建築家資格制度について(概略年表へ)

◆貿易の内容がサービスまで拡大
  貿易とは従来、商品の国際流通が中心でした。ところが、国際化の進展に従い、サービスが国境を越えて動くことが多くなり、
こういったサービス貿易を含めた、貿易の自由化の枠組みの整備のために、WTO(国際貿易機構)が1995年に設立されました。

◆高度専門職業人資格の国際相互承認
 サービス貿易の進展に従い、そのサービスを提供する会計士・弁護士など高度な専門職業人の資格について相互承認を行うことが必要となってきました。
 建築設計・監理の資格も例外ではなく、建築制度の海外進出と参入の両面で国際的に円滑かつ適切に通用・対応できるようにすることが必要とされ、
その具体的方策として他国の同種資格制度との相互認証に向けた対応が求められています。
これは国際進出だけの問題でなく、国際基準に劣る資格内容では、日本の消費者・市民の不利益にもつながることであり、
2000年には建築資格制度調査会が国土交通省も交えた、建築関係団体で設立され、広く資格問題を討議しています。

◆JIAの資格制度実現に向けた活動
 1985年にEC建築家指令が発令され、EC12カ国で建築家の相互承認が始まりました。
これらの動きを受け、JIAでは「建築家資格制度調査委員会」を1990年に発足させ、海外の資格制度の調査(「建築家に必要な能力と素養)を発表)や諸外国との協議を行ってきました。

◆UIA(国際建築家連合)の動き
 上記と相前後して、諸外国の建築家職能団体が加盟するUIA(国際建築家連合)はWTOの意向を受け、建築設計監理の分野における資格相互承認の枠組みづくりのため、「職能実務委員会」(PPC)を組織し、1994年から5年間の年月をかけて、1999年に「建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定」を採択しました。
 各国の職能団体や資格制度登録機関は、来るべき相互承認(2国間交渉)に向けて、この推奨基準に沿った対応が求められています。

◆UIA協定の概要
 教育 → 実務経験 → 資格認定 → 継続教育(更新)の
 4つの大きな流れに沿ってこれぞれで満たすべき条件が示されています。
 また、倫理や行動規範に関するガイドラインが具体的に示されています。

◆日本の建築士制度とUIA協定や諸外国の制度との違い
・ 建築士制度は、昭和25年に制定された「建築士法」により定められた建築設計監理の資格ですが、
 建築家と建築エンジニア(構造や設備等)の双方の性格を併せ持つ資格となっています。
 双方の性格を併せもつことは、
 個・個人の資質や努力次第では幅広い知識を持つことにより、質の高い仕事が期待できますが、
 一般的な資格者のレベルでいえば、専門性が薄れ、かつ
 能力以上の権限が付与される結果、本来あるべき仕事の質が確保できないおそれもあります。
・ 上記の建築士制度の性格により、建築教育(大学等)も
 建築全般にわたる総合的な教育が中心となっています。
 また教育期間もUIA協定では5年以上を求めているのに対して、4年制が中心となっています。
・ 実務訓練期間はUIAでは3年でしかも
計画から基本設計、実施設計、工事監理、事務所の運営まで項目毎での取得すべき能力を規定し、第3者による認証を求めています。
 現在、日本は建築士の受験は大学卒業後2年の実務経験で得られ、
 その経験内容の記述は自己認証で簡単なものとなっています。
 欧米では資格取得までの過程が非常に重視されているのに対し、
 日本ではまだ試験優先で、実務訓練のチェックが簡単な分、
 資格試験は難問や奇問が見受けら、
 本来の建築設計の業務の能力とは関係のない試験に合格するための勉強が必要だといわれています。
・資格取得後の継続教育について
 資格取得後も技能や知識の維持・向上を図り、また刻々と変化する社会ニーズに対応するために、
 UIA協定では少なくとも年間35時間程度の継続教育を求めています。
 日本では時間数の規定もなく、単なる努力義務があるだけとなっています。
 しかも建築士制度には資格更新等の制度がなく、試験に合格したものが、希望により登録するだけとなっています。
・ UIA協定では、倫理や行動に関して、具体的な義務や禁止事項があるのに対し、日本では
 法律上はあいまいな表現にとどまっています。とくに諸外国では、設計・監理者は施工の部門から
 独立した立場をとり、顧客と社会の双方の利益優先する判断を求められていることが多く、
 また例え、施工等の兼業をしていても顧客との利益が対立する可能性がある場合は
 そのことを説明する義務が課されています。日本国内では、設計と施工の兼業が法律では
 認められており、このような倫理や行動に対する具体的な行動指針が必要となってきています。


