詩の花束(4) 室生犀星 詩の花束(1)へ |
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『我が愛する詩人の伝記』 室生犀星 初版1958年、これは1971年11版、犀星検印アリ 70年前の本であるが、ある読書クラブで取り上げられていたので、懐かしくなって、当時の姿のしている本を求めて買った。 この本は、私が学生の頃、女友達から、誕生日にプレゼントとされたものなのである。 当時、私は、専らゲーテ、ハイネ、カロッサ、ヘッセ、マンなどドイツの翻訳作品を読んでおり、犀星、朔太郎、拓次など詩も少しは読んでいたので、文学青年と思われていたのであろう。プレゼントとして本を贈られたのは、女性からは、唯一彼女だけである。彼女の結婚後は自然付き合いが途絶え、本の方も、、何度も繰り返した引っ越しの過程で散逸してしまい、思い出すこともなかった。 同じ彼女からは、別の時、ジョルジュ・スーラのデッサン集も頂いた。私は当時日曜洋画家でもあったなど、幾つか昔のことが思い出された。 本をくれた彼女は、もうひ孫に恵まれているだろうが、青春時代のこんなこと覚えているかしら? ーーーーーー いま、70年の歳月を経て、この本の手に取ると、当時にの私は、十分味わう素地が未だできていなかったように思う。 冒頭の「北原白秋」の項を読んでみる。 内容は、犀星の青年時代、白秋への接近から始まり、生涯の付き合い、死後のことまで、極めて具体的な事実が披歴さ、詩人たちの生き方を覗ける。。白秋が関係を持った、3人の女性についてもその姿が映し出されている。 『邪宗門』『思い出』が出版された頃や。彼の発行した雑誌『屋上庭園』、『朱欒サンボア』などの発表した詩人の顔ぶれも分る。 20頁の小品ながら、白秋の一面を誠実な眼で捉えた佳作である。 折を見て他の詩人ことを読ん見よう。 この作品が取り上げている詩人; 高村光太郎、萩原朔太郎、釈迢空、堀辰雄、立原道造、津村信夫、山村暮鳥、百田宗治、千家元麿、島崎藤村。 2024・6・1 この作品のおもしろさは、難しい詩論は全くなく、いわば、下世話な話を、絶妙な筆捌き描いていることにある。読者も、相当の年輪を重ねないと、その凄さは分からないだろ。 これは犀星が69歳になり、文壇で地歩を得、もう怖いものが無くっているからできることで、例えば、「釈迢空」の顔の痣について、最初から触れるなど、常人のできることではない。 伝記とあるが、詩人の全体像を描いたものではなく、著者との接触を中心とした交友録に近いもので、それが却って、詩人の大切な一面を浮かび上がらせることになっている。 2024・6・10 |
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「島崎藤村」私のもっとも好きな詩人は、白秋と藤村なので、この本最後に取り上げられている「藤村」を次に読んだ。 まず感じられるのは、犀星と藤村の距離の遠さである。 親しく付き合うこともなく、讃えば、或る週版記念会に藤村が差し向けた静子夫人に説いても、唐回しに描写するだけに終わった得る。 その達成した仕事、詩、小説の大きさを、自分のそれと較べて卑下している。幾つかの詩の引用があるのだが、詩そのものへの意見感想が欲しかった。全体として、聡明な藤村像を浮かび上がらせている。 2024・6・3 「高村光太郎」 「高村自身にとっても私のような男に身辺のことを書かれることは、相当不愉快な事であろう。私にとってほとんど生涯の詩の好敵手であったし、かれは何時も一歩ずつ先に歩いていたこと、詩のうえの仕事の刻み方のこまかさ,用心ぶかさに至っては、私に学ぶべきことを、先に置いていた点でも、私は高村にかなわないものを感じていた。年少なかれが早くも『スバル』の毎号の執筆者であることは、私の嫉みのもとであった。・・・」 犀星と高村の距離感が全編見事に描かれていた。 留守宅を訊ねた時の、智恵子の対応も3度描かれている。高村の智恵子に対する感情も、冷ややかな眼差して見ている。 立派な光太郎論である。 2024・6・6 「萩原朔太郎」 娘の葉子さんのことから入る。犀星25歳の時、3歳年上の朔太郎にあい、以来40年の付き合い。「萩原と私の関係は、私がたちの悪い女で終始萩原を追っかけ廻していて、荻原もづるする引きずられているところがあった。」よく飲み、男同士のつきあいたは、昔は公であったであろうと思わせる。 「釈迢空」 本人が最も気にしていたであろう、顔の痣に最初から触れる。愛弟子2人についての記述が多い。学者折口信夫については触れる所がない。 2024・6・10 「堀辰雄」 堀辰雄の穏やかな人柄、人徳を見事に描き出している。 萩原朔太郎没後、朔太郎全集の出版に際し、三好達治と犀星とが意見の対立から、つかみ合いの喧嘩になりそうになった時の、堀が仲裁に入ったとこの様子が鮮やかに描かれている。 多くの人々、その中には、高峰三枝子、香川京子などを含み、詩人仲間からも愛されて姿が浮き彫りにされている。享年50歳。 2024・6・11 |
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「立原道造」26歳で没。 「津田信夫」36歳で没。 この二人は犀星の若い友人であり、二人とも犀星に甘えている所がある。気持ちの良い交友が出来たのも,犀星の偉い所。 「山村暮鳥」犀星より5歳上、その詩の歩みについては、同時代人として良く描けている。多少詩論めいた記述もある。 「百田宗治」 「千家元麿」 この2名については、馴染みなく、再読せず。 この作品を読んで感じることは、詩人としての価値より、人間そのもの価値の方が遥かに大きい、ということ。 2024・6・17 |
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