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この企画は「時無草庵」の大騒ぎリレーストーリー「宇宙エースをねらえ!(以下略)」を再録したものです。紫 茄子花氏個人及び氏の作品にはも一切のかかわりがないことをお断り致します

宇宙エースをねらえ!
アラベスクの茄子花

★本 文★

★ライター★


豪華執筆陣によってたかって語られる、華麗なる茄子花の伝説
「宇宙エースをねらえ!アラベスクの茄子花」!!
宇宙エースになるために木梨憲武バレエ団入団をめざし、
「トロカデロ・デ・モンテカルロ」で修行しながら
あのYEAH HEY寺への道を急ぐ茄子花。
その行く手に次々とあらわれ道を通してくれない怪人たち!
YEAH HEY寺への道は遠い。おなかもすいてくる。
がんばれ茄子花! 負けるな茄子花!!
ペリー・ローダンには負けないぞ! 作画グループにもまけないぞ!
待て次号!!(笑)
絵夢
   
 それは100名をこす候補生の中から苦しい特訓を経てたった一人が選ばれるんです。
「き〜悔しい」って妬んだ誰かに、私はトゥシューズの中に画鋲を入れられていたりとか苦しい事もありましたが、コーチを信じて血染めのダッシュ! ウウッ(涙)
 生き別れの姉さ〜ん! 見てますか〜!! 茄子花はやりました〜
茄子花
   
 そして茄子花さんは、コーチに恋をするのだが、コーチはすでに不治の病に犯されていた。
 ある小春日和の午後、コーチは枕もとのナプキンにメッセージを書き残して静かに息を引き取った。
「茄子花。宇宙エース」
志麻ケイイチ
   
 コーチを失い、再起不能かに見えた茄子花。しかしそんな茄子花の前に坊主頭の新たなコーチが出現。
 彼の名は「ヅラ・大悟」。
 亡き親友の遺志を果たす為、茄子花を鍛える大悟。
 その厳しさの影に、好物の鮭を断つという優しさも覗かせていた。
 そして、茄子花は成し遂げた。
「だが、これからだぞ茄子花。何もかもこれからだ。世界中であばれまくってやれ。」
 そう言って笑って鮭を喰う大悟を、溢れる涙で茄子花は見つめた。
 その、これからという目標に、よもや木梨憲武バレエ団入団という野望が入っていた事を、この時の茄子花は知る由もなかった。
なかやみか
   
 ただ一筋に芸術を極めようと瞳を輝かせる茄子花は、真に一撃必殺のバレエを得るために、アラベスク養成ギブスを身にまとい、ブロンズ・クロスを極彩色に塗り上げるのだった。
 木梨憲武バレエ団入団テストを受けるための修練のためにコーチが選んだバレエ団は、なぜかむくつけき男達が目張りを入れて紅をひき、あまつさえチュチュを着ていた。
 看板には「トロカデロ・デ・モンテカルロ」とあった。(バレエ団ね)
 茄子花は妙に似合っていた。
志麻ケイイチ
   
 華やかな世界の影に、プライド高き男たちの羨望と嫉妬が茄子花に忍び寄っていた。
 画鋲などとしみったれたモノではなく剣山がトゥ・シューズにはてんこもりになっていた。
 だが素直で明るい性格の茄子花はくじけずに、血がにじんでも踊り続け、人々の胸をうった。
 しかし剣山ごと履く必要もまた、無かった。
 そんな茄子花を、嫉妬の目で見ていた男たちも、天性の才能と性格に惹かれ、彼を慕うようになっていった。
 ある日、レッスン場にロングソバージュの美しい女性がいる事に茄子花は気がついた。
 彼女は、むくつけき男社会の中に本質的な耽美の要素を見い出し、それを流麗な小説に紡がんと取材していたのだ。
 名は辻 桐葉。
「あああっ!あなたは!?」
 ベタフラッシュで茄子花は叫んだ。
「生き別れの……お姉さん!!??」
なかやみか
   
「どこを見ているんだ、茄子花!」
 光の加減で 桐葉先生に見えたその姿だったが、よく見ると金髪の美女。
 茄子花の前に現れる。誰だ? 姉さん? ち、違う……でも
「ふふっ、まだわからないのか」
 と、その手には キングサーモンがあった。
「あなたは、づ、ヅラ・大悟!? い、いや『ヅカ・大悟』だったのか〜」
 その髪は丸刈りになっていたから金髪とも知らなかった、ボディコンシャスな姿。
 紅いルージュをひいたその唇。その姿に不釣り合いなキングサーモンを豪快に頬張っていた。

 ちなみに、桐葉先生は最初に見られたと思った瞬間、素早く隠れ身の術を使ったのだった。
 取材を受けていると知られたら構えてしまうと考えて……。
 ペンの音だけが静かに聞こえていた。
茄子花
   
