Nietzsche
 フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)
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    高校時代、ニーチェを盛んに読んだ時期があった。『善悪の彼岸』とか『人間的に余りにも人間的な』といった、アフォリズムを重ねたようなものばかりだが、『ツアラトスラ』あたりで、ふと、この人に付いて行くと、頭がおかしくなるのではと思い、ぴたりと止めてしまった。彼が言及していたショペンハウエルの『意志と表象の世界』も持っていたが、すっかり忘れていた。60年近く経ったいま再開である。  
  
   ニーチェ『悲劇の誕生』秋山英夫訳

  ギリシャ悲劇を数編読んで、このような高度な演劇がどのように生まれたか知りたくなり、ニーチェのこの本が気になっていた。たまたま葛飾区図書館読書クラブの読書会でこれを取り上げることになったので読み始めた。
  二―チェの言わんとすることを明快でなく、ギリシャ悲劇の発生が、ディオニソスの神殿での合唱(酒神賛歌(dithyramb) )から生まれたったというのは、歴史的な事実事実のようだが、以降、悲劇が発生するまで発展形態について何も述べず、ニーチェの思い入れだけが繰り返し述べられているためである。
  2022年9月18日の読書会でも、すっきりとした読後感を持った人はいなかった。

 私は若い頃からギリシャ・ファンで、海外の美術館でも勤めてギリシャのものを注目して見てきたが、ギリシャの地を訪れるチャンスはなかった。私のギリシャ理解は、清明、アポロ的なものであるが、その裏にあるディオニソス的なもの知りたいというのも、読む動機の一つであった。。その点では本書は十分こたえてくれた。
  下記。西尾幹二の解説に同感である。

西尾幹二訳解説 p10

『悲劇の誕生』はなるほど当時の百科全書的な博識と訓詁注解の学であった実証的文献学の約束を踏み外していたかもしれない。しかし古代ギリシャ像の不当に歪曲された解釈だあったとは言えないであろう。
古典古代に対する「晴朗なギリシャ」という当時の合理主義的な偏見、理性の過程によって書かれた人文主義特有のギリシャ史に対して、ニーチェがディオニュソス的な暗い不合理なものの役割を強調し、ギリシャ文化のダイナミックな複層的な構造を発見したことはともあれ本書の学問上の功績であった。


    ー------
読書メモ

以下頁数のあるものは、秋山英夫訳、訳注の頁を参考作った。

 p230  アポロ  ディオニソス
 (バッカス)
   光明と明晰の神  酒と陶酔の神
 素性  純ギリシャの神  トラキアのデーモン
 (鬼神)
 住居  天界  大地ならびに下界
 聖獣  白鳥 いるか  牡牛、豹、ライオン、蛇
 植物  月桂樹  きずた、葡萄
 奉仕者  ミューズの女神たち  マイナデス(酒神信女)
 礼拝  静的尊信  興奮的狂躁的密儀
 犠牲  供物をする  いわゆる聖さん様式で
 音楽  荘厳な格調ある音楽  騒々しい舞踏音楽
 特性  冷静な自己抑制  陶酔、狂気
     
     
p53,p236  ギリシャ文化の推移 
 第一段階   ホメロス以前の巨人j時代、あるいは青銅と英雄の時代
 第二段階  ホメロス時代  
 第三段階    ディオニソス侵入の時代
 第四段階  ドーリス式芸術の時代  
 第五段階    紀元前6世紀のアッティカ悲劇の時代
 第六段階  ソクラテス、エウリピデス  
     

6.詩と音楽の関係 メロディーこそ最初の、そして普遍的なものなのだ。

7.悲劇合唱団の起源:悲劇は悲劇の合唱団から発生したものである。
   合唱団の位置づけ。シュレーゲル「理想的観客」

8.サチュロスと演劇の根源現象:
  サチュロスこそ人間の原像:神の側近であることによって狂気する感激した熱狂者、神の苦しみを共にする仲間、知恵を告知する者、絶倫の、自然のしめす生殖力の象徴。踊りながら歌うサチュロスと同化。

 酒神賛歌(dithyramb) は神に仕える無時間的奉仕者、

起源的には悲劇は「合唱」のみあって、「劇」ではなかった。

ギリシャ悲劇についてはネット上詳しい情報が得られる。

手持ちの本では、明快な解説がある。
  
The Theatre  A Concise History  by Phyllis Hartnoll


 



1844年ニーチェ誕生
1872年本書出版(著者28歳)
1886年本書新版「自己批判の試み)が加わる。
 『悲劇の誕生 ギリシャ精神とオエシミズム』

1900年 死去、55歳


【参考】
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バートランド・ラッセル『西洋哲学史』第一章ギリシャ文明の勃興
{バッコス崇拝には多くの野蛮な要素があり、野生動物をこま切れなるまで引き裂いて、その全体をなまのまま食べる、といったことも含まれていたが、奇妙にも女性崇拝の要素も存在していた。れっきとした主婦や処女が隊を組んで、夜通し裸山の上で、陶酔を刺激するダンスに耽ったものだ。」p24
「バッコス神を巡る儀式は、「熱狂」と呼ばれるものを発生させたが、その語源的意味は、礼拝者の中へ神が入りこむことであり、礼拝者は熱狂によってバッコス神と合一するのだと信じていた。」p25

オルフィック教についても詳しい。
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シェイクスピア劇でのChorus
「ロミオとジュリエット」「ヘンリー5世」
その他、「冬物語」の時。「ペリクリーズ」の道化「ヘンリー4世」の噂、など同様の役割のキャラクターが登場する。
Dictionnary of Shakespeare by Charles Boyee



  
   『ニーチェ みずからの時代と闘う者
  ルドルフ・シュタイナー 高橋巌訳

著者とニーチェとの意外な取り合わせが読む動機となった。ニーチェよりシュタイナーを理解したいためだったのかもしれない。

本項未完