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   DVD Tinker Tailor Soldier Spy
      『裏切りのサーカス』


  ジョン・ル・カレの同名の小説の、2011年のイギリス・フランス・ドイツ合作のスパイ映画。トーマス・アルフレッドソンが監督、主人公のジョージ・スマイリーをゲイリー・オールドマンが演る。

  イギリス秘密情報部の中に、ソ連情報部の二重スパイ「モグラ」がいる。それを退役のスマイリーが再起用され、あぶりだすという話である。
英国では評判がよかったようであるが、日本人がこの映画を見て、なかなか筋を追えないのではないと思う。

  逆に、原作を読んで、この映画を見ると、原作のエピソードが巧みに取り入れられていて、あーあ、あの場面だと、違和感なく、懐かしく見ることができる。
勿論、ル・カレの豊かな世界の一部しか表現されていないのだが・・・。

  
  イギリス秘密情報部がロンドンのケンブリッジサーカスにあることから、サーカスと呼ばれているが、この映画では、サーカスの雰囲気もわかるし、人気キャラクターのジョージ・スマイリーも良く描かれていて、ル・カレの小説を楽しむために、この映画は良いかもしれない。イギリスらしい重厚さがそこにはある。

  名前だけあるが、ソ連情報部の首領「カーラ」も出てくる。

  このDVDは、5、6年前、ル・カレに熱中していた頃、米人G.Pickettさんも読み始めていて、彼からもらったものである。そのピケットさんが亡くなって2年近くなる。


  2020・10・4
 

  
 
2015年6月7日
Smiley's People by John le Carré  1980

  ル・カレは私の英語の力では少々難しいのだが、また、手を出してしまった。
  これは「カーラ三部作」と言われているものの第三番目のものである。
この作品で、ソ連の諜報部門巨魁カーラをスマイリーが倒すのであるが、悠遊迫らぬ物語の運びをゆっくりと楽しむことができた。私はプロットより、ル・カレの語り口が好きなのである。特に人物をその体臭まで伝わってくるぼど、細微に描くだけではなく、どんな端役でも、それぞれに背負ってる、生きていく悲しみまで表現しているように思う。第一、主役のジョージ・スマイリーでさえ、妻のアンの背信を味わっており、それが物語の通奏低音のようにこの作品の最後まで響く。人間を描くことが文学なら、立派な文学、スパイ小説を越えた大人の文学である。
ほんの一例であるが、引退した女性諜報部員コニーをアル中の老婆として描き出す筆使いには圧倒される。

  今回も、ハヤカワ文庫の村上博基訳『スマリーとその仲間たち』を参照しながら読んだが、これなくしては、精々6割くらいしか読めなかったろう。
 
  
   
2020年1月7日

John Le Carré The Biography by Adam Sisman (1)

  「雑司が谷シェイクスピアの森」の望年会では、何時のころからか、関場理一先生から、本がプレゼントされるようになった。今回、頂いたのがこの本。大部な本で、ちっとためらいがあったが、少し読んでみたら、そのまま引き込まれていった。

  良い作家が生まれるには、波乱の幼少期が必要なようで、最初に、ジョン・ル・カレ(本名David Cornwell)の両親や親族が細やかに記述される。父親Ronnieは、幾つもの事業に手を出し、成功と破産を繰り返す。母Oliveは、彼5歳、兄Tony7歳の時、家族を捨てて、夫の同僚と駈け落ちする。このことは、もちろん彼の人生に大きな影を落とす。
  私はル・カレの作品は6冊しか読んでいないが、この伝記作家が、ル・カレをどのように造形していくのか、興味深い。600頁の本格的な伝記を最後まで読み通せるか?
 
 
  
   

John Le Carré The Biography by Adam Sisman 2015(2)
ジョン・ル・カレ伝』(上、下)アダム・シズマン 加賀山卓郎・鈴木和博訳 2018

  図書館の蔵書検索で、「ジョン・ル・カレ」で検索したら、彼のほとんどの作品が翻訳されているだけでなく、なんとこの伝記もすでに翻訳されているのに驚いた。ル・カレのファンが日本にも大勢いることが分かる。
  翻訳は上下2冊、合わせて966頁で、原注、参考文献、索引すべて訳し、随所に訳注も挟まれており、文章も易しくなく、込み入った事実を細々記述したこの作品を、よくぞ訳出したものだと頭が下がる。
  まず、父Ronnieを浮き彫りにする。ー 詐欺まがいの事業、法に触れ、監獄入れられるなど、度重なる転居、多彩な女性関係、政治に手を出したり、常人離れした行動をする。おそらく、ル・カレ本人も知らないようなことを、赤裸々に、たっぷりと描き、その中に、母親に見捨てられ、寄宿舎生活で、寄り添い過ごす兄弟の姿を点描してゆく。ル・カレは、漫画とクリケットなど運動が得意だった。まだ、2章しか進んでいないが、ぎっしりと情報が詰め込まれ重い内容である。
  時には、ホッとするエピソードもある。例えば、ル・カレが大きくなっても夜尿していたこと、仮病で入院していた時、父の女友達に、The Wind in the Willowsを何度も読んでもらったこと、『鏡の国のアリス』の中の「セイウチと大工」の詩を、全校生徒の前でした暗唱したことなど。