日々耽美な文章を綴る謎の小説家,茄子花の生き別れの姉,桐葉は、
太さ直径2メートルはあろうかという柱の陰から,じっと茄子花と「ヅカ・大吾」の
厳しい特訓風景を見つめていた。
「がんぱれぇ、まけるなぁ、力の限り生きてやれぇ」と小須田部長のごとく呟きながら,
右手に必殺ゼブラのシャーペン,左手にコクヨのミッキーマウスノートを持ち,
瞳の奥に熱い涙をためて、ひたすらその様子を取材するのであった。
ともすれば、茄子花の前に飛び出し,「そうじゃないわ! 五番のポジションからあん・どう・さん、よ! 
だめっ,膝が笑ってる!」と叫んでしまいそうだったが,それは出来なかった。
何故なら,桐葉のロングソバージュは,耽美の呪いを受け,今やゴーゴンの蛇頭と化していたからである。
頑張れ,茄子花,辛いぞ,桐葉。A型血液の絡み合う二人の姉弟,その運命やいかに……。
辻桐葉
   
 真実を告げる事も叶わず、そっと影から見守る桐葉。
 そのいじらしき姿は、飛雄馬の姉ちゃん明子か、おじゃる丸のうすいさちよのようにも見えた。
 そんな事には微塵も気付かぬ、いや、目の前の見事な体躯のボディコンコーチに度胆を抜かれた為であっただろう茄子花であった。

「あ、あなたは!ヅラ・大悟コーチ!何故ここへ!?」
「茄子花、まだお前の踊りには迷いがある。」「迷い?!」
「そうだ…うっ?!…がはッッ!!」
 唐突が身上のようなこの男は、そう言うと鮮血を吐いた。
「コ、コーチーー!!」
「俺にかまうな茄子花…お前には…行かねばならぬ所がある…!」
「そ、それは?!」
「俺が修練を積んだ寺…、YEAH HEY寺だ…!」
「いぇいへい寺…!!あんな戒律の厳しい寺へ…。」
「往け!茄子花!」
「は…はい!コーチ。」涙で答える茄子花であった。

 大悟の吐血は、むやみなシャケの生食によりアニサキスにたかられていたためであった。(バカ)

「YEAH HEY寺、そこに行けば何があると言うのか…?」
 自問しながら道を急ぐ茄子花の前に、いきなり黒マスク黒マントのアダルティックな美しさを持つ女性が立ちはだかった。
「来たわね、茄子花とやら!この私と勝負よ。:-D」
いきなり翻したマントの下は艶やかな振り袖、そして頭には札幌テレビ塔のミニチュアが美々しいまでに煌めいていた。
 そう、彼女こそ激しい女の情炎の中に秘めた愛(かな)しさを唄いあげる伝説の歌手、『紅蓮の演歌・邪楽』であった!
なかやみか
   
「オホホホホホ!ここであったが恐竜百万年目!さあ、私の歌をお聞き! ♪だんご〜だんご〜だんごさんきょーだい〜〜!:-D」
 恐るべし!邪楽の声は厚さ30cmの鉄板を切り裂く不確定性拡大超音波であった。
 その可聴範囲にはATフィールドが展開され、相転位空間を肉眼で確認できる程である。
 果たして茄子花は、この最大のピンチを、いかにして切り抜けるのであろうか(アニメ版「キャプテンフューチャー」風)!
邪楽
   
「こ、これが紅蓮の演歌か!!?」
 攻撃の一端に頬をはすられて血を流しながら茄子花はもんどりうって倒れた。
 その超音波に引き寄せられ、ウオクイコウモリやらチスイコウモリやらが集まって群れを成し、邪楽の妖しい美しさにさらなる畏怖感を添えていた。
「一番大事なもの、それはリズム! この世の事、それは全てリズムから成っているのよ!! 歌も踊りも、歩くのも喋るのも! この紅蓮の歌声で、地獄に行くがいい! オホホホホホ!! :-D」
「くうッ!」
 茄子花は身構えた。
「いくわよ!!ナ〜ベ〜ちゃんにはマロニ〜ちゃん…!!」
 邪楽が唱い始めた、その時。
「ん〜、甘いなあーっ」
 密かながら自信に裏打ちされた鋭い声が響いた。

 そこには男がいた。
 自らに改造手術を施し、HD10万テラバイト、メモリは聖徳太子なみアレやらコレやら増設しまくり、もはや純正オリジナル部分はガワだけとも言えた不滅の最強マシーン。
 一定の位置で、まるでホバリングしてるかのようにムーンウォークを続けて立っていた。

