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   The Snowden Files /
MI6 The History of the Secret Intelligence Service 1909-1949 /
Ashenden
/
The President Is Missing
Let's Hear It for the Deaf Man
 

  
   

The Snowden Files by Luke Harding

  ジョン・ル・カレのスパイ小説を読みながら、次第に、現実の諜報活動に興味を持ち始めたところに、新聞の書評でエドワード・スノーデンについての訳本の紹介があったので、原書を取り寄せて、その1冊を読んだ。
スノーデンがアメリカの国家機密に属する諜報活動の情報を暴露したというニュースを聞いたとき、彼に対して、多くの人々は反感を抱いたのではないだろうか?私もその一人だった。内部告発にはいつもどこかいやなものを見たという感情が伴う。
  この本は、イギリスのジャーナリストがスノーデンの生い立ちを含め、逃亡のプロセス、各国の反応、アメリカ、イギリスが行っている諜報活動がどんなものかを描き出している。その大規模な活動に驚くとともに、スノーデンの告発もわかる気がした。ジャーナリズム(ジャーナリスト)レベルの高さにも目を見張る。国民の安全と自由(プライバシー)をいかに守るかという重い課題を見事に突きつけられ、登場人物たちが命がけでこの問題に取り組んでいる姿もうまく描かれていて、感動しました。
(今年出た本なのにもう邦訳が出ているのも驚きです。『スノーデンファイル』三木俊哉訳、日経BP社。未読)
  次は、スノーデンと直接接触したGlenn GreenwaldのNo Place To Hide(邦訳は『暴露』)へと向かいます。

 

  
   
  • MI6 The History of the Secret Intelligence Service 1909-1949 by Keith Jeffery

M16は、イアン・フレミング、サマセット・モーム、グレアム・グリーン、ジョン・ル・カレなどが属したこともある英国諜報機関である。アマゾンで目について、「1-Clickで今すぐ買う」をつい押してしまい、来たのが、写真の本。800頁、厚さ7cm以上もあり、圧倒され、読む気が挫けてしまった。「1-Clickで今すぐ買う」にご用心!!

  • 三村 明 厚さ7cmは凄いですね。読む気になるまでに、押し花がたくさんできそう……
  • 木下 信一 ペーパーバックで買って、日本語訳全2巻買って、どちらも積ん読ですorz

 

  
    Ashenden

by Somerset Maugham

  スパイ小説の魅力は、なんと言っても人間観察(描写)の細やさかだろう。プロットの面白さで惹きつけ、忙しく読者を引きずり回すというより、ミステリーの味わいを残しながら、そこに関わる人間を浮かび上がらせるために、細やかな描写があるのがスパイ小説である。
  ル・カレよりやさしいスパイ小説を読んでみようと手を出したのが、サマセット・モームのAshenden(1928年の作)である。やはりさすがモーム、文体も平易で、語り口がうまい。これはアシェンデンを主人公とした、短編読み切りの連作であるが、各編とも最後にモーム流のひねりTwistを利かせ、哀愁が漂う。
  圧巻は、ハスキーな声の女芸人にのめり込んでゆく男を描いたHis Exellencyであろう。このような心理を描くのはモームの得意とするところ。この頃モームは既に作家としての名声を確立しており、作家兼スパイのアシェンデンも、それを反映しているので、一種の落ち着きを感じさせる。スパイ小説の古典的名作。
  序文は立派な文学論。スパイとしてロシアへ赴いたときの経験とその時のエピソードも感動的。(岩波文庫に翻訳あり)

 

  
   
  • The President Is Missing
    by Bill Clinton and James Patterson 2018
    (『大統領失踪』)

 元大統領が、大統領を主人公としたミステリー書くことは許されるのだろうか?
国家機密を思わず作品の中で漏らしてしまわないか?元大統領が知名度を生かし、人気作家と組んで、売らんかなのミステリーに手を出すなんて!?
 ちょっと違和感があったが、大学同窓の高瀬君の推奨で読み始めたら、すぐにはまってしまった。謎そのものを大統領が黙秘しているので、読者も、謎の正体はなかなか分からない。大雑把に言うと、合衆国全体を危うくするようなサイバー・テロを大統領がいかに防ぐかというミステリー小説なのである。全体517頁を128章に刻み、テンポが速く、謎解きのほか、銃撃戦もあり、ハードボイルド的味もあって読みだすと止まらなかった。その間、読者は色々なことを学ぶ。
  大統領側近のあり方、権力の陰湿な抗争、インターネットに依存する社会の脆弱さ、サイバー・テロの恐ろしさ、国家危機時における他国首脳同志の信頼の重要さなど。そして何よりも、大統領のあるべき姿を。
電子書籍Kindleで原文を読み始めたが、英語はそれほど難しくはない。邦訳(越前敏弥・久野郁子訳、早川書房)上下2巻も図書館から借りた。邦訳の良い所は、冒頭に「登場人物表」が付いていることである。肩書など、わからない所を知りたくて、繰ってうちに、こちらの方も7割がた読んだ。妻となるレイチェルとの出会いで、主人公が愛の告白のために作った4行3連のコミカルな詩も、ご丁寧に、脚韻付きで訳出していた。
   原書も欲しくて注文していたが、イギリスからUsed bookがRoyalMailで届いたのは、電子版で400頁近く読み進んだ時だった。安い本なのでDustjacketが付いていなかったが、中身は新品で、ずっしり重い本を手に入れて満足し、これで残りの100頁ほどを読んだ。
 元大統領でないと書けない愛国のミステリー。最後までハラハラさせる優れたエンタメ小説で、元大統領と人気作家とが組めばこのレベルのことはできることを示している。一読をお勧めします。



  • 木下 信一 ヒラリーが怖くて失踪したわけではないのですね
  • 宮垣弘 木下さん:主人公ダンカン大統領の奥さんは、この物語の時点では、既に死亡しています。妻との出会いを回想するシーンに2章を割いています。短いが、味のある章で、これにヒラリーのイメージを織り込んでいるかも知れません。
  • 宮垣弘 Missingは単に「行方不明」という意味ですが、「失踪」と訳すと逃げ出したイメージがあるので誤解を生むかもしれませんね。

 

  
   2015年8月13日

Let's Hear It for the Deaf Man by Ed McBain 1973

  87分署シリーズの1冊。消夏のための軽い本はないかと手にしたのがこれ。
  久々に訪れた87分署は忙しい。犯罪の予告電話、空き巣にあった老夫婦、胸を弓で射らた男、不良少女、盗んだ車を店に突っ込んだ少年・・・これらの対応に忙しいのは、お馴染みのスティブ・キャレラ、マイヤ-・マイヤー、バート・クリングなどの刑事たち。いろんな事件が起き、また解決されていくのであるが、その中で、彼らが歓迎しないのは、謎の犯罪者Deaf Manである。彼は犯行の予告とそれに関係ありそうな資料を送りつけて、分署の刑事を愚弄する。作者は犯罪者側の手のうちも分署の刑事たちの反応も両方を示しながら、読者を誘導していく。問題の銀行強盗は果たして成功するのか?

  エド・マクベインの世界が面白いのは、大都会の市井の人々の生活の中での、生の声(英語)が聞けることで、読者も只の人間に帰っていく。プロットの面白さもさることながら、刑事も恋をし、泥棒もし、拳銃も奪われるなどと人間臭い世界がここにある。

  87分署シリーズで、Deaf Manが登場する作品は、ネットで調べると、他に5作あるようなので、いずれ又Deaf Manに出合うことになろう。


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McBainは2017年秋引っ越しの際処分してしまった。
また買って読みたい。


2020・4・12