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  イギリスの伝承童謡Nursery Rymeを読んできて、何時かは、イギリスの伝統民謡Balladを読みたいの思いながら、月日が経ってしまった。関連の本も数冊たまったし、そろそろはじめないとこちらの寿命が尽きてしまいそう。
  歳を取るにしたしたがって、古い口承の詩や話が心を引くようになる。詩経、日本の古代歌謡、万葉葉もその一つであるが、英語のものも、少し無理をすれば届くところにあると思っているのだが・・・
  Balladにも色々あり、広くは定型化された物語詩で現代に及ぶが、私の興味は古いもので、当面はChildが収集した305編が対象。

この世界で正典とされるF.J.Childの
  The English and Scottish Popur Ballads
は以下ではESPBと略す。その番号は(C**)と表わす。

  
   原一郎  『バラッド研究序説』  南雲堂 1975

この本は再読である。
序論「伝承文学としてのバラッド」と
第一部概論
 「バラッドの性格」
 「型の文学としてのバッラド」
 「バラッドの民俗」
 「バラッド批判の系譜」
 「パーシーの『古謡拾遺』とバラッドリバイバル」

この本の前半で、私がバラッドで押さえておきたい基礎知識は十分に提供され満足するのだが、さらに嬉しいことにに、後半の第二部は、ワーズワス、謡曲、詩経との関連を論じた素晴らしい論文がついている。さらに、日本でのバラッド研究の歩みなどついていて、わたしにとってバイブル的本である。

古謡、古潭、口承的な香のするものが好きな者にとって、バッラドもその一つとして惹きつけて止まない。

  2021・8・16
 

   茂木健 『バラッドの世界』 春秋社

  この方は、中学時代、ペンタングルというバンドのLPを聞いて、音楽の世界からバラッドの世界に入った人で、、私のように文字依存の人間には、大きな刺激で、一挙に視野が広がった。
古いバラッドを読むにしろ、現代にまで繋がるバラッドの歴史を知るのは、とても有益で、本書に出会って幸運だと思った。

  〈序〉では、サイモンとガーファンクルがヒットさせた「スカボロー・フェア」の話から、バッラドの世界に導入する。
 
  トラッド・バラッドやブロードサイド・バラッドの話は勿論あるし、バッラドの基礎知識も十分提供されている.
 バラッドを読む上に必要な歴史的背景の記述も素晴らしく、スコットランドやアイルランドの歴史が要領よく織り込まれて、読み物として面白い。「モリス・ダンスと伝統楽器」の一章だけでも、著者の蓄積の深さが窺える。

ポピラー音楽の潮流の中で、われわれ馴染みの「蛍の光」「埴生の宿:「庭の千草」「アニーローリー」の位置づけも、よくわかった。

現代のポピラー音楽世界には無知に等しい私には、出てくる人や作品の音源をyoutubeで探して、聞きながら読むのは楽しい時間であった。

  豊富な情報と巧みな記述は名著に値する。

   2021・8・30 


  
    『イギリス伝承バラッド
    British Folk Ballads
      中島久代/D・テイラー/中山光雄 共編注
           英光社  1(CDつき)

  この本については、15年前、著者の一人中島久代先生から頂いて、読んだ時のことを、下記に書いております。
    www.alice-it.com/syohyo/ballads.htm

  今度、イギリスの古いバッラドを読むにつけ、何からはじめようかと考えている内に、ふとこの本(以下、BFBと略す)の取り上げている20のバラッドを読んで行こうと思いました。

  まず、この本を読み、CDを聞いた上、Childが採取した元の形で味わいたいと思います。 
 
   私がバッラドを読みたい理由は、物語の原型的なものに触れたいという願いからですから、古い形で読みたいわけです。

 この本の、最初は Barbara Allen(C84)です。
いきなり、大変な世界に飛び込んでしまったことに気付きました。

Balladの愛好家が多いらしく、ネット上にあふれるほど情報があります。私がここに書くことは、全く初歩的なことで、自分の読書の励みとするためのものです。
   2021・9・19
 
