YEW冒険譚

繰り返される悪夢

第参夜 かくれんぼ


15.客室(リカード)


「リカード様」


 フィールの声に目を覚ますとリカードは部屋を見回した。
 まだ、頭が寝ぼけているのかその視線はどこか虚ろだ。

 次第に意識がハッキリしてくる。


(そういや、この屋敷に泊まったんだっけ)


 部屋の中は薄暗い。
 どうやら、未だに雨は降り続いているらしい。
 耳を澄ませば雨音もはっきりと聞こえる。


「リカード様、お食事の用意が出来ました」
「あ、はい」


 再度の呼びかけに慌ててベットから飛び起きると簡単に身なりを
整えてドアを開けた。

 そこに立っていたフィールはどこか浮かない表情のまま微笑を浮かべていた。




16.食堂(ミチコ)


 リカードが遅れてやってきた後、朝食が始まった。
 昨日の夕食と同じメンバーでの食事だ。


「まだ、雨は上がらないようですしゆっくりくつろいでください」


 フェイの言葉に礼を返してミチコは食事を口に入れた。

 美味しい。
 普通に食べるには十分すぎる味だ。
 だが、それでも昨日の夕食と比べると明らかに味が落ちている。


(昨日、ビネガが言っていたコックが姿を消したというのは本当みたいね)


 そんな考えが顔に出たのか、フェイが申し訳なさそうに口を開いた。


「申し訳ありません、実は今朝からコックをしている者の姿が見えなくなりまして…
 この朝食もメイド達に作ってもらったものなのです。
 お口に合いませんでしたか?」
「い、いえ、とても美味しいです。
 ただ、昨日と少し味が違った気がしたもので…」
「そうでしたか」
「あの、姿が見えないって…」
「ああ、あまりお気になさらないでください。
 何か用事でもあったんでしょう。
 その内、帰ってくると思いますので」


 フェイはそれだけ言うとまた食事を続けた。
 ミチコもそういわれては無理に聞くことも出来ない。

 しかし、彼女は一体どこにいったのか?
 外の豪雨は続いている。
 とすれば、建物内にいるのか?

 ビネガとリカードに視線を向けたが二人とも黙って食事を続けていた。
 何か考えているのだろう。

 ふと、昨日メイが話していた殺人鬼のことも考えたがいくらなんでも
それはないだろう。

 ミチコは気を取り直してフェイに声をかけた。
 昨日から気になっていたことがあったのだ。


「あの、二階にあった書庫、見せてもらってよろしいですか?」
「ええ、いいですよ」


 許可はあっさりと出た。
 もともと、本好きのミチコ。
 書庫の存在を知ってから一度見せてもらいたいと思っていたのだ。

 雨で帰れないのならば、これはこれでいい機会だろう。




17.食堂(リカード)


 食事の後、席を立とうとするミチコにリカードが近づいていった。


「ミチコはこの後、書庫?」
「ええ、折角だしね。
 リカードは?」
「おいらはエルミーを探してみるよ。
 ご飯、もっと美味しいの食べたいしね」


 そういって笑った。
 実際、それ程心配する事もないのだろうが(フェイ達もそれ程慌てた様子はなかった)
 ビネガの話を聞いた為か妙に気になった。


「そう。あんまり家の人に迷惑かけちゃだめよ」
「わかってるよー」


 むくれてミチコと別れてから、ふと昨日のミチコのペンダントの事を
思い出した。

 あの黒く染まった色とミチコの手に残った錆。

 あの後、来たビネガと共にミチコにもその話はしていたが
半信半疑だったようだった。

 暗闇の中で見たのだから黒くて当然だといわれればそれまでだが
いくら暗闇とはいえ、多少の夜目は効く。
 外観はほとんど変わっていないように見えたが、そこに金属特有の
輝きは見えなかった。

 あれは一体なんだったのか…




18.1F 廊下(食堂前)


 ビネガは食堂を出て行ったフィールの後を追った。

 聞く事があった。

 昨日の食材のことだ。
 別にクリスに効いてもよかったが(クリスは片付けの為に調理場に向かっていた)
 何か隠し事があるならフィールの方がそれを読みやすいと踏んだのだ。


「フィールさん」
「はい?」
「ちょっと、聞きたいことがあるんやけど…」
「何でしょう?」


 フィールは小首をかしげて少し驚いたように振り返った。
 まあ、元々ビネガはこの館ではあまり話し掛けるようなこともしなかったし
自分はあまり親しみやすい雰囲気でもない。