 邪楽が初めて動揺を見せた。
「き、貴様は! ぢ…ぢゃいける・マクソン!!」
「フー!」
 ボケとツッコミのような間髪を入れぬリアクションは、噂に違わぬ恐るべきリズム感であった。
 茄子花は心の中で叫んでいた。
「…ワケわかんねえ!!!」と。
なかやみか
   
 ぢゃいける・マクソン!
 その不遜な笑顔の下には、三菱デボネアに匹敵するレアOS、IBM/OS2がギラギラと燃え盛っていた。
 背中に背負った一万枚のLDが、虹色の後光をひらめかせ、近づくすべての者を威嚇する。
「君の青春はみたさーれているかああああッ。ちっぽけな幸せに妥協していないかぁ」
 いきなり繰り出された説教ソングに、膝を正す茄子花であった。
「紅蓮の邪楽よ」
 ぢゃいける・マクソンは、黄色い瞳の虹彩を縦に細めた。
「エイカなる娘を、我がメイドとしてさしだすがよい」
志麻ケイイチ
   
「ふざけるんじゃないよ! 誰が!!」
 邪楽の髪と目が真っ赤に燃えだした。
 振り袖と頭の札幌テレビ塔をかなぐり捨てたその姿は、シルク光沢の黒スパッツに、竜虎雷神鳥獣戯画に唐子まであしらった華美なフリルのブラウス。
 怪盗ジャンヌともストロベリー石橋とも見違うその姿は、まさしく件のエイカなる娘本人であった。
「おおっ! ……ん〜ん〜ん〜、美しい」
 ぢゃいける・マクソンは理性を失い、ドクター秩父山のカエル男(名前失念)のように唸った。
「待て、戦うなんてやめるんだ! メイドならば私が行こう!」
 メイド・猫耳・メガネっ娘というワードについ反応してしまう茄子花が何を思ったかそう叫んだ。
 茄子花のそのアンマリな反応に邪楽とぢゃいけるは石化していた。

 樹の陰から、弟・茄子花を心配し、密かに後をついて来ていた
 本家ゴーゴン・ソバージュの桐葉もさすがに石化してしまっていた。

 動かなくなった敵と自分の恥から逃げ去るが如く茄子花は走った。
「石化魔法とは、やるわね。茄子花。」
「こ、今度は誰だッ!?」
 そこには光のローブを身にまとい霊格高きオーラを放つ麗しい魔導士の姿があった。
首から下げられた、珠に磨きあげ数珠のように連ねた魔石には何故か『仁義礼智忠信孝悌』の文字が刻まれていた。
 いかづちを操り、水を紡ぎ、ほむらを踊らせ、眷属を召還する聖なる女魔導士。聞こえしその名は東條零・ヌーヴォーと云った!
なかやみか
   
 遺伝子を操る魔洸の魔術師、東條零・ヌーヴォーは『仁義礼智忠信孝悌』の珠を高々とかざした。
「巡るめぐる、巡る因果は糸車。汝の業を深さはいずれ巡りてその身に返ることを知れ」
 手にしたコントローラーはすでに原型を失うほどに摩滅していた。
「エイカ! GFをジャンクションするのよ」
 ふつうの人は知らない東條零・ヌーヴォーの命令に、エイカはヤケになり酒をあおった。
「エイカに酒を呑ませないでーーっ!」
 事情を知るビビアン・yamaがどこか遠くから叫んだ。
 しかしメイドの言霊で我を忘れた茄子花は、とっておきの増毛町特産酒「国希」を枡になみなみと注ぐのだった。
 そう。エイカの酒乱は家の梁を引き抜くほどだった。
「きゃはははは。襲え!」
 いつのまにか宴会に参加して、いかとっくりを噛み散らしていた赤頭巾・ミカチャチャが、イフリートを召喚してぢゃいける・マクソンにけしかけた。
志麻ケイイチ
   
 酒乱に召喚獣に、玉梓が怨霊までもが逆巻き、既に場は秩序の無き居酒屋と化していた。
「なんの! 秘蔵コレクションLD光線その1『怪奇大作戦』を受けてみろー!」
 ミカチャチャの向けた召喚獣に、ぢゃいけるの背中の後光が煌めいた。
 その眩き光の矢に磁場は歪み、召喚獣を変化せしめた。
 イフリートはムックとなり、逆にミカチャチャに襲い掛かって来たのだ。
 かぷ。むぐむぐむんぐ……。
「ムック…、お前が私の死か……」
 どこかで聞いたようなセリフを言いながら、傍らにあったサキイカとともにミカチャチャはムックに喰われた。

