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   歴史認識は政治論議につながるので、どうしても生臭くなる。

仏教の大東亜戦争
英国人記者が見た
     連合国戦勝史観の虚妄
』 
日本人に生まれて、まあよかった
日本国紀
アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書」
文明の生態史観
 

  
   鵜飼秀徳『仏教の大東亜戦争』 文春新書 2022

 宗教の教団が、その組織の維持、拡大のために起こす動きは、宗教の教義と大きく乖離することがあるのは、歴史上、広くみられることである。
  本書は、仏教が明治維新、日清・日露戦争、特に大東亜戦争の時代に、どう対処して来たか、詳細なデータを積み上げて論じた作品である。
  仏教の教義面には触れず、教団とった行動を、ジャーナリストらしく、読みやすい形で提示してあって、目が開かれる思いがした。

  一口に言えば、政府の政策に自ら寄り添い、また、そうさせられた歴史と言える。

  国家体制へ順応ということで、「皇道仏教」として、戦争を肯定的にとらへ、大東亜戦争を積極的に支えていった。精神面だけではなく、戦闘機の献納、鐘楼供出、僧侶の派遣、宗教界だけの事ではないが、全面的に戦争へと関与させられた。

  勿論、寺社側の被った大きな影響、廃仏毀釈、鐘、仏像の供出、戦火、農地解放による寺領の喪失なども詳述されている。

 戦争にコミットしたのは、仏教など宗教界だけではない、産業界、メディア、学校、学者の世界もも同様であった。
 戦争が始まるとこうなるのである。

  2022年2月、ロシヤのウクライナ侵攻に、ロシア正教会トップのキリル総主教が、「祝福」を与えたことは記憶に新しい。

  2022・12・18
 

  
   ヘンリー・スコット・ストークス
   『英国人記者が見た
     連合国戦勝史観の虚妄
』 
                       祥伝社新書2013

  ある読書クラブで中谷光宏さんという方が、著者が今年4月19日に亡くなったということから、本書を紹介しておられたので読んだ。
 (子息はテレビなどで活躍中のハリー杉山)

   中谷さんの推薦の言葉を借りると―

 「 『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』で主張されている内容自体は、林房雄や江藤淳といった日本の保守派が昔から言ってきていたことと被るのですけど、それをイギリス人が、それもフィナンシャル・タイムズ、ロンドン・タイムズ、ニューヨーク・タイムズといった英米を代表するリベラル・メディアの東京支局長だったジャーナリストが言っているところに、やはりこの本の最大のインパクトがあると思います 。」

 確かに、イギリス人の優れたジャーナリストが言っているから、価値があると思う。
 内容は、東京裁判でもわかるように、戦勝国の勝手な価値観に塗りつぶされた見方を、日本人までが信じてしまっているのだが、その虚妄を剝ぎ取ろうとするものである。
  目から、鱗が何枚も落ちた。

  触れている事項を順不同でピックアップしておきます。
 アジアの国々を独立させた日本の功績、東京裁判、マッカーサー、憲法制定、三島由紀夫、慰安婦、南京大虐殺、靖国参拝、ユダヤ人、朝鮮、台湾における植民地政策、人物評(毛沢東、金日成、シアヌーク殿下、スカルノ、ドナルド・キーン、サイデンンスティカー、アイヴァン・モリス、白洲次郎、岸信介、安倍信太郎、中曽根康弘、安倍晋三、・・・)