 いきなり声をかけられれば驚くのも無理はないかもしれない。


「この館の食糧って誰が仕入れてるん?」
「食糧ですか? いつもはエルミーがやってましたけど…」
「エルミーってコックの人よね?」


 その言葉にフィールが頷く。
 ビネガはそれに小さく舌打ちした。

 肝心の人物が行方不明では話にもならない。


「そんじゃ、食糧とかってどこから仕入れてたか知らん?」
「ああ、それでしたら…」


 フィールはYEWにあるという農家などの名(ビネガが知る名はなかった)を幾つかあげた。

 エルミーがこの屋敷に勤める以前からそこから食料品を買い受けているらしい。

 その後、クリスにも聞いてみたが答えは同じ。
 どちらも嘘をついているようには見えなかった。

 エルミーが個人で仕入れていた可能性もあるが、それを屋敷のメイドが
気付かないとは思えない。

 何より問題なのは、この家の人間があの食材に疑問を抱いていなかったことだろう。
 フィールもクリスも食材についての疑問を突きつけた時にはどちらも
不思議そうな顔を返すだけだった。

 まるで、その事が不思議でもなんでもないかのように。




19.書庫(ミチコ)


「わー」


 置かれている本を見て思わず感嘆の声が漏れた。
 何度かムーングロウの王立図書館に足を運んだこともあるが、ここには
そこでも見れなかったような本も並んでいた。
 数こそ多くはないがなかなかの品揃えだ。
 既に廃刊となり手に入らない本も多数見られる。

 もっとも、フェイ達はあまりここを使っていないようだ。
 良く掃除されているし、本も手入れは行き届いていて痛んでいるようには見えないが
本が古すぎる。
 新しい本が一切見えないのだ。
 恐らく、先代か先先代位からの書庫なのだろうがその頃から新しく本を
買い入れることなく来たのだろう。


(これだけの書庫なのに、もったいない…)


 あそこに並んでいる本など100年ほど前の本だ。

 ミチコは手近の棚から一冊を手にとった。
 宝石の由来などが書かれた本のようだ。
 何か目的があるわけではない。

 ミチコはそれを読み進めることにした。


「あら?」


 見開いたページに載っているのは赤い涙的型のイヤリングの挿絵。

 エンジェル・ティア

 確かメイが言っていたのがこれだったはずだ。
 そのまま読み進めると、宝石の由来などが書かれていた。


 天使の涙と呼ばれるこのイヤリングは幸福の印とされているらしい。
 稀代の宝石職人が女神像の目から零れ落ちた雫を加工したとかいう
眉唾物の逸話が書かれていた。
 不治の病を患った女性がこのイヤリングを身に付けたことで
全快したという話もあるらしい。

 まあ、その話は別にしても挿絵を見る限りイヤリング自体もとても美しくその逸話を
信じさせるに足るものだった。


「一回、見てみたいわね」


 そんなことを考えながら読み進める。
 ふと、自分がティスからもらったペンダントに目を向ける。

 まさか、値打ち物とも思えないが…

 そう思ってその本で調べてみたが、当然載ってはいなかった。
 リカードの言葉があったから少し気になってはいたのだが
やはりただのペンダントのようだ。
 まあ、この本自体古いものだから載っていないだけなのかもしれないが…


(…気にしすぎなのよね)


 そう結論つけるとミチコは読書を続けた。




20.調理場(リカード)


 先の宣言通り、リカードはエルミーを探していた。
 まず、真っ先に立ち寄ったのは彼女が消えたといわれる調理場だった。


 結果は…


 まー、なんていうか
惨敗



 当然といえば当然だ。
 あの時、ざっととはいえシーフであるビネガがチェックしている。
 その上、あれから既に数時間が経っているのだ。
 調理場は見事なまでに整頓されていた。
 ビネガが言っていた調理途中の食材も、メイド達の手によって
調理され今はリカード達のお腹の中である。


「…
無駄足?」


 声に出すとよりいっそう心が寒い。


 一応、食糧庫を覗いてみたがやはりそれらしいものもない。
 リカードは溜息をついて調理場を後にした。

 まだ、行くべき場所は残っているのだ。




21.エルミーの部屋(ビネガ)


