れ出しリスクを取る勇気、、自分で決断する事を学ばせる。息子を夫婦の身勝手な抗争の具としか見ていない二人から、いかにして、息子を切り離すかも見どころ。

「スペンサー」シリーズの最も人気ある作品と言われている。。


   =======
右下の写真の右から4冊は今回参考のために図書館から借りたもの。

遠い鏡A Distant Mirror,の翻訳。
文中主人公スペンサーが読んでいた14世紀のヨーロッパについての歴史書。2段組、1000頁を越える。詳細な注付き。魅力的な本だが、ちょっと手を出しにくい。

スペンサーを見る事典』 イラスト:穂積和夫:文:花房孝典。(1990)
 二人だけの作としては、驚くべき労作、イラストが見事。
 服装、食べ物、飲み物、場所、車、銃・・・満載。特に、本文は服装や食べ物の記述が詳しいので、イラストはとても役に立つ。
  人物のイメージ(容貌)は映画からとったのであろうか?
(惜しいことに1990年以降はない。つまり、スペンサーもの16作品で終わっている。キーワードに英語併記ならもっとよかった。)

ロバート・B/スペンサー読本』早川書房編集部編。(2008)
  オタクの便覧:作品、人物映像、を検索するに便利。ファンの思い入れのエッセイなど。

スペンサーのボストン』写真:熊谷嘉尚。写真集、(1980)
 初心者には役に立たず。
    ー--------
ネット上:
スペンサーシリーズ
は40年間続き、全部で39作品。その一覧:
https://restrer.sakura.ne.jp/site5/spenser1/spenser1.htm

 2022・5・31
 


  
   Pastime  by Robert B. Parker (1991)
     邦訳『晩秋』 菊池光  ハヤカワ

  Early Time『初秋』が、母親が15歳の息子ポールを探すところから始まるのに対して、この作品は、10年後、25歳のポールが母親を探すという話で、この2作は一対で、併せて読むと味わいが深くなる。

 わずかな情報から、母親の在りかを追及するのであるが、その際、成長して、自立したポールの態度も見もの。

  母息子の絆も、ちょっと愚かな母親パッティも上手く描かれている。
 勿論、ハードボイルド的面白さも十分ある。

  冒頭、パールという名のポインター種の雌犬が登場し、以降、描写に臨場感を添え、その描写も楽しめる。

  スペーサーが自らの生い立ちなど話し(10章.) また、初恋の少女の話(12章)をする。ポールも車の中で自分の子供の頃の話をする。(17章)ホークが女友達に話をする。(30章)スペンサーがなぜ料理をするようなったか?(36章)   登場人物の生い立ちを触れているので、このシリーズでは重要な作品ではないかと思う。

   2作読んで、スペンサーものの魅力は、タフガイ、スペンサーの人柄の魅力である。男気があり、知力も教養もありながら、リスクを畏れない行動力である。

精神科医で恋人、スーザンに言わせると、スペンサーは;
You are thr most self-sufficient man I have ever known.

  39作品と多くの読者を惹き続けたのは、それ以外にも、恋人スーザン、親友ホークなど魅力的な人物が散りばめられているし、たとえ悪役でも、人間臭い血の通った人物造形、それに注がれる愛情ある眼差しにあるためだと言ってよい。
 
  パーカーの文章の持ち味は、細部の描写(服装、飲み物、天気、建物、場所、人物の所作・・・・)で、臨床感があり、その描写そのものを楽しむことが出来る。
会話も生き生きとしている。私は原文からどれだけ汲み取れたか怪しいものだが、恐らく、翻訳は素晴らしいだろと思う。
  

  1章の長さが短く、読みやすく、適度にハードボイルド的緊張を持ち込むので、楽しい。別の作品も読むことになりそう。

   2022・6・13
 

  
   Valediction  by Robert B. Parker (1984)
     邦訳『告別』 菊池光  ハヤカワ

 普通はPastime晩秋』とEarly Autumn初秋』とがペアになっているようであるが、私はその間にあるこの作品。選んだのは、ポールが登場するのと、恋人スーザンの言動に興味があって、読もうとしたが、アマゾン在庫切れ中。
 

  
     
   The Bone Collector    by Jeffery Deaver
  jジェフリー・ディーヴァー 『ボーン・コレクター』池田真紀子訳

  読み出したら止まらないのでジェットコースター・サスペンスと言われるジェフリー・ディーバーで、気分転換しよう手を出したが、ちょっと手こずった。
  前半を英語、後半を翻訳で読んだが、意表をつくプロットでキリキリ舞いさせられた。

 ディーヴァーは私にとり2作目、リンカーン・ライムを主役とするシリーズの14作品の第1作とは知らずに選んだが、ネロ・ウルフ賞受賞作、映画化もされている。

  リンカーン・ライムは、元科学捜査官で、警察官連続殺人事件の捜査中の事故で第四頸椎を損傷し四肢麻痺となり、首と頭部と左の薬指以外は動かすことができなくなっている。
 助手役のアメリー・サックスは元モデルの美人の警察官。これが、主役となって、連続殺人犯を追うのである。

 原文は大変難しい。科学的調査の専門用語が山ほど出てきて、巻末に付録として専門用語集がついているのだが、初めは、辞書を引かず、筋だけ追ったが、途中から翻訳を参照。後半はもどかしくなって翻訳で読み切った。
 ニューヨーク市警とFBIの縄張り争い、そので飛び交うジョークなど訳者池田真紀子さんの力量は凄いと思った。