  
    Barbara Allen (C84) 
                  番号はChildによる。

 このバラッドが、こんなに多く現代に生きといるとは知りませんでした。ネットを検索すると、驚く程の情報があります。Youtubeで拾って見ても、何10人ものシンガーが歌っています。
  例えば:ジョン・バイエス、ボブ・ディラン、ガーファンクル、エバリー・ブラザー。ジュディー・コリンズ、・・・・
バイエスの
Joan Baez - Barbara Allen [HD] - YouTube

など歌詞付きのものがいくつもあります。

このバラードの骨子は次のようなものです。(BFBによる)

男がバーバラ・アレンという女性に恋に陥り、
今、病の床に付いている。
召使をバーバラのと所へ呼びにやる。

彼女はいやいややって来て、「貴方はあの晩、他の女と乾杯してバーバラ・アレンを無視したでしょう。」と言う。 男は「そうだが、心はバーバ  ラ・アレンにあったのだ」と。そして、皆に別れを告げ死ぬ。

バーバラは帰る途中、弔いの鐘をきいて、哀しみが募って来て、早く家に帰って死にたいという。両親に明日死ぬから、彼の傍に埋葬してくれという。

彼の墓にはバラが、バーバラの墓にはと蔓バラが生えてきて、大きくなって絡み合った。


  場所や季節、男の名前など、メロディにも色々なヴァリエーションありますが、一途な男とツンデレ的な女の組み合わせは、物語の普遍的なテーマなのでしょう。

 サムエル・ピープスの1666年1月2日の日記の登場します。
 Childのは3つのバリエーションが出ていますが、最初のものは右欄のようなものです。

he Martinmas timeは聖マルチノ祭りで11月11日。多くのバラッドは季節は春としている。

主人公の名は様々だが、召使がいる位だから、良家の息子。

Child 84BではBarbara Allen’s Crueltyとなっている。
私がこのバラッドをツンデレの話と見るのはこのため。

彼の墓にはバラ、傍に葬られた彼女の墓にはBriar(
野ばら)が植えられて、伸びて、絡み合う。


これはネット上沢山出ているので借用したものです。


  2021・9・30
 
 1 Bonny Barbara Allan     (C84A)  意訳

IT was in and about the Martinmas time,
When the green leaves were a falling,
That Sir John Græme, in the West Country,
Fell in love with Barbara Allan.



He sent his men down through the town,
To the place where she was dwelling:
'O haste and come to my master dear,
Gin ye be Barbara Allan.'



O hooly, hooly rose she up,
To the place where he was lying,
And when she drew the curtain by,
'Young man, I think you're dying.'




And when she drew the curtain by,
'Young man, I think you're dying.'
'O it's I'm sick, and very, very sick,
And 'tis a' for Barbara Allan:'



'O the better for me ye's never be,
Tho your heart's blood were a spilling.
'O dinna ye mind, young man,' said she,
'When ye was in the tavern a drinking,


That ye made the healths gae round and round,
And slighted Barbara Allan?'
He turnd his face unto the wall,
And death was with him dealing:


'Adieu, adieu, my dear friends all,
And death was with him dealing:
'Adieu, adieu, my dear friends all,
And be kind to Barbara Allan.'


And slowly, slowly raise she up,
And slowly, slowly left him,
And sighing said, she coud not stay,
Since death of life had reft him.


She had not gane a mile but twa,
When she heard the dead-bell ringing,
And every jow that the dead-bell geid,
It cry'd, Woe to Barbara Allan!


'O mother, mother, make my bed!
O make it saft and narrow!
Since my love died for me to-day,
I'll die for him to-morrow.'