「ガールフレンドとジャンクションしろだあ?! このすけべー〜!!! わははは:-D」
 辞書を片手にスッカリ出来上がったエイカが叫ぶ。
 優しき心に辛すぎる場の乱れように、フェミニンな世界に逃避するビビアン・yama。
 思い出したようにLDコレクションを再生し、見入って浸るぢゃいける。
「ん〜」
 茄子花の神経の混乱のボルテージは上がって行った。
「なんなんだああああ!!??」

 その刹那、茄子花の握った両コブシに光の粒子が集まって来た。
「!?」
 光の粒子は徐々に形を成し、茄子花の体は輝く法衣にまとわれた。
 小手、肩当て、そして甲冑にも似たメタリックな鎧。額には忍ペンまん丸のスマイルな印堂帯が装着されていた。コブシには重厚な二本の太刀。
「うおおお!茄子花飛翔煽<なすかひしょうせん>!!」
 茄子花の眼が燃えた。
「臨空辻斬波<りんくうつじきりはァァァああ!!!」
 地獄の酒宴は風花の如く、散り去った。
「…な、…なんだ、今の技は…?! …私は何を…!?」
 唐突に覚醒してしまった自らの力に戸惑う茄子花。
「ようやく目覚めたようね。それがあなたの家系に伝わる力」
「誰だ!?」
「私の名は絵夢守 臨(えむもり りん)。あなたと同じ夢守の民の末裔。あなたの技に隠された名『つじきりは』こそ、あなたの姉の名です」
なかやみか
   
 修羅場の領域(テリトリ−)からギリギリに離れた場にゴザ敷いて
見学してる面々……

「もぐもぐ)なんかうちの御主人、すごい事になってるねぇ」
 ‘コーラとポップコーン’のメイドレッド。
「はぐはぐ)前々から普通の人じゃないと思ってたんだ、あの顔」
 ‘ハンバーガーとコーヒー’のメイドブルー。
「バリバリ&ずずずっ)お茶はやっぱり緑茶かな」
 ‘緑茶とおせんべい’のメイドイエロー。
「んぐっんぐっ…ぷはぁ)しっかし影の薄い人だと思ったら意外とおもろいね」
 ‘缶ビールとさきいか’のメイドグリーン。
「あ、あの……影の薄さは僕らも人の事いえないような気が……あ、アハハ」
 メイド戦隊の良心ともいうべく メイドピンクくんが核心−いっちゃならねぇこと−を突くと、メンバーがそろって手に持っていた物をポロッと落した。
 ガシガシガシっと どつくメイドブルーと、ペシペシ叩くメイドグリーン。
「え〜ん、御主人が遥か彼方へ、イッちゃって、私たちっていったい何〜!」
 嘆きのメイド戦隊リーダー メイドレッド!!
 しかし メイドイエローだけは マイペースに緑茶をすすっていた。
茄子花
   
「絵夢守さん、あなたは姉を知っているのですか?!」
「絵夢と呼んで下さって結構です」
 山村精一をヤマさんと呼ぶようなモノだが、そう言って絵夢は優しき微笑みを浮かべた。
「あなた方は、大きな使命を持った方なのです」

 その頃、当の桐葉は石化から回復し、何故か傍らにいた3匹の子鬼アオベエ、キスケ、アカネに興味を持ち、「お願い〜!私の小説のモデルになって〜!」と追い掛け回している処であった。
 余談だが、この時書かれた小説が後に100万部を軽く売上げたと言われる『たんび3兄弟』であった。

 訳のわからない敵に唐突に襲われ、混乱していた茄子花であったがここで漸く、自分や姉を知る、仲間とも言える人物に出会った事で少し平静を取り戻していた。
 そして、絵夢をあらためて良く見るとそのいでたちは気品が溢れ、良く出来たガラス工芸のような雰囲気さえあった。
 胸にはクロワッサンのような優美な形をした甲冑。
 その下にはどこかの貴族の紋章なのか、とりどりの色の複雑な刺繍を施した美しい帯のようなものが下がっていた。
 背中に廻った甲冑の螺旋の延長には、天女や羽根を思わせる曲線をフレキシブルなチューブが描いていた。
「美しい人だなあ。…見事な法衣も、まるで土佐犬のようだ」
 茄子花は心でそう感じた。口に出したらぶっとばされていた筈ではあった。

 その瞬間、甲蟲の羽根から削り出したような軽い響きの甲冑と法呪文を刻み込んだ板符が触れあう音がした。
「智を司りし虹盤をすがめ軽き重き瑕疵を爪摘り千々に乱れし断片を凝固せさしめよ。ひとたびは葬られし記憶を呼び覚まし虹盤の疾く走りたるに適う道を見い出すべし!」
 一気に法呪文が詠唱されたその方向を見ると、板符をハリセンのように持った男がいた。
「はっ! 志麻ンテック・ケイイチ殿!」
 絵夢が叫んだ。
なかやみか
   