「るーるーるー(T_T)」
「何、泣いてんの、リカード」


 ビネガが見つけたのは廊下で一人立ち尽くし涙するリカードの姿だった。


「いや、なんてーか、二度目の惨敗ってのはきっついなーって」
「はぁ?」


 意味がわからない。
 見てみればそこは行方不明のエルミーの部屋の前だ。
 そういえば、リカードは彼女を探すようなことを言っていた。
 とすれば、彼女の部屋を調べに来たのだろう。


「こんな所におらんと、はよ中は入りいーな」
「…鍵かかってる」


 まあ、女性の部屋なんだから当然だろう。
 ぱっと、鍵の部分に視線を向ける。
 部屋が並んでいる為か、恐らくビネガ達の客室と同じ鍵だろう。

 リカードの腕前でも開けることは出来る。
 だが、鍵穴などに痕跡は残ってしまう。
 さすがに、それは拙いと思ったのだろう。


「メイドのおねーちゃん達に合鍵借りたらええやん」
「もう頼んだ」
「なんや、それなら……」
女性の部屋に入って何する気ですか?って白い目で見られた」
「……」


 どうやら、館の人間達は今回のエルミー失踪についてそれ程
心配していないようだ。
 まあ、雨の事を別にすれば今朝姿が見えないだけだ。
 どこかに、出かけている可能性もある。
 少し留守にしただけなのに、いきなり見ず知らずの客人に女性の部屋の
鍵を渡してくれるはずもない。

 ビネガは溜息をつくと扉の前に移動した。
 そして、鍵開けの作業に入る。
 それから鍵が開くまでほんの数分。

 かち

 小さな音と共に鍵が開く。
 当然鍵穴に痕跡を残すようなへまはしない。
 後ろのリカードの尊敬の視線を心地よく受けながらノブへと手をかけた。

 さすがに罠なんて掛かっているはずもないので無造作に扉を開けて中に入る。
 その後からリカードが続く。
 リカードを視線で促してドアを閉めさせると部屋を見渡した。

 良く整理された部屋だ。
 外の雨の為に明かりは十分ではないがそれでも大体は見て取れる。

 始めて見るエルミーの部屋はきちんと整理されていた。
 だが、思ったほど生活感は感じられない。


「エルミーさん、自分の家が近くにあるからここに泊まるのは帰れなかった時
だけなんだって」


 ビネガの様子に気付いたのかリカードがそう説明する。
 ビネガは軽く頷いて答えるとまた部屋へと視線を戻した。

 不信な物はない。

 本棚に並ぶ料理の本の数々とタンスの着替え以外に私物らしいものも
見つからなかった。

 ビネガはベッドへと近づいた。
 シーツに乱れはない。
 時間的に考えれば今日はまだメイド達のベッドメイクは行われていないはず。
 とすれば、エルミーは昨日の夜から姿を消したと考えるべきだろう。
 少なくとも、このベッドで寝てはいない。

 リカードがビネガの様子に気付いてベッドへとやってくる。


「…どこ行っちゃったのかな、エルミーさん」


 リカードの言葉が薄暗い部屋に響く。


「これは、一回この館を調べてみたほうがいいかもしれないね」
「調べるって…変なことしたら館の人に怒られるよ」
「大丈夫、協力してもらうから」
「だれに?」
「みんなに、や」


 そういって、にやりとした笑いを浮かべた。




22.食堂(ビネガ)


 昼食が終わってもエルミーは姿を現さなかった。
 フィール辺りは少し不安そうな顔をしていたが、他の館の人たちは
それ程気にはしていないようだ。

 昼食が済んで食堂を出ようとしたティスにビネガが声をかけた。


「ティスちゃん、もし暇ならこれからかくれんぼせえへん?」
「かくれんぼ? するー!!」


 喜んでのってくるティス。
 どうやら、この雨の所為で退屈していたようだ。

 すでにミチコ達には話はつけてある。
 参加者はミチコ、リカード、メイ、ティス、そしてビネガだ。
(フロットは何か用事があるらしい)


 あとは、この期に乗じて調べ尽くすのみ!!