 
それはマルチン節の、木々が葉を落とす頃だった。クレム卿が西国で、バーバラ・アランに恋に陥ったのは。


彼は召使を彼女の所へやって言わせた。「もし、バーバラ・アランさんなら、急いで主人の所へお越しください」

なんと、彼女はゆっくり、ゆっくり立ちがガリ、彼の伏している所へやって来てカーテンえお引き言った「お若い人よ、貴方死にかけているのね

カーテンえお引き言った「お若い人よ、貴方死にかけているのねアア、僕は重い病気だ。バーバラ・アランのためにね、」

お前がいない方が良かった。お前の心臓から血が流れている」「気にしないでお若い人よ。飲み屋で飲んでいた時

あんたは皆に愛想を振りまいていたが、バーバラ・アレン無視したでしょ」
彼は壁に顔を向け、死が迫っていた。

「さようなら、さようなら、友達たちよ」
死が迫ってくる。
「さようなら、友達たちよ。バーバラ・アレンをよろしく頼む」


彼女は、ゆっくり、ゆっくり立ち上がり
ゆっくりゆっくり去ってゆき、ため息を付き言った。死んだんだから、留まることは出来ない。

1,2マイルも行かぬ内に。弔いの鐘が聞こえた。鐘の一点ごとに、バーバラ・アレンに禍あれと聞こえた。

あゝ、お母さん、床を布いて、柔らかく細いのを。今日、私の恋人が死んだので、私は明日死にます。


  
   The Gypsy Laddie (C200)

歌のあらすじは

ジプシーの若者が、館の前で、甘い歌を歌う。
そこの奥様がそれを聞いて、出てくると
ジプシーたちはその美しい顔を見て彼女を惹きつける。
彼女はジプシー一緒の奔走してしまう。
主人が帰って来て、事情を聞いて、夫人を探し出し、ジプシーたちは絞首刑となる。


Childでは、12のバリエーションがある。右欄は最初のもの。

The Oxford Book of Balladsでは
 66 Johny Faa として楽譜も掲載。


この本の註にはJohny FaaはThe gypsy Chief
とある.

Balladには多くは現実の事実、事件があるのがだが、それを調べるのBallad探求の一つのようである。1616年にJohny Faaとその仲間の絞首刑の宣言を受けている。

 
 The Gypsy Laddie (C200A)  意訳
 THE gypsies came to our good lord's gate,
And wow but they sang sweetly!
They sang sae sweet and sae very compleat
That down came the fair lady.


And she came tripping down the stair,
And a' her maids before her;
As soon as they saw her well-far'd face,
They coost the glamer oer her. '


’Gae tak frae me this gay mantile,
And bring to me a plaidie;
For if kith and kin and a' had sworn, I
'll follow the gypsie laddie. '


’Yestreen I lay in a well-made bed,
And my good lord beside me;
This night I'll ly in a tenant's barn,
Whatever shall betide me.'


'Come to your bed,' says Johny Faa,
'Oh come to your bed, my deary;
For I vow and I swear, by the hilt of my sword,
That your lord shall nae mair come near ye.'


'I'll go to bed to my Johny Faa,
I'll go to bed to my deary;
For I vow and I swear, by what past yestreen,
That my lord shall nae mair come near me.


'I'll mak a hap to my Johnny Faa,
And I'll mak a hap to my deary;
And he's get a' the coat gaes round, And my lord shall nae mair come near me.'



And when our lord came hame at een,
And speir'd for his fair lady,
The tane she cry'd, and the other reply'd,
'She's away with the gypsie laddie.'



'Gae saddle to me the black, black steed,
Gae saddle and make him ready;
Before that I either eat or sleep,
I'll gae seek my fair lady.'



And we were fifteen well-made men
Altho we were nae bonny;
And we were a' put down for ane,
A fair young wanton lady.
 ジプシーがお屋敷の前で歌う。
とても美しい声なので奥様が出ていらっしゃる。

階段を降りていらして、女中の後に立った。ジプシーたちは奥さんが美人なので、色目を使って誘った。

「立派なマントを脱がして、粗末な肩掛けを持って来て。
親戚の者に断って、私はこのジプシーの若者についてゆきます

昨夜は旦那様といいベッドで寝ました。
今夜はどんなことがあっても、テントで寝ます」

ジョニー・ファが言う「ベッドにおいで、愛しい人よ。誓っていうが、お前の旦那をもう近づけないから」

「私はジョニー・ファのベッドに行きます。愛しい人のベッドへ。昨夜は何であれ、もう主人を近づけません。

私のジョニー・ファのために床を作りましょう、
愛しい人のために、彼は上着を脱ぐでしょう。私は主人を近づけません。

夕方、主人が帰って来て奥方が何処かと尋ねた。一人は泣き、他の者が答えた。
「奥様はジプシーの若者と駈け落ちしたと」

「行って黒馬に鞍を置け。馬を用意せよ。
晩飯までには、寝る前には、私の家内を探し出す。」

私たちは。色は黒いが、14人のいい男だった。
一人の美人の尻軽女のために、縛り首にされてしまった
   

  
   The Twa Brothers  (C49A)