参考1<建築士法(抜粋)>
(業務執行)
第十八条
 建築士は、その業務を誠実に行い、建築物の質の向上に努めなければならない。
 2 建築士は、設計を行う場合においては、これを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない。
 3 建築士は、設計を行う場合においては、設計の委託者に対し、設計の内容に関して適切な説明を行うように努めなければならない。
 4 建築士は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、
直ちに、工事施行者に注意を与え、工事施行者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告しなければならない。

(知識及び技能の維持向上)
第二十二条
 建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない。
 2 建設大臣及び都道府県知事は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上を図るため、必要に応じ、講習の実施、資料の提供その他の措置を講ずるものとする。


参考2:

UIA「倫理及び行動に関する協定政策に対する推奨ガイドライン」
倫理及び行動に関する協定政策
(略)
UlA各支部は、国際法あるいは自国の法律で禁止されていない限り、会員がプロフェッショナル業務を提供する国や地城で有効な倫理・行動綱領を守らなければならないという規定を、自らの倫理・行動綱領の中に入れることが勧告される。


倫理及び行動に関する協定政策に関する推奨ガイドライン

1998年4月、パルセロナにおける委貝会で大筋の合意が行われたが、それは、メキシコ・シティでの委員会から展開された修正網領は、最終的に北京の総会に提出される<UlA国除コンサルティング業務に関する倫理・職能行動網領>として採択されたのち、各支部によってぞれぞれの網領の中で採択されるべきであるというものであった。
起草委員会は、協定及び世界中の各支部の倫理・行動網領において明示された原埋及び政策に基づき、次のように理事会及び総会に勧告する。

前文
建築の職能に携わる者は、最高水準のプロフェッショナリズム、誠実、及び能力のために献身し、
それによって、社会や文化の建築環境の発展に不可欠な専門的かつ独特の知識、技量及び才能を、社会に提供すべきである。
以下の事項は、コンサルティング業務を引き受けるに当たって、こうした義務を果たすための建築家の行動の原則である。
それらは、どこで行われようが、全ての職能的活動に対して当てはまる。
それらは、職能が奉仕し豊かにしている公共社会に対して、また、環境を形成する手助けをしている依願主、建築のユーザー、そして建設産業に対して、
そしてまた、職能や社会の遺産と伝承である知識及び創造力の総合体としての建築の芸術及び科学に対して、責任を負うものである。

原則1
一般的義務

建築家は、教育、訓練及び経験を通して身に付けてきた建築の芸術及び科学の体系的な知識と埋論をもつ。
建築の教育、訓練、及び試験の過程は、建築家がプロフェッショナル業務を委任されたとき、その建築家がそれらの業務を適切に遂行できると認められ得る水準
を満たしていることを、社会に対して保証するように構成される。
建築家は、建築の芸術及び科学についての彼等の知識を維持、向上させ、
これまでに達成された建築の成果を尊重するとともにその発展に貢献し、そして、建築の芸術及び科学の追及に当たっては、
他のどんな動機よりも、学究的で妥協のない専門的判断を優先させる。一般的義務を持っている。
1.1 倫理基準:建築家は、その実務に関連する分野における彼等の専門的な知識と技量を継続して改善すべく努力をする。
1.2 倫理基準:建築家は、美的感覚における卓越性、建築の教育、研究、訓練、及び実務の水準の向上に、継続して努める。
1.3 倫理基準:建築家は、適切に、関連芸術を奨励するとともに、建設産業の知識や生産能力に貢献する。
1.4 倫理基準:建築家は、実務を行うに当たって、監視、検査手続き(monhoringandreview procedures)を含めて適切かつ有効な内部下続きを持ち、かつ能率的に機能させるのに十分なだけの、資格のある管理された所員を待っていることを保証する。
1.5 倫理基準:建築家に代わって、所員あるいは建築家の直接管理下で行動する者によって仕事が行われる場合、建築家は、その者がその仕事を遂行する能力を待っていること、そして必要があれば適切に指導されていることを、保証する責任がある。