「そんじゃ、私が鬼をやるからみんな隠れてや」
「「「「おー」」」」


 食堂を出て行く4人を見送りながらビネガは笑った。


「さてと、大捜索の始まりや」




23.2F 物置(ミチコ)


 ミチコは2階右奥の部屋に隠れていた。
 どうやらそこは物置として使われているらしい。
 カビと埃の匂いが漂っていた。
 窓の辺りにまで荷物が詰まれている為、部屋の中は薄暗い。


「…ミチコさん、何で私達二人で隠れてんの?」


 ジト目でこちらを見つめるメイから視線を逸らす。
 実際かくれんぼでまとまって隠れても仕方ない。

 だが、まあ……


「だって……怖いんだもん」


 そういう訳だ。

 昨日は気にも止めなかったが降り止まぬ雨に行方不明者。
 さすがにミチコも不安になってきたのだ。
 そんな中、一人で隠れる気にはならない。

 そんなミチコを気にした風もなくメイは物置をあさり始めている。
 もう隠れ初めて数十分といったところか。
 今ごろはビネガが他の部屋を見て周っているだろう。
 あらかじめこの部屋に隠れていることは伝えてあるから
最後のほうで回ってくるだろう。


「ねーねー、ミチコさん!!
 これ見てー!!」



 メイの大声が響く。
 既に隠れているといった自覚は
皆無だ。 

 そういってメイが奥から持ってきたのは一対のアミュレット。
 型は古いようだが通信石の一種だろう。
 離れたところでも、対となるアミュレットに言葉を届けてくれる
マジックアイテムだ。


「へー、よく見つけたわね」
「でしょでしょ」
「でも、ちゃんと元の場所に戻しておいてね」
「えー」
「人様の家の物を勝手に持ってっていいわけないでしょ」
「はーい」


 しぶしぶといった風で部屋の奥へと消えるメイを見ながらミチコは溜息をついた。


(…一体いつまで隠れてればいいのかしら)


 そんなことを考えながらふと視線を転じた先に人影が見えた。
 荷物の山の所為ではっきりは見えなかったが誰かが窓の外を横切ったような…
 だが、今は何も見えない。
 ただ、薄暗い雨の風景が見えるだけだ。


(窓の外!?)


 よくよく考えればありえない。
 外はひどい雨だし、何よりここは2階だ。

 どうやって窓の外を通ることが出来る?
 視線を転じてメイを探すとこちらに帰ってくるところだった。
 位置的に考えればメイもさっきの人影を見ていても不思議じゃない。


「メイ!! 今、窓の外に誰かいなかった?」
「は? 何いってんのミチコさん。
 そんなのいる訳ないじゃん。 ここ2階だよ」
「うん、そうなんだけど…」


 ただの見間違いだったのだろうか?

 あの長い黒髪の姿は…




24.2F 左奥廊下(リカード)


 リカードは隠れることなく、まだ廊下にいたりした。
 しかも一人じゃない、フロットと一緒だ。

 別に隠れる気がなかったわけじゃない。
 最初は左奥の部屋に隠れていたのが、その部屋は空き室で
怪しいものはおろか、ろくに家具すらも置いてなかった。
 明かりも油が切れていて付かなかった。

 考えてみて欲しい。
 何もない薄暗い部屋で一人きり。
 外は豪雨。
 おまけに館には行方不明者まで出ているのだ。

 …まあ、なんだ。

 
怖くて逃げ出したんだ。


 ビネガにはあの部屋にいるといってあったが別に移動するなとは
言われていない。


(うーん、書庫でも行って本でも読もうかな?)


 そんなことを考えながら、廊下に出たところで声をかけられたのだ。


「何してるの?」
「何って、かくれんぼだよ」
「…
隠れてないじゃん
「……色々あるんだよ」


 そっぽを向きながら答えるリカードにフロットは白い目を向ける。
 フロットは懐に手を入れると何かをつかみ出してリカードに放った。
 慌てて受け取ったリカードが見てみると、石ころだった。


「あげるよ」
「これは?」
「お守り、かな?」


 そういって首を傾げるフロット。
 リカードは石を見てみるが特に特別なものとは思えない。
 まあ、こういうのは気持ちの問題なんだろうが。


「これ、どうしたの?」
「雨の中来る途中、拾った。
 持ってても邪魔なだけだからあげる」
「いるかーっ!!」


 声と共に床に石を投げつける。


「なんかの役に立つかもしれないのに……」
「…たつかよ、まったく」


 フロットは残念そうに石を見ると、肩をすくめて部屋のほうへと戻っていった。
 半ばあっけに取られながら見送るリカード。
 ふと、足元に転がる石に目が行った。


(…てか、片付けてけよ)


 こんな場所に捨てて行くのも気が引ける。
 リカードは溜息をつくと石を拾い上げて書庫へと向かった。




25.1F 応接室(ビネガ)