  リンカーンが安楽死希望で、途中では、惹きつけを起こし、救急車を呼ぶ所までいったり、美人のサックスも背後に変わった経歴をもち、本作品では生き埋めさ
れる。

  そんな中で、連続策人が起き、それを追う。著者の視点は、犯行現場をも映し出し、小説のあらゆる手法を繰り出すのだから、忙しい。
  
 暇があれば、この作品を翻訳対照で細かく読み、語彙力を付けてから、次作に臨みたい。

 2022・5・20
 


  
   Down River  by John Hart
  『川は静に流れ』 東野さやか訳 ハヤカワ ミステリ文庫

  主人公は、継母の証言が唯一の証拠として、殺人に問われるが、無罪となっても、家には居ずらくなって、ニューヨークに行っていたが、5年ぶりに故郷に帰ってくる。そこでまた、色々な事件に巻き込まれ、冤罪の危険さえある。
  ノースカロライナを舞台に展開されるこの作品は、スリラーであり、ミステリーであり、家族(親子、義母、義弟妹)、恋人、友人との人間模様を描いた、文学的な深みのある作品であった。様々な伏線も見事に回収されるが、最後の一行は私には謎?だった。
  The Edgar Award(アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞)受賞も頷ける。

  今回は始から、翻訳を図書館から借りて、分らない所があれば、(見栄を張らず)遠慮なく見ることにした。翻訳はドライな原文から、日本の読者ならこう読み取って欲しい事を言葉を補いながら日本語にしているので、分かりやすい。その翻訳者の力量に驚くと共に、原作と翻訳のギャプを大いに楽しんだので、この作品はいつもの2倍楽しめた。日本語版を読む人は、訳文が日本人にはこなれていて、この面白さは味わえない。

対比の面白さをほんの数例だが、下記に挙げておきます。
    東野さやか訳     原 文
 頁数:568頁  386頁
 タイトル;川は静かに流れ  Down River
      訳文例       本 文
ロビンは出て行った。
キスもなし。行ってきますの言葉もなし。
とりつく島もなかった。
              p82
Then she left.
No kiss. No goodbye.
All business.
       p48
 しかし、彼は頭がまわる男だ。僕が警官や彼らの投げかける質問に慣れている点を留意して、かなり慎重を期すだろう。絶対に、
 しかし、彼は意外な作戦に出た。  
        p470
But he'be cagey. I knew something about cops questions, so he'd try to be subtle. I was sure of it.
  But he surprised me.

       p298
 だから、いろいろ言われても受け流した。彼の質問に答え、尻尾を出さないことだけを考えた。それもなんとか終わりそうだと思った矢先、自分の甘さを知らされた。
 彼は最後に爆弾を落とした。
         p473
 So I took what he had to give. I answered his questions and I covered my ass. I thought I saw the end, but I was wrong.
  He saved the best for last.
        p299

     2022・1・18

最後の1行「今夜、僕は電話に出るだろうか」が良く理解できなかったのは、終章が父と息子の和解への可能性を示す作者の周到な表現に気付かなかったのです。

この本を紹介して下ったかわゆうさんとのFBでのやり取りをここに収録しておきます。
ー--------------
かわ ゆう:
最後の一行をあらためて読み返しました
ずっとすることのなかった、その行為をすれば、“赦し”を与えることになるのではないでしょうか。 僕は、あの人を赦すことが出来るだろうか…という想い、葛藤だと私は解釈しました。

宮垣 弘
かわゆうさん、返信ありがとうございます。ロビンはアダムと父との和解を促すために、わざわざ、問題の時間帯に席を外していたのですね。葛藤という解釈は賛成です。「今夜も電話に出ないだろうか?」ではなく「今夜、僕は電話に出るだろうか」となっています。電話に出る可能性を秘めています。原文はI wondered if tonight I would pick it up.「今夜はひょっとしたら電話に出るかもしれないなあ」といった感じです。私も再読して理解が深まりました。

ー--------------
人間は誰でも過ちを犯す。We all make mistakes.
これはドルフもロビンも口している言葉である。
許すことの大切さをこの小説は気付かせてくれる。

   2022・1・22 追記

 

  
   2016年2月27日

The Bodies Left Behind  by Jeffery Deaver
  土屋晃訳『追撃の森

  OkさんがJeffery Deaverを読んでいると聞いて、刺激を受けて読んだのがこの本。  
   二人の殺し屋は既に、夫婦を殺している。現場にいた女性と不審通報のもとを確かめようとやってきた婦人保安官補が事件に巻き込まれ、追われる立場になる。人の来ない夜の森の中を、殺し屋二人は銃を持ち追いかけ、二人の女性は銃ももたず逃げ回るのである。
  400頁強が、その追いつ追われつの1日の描写である。
著者は神様のように、鳥瞰しており、カメラを自在に切り替えていくのであるが、あまりの緊迫を読者に強いないように、巧みな会話で、人物の背景を描いてゆく。女性の夫は浮気をしており、婦人保安官補の最初の夫の暴力、その子の非行、その子を扱う2度目の夫など、人物に血を通わせて行く。登場人物も次第に増えてゆき、二重奏のような曲が、交響楽のように広がって行き、500頁も読者を引っ張り、納得の結末で、読者を満足させる力量はたいしたものである。

  ハラハラ、ドキドキで時を忘れようとする人たちのために書かれている本で、登場人物を(読者をも)錯誤に導き、いくつものどんでん返しを打ち出してゆくのであるが、男女のこと、家族のことが、巧みに書き込まれ、文芸作品としても感動を呼ぶ。

“One way or the other, life goes on, doesn’t it?“  p501

辞書代わりに土屋晃訳『追撃の森』文春文庫を使った。それによると上記は:
どう転んだところで人生はつづく、だろ?