Eさんの読書会から  Topへ
   シェイクスピアを読む会でご一緒のEさんとは帰り路、時々ご一緒になる。電車の中でわずか10数分であるが、Eさんの属している、他の2つの読書会(翻訳グループ?)の話をお聞きするのが楽しみである。そのご縁で読んだ本をここに集めます。
Hhaled Hosseini
Susan Hill
Muniel Spark

Barbara Pym
 

  
   

The Kite Runner by Hhaled Hosseini

Eさんからある読書会で読んでいると聞いて、一体どんな本だろうと手にしたら、思いもかけぬ良質の小説らしい小説だった。
アマゾンのブックレビューには、翻訳本を含めて、多くの読者によってその感動の報告がなされているので、詳しいことは書かない。

一口に言って、ある男の成長の物語であり、その間、友情、裏切り、父子関係、出生の秘密、アフガニスタンの政変、ソ連侵攻、タリバン政権、人種問題、アメリカへの移民など、小説技術をうまく織り込んで表現され、感動を呼ぶ。

作者が移民者でありながら、その英語語彙の幅は広く、加えて、時々ペルシャ語が出てくるので、佐藤耕士訳『カイト・ランナー』(アーチストハウスパブリシャーズ 2006)を辞書代わりに使って読んだ。原文より見事な訳が出てきて驚いたりもした。例えば:
  「もう忘れちまえよ。そうすりゃ楽になる」
  「なにが?」
  「生きることさ」 ファリドはそういって、窓から煙草をはじき飛ばした。 (原文は242頁)

 私には無縁だったアフガニスタンも少し身近なものとなった。

 

  
   

A Bit Of SINGING AND DANCING by Susan Hill

本好きのEさんが貸してくださって読んでいるのだが、ちょっと変わった味わいの短編集です。
第一話は聾唖の棺作り職人と病弱な少女との交流、第二話は老齢の男性の二人住まいで、一方は大柄で、他方は小柄の唖者で蝋人形を作るのが趣味。第三話は32歳の女性の情事、その逢引の場は元貴族の館の温室で、そこに現れる発育遅れの少年・・・とった物語が、淡々と語られ、リアリティーがあるので引き込まれます。
途中から、Kindleで読めること分かり、これで読み始めましたが、字が大きく読み易いの驚いています。私は紙の本と活字が好きなので、端末で読むのに抵抗があったのですが、いつの間にか馴染んできました。
スーザン・ヒルのこの本は、エンターテイメントの本ではありませんが、易しい言葉を積み重ね、読ませる力があり、胸に染みるような読後感があります。
Ghost storyの名手のようなので、いずれそれも読むことになりそうです。

 
   

A Bit Of SINGING AND DANCING by Susan Hill (その2)

11篇の短編を収めるこの本には、老弱男女様々な人が登場する。男性では、男の友情を描いた「Ossie」が完成度も高く、女性作家がよくぞここまで書けたものだと感心した。女性も、少女の頃の回想や介護施設の老人を含めると、その幅も広いが、その中で、彼女たちが自由(自立)を自覚するシーンが所々あって、目を引いたので、紹介しておきます。
① I am thirty-two years old, she told herself, eight years married and childless, what else is there for me? I am not unattractive, not unintelligent, yet I have never had any sort of an affair, before marriage or since,---(情事の始まり)
② here I am, living my own life and making my own decisions.(同居の女友達と別れて住むことにした40才の女性)
③ I am fifty-one yeas old and look at the chances before me. (2週間前、母親を亡くした独身女性)
④ I shall be a widow, she thought, I shall be left alone, and I should prepare for it now, make some plans. -----I am over fifty and I have never known myself, never tesred myself, I have never truly lived. (旅先で、夫が突然、心筋梗塞のような発作で倒れて)

ちょっとモームに似た味わいのあるこの作品集は十分楽しめた。

上記引用の作品名①In the Conservatory ② How Soon Can I Leave ③ A Bit of Singing and Dancing ④The Peacock

(写真はKindleから)

 

  
   

The Woman in Black by Susan Hill

 クリスマス・イブに、暖炉の前で、一家団欒の時、怪談話をするのが慣わしだという。皆がそんな話で打ち興じている中で、私だけが怖い話をすることができない。クリスマスが終わったら、私は書くことによって、悪魔祓いをしなければならないと思う。
 スーザン・ヒルの筆は、伝統的なロンドン名物の霧から、英国の風物を織り込みながら、穏やかに、緩やかに、読者を引っ張ってゆく。Ghost storyなので、中身を明かすことができないが、幽霊がいつ出てくるか、その前兆を恐る恐る探りながら読み進み、やっぱり、怖い思いをさせられて終わる。

  先に読んだ短編集A Bit Of SINGING AND DANCINGは彼女29歳の作でその筆力に驚いたが、このThe Woman in Blackは彼女41歳の作。僻地の沼地に立つ館という特殊な環境を、易しい文章を重ねながら、リアルな世界を構築する力はすごい。子犬を登場させて、それも光っていた。
 各章の冒頭に挿入されているAndy Einglishの木口版画(写真左)も味がある。
(邦訳あり。舞台化、映画化もされている。)

 

  
   
2018年12月10日

Selected Stories by Muriel Spark

これも本好きのEさんが貸してくださったもの。小ぶりのペーパーバックに4編の短編が入っており、各編とも語り口がうまく、楽しめ、ちょっと奇妙な味わいがあった。
①The Executor
大作家の叔父の遺産の処理を任された主人公は、全部を財団へ譲渡する。ただ、一編の未完の小説の草稿だけを残して、ひそかに続きを自分で完成しようとする。知的に磨かれたゴースト・ストーリー。
②Bang-Bang You're Dead
自分によく似た女の子がいて、良く間違えられた。舞台は、二人の少女時代のロンドンと後にアフリカの植民地での再会、交流。その時撮影した映像を後に上映して楽しんでいる。時と場所が重層的で、ちょっとひねった筋書き。主人公の屈折した気持ちと孤独感が伝わってくる。
③The Serph and the Zambesi
アフリカが舞台、熱いクリスマスの催しに、いかにもアフリカ的な不条理な出来事が起きる。
④The Portbello Road
子供のころ、仲良しの男女4人で遊んでいて、主人公は枯草の中にあった針(ニードル)に指を刺して、血が出るという事があった。それ以降、仲間にニードルというあだ名で呼ばれるようになった。その後の4人の運命。これにも、アフリカが取り入れられている。あの世とこの世の交差、考え抜かれたプロット、作者の力量が良く分かる。技巧的で、ノンセンスでニヒルな味が面白い。

邦訳:ミュリエイル・スパーク『バン、バン!はい死んだ』木村政則訳あり、③以外は翻訳で読める。