 かくれんぼの鬼となったビネガはそれを利用して屋敷のあちこちを見て
周るつもりだった。
 見つかってもティスの遊びに付き合っているといえば、それ程怪しまれはしないだろう。
 もっとも鍵の掛かった部屋に入る時は気をつけないといけないが…


(さて、と。
 リカードが2階左奥。 ミチコ達が2階右奥の部屋だったわね。
 そこ以外を周っちゃうか。
 問題なのはティスに会っちゃうと鍵の部屋を開けらんなくなっちゃうんだよね)


 さすがにティスを連れて部屋の鍵を開けて周る訳には行かないだろう。
 まあ、一応気配で大体のことはわかるが相手が子供で息を潜められていては
それも確実ではないだろう。


「ま、運次第やな」


 溜息と共に手近の扉に近づいた。
 位置的には1階ロビーの左手前にある扉だ。

 辺りに人影はない。

 ざっと感じた限り、中に人はいないようだ。
 扉に手をかけてみるとあっさりと開いた。

 中は広々とした感じの部屋だった。
 入って右奥に扉が見える。
 部屋には装飾や絵画が置かれているくらいで目に付くものはない。


(ぱっと見、何もなさそうやね)


 ビネガは奥の扉をへ進んだ。

 ここも鍵は掛かっておらず、あっさりと扉が開いた。
 こちらは応接室のようだ。
 凝った作りのテーブルとソファーが置かれていた。
 見た限り、おかしな所はない。

 ビネガはざっと見渡すとその部屋を後にした。




26.レフィアの部屋&その他(ビネガ)


 次に向かったのは本命の奥様(レフィア)の部屋だった。
 廊下の奥は油が切れているのかランプが付いておらず、扉の辺りは薄暗い。
 右側のフェイの部屋の扉から光が漏れている。
 どうやら、彼は部屋にいるようだ。


(厄介やな。 こりゃ、無茶は出来んな)


 扉から光が漏れているということは、扉に隙間が開いているということ。
 外の音が中に聞こえる事は十分予測できる。

 ビネガは辺りを警戒しながらレフィアの部屋の扉へと目を向けた。
 眠っているのか、部屋から物音は聞こえない。

 その鍵の部分だけやけに新しくなっていた。
 鍵穴を調べてみると、どうやら特注の物らしい。
 開けられないとは言わないが、この暗さではビネガでも部が悪い。

 かといって明かりをつければフェイに気付かれかねない。


(しゃーない。 ここは後回しや)


 溜息をついて隣のティスの部屋へと向けた。



 ティスの部屋の鍵は簡単に開いたがめぼしいものはなかった。
 変わったものといえば、奥さんの部屋に続く扉があったことくらいだろうか。
(その扉は打ち付けられていて開けることは出来なかったが)


 その後、食堂脇の部屋で運悪くティスを見つけてしまい。
 探索はお開きとなった。



 ちなみに、ティスが隠れていたのはフェイの仕事部屋のようだった。

 ビネガが彼女の存在に気付いたのはその手前の部屋を調べていた時だった。
 調べていた部屋の奥の部屋で息を潜めていたらしい。
 その手前の部屋を探索した以上、ティスのいる部屋を後に回すのは不自然すぎた。
 ビネガは諦めてティスを見つけてやることにした。

 奥の部屋には鍵が掛かっていたらしいがティスが合鍵を持ち出して
開けて隠れていたらしい。
 手前の部屋には小さなテーブルくらいしか置かれていなかったが
奥の仕事部屋には小さな本棚と大き目の机が置かれていた。

 ティスがいた為にはっきり調べることは出来なかったが
医学関係や領地関連の書類が見て取れた。


「うーん、見つかっちゃったー。
 しかも、私が一番最初なのかー。
 残念」
「…ほんま、残念やわ」
「へ?」
「いや、なんでもあらへん。
 さっさと他の子達探しに行こか」
「うん!!」


 結局、その後ティスを連れて部屋を見て周ったが
2階左奥の2部屋も書庫の奥の部屋も鍵が閉まっていた為
断念することとなった。

 そして、あっさりと(当然といえば当然だ)他のメンバーを見つけると
かくれんぼは終了となった。

 ティスはまだ遊び足りないようだったが何だかんだと時間が経っており
これから遊ぶのはむつかしい。

 何よりもうじき夕食の時間だ。


(何や、結局ようわからんかったな〜)


 雨はまだ…降り続く




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