 志麻ンテック・ケイイチは夢守の民ではなかったが、味方である法術使いであった。
「ケイイチ殿、来て下さったのですね」
「はい。今、茄子花殿の記憶を再製する法術をかけました。捨てられた記憶を思い出し、断片化した記憶を最適化させます。彼の姉の記憶は蘇るでしょう」
 二人が同時に茄子花の方を向くと、茄子花は口を開けて目がテンになっていた。
「あ、あれっ?? ヤバイ! 何かミスったかも!」
 ケイイチが狼狽した。
「…ケイイチ殿、それって…」
 絵夢がケイイチの板符を示した。
 パステルカラーのそれには『KOKUYO Campus』とのロゴがあった。
「やべーーーー!! 英単語帳だったあああ!!」
「ケイイチ殿。しかもこれ、綴り違ってます」
 絵夢のさりげないトドメが入った。

 絵夢とケイイチは呆けてしまった茄子花を頭上に抱え、かのYEAH HEY寺に担ぎ込んだ。
「どなたかー!おられませぬか!」
 呼び掛けに声が応えた。
「ふおッふおッふおッ、ワシをお呼びかな」
「おお!雪天和尚さま、久方振りにございます」
 威儀を正した二人に優しい目をした
 和尚が微笑んだ。
「うむ。大悟より聞いておる。この者が茄子花じゃな」
「はい、しかし法術詠唱に失敗してしまいまして…その、このように」
「んむ。これを嗅がせなさい」
 雪天和尚はフラスコに入った紫色の液体を出した。
 それは千歳空港土産のラベンダーのような薫りがした。
なかやみか
   
  やはり志麻ンテックの付け焼き刃な法呪では茄子花を救うことはできなかった。
「FirstAIDにしておくんだった……」
 雪天和尚が取り出したのは、チビっ子とお嬢さんに大人気のヒット商品。
 北海道限定サンリオお土産グッズ、ラベンダーカラーのキティちゃんキーホルダーシリーズ内ラベンダー香水キットだった。
「あっ! 茄子花殿が……!」
 絵夢が声をあげた。
 ラベンダーの香りがイカレた法呪とあいまって、タイムトラベルを引き起こしてしまったのだ。
 かすれゆく茄子花の体からは、たおやかなすずらんの香りすら立ち昇っていた。

 やがて気がついた茄子花の前には、黒ずくめの美少女が立っていた。
「私はケン・KAYOKO・ソゴル。1000年の未来から君を迎えにやって来た」
 モーターボートのような銀色のマシンが、ウニウニと身をくねらせて彼女にまとわりついていた。
 ニッサンサニーNXではないらしい。
 しかしその淫靡な様に茄子花は鼻血をたらす醜態をさらした。
「畏れることはない。ほぅら血をお拭き」
 やさしくさしだされたハンカチからは甘い香りが漂った。
 されはまぎれもなく、非常食の貫禄充分・40センチ夕張メロンポッキーだった。
志麻ケイイチ
   
「あなたは?」
 もう誰が出て来てもあんまり茄子花は驚かなかった。
「ケン・KANAKO・ソゴル。私はあなたを知っています。そしてあなたが何を求め何をしなければならないかも。」
「それは…?」
「あなたは真に一撃必殺のバレエを目指さなくてはならないのですね。ニューヨークのグランディーエに先を越されている場合ではありません。その為にも特訓しなければ。いつぞや邪楽殿の言った『音感』を磨くのです。はッ!!」
 そう言って、KANAKOはグランドピアノの上に飛び乗った。
「さあ!茄子花殿!足の指で『ネコふんじゃった』が弾けるようになるまではここから元の世界には帰れぬと思いなさい!」
「ひいいいいいいい!??」
 人間を超越したその技の名は「KANAKOンドー・マサオミ」奏法。
 それが出来たからといって、柔道が上手くなるわけではなかった。

「だめだめ! 2つ同時に弾いています! ボーイ・ジョージのプッシュホンじゃないのですから!」
 いにしえのロッキンコミックネタは茄子花には解らなかった。
なかやみか
   
「KANAKOンドー・マサオミ」奏法に翻弄される茄子花は、誰かに相談したくなった。
「こ、こんなときはモノ牡蠣ご用達。皆様のメーリングリスト・N3!」
 足の指に神経を集中するケン・KANAKO・ソゴルの目を盗んでお手紙を書いた。
「サロマ湖の牡蠣がおいしい季節ですが、あなたは鍋に春菊を入れますか?」
 錯乱坊チェリーに陥った茄子花は、あらぬことを口走った。
「I'm here!」
 恐怖と栄光のモノ牡蠣ランキングリストを真っ赤なマフラーにして男が現れた。
 その名は雷神トール・稲垣。
「ケン・KANAKO・ソゴル! 見事な指さばきだ。だがこの日本では二番目だ」
「な、なに?」
 雷神トール・稲垣は白い歯をキラリンと光らせると、非常識にも両手の鞭でビシバシとピアノをしばきはじめた。
「聞け! ピアノの魂の叫びを!」
 茄子花にはピアノがぶっ壊れる音にしか聞こえなかった。
「二月二日! 飛鳥を殺したのは貴様かぁぁぁぁ!?」
「私は日高ケンタッキーファームでチキンを食べていた!」
 なんだか世界にハマった二人を残して茄子花は逐電した。
志麻ケイイチ
   