  著者が大戦を境に植民地を失ったイギリス人であること、ジャーナリストとして、インタービューなどで、直接取材している所に価値がある。少し古いが一読の価値は十分ある。

   2022・5・2
 

  
   2020年4月5日

平川祐弘『日本人に生まれて、まあよかった
新潮新書 2014


  私はこの人の『アーサー・ウェイリー 「源氏物語」の翻訳者』がとても面白かったので、今再読しているところなのだが、この著者がどんな人なのか知りたくて、本書に手を出した。驚いたことに、終始、政治や歴史観を吐露している内容であった。ラフカディオ・ハーンハーンの研究やダンテの『神曲』の翻訳もされている比較文化研究者で、文芸の徒と思っていたからである。
  とにかく、面白かった。所謂、歴史認識問題を総なめしている。ランダムに上げれば、
戦争責任、憲法、防衛、植民地支配、朝日新聞、安保反対、韓国、中国、靖国参拝、天皇制、自虐史観、・・・
戦後我が国を支配してきた左翼的思想を歯にものを着せぬやり方で、個人名をはっきり示して、論難しており、日本人以外にも、『菊と刀』のヴェネディクト、『大地』のパール・バックなども俎上に上せる。
後半は、日本のこれから向かうべき理念、グローバル化時代に通用する人材の育成、使命に命を賭す気概をもった人間をどう育てるかを論じている。
  終章の「『朝日新聞』を定期購読でお読みになる皆さんへ」では、節目節目で国民をミスリードしてきたと論じ、その偏向と追従するマスコミの風潮に注意を喚起している。
  18歳で大学に入る前にすでに、ドイツ語でゲーテを、フランス語でモーパッサンを読む力を付けており「フランス、イタリア、ドイツに留学し、北米・中国・台湾などで教壇に立つ」(本の裏表紙より)経験を持つこの碩学の比較文化史家の言は、説得力があった。
このような自由な発言が許される国に住んでいることを、「日本人に生まれて、まあよかった」と、著者は思い、その自由を大切にしたいと。

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【備忘】
第3章 国是とすべき「五箇条ノ御誓文」
4章 生存戦略としての外国語教育  複眼的思考のできる人材、外国語での論理的な自己主張が出来る人材5章 世界にもてる人材を育てる  エリートの養成、ノブレス・オブリージュ
 

  
   2019年10月12日

百田尚樹『日本国紀』幻冬舎2018

  日本の通史を読みたい気持ちは前からあったが、『アメリアの小学生が読む歴史教科書』を読んでから、急に強くなった。そこで、評判の本書を手に取ることになった。
  一人の作家が、日本史を一冊の本にまとめる力量に脱帽した。史実を細かく記述することに比べて、簡潔に要約しながら描くことは、何倍もの蓄積とエネルギーが必要だからである。

  私は、黒船来航の幕末から読み始めた。本書の500頁の5分の3を占める。日本の近代化、日清、日露、さらに大東亜戦争を経て、現代にいたる叙述は、自分の知見に照らし、迫力あるものだった。そして、現代の日韓問題、憲法改正などを含む「歴史認識」,今の政治に直結する話題が提示され、身につまされる感じさえ受けた。

  私の関心事は、①誰が明治維新を成功に導いたのか、②誰が大東亜戦争という大惨事へと導いたのか?といったところが、それに関しては、明確な答えを得ることはできなかった。歴史とはそんなものなのだろか?
古代から江戸時代までに200頁(5分の2)が当てられれている。著者が何に注目し、何を捨てたか(紙幅の制限でやむを得ないのだが)を見るの面白い。
  専門の歴史学者から見れば、多くの異論、反論もあろうが、通史は、多少の枝葉を端折っても、著者の見方を一気に語るところに値打ちがある。これは学術論文ではないので、典拠、参考文献は示されていない。
全体を通じ、著者は、日本人の美点と欠点を掬い上げ、我々の愛国心を刺激している。
 
  
   2019年9月7日

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書
 Wtat Young American Know History』ジェームス・M.・バーダマン/田村薫

  本好きの遠藤さんが「面白いから読んで見て!」と貸してくださった本。確かに面白かった。独立戦争、南北戦争から、1976年の建国200年までの主要な出来事を簡潔に表現されていて、アメリカ合衆国の成り立ちが、明瞭なイメージで立ち上がってくる。雑然と頭に入っている知識がすっきりと整理され、快感を覚えるのである。ワシントン、リンカーン、、リー将軍、グランド将軍をはじめ、人物も生き生きと伝わってきて、読み物として面白かった。
対訳本で285頁。


Rieko Oki :おもしろそう!とおもって買って読んでみました! これはいい! 対訳の訳もとってもいいし、日本の読者のためと思われる補足の情報が充実していて、なおかつ詳しすぎなくて、これは学生さんたちにもぴったり! というわけで、来年の、大教室での講義系の授業の基礎テキストに使うことにしました。これをよんできてもらえば、歴史的背景については理解しているという前提で、話ができます! 素晴らしい本をご紹介くださってありがとうございます!
 

