蘇東坡 (蘇軾
    1036 ー 1101
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    「柳緑花紅 真面目」は蘇東坡の言葉である。ふと彼について知りたくなって、長年書架に眠っていた本を取り出した。

  唐宋八大家の内、宋の6人、欧陽脩、曽鞏、王安石、蘇洵、蘇軾、蘇轍や梅堯臣、司馬光、たち錚々たる文人政治家が同時代人。その中でも蘇軾は最高峰とされる。

  私は50年も前、禅の語録の中で蘇東坡と出会っていた。
 
  執筆中(未完)

  
   林語堂・合山究訳『蘇東坡』 明徳出版1978

  文人蘇東坡ではなく、人間蘇東坡を謳い上げる。
  詩文の評釈ではない。伝記作品として最高。500頁を越す大著が終始面白く、感動をもって読み終えた

  詩人、文人、書家、画家・・・、官僚としての生き様などで、こんな素晴らしい男はまたとない。蘇東坡に心酔している林語堂が序文でそう書いているので、いやが上にも読みたくなる。合山究訳も素晴らしい。
  
  英米人に向けて書いているので、平易に書かれていて、翻訳は原詩が掲げられており、出典も訳注として付けられていて、申し分ない。、
  小説を読むように読める。
  青年時代、科挙、殿試、388人の合格者の内、最高位のに近い成績で「進士になったのは1057年、彼20歳の時である。欧陽修が試験の統括、試験官には梅堯臣がいた。弟、轍も同時に及第。

  彼の男盛りの頃、35歳の時に王安石が若い神宗の元で政治を牛耳ることになる.。政治の世界に大きな混乱が起き、官僚たちも2派に分かれて政争を繰り広げる。彼の皇帝への書簡を、全文載せているが、心打つ。林語堂は当時の状況をじつに生き生きと描いている。

 政争の合間に挟まれてある第11章「詩人と妓女と僧侶」では、宋の詩体ともいうべき詞の流行のことが、芸妓の話と共に分かり易く述べられている。妻のこと、初恋の人従妹、朝雲、彼の内面を少し掘り出して召せる。

 本来なら、位人身を極めるはずだが、時の王安石の政策に反対していたので、冷や飯を食わされ、更には、いわれない裁判にもかかれれ、僻地に左遷される。
流謫生活での暮らしぶりは素晴らしい。多くの傑作、例えば、前、後赤壁賦」も生まれる。
  「ヨガと鍛錬術」では彼の心身修行の様子が窺える。

  彼50歳の時、神宗が崩じ、哲宗となり、太皇太后との寵愛もあって、政権の中枢へと返り咲く。詔勅を起草する第三品の翰林学士となり、宰相に次ぐ位で、科挙の試験の医院長まで務めるとあって、文人政治家として、位を極めたというべきだろう。
  この間に挟まれる、彼の私生活、書・画についての作者の記述も豊で面も白い。

 激しい政争が繰り返される当時 権力の座にある者の、煩わしさ、怖さを十分味わった蘇東坡は、地方へ転出願い、それが叶えられる。54歳の時である。

  第22章の土木工事と飢饉の救済は杭州へ出てからの彼の政治手腕が見事に描かれている。公立病院設立、水の供給、運河、貯水池、西湖の開発、いずれも数千人を動員する大規模なもので、また飢饉のへの対応は、太皇太后や中央を動かしての彼の彼の活躍は、文弱の詩人とは全く異なることを示している。
  詩よりもっと大切なものに全力を注ぐ時代でもある。

 反対派閥が政権を運営すると、左遷に次ぐ左遷で、中国の政治の苛烈さが浮き彫りとなる。最後、海南島まで流されるが、この不遇の時代の生き様が見事に描かれている。

   林語堂が蘇東坡に惚れ込んだのもよくわかる。

  本文は、多くの資料の裏付けで書かれているのだが、訳者が本文の典拠を細目に洗い出しており、訳注を付けているのは驚嘆に値する。余程の研究者でないと出来ないことである。
  文献、系譜、年表は原書には無いものや詳しいものがり充実している。
  原書にある索引はない。

  2022・5・11
 


合山究訳は現在、講談社学術文庫『蘇東坡』上下2巻にもなっている。


原書、The Gay Genius by Lin Yutang
初版本1947?

中に前の持ち主の、木暮実千代のサイン入りのプロマイドが挟んであった。

中国のことを書いた英語の本で、日本人にとって、人名や詩など元の漢字を知らないと落ち着かない。
Lin Yutangと書かれてあっても林語堂とはなかなか結びつかない。巻末に人名に関しては漢字の対照表がついているが、読む意欲を殺ぐ。

詩は大胆な意訳であるが、原詩を読む助けにはなりそう。
図版は翻訳本より、鮮明。

  
     蘇東坡とは随分昔に出合っていたことを今頃気付いた。

  それは、道元禅師の『正法眼蔵』の中の「渓声 山色」の巻で、蘇東坡が取り上げれているのである。私は中谷白雲『正法眼蔵参究 渓声 山色・礼拝得髄』で読んだ。1972年と1974年に読了と本の最後に書いてあるから、30代の頃、半世紀も前のことである。

  そこで取り上げられている蘇東坡の詩は:

     「贈東林総長老」

    溪聲便是廣長舌
   山色豈非清淨身
   夜來八萬四千偈
   他日如何擧似人

 
渓声けいせい便すなわ広長舌こうちょうぜつ
山色さんしょくあに清浄身しょうじょうしんあらざらんや
らい八万はちまんせん
じつ如何いかんひと挙似こじせん

  これとは別にもうひとつ昔から好きだった蘇東坡の詩に次のものがある。

    「廬山煙雨」

    廬山煙雨浙江潮 
   未到千般恨不消 
   到得帰来無別事 
   廬山煙雨浙江潮
 

上の詩を含めて、YouTubeに沢山の投稿がある。
(259) 廬山煙雨 (東坡四偈) 曲/融熙 唱/丹俐 - YouTube
(259) 廬山煙雨浙江潮 Smoky Mist of Mt. Lu Tidal Bore of River Zhe - YouTube
(259) 廬山煙雨. 東坡四偈. 千里贛鄱圖 曲/融熙 唱/丹俐 - YouTube

浙江潮は8月15日満潮時に潮が逆流する現象がみられる。
イギリスのセヴァーン川でも見られ、ジュリアン・バーンの小説にも出て来る。

   もっと古くは高校時代漢文の時間に触れた気がする。

     「春夜 」 

   
春宵一刻直千金
   花有清香月有陰
   歌管楼台声細細
   鞦韆院落夜沈沈

 


春秋社 1972年

安谷白雲の『正法眼蔵参究』は全部で5冊ある。
とにかく面白く読み通せた。悟りを文字によって得られると思っていた頃のことである。