 雪天和尚は叫んだ。
「むう、いかん!異空間で逐電なぞしてはこの世界には帰って来れなくなるぞ! ワシの霊力で呼び返さねば…!オンキリキリバサラウンハッタ! リン・ビョウ・ドウ・シンシャカイジン・フレッシュマンセール!」
 真言なのかスーツの宣伝なのかシロートには判らないその有り難き言葉は、一筋の光となって茄子花のいる空間に向かって行った。
 しかし、難行苦行をなし得た雪天和尚であったが、サロマ湖の牡蠣などという食い物の話題に僅かながら心が乱れた。
「北海道の釣り立ての虹鱒を焼いて喰うたら旨かろう…。」
 その僅かな波動は、ゆらぎとなって茄子花に届いた。
 引き戻すつもりが更に時空の歪みとなってしまったのだった。

 茄子花の目の前にはマクー空間が広がり、見なれぬひとりの女性が肩にオウムを止まらせて立っていた。
「あなたは…!?」
「殺し屋ですのよ。」
 女性ではなくオウムが答えた。
「え?」
 茄子花は事態が呑み込めなかった。
「アンタがなまらあっついとか思ってるヤツを殺してやろうつってるのさ。自分でやるったら証拠も残るしさ、たいしたゆるくないべさ。こったらイイ話もないんでないかい。」
 女性はボソボソとオウムにそうつぶやいた。オウムは茄子花に言った。
「あなたが殺したい程憎いと思っている人物を殺して差し上げますわ。わたくしなら証拠も残さず完璧にやり遂げます。誰一人あなたを疑うものはおりません。悪いお話しではないと思いますが。」
 事態を把握しかねている茄子花の後ろでは、きまぐれロボットが
 がっちょんがっちょん音を立てていた。
なかやみか
   
 雪天和尚とケイイチ、絵夢のいるYEAH HEY寺では護摩壇に設置された大鏡に
 茄子花の姿が映し出されていた。
「むう、このままではますます混乱するだけじゃ。直に救いに行かねばなるまいて。」
 雪天和尚は言った。
「しかし…、ラベンダーキティ香水は使い切ってしまいましたが。」
 絵夢がそう言うと、雪天和尚は腕組みをししばし考えていた。
「危険ではあるが、アレを使うか…。」
「?」
「志麻ンテック、例のアレを持って来てくれぬか。」
「あ、アレでございますか!?和尚様!し、しかし…!」
「止むを得まい。」
 志麻ンテック・ケイイチは、和尚の並ならぬ決意を見てとり苦渋の表情を浮かべると軋む本堂の廊下を奥へと歩いていった。
「和尚さま、例のものとは?」と絵夢。
「うむ、ひとつ間違えば命取りにもなりかねぬのじゃが、ラベンダーより高いワープ効果を得るにはコレしかないのじゃ。」
 ケイイチが件のモノを持って戻って来た。白く輝く球状のそれは、雪の砂のような煌めきをたたえ、何故か郷愁さえ覚える高雅で強い薫りを放っていた。
 不思議な事に、鮮やかな蛍光色の人工物であるかのような花も咲いていた。
「そ…、それは!!!?」
 絵夢が畏れて後ろに飛びすさった。
「さあ!茄子花を救いにゆくぞ!」
「いやあああああ!じょっぴーーーーん!!」
 鼻先に白球を持って来られて絵夢は絶叫した。輝くその珠はケイイチが寺の厠から持って来た今どき珍しいナフタリン消臭ボールであった。
 その瞬間、3人の姿はゆらぎながら寺から時空の涯に消えていった。
 和尚の優れた通力はその瞬間『※絶対にまねをしないで下さい』のテロップを出す事も忘れていなかった。
なかやみか
   
