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   自然科学がどこまで「心」に接近できるか?

Oliver Sacks The River of Consciousness 2017
オリヴァー・サックス『意識の川ゆく
 

  
  Oliver Sacks The River of Consciousness 2017
オリヴァー・サックス『意識の川ゆく』太田直子訳

  脳神経科医サックスの最後の著作であり、 タイトルのThe River of Consciousness に惹かれて手にした。集められた10のエッセイは、いづれも、豊な情報量と、サックス博士の細やかな科学精神とも言うべきものがあふれていて面白かった。
  
  翻訳書には原書にはない副題「脳神経学者が探る「心」の起源」が付いているが、そのようなことに関心のある者には興味深く読める。ただし、なにか結論的なことを述べているわけではない。
  ダーウィン、フロイト、ウイリアム・ジェームスへの傾倒ぶりは心温まる。
  
   ー------備忘メモー----

ダーウィンと花の意味
 『種の起源』の後、植物の地道な研究が続けられた様子を詳しく述べている。自家受粉から他家受粉、植物と昆虫の「共進化」など進化と自然選択の視点からの記述。植物と動物のDNAは70%共通。正明の系統図を見ると、あらゆる生物の古さと親類関係が、分かる。そして進化している。ダーウィンのイメージが変わる。

②スピード
  時間感覚について、様々な話題を挙げる。
「ここの神経細胞や単純な回路のスピードでなく、・・・高度の神経ネットワーク」がはたらいているか?
  時間の拡大、圧縮技術が進んでいる。

③知覚力―植物とミミズの精神生活
   ミミズを研究したダーウィンの話から始まる。
ミミズにも脳神経節というのがあって、精神の存在が認められる。ロマネス、フロイトの研究、ニューロンの話となり、、クラゲ、タコ・・動物にはすべて精神が認められる。


④別の道―神経学者フロイト

  フロイトはまず、神経学者として、ヤツメウナギの神経の研究を行い、神経科医をしている。1886年にはウイーンで開業。当時は脳機能局在説が流行。『失語症について』では、神経系における生理的現象の連鎖と精神過程の精神過程の関係は、因果関係ではない。・・・」
ヒステリー症の器質的説明から決別。
記憶と動機お問題。精神分析と神経生物学、人間の意味の世界と自然化科学の世界、一体かできるか?

⑤記憶は間違いやすい
  自分の戦時中の記憶、レーガンの例。「剽窃」の発生。ヘレンケラー、トウェイン、コーリッジの例、
  記憶(情報)の出所を確かめないことは、逆に他人の話がよく聞ける。

⑥聞きまちがい
  フロイトのいう無意識が原因だけではない。神経機構にも原因がありそう。

⑦創造的自己
  子供の遊び、まねと繰り返しの話から入る。「他人の人生を自分のことのように経験して、新しい目と耳を得ること」ワインシュタイン。模倣、繰り返し、ミラーリングは、人間だけでなくすべての動物にみられる、スーザン・ソンダグの例、ミミクリー。イミテージョン、ミメーシスの違い。『妻を帽子とまちがえた男』のトゥレット症候群。繰り返しの例「シャーロック・ホームズ」
  創造性を発揮するには、一度「忘れ」、潜伏期間が必要、ポアンカレの例を引く。
  脳内に根本的な創造的発達につながる記憶もあるのか?

⑧たんとなく不調な感じ
  
恒常的な体内環境の維持ーホメオスタシス
ー自律神経
  片頭痛  81歳で肝臓癌 ー塞栓手術
―極端な「不調な感じ」 ー回復の喜び。

⑨意識の川
 静止画を連続的に見せると動きが出てくる。我々にはパラパラ漫画が分かり易いのだが、本書では、回転のぞき絵(zeotrope)を例に出してウイリアム・ジェームスの「意識の流れ」中で統合されている説に触れる。ベルグソンでは映画。
  意識の神経科学的研究は1970年代より前は、触れてはならなうテーマだったが、以降、中心的関心事となり、記憶、心象、内省する意識まで研究されている。ニューロン100個以上同時にモニターできる。コンピューターによる神経モデル。視覚意識の見かけ上の連続性―履歴現象、残像、「原」意識、ここから人の意識に飛躍。言語、自意識、時間感覚が加わる。「瞬間の集積」

⑩暗点―科学における忘却と無視
  忘却と無視の事例を沢山挙げている。サックスの博学さを知る。「時期尚早」「偶然」色々な要素で、科学の発展は偶発的なものによることが多い。

  2022・11・30
 


訳書 2018 早川書房

解説 ― 養老孟司。各種の簡単な紹介。
参考文献 ― 文献に和訳のあるものは併記さ         れている。
索引 ― 訳出されていない。