原則2
公共に対する義務

建築家は、その職能的事項に関連する法律の精神並びに文言を諒承する義務を公共に対してもち、白分達の職能的な活動の社会及び環境に与える影響を深く考慮しなげればならない。
2.1倫理基準:建築家は、ぞの中で建築をつくるコミュニティの価値体系や白然及び文化の遺産を尊重し、その保全を助ける。また、建築家は、その仕事の産物を使用したり享受したりするかもしれない全ての人々の最も広範なる利害に対する影響に、十分気をつけながら、環境や、その建物の中での生活と居住の質を持続的に改善するように努める。
2.2倫理基準:建築家は、虚偽の、あるいは誤解を招く、あるいはまた詐欺的な方法で、白分白身やその業務についての情報提供や宣伝をしない。
2.3倫理基準:建築家の実務のビジネス・スタイルは、誤解を招くようなもの、例えば、他の実務や業務との混同を招くようなものであってはならない。
2.4倫理基準:建築家は、その職能的活動の行動において、法律をまもる。
2.5倫理基準:建築家は、国際的な条約、協定、及び法律、あるいはその建築家自身の国の法律によって禁止されていない限り、彼等が職能業務を行う国や地域で有効な倫理及び行動網領を道守する。
2.6倫理基準:建築家は、市民として、また職能人として市民活動に適切に参加し、建築問題についての社会の認知を増進させる。

原則3
依頼主への義務

建築家は、その職能業務を、誠実に、良心的に、有能に、そしてプロフェッショナルなマナーで実施する義務を依頼主に対してもち、かつ、
あらゆる職能業務を遂行くするとき、関連する技術的及びプロフェッショナルな基準に則って偏見のない公平な判断を行使しなければならない。
建築の芸術及び科学の追及に当たっては、学究的で専門的な判断が、他のどんな動機よりも優先されなげればならない。
3.1倫理基準:建築家は、依頼主の求めるあらゆる面について、その委託事項を遂行するために、適切な財政的及び技術的手段が準備されていると確信することができるときのみ、その職能業務を引き受ける。
3.2倫理基準:建築家は、しかるべき技術管理と勤勉さをもって、その職能的業務を遂行する。
3.3倫理基準:建築家は、不当な遅滞なく、かつ、それが彼の権限内にある限り、契約された正当な期限内に、業務を遂行する。
3.4倫理基準:建築家は、その依頼主のためになされた業務の進行について、また、その業務の質や費用に影響を与えるような事項について、常に依頼主が知っているようにする。
3.5倫理基準:建築家は、依頼主に提供する独白の専門分野のアドバィスに対して貴任を取る。また、建築家は、コンサルタントとして雇った人たちも含めて、関連する専門分野について、教育、訓練、または経験によって与えられた資格を有しているときのみ、そのプロフェッショナルな業務を引き受ける。
3.6倫理基準:建築家は、当事者同士が委託の条件について文書で明瞭に契約しない限り、職能業務を引き受けない。特に、次のような条件について。
●業務範囲
●責任の配分
●責任についての制限
●報酬あるいはそれを計算する方法
●契約の終了に関する条項
3.7倫理基準:建築家は、依頼主の事柄に開する秘密を守り、また依頼主の予めの同意または、裁判所命令によって開示が要求されたとき等、法的な権限のある場合以外は、秘密情報を開示してはならない。
3.8倫理基準:建築家は、利害の衝実をうむと解釈されるかもしれない重要な状況を知った場合は、それを依頼主オーナーあるいはコントラクターに開示するまた、利益の衝実が、関係する人々の正当な利益を危うくするものではないということ、あるいは、他の人による契約遠行について公平な判断を提供するという建築家の義務を阻害しないことを、保証しなげればならない。