 ぐにょ〜ん。歪んだ亜空間に雪天和尚、ケイイチ、絵夢の3人は放り出された。
「むう、成功じゃ。」
 喜ぶ和尚の体からは、まだ少しばかりナフタリンの匂いが漂い、急に寒くなって慌てて引っ張り出したコートを彷佛とさせた。
「あっ!絵夢さん!」
 茄子花の声がした。
「茄子花殿!ご無事でしたか?!」
 どうやらどんぴしゃの位置にワープ出来たようであった。
「いきなし、何なのアンタら?びっくりすんでないの。」
 殺し屋ですのよのその呟きを肩のオウムが通訳した。
「何者か!?この亜空間にどこから!」
 和尚、ケイイチ、絵夢は、茄子花を護るように身構えた。
 樹齢千年余の魂の宿りし老木で作ったという、琥珀色の数珠をひっさげ雪天和尚がその威風堂々たる姿を一歩踏み出した。
「そなたの狙いは今は問わぬ。今はこの茄子花を解き放つがよい。」
「何こいたもんだか!このクソ坊主!どかないとアンタから怪我するよ!」
 女のその言葉を殺し屋オウムが静かに、しかし凄みを込めて通訳した。
「賢明なる高僧とお見受けしますわ。過分の関与をなさらないのもまた、和上の知徳の現れかと存じますが。」
 女は口の端で軽く嗤うと何かを忍ばせているらしい黒いバッグに手を入れた。
「喝!!人を殺めし稼業なぞ言語同断!幾度生まれ変わろうとても贖いきれぬその業深さを知れ!!」
 その瞬間雪天和尚に向かい、女のオウムとはまた別の、亜空間に生きる翻訳オウムが飛んで来た。そして和尚の禿頭に止まると大音声で叫んだ。
「じゃかましいボケ!!ガタガタぬかしとったらノドから手ェ突っ込んで肋骨カランカランいわしたるど!!」
 その迫力は風圧さえ感じるように思われる程であった。
 女はかけたグラサンが半分落ちかけていたが、それを直す事も忘れ腰を抜かして放心していた。
「…お、和尚さまは関西のご出身であられたのですね。」
 リアクションに惑った後、絵夢が言った。高僧の威厳は消し飛んだものの結果オーライだった雪天和尚はちょっと赤面しながら「んむ。」とだけ言った。
 ……その頃、少し離れた場所では、雷神トール・稲垣とケン・KANAKO・ソゴルがピアノから始まって、徒競走、点取り占い、じゃんけんと様々なバトルを繰り広げていた。
 KANAKOの頭にもオウムが止まり「そんなん、やしじゃーや!!」と叫んでいた…。
なかやみか

最 終 章

 YEAH HEY寺の本堂には、亜空間より脱出して来た雪天和尚、志麻ンテック・ケイイチ、絵夢、そして茄子花の姿があった。
 唐突に自分を襲った激しい運命の嵐の連続に、茄子花は消耗していた。
「和尚さま、ヅラ・大悟コーチのお師さまであられたのですか。コーチはどうなりましたか? いきなり血を吐かれ、しかし私にはかまわずこの寺へ急げと…。無事なのですか?!」
「大悟の事は案ぜずとも良い。人間目黒寄生虫館のような男じゃて、ほっほっほ」
 和尚はよくわからない冗談を言い、笑った。
「この寺へ来れば、私の運命の何たるかが判ると思い、やって来ました。生き別れの姉の事、夢守の民の事、私を狙う様々な人びとは何なのかが…。お教え下さい、和尚さま」
「んむ……。そなたはな、実は夢幻のバレリーナとして100年にひとりの逸材なのじゃ」
「む、夢幻のばれりいな??」
「その昔、踊りに命を賭けた者たちがおった。いくさや苦しみから人の世を救いたいと願い、見る者の精神世界にまで深く到達する踊りの奥義を極めたのじゃ。観念の殻を撃ち破り極楽浄土もかくやと思しき情景をかもし出す。人知の及ばぬ技じゃった。大悟は一目そなたを見た時から、並々ならぬ才を見い出し、その域にまで育て上げたいと願い厳しい訓練を課したのじゃ」
「……そうだったのですか。……コーチ」茄子花は涙ぐんだ。
「そうとも知らず、私はコーチの事を恨んだ事もありました。マッチョボディコンの変態だとまで思ったりして……! コーチ!! こんな私の為にお体に無理を強いて命まですり減らして……私は恥ずかい! ……コーチ……!」
 好物の鮭断ちの禁をあっさり破った挙句、寄生虫にたかられた真実を知っている和尚は、どうリアクションしたもんだか判らず、とりあえず重々しい表情をしていた。

「だがの茄子花。そなたがその域を極めるのをよく思わぬ輩もおるのじゃ」
「それが、次々と襲い来る刺客たちなのですか。しかし何故……」
「才ある者に対する妬みそねみもあろう。じゃが背後で動いておる者どもは、やはり金目当てじゃ。興業としても巨億の富が稼げるからの。皆一様に自分どもの配下から奥義継承者を出さぬ事には話にならぬのじゃ」
「そんな大きなお話なのですか。しかし私にはそんな大層な力は……」
 すこッ。
 間抜けな音を立てて、ぞんざいなナイフが茄子花の頬をかすめて本堂の壁に刺さった。