  
   2015年10月28日

梅棹忠夫『文明の生態史観』中央公論社 1967

  気になりながら読んでいない名著はたくさんあるのだが、本書もその一つ。今頃やっと読んだ。
  1955年、著者35歳、京大カラコルム・ヒンズークシ学術探検隊の一員として、アフガニスタン、パキスタン、インドを旅して感得した文明のギャップを一つの史観としてまとめたものである。最初の文章は1955年11月10日インドから羽田空港に帰り着いた時の感想から、始まっている。本書は雑誌等に発表した論説を、10年以上経って、一冊の本にまとめたもので、その中心が「文明の生態史観」である。

  その考えのポイントは生態史的に、世界を第一地域と第二地域との分け、第一地域には西ヨーロッパと日本を置き、第二地域には乾燥地帯を挟んで、インド、中国、ロシア、イスラム・イスラムの4つの地域に分けて論じている。
  簡明で面白い。中にはこんな記述もある。「乾燥地帯は悪魔の巣だ。乾燥地帯からまん中からあらわれてくる人間の集団は、どうしてあれほどはげしい破壊力をしめすことができるのだろうか。(中略)とにかく、昔から、何べんも、ものすごい無茶苦茶な連中が、この乾燥した地帯からでてきて、文明の世界を嵐のようにふきぬけていった。そのあと、文明はしばしばいやすことのむずかし打撃をうける。」(同書95頁)

  また、本書の中頃に、この「生態史観」が出た後の知識人の反応について述べた講演録が収められているが、そこで「べき論」(こうあるべきだという意見)に多く出合ったことに驚くと共に、「武士のもっていた軍事的実力も政治的実力もうしなってしまっているのに、意識だけは、前時代のままの為政者意識をひきついでいる。そこに、永遠のフラストレーションという知識人の悲劇があるのではないでしょうか」と知識人論を展開しているのもおかしい。彼は「ある」世界を追求しているのであって、最後の文章「比較宗教論への方法論的おぼえがき」では、宗教を疫学の方法で考察してみせる。
  著者は、この時点で、西ヨーロッパを見ていないという弱点もあり、論がまだ粗削りで、反論も多いと思うが、文明を俯瞰して分析してみせ、今読んでも十分刺激を受ける。
  半世紀を経て、世界の変化は激しく、今は、自由に海外渡航でき、メディアによって世界の情報は溢れんばかりであるが、このような史観を築くのは困難になっているように思う。
(『知的生産の技術』に感激して、例のカードを大量に注文した、若い頃が懐かしい。)
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日野 昌利 :素晴らしい書評をありがとうございました。
宮垣:梅棹忠夫はこの本を書く以前に、常人以上の探検、調査の経験を持っています。
即ち、三高を2年落第するくらい登山に熱中し、鴨緑江源流、白頭山、樺太探検。
大学で大興安嶺探検、モンゴル調査など。
『私の履歴書 知の越境者』(日経ビジネス人文庫)に詳しい。
この本は他に、白川静、中村元、梅原猛の「私の履歴書」も収められていて、面白い。
 

  
   2015年4月19日

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』集英社新書2014

  金利が資本の利潤率を表すとすると、長く続く低金利は、資本の収益が限界に近づいているのではないか?資本主義は、「中心」部が「周辺」を広げながら、利潤率を高めつつ、自己増殖を進めていくシステムである。長らく「地理的・物的空間(実物投資空間)」に、周辺を求めてきたが、それが限界に来た時点で「電子・金融空間」を作り拡大、増殖を続けてきた。後者の余剰ストックは、140兆ドルあり、それに対して、実物経済の規模は2013年で、74.2兆ドルである。資本が国境を超え、自由に「周辺」を求め動き回るのが、グローバリゼーションの本質で、その中心がニューヨークにある。――――こんな風に読んでくると、もう著者の思考の流れに乗せられて止まらなくなり、この本を一気に読まされてしまった。――――

  利子率を歴史的にさかのぼると同じ事態が16世紀に起きている。それは中世が終わり、近世、資本主義への転換期であった。その後、資本は、様々な分野の周辺を求め、成長を続けるのであるが、その限界を示しているのが利子率の低さである。周辺が無くなると、内部に「周辺」を求め、その對象が中間層、未来への付けへと向かう。「成長主義」をあきらめない限り、大きなクラッシュが起きる。

――――中国、新興国の問題、アベノミックスへの批判、わが国の処方箋まで・・・巨視的な歴史観と足元の問題とを織り交ぜ論じた、豊かな内容の本書を私の下手な要約で汚したくない。どうか本書をお読みください。
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  金融緩和によって円安を誘導し、そうすれば、輸出が増え、日本は成長軌道に乗るーーーと聞かされて経済政策を見守っていましたが、そのようにはなっていない。その理由は本書を読むと分かります。また、教育界の「グローバル化対応」「英語帝国主義」の裏に、世界経済はこんな形で動いていたのかがわかります。文系の人も理系の人にも有益だと思います。
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もう5年経った。再読したいが、手元に本が見当たらない。
  2020・4・19