原則4
職能に対する義務

建築家は、職能の誠実さと品位を保持する義務を待ち、どんな状況にあっても、他人の正当な権利と利害を尊重するやり方で行動する。
4.1倫理基準:建築家は、正直さと公平さをもってその機能的活動を遂行テする。
4.2倫理基準:建築家は、自ら求めて除籍された者を除き、建築家の登録簿からその名前が抹消された人、あるいは建築家の公認団体の会員を除名されたといった不適当な人を、パートナーとして採用したり、役貝として共同しない。
4.3倫理基準:建築家は、その行為を通して職能の品位と誠実さを増進させ、また、自らの代理人や被雇用者がその仕動をこの基準に適合させることを保証するように努めることにより、どんな行為や行動も、彼等がそのために働いている人たちの信頼を{易つけるようなことがないように、また建築家と取り引きをする社会の人たちが、不当表示、許欺行為、あるいは虚偽行為から保護されるようにする。

原期5
同僚に対する義務

建築家は、その権利を尊重し、同僚たちの職能的な抱負や貢献と、他の人たちによってなされた貢献を認めなげればならない。
5.1倫理基準:建築家は、人種、宗教、身体障害、婚姻状態、あるいは性別による差別をしない。
5.2倫理基準:建築家は、本人の明確な許可なしに、他の建築家のアイデアを盗用することはしない。
5.3倫理基準:建築家は、指名を獲得するために、贈り物その他それを誘導するようなことをしない。
5.4倫理基準:建築家は、独立したコンサルトントとして業務を提供する場合、依頼主の求めがないのに、報酬の見積もりを提案することはしない。建築家は、依頼主や社会を建築家による非良心的な手抜きから保護するために、その報酬によって扱われる業務の内容を明確に示す見積もりを準備することができるように、対象となるプロジェクトの性格と範囲に関する十分な情報をもたなければならない。
5.5倫理基準:建築家は、独立したコンサルタントとして業務を提供する場合、依頼主や社会を建築家による非良心的な手抜きから保護するために、同じ業務に対して他の建築家によって見積もられた報酬のことを斟酌して、白らの報馴の見積もりを変えてはならない。
5.6倫理基準:建築家は、ある業務委託の指名を受けた他の建築家に不当に取って代わろうと企ててはならない。
5.7倫理基準:建築家は、UlAあるいはその支部が承認し得ないものと官言した建築設計競枝に参加してはならない。
5.8倫理基準:建築家は、設計競枝の審査員として指名されたときには、その後、その仕事に対しては他のどのような立場での行為をもしてはならない。
5.9倫理基準:建築家は、他の建築家の作品を、悪意を待って、あるいは不公平に批判したり、信用を落とすような企てをしてはならない,
5.10倫理基準:建築家は、他の建築家が、同一のプロジェクトに対して同じ依頼主から現在指名を受けているということを知っていたり、正当な問合せをすれば確かめ得るような場合、そのプロジェクトその他の職能的業務を引き受けるようアブローチされたときは、当該建築家に通知する。
5.11倫理基準:建築家は、他の建築家の作品についての意見を正式に求められたときには、そうすることが、将来あるいは現在の訴訟にとって予見を抱かせる恐れがあることが示されない限り、当該建築家に通知しなければならない。
5.12倫理基準:建築家は、その協働者や被雇用者に好ましい仕事の環境を提供し、公平な報酬を支払い、そして彼等の職能的な成長を助ける。
5.13倫理基準:建築家は、白身の個人的及び業務上の財務が賢明に管理されている様にする。
5.14倫理基準:建築家は、自らの業務や仕事内容の功績によって職能的名声を築き、また、他の建築家が遂行したプロフェッショナルな仕事に対して、彼を認め、かつ信頼しなければならない。
「建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定」より抜粋