「誰じゃッ! ……むう! そなたはララ寺の魔導士!」
「そう、東條零・ヌーヴォーさ。茄子花、逃がさないわよ。覚悟なさい」
 たなびくヴェールの影に、細身の少年のようなシルエットがぼわりと浮かんだ。
「あれは、自動人形! 心を持たぬ殺人マシーンです!! 茄子花殿!気をつけてッ!」
 絵夢が叫んだ。
 その、伏し目がちな美しい少年は、茄子花を見ていないかのようだった。しかし、確実に標的である事を認識している。
「何故……! なぜ争わなければならないんだ! 殺しあわねばならないんだああッ!!」
 茄子花が身を震わせて叫んだ。その目は理不尽なものへの怒りに燃えていた。
「殺しあうのではない、茄子花。貴様が死ぬだけの事だ」
「なにいッ!」
「私はこの世すべてをララ寺の檀家にする。そうすればこの世は私の思いのままだ。このララDXを家々の郵便受けに突っ込むだけではいつまで経ってもラチがあかぬ。この自動人形に赤い靴を履いて踊らせ、夢幻のバレリーナを継承させる。そうすれば人々を一気に取り込む力が手に入るのだ! あははははは!! ゆけ!」
 しなやかに飛びすさったかに見えた自動人形は、両の手に持った剣にも似た細いナイフをクロスさせながら、眼前の空に浮いていた。

 キィンッ!
 紙一重でかわした茄子花であったが、人形の刃は傍らにいた絵夢たちにまで向けられていた。
「やめろ! やめるんだ!! もう……こんな事はああ!!」
 茄子花の精神が臨界を超えた。
 優しき面差しは、燃えたぎる闘志に照り返されたように色濃い陰影を見せ、伏せた目を上げたその時、戦士の顔と化していた。
「……ラ……ラ…寺の…」
 茄子花がつぶやくように唱え始めたそれは、まるで歌であった。
「…ララ……デラの…東條さんは……マリはつきたしマリは無しィイイ!!」
「な!? 何イ! なにを……はッ!!」
「ねこをかン袋に押し込んでェェェっ!!」
 その瞬間、空間から無数のみけねこ「キャラコ」が湧き出でて、東條零・ヌーヴォーと自動人形にからみついて動きを封じた。

「……冥府に還れ…! ……うォおおお!!!! 断! 無去魔闘! 冥土散!!!」
 茄子花は美しき舞のごときポーズで印を結んだ。邪を祓い、無垢な心を取り戻す、これぞ夢幻の舞踊りであった。
「きゃァああああああああ!!!!」
 東條零・ヌーヴォーと自動人形の姿は、一瞬その輪郭がブレたように見えた。
 そのズレた輪郭の一つが苦悶にゆがむ邪霊の姿となり、そして消し飛んだ。
 後には穏やかに本来の美しき姿を取り戻した、東條零・ヌーヴォーと自動人形が横たわっていた。

 しかし、その時であった。
「やりおったな茄子花!……むおッ!?」和尚が我が目を疑い!
「ああッ!??」絵夢が赤面し!
「ぅおおおおおおおッ!!」ケイイチはかぶりつきにいざり寄った!
 踊る茄子花の背後に、妖しいピンクのもやが立ち込め、メイド・猫耳・メガネっ娘、さらにはブルマ・アンミラ・スクール水着のカワイイおんなのコ達が、せくしいぽぉずで絡んでいたのだ!!
 これぞ真骨頂、想念の具現化であった。
「むう!極めおったか!茄子花よ!!」感涙した和尚の声が響いた。
「これぞ、夢幻の極意!『茄子花の痴情絵』じゃあああああ!!」

 後日、極意をひっさげ一人世界の大舞台で踊った茄子花に、カーネギーホールは、どえらいパニックになったと伝えられている。
 姉・桐葉は、弟に姉弟の名乗りをあげず立ち去った。「茄子花」
「何にも囚われずあなたの思う道を、胸を張って王道を進みなさい」
 しかし、後に弟を題材にした『おたんこ茄子花』を著わし、一躍時の人となった彼女がその後も姉弟の名乗りをする事はなかった。涙ながらにチュチュ姿の弟がすりよって来ても、生涯「人違いですッッ!!!」と突っぱねたという。

 無理からぬ事、ではあった。

なかやみか

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  「宇宙エースをねらえ!(以下略)」は、皆様のあたたかい応援をいただきまして完結いたしました。また始まるだろう新しいリレーストーリーでお会いしましょう。

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