あらすじ
兄弟が戯れにレスリングをしていて、弟のポケットに持っていたナイフで、致命傷を負わせてしまう。
墓に埋めるに当たって、父、母、妹、恋人にどうどう説明するかが、聴きどころ。


私は15年ほど前、このバラッドをルイス・キャロルがパロディを作っているのを読んだ。
www.alice-it.com/wonderouserland/earlyversetwobrothers.htm
www.alice-it.com/syohyo/ballads.htm


Childには8種類のヴァリエーションが載っているが、全部読んだわけではない。

Sirが付いているから、良家の兄弟で、当時大きな事件となったのであろう。


スコットランド語など馴染みのない語が出てくるが、私の持っているChildの縮小版とも言える本、Helen Child Sargent und George Lyman Kittredge編集のものには、Glossaryが付いていて大抵はこれを見れば分かる。

 例えば: burn:brook,  mair:more, gin:if、 loe:love


   2021・10・6
 
 The Twa Brothers (C49A)    意訳
  THERE were twa brethren in the north,
They went to the school thegither;
The one unto the other said,
Will you try a warsle afore?

They warsled up, they warsled down,
Till Sir John fell to the ground,
And there was a knife in Sir Willie’s pouch,
Gied him a deadlie wound.

‘Oh brither dear, take me on your back,
Carry me to yon burn clear,
And wash the blood from off my wound,
And it will bleed nae mair.’

He took him up upon his back,
Carried him to yon burn clear,
And washd the blood from off his wound,
But aye it bled the mair.

‘Oh brither dear, take me on your back,
Carry me to yon kirk-yard,
And dig a grave baith wide and deep,
And lay my body there.’

He’s taen him up upon his back,
Carried him to yon kirk-yard,
And dug a grave baith deep and wide,
And laid his body there.

‘But what will I say to my father dear,
Gin he chance to say, Willie, whar’s John?’
‘Oh say that he’s to England gone,
To buy him a cask of wine.’

‘And what will I say to my mother dear,
Gin she chance to say, Willie, whar’s John?’
‘Oh say that he’s to England gone,
To buy her a new silk gown.’

‘And what will I say to my sister dear,
Gin she chance to say, Willie, whar’s John?’
‘Oh say that he’s to England gone,
To buy her a wedding ring.’

‘But what will I say to her you loe dear,
Gin she cry, Why tarries my John?’
‘Oh tell her I lie in Kirk-land fair,
And home again will never come.’
二人の兄弟がいた。
一緒に学校へ通っていた。
互いに言った。外でレスリングしようじゃないかと。

彼らは上になったり、下になったり。ジョンが土に付ついた。ウイリーのポケットにはナイフがあって、致命傷を負わせた。


弟よ。背負って、きれいな小川へ連れて行ってくれ。
瑕を洗えば血が止まるから


彼は兄を背負って小川へ言った。瑕を洗ったが、血はもっと流れた。


「弟よ。背負って、教会の墓地へ運んでくれ。広く深い墓を掘って、そこへ埋めてくれ。」


彼は兄を背負って、墓地まで運んで、深く広い墓を掘ってそこに横たえた

もし、お父さんが、ジョンはどうした、ウイリー?と訊いたら何と言おうか
「イングランドへ父さんのためにワインを買いに行ったと言ってくれ」

「もし、お母さんが、ジョンはどうしたの、ウイリー?と訊いたら何と言おうか?」
「イングランドへ母さんのために新しい絹の上着を買いに行ったと言ってくれ」

「もし、妹が、ジョンはどうしたの、ウイリー?と訊かれたら何と言おうか?」「イングランドへお前のために結婚指輪を買いに行ったと言ってくれ」

「もし、貴方の恋人が、ジョンはどうしこないの、?と泣いたら、何と言おうか?」「ああ、彼女にはきれいな墓地で横たわり、もう帰ってこないと言ってくれ。}