吉田健一  Topへ
   私はこの方の食談を含め多くの作品から、酒の飲み方、本の味わい方、生き方のようなものを学んだ気がする。  

  
   2015年3月18日
  • 長谷川郁夫『吉田健一新潮社

  吉田健一ファンには、衝撃的と言って良いほど面白い評伝で、2段組み648頁の大著が長く感じられませんでした。吉田健一は、悪文に近いほど長く曲りくねった、句読点の少ない文体の中に、事象や想念を浮かび上がらせ、ちょっと朦朧とした気分に誘いながら、気がつくと純粋、単純な真実を述べています。その語り口の魅力に読者は取りつかれてゆくのですが、著者がどんな人物なのか今一つ明確な像が浮かびません。
ところが、この本では、吉田健一像が、見事に立ち上がってきて、あたかも、彼のアルバムを順に繰っているような、または、彼のドキュメンタリー一代記を見るような、鮮明な実像?に出合います。本人の文章、発言はもちろんのこと、親族、友人、知人の証言を巧みの按配して、文筆のことだけでなく、生活の匂いさえ伝わってきました。
  河上徹太郎、横光利一、中村光夫、大岡昇平、福田恒存、三島由紀夫・・・交流、友情、反目、離反など描かれ、巻末に140名を越す人物が摘出した索引がありますが、文壇史の一つとしても面白いです。著者が出版に携わってこられた所為もあって、編集、出版の事情、造本などに詳しい。父吉田茂との関係も暖かい目で描写されています。

  吉田健一と言えば酒。酒にまつわる話が、丁寧に描かれていて、当時の文士はよく飲んでいるのですが、その中でも、吉田健一は一頭地を抜いることがわかります。酒を除いて吉田健一はなく、酒と彼の文芸は同じ平面にあり、生きることそのもの。その密度の高い吉田健一の「生」が長谷川郁夫の努力と力量によって、その一部が再現されているのですが、全編隅々まで、彼の吉田健一への傾倒、敬愛ぶりが感じられて、吉田健一ファンには心地よいのです。第41回大仏次郎賞受賞 。



追記cxxxxx6zx この本では、猪木正道の『評伝吉田茂』などによって、戦線、戦後の吉田茂の動きも描きだされていて、その一徹さが、この親にして、この子ありという感じがする。

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竹内 美紀 ご紹介ありがとうございました。分厚いし、高いしと少し躊躇していたのですが、思い切って買って読み始めたところです。(常日頃、読書家の方のお勧めには間違いがないと思っているので)読み易いし、知っている名前が続々出てくるので、文壇史としても面白いですね。

 

  
   下記の表は、五年前には私の本棚にあったものを示します。
今は太字のものしか残っていません。書影は右欄
      2022・5・10
 
   
  吉田健一

引越しのたびに本を処分するのだが、この人の本は処分から免れている。同じ本を買わないための整理。

赤字未入手
英国の文学 落日抄 父・吉田茂のこと他
シェイクスピア 余生の文学
宰相御曹子貧窮す 作者の肖像
東西文学論 ヨオロツパの世紀末
酒に呑まれた頭 瓦礫の中
乞食王子 絵空ごと
英語上達法 文学が文学でなくなる時
三文紳士 私の食物誌
文学人生案内日本について 本当のような話
甘酸っぱい味 金沢
近代文学論 文明に就て
酒宴 書架記
舌鼓ところどころ ヨオロツパの人間
英国の文学の横道 交遊録
読者の立場から見た今日の日本文学 東京の昔
英国の近代文学 英国に就て
ひまつぶし 酒肴酒
日本の現代文学 続 酒肴酒
頭の洗濯 埋れ木
近代詩について 覚書
英語と英国と英国人と 本が語つてくれること
シェイクスピア物語 英語英文学に就て
文学概論 言葉といふもの
文句の言ひどおし 詩と近代
色とりどり 旅の時間
日本語と日本と日本人と 詩に就て
書き捨てた言葉 時をたたせる為に
不信心 時間
 

2017年11月、マンション建て替えのため、目黒駅に近い、仮寓先に引っ越した。その際、蔵書の半分以上、処分を余儀なくされた。
吉田健一の本で今残っているのは上記の通り。
半分は再読したい本、他は読もうと思って残した本。

かっては、彼の食談、酒談を好んで読んだが、今読んだらどうかしら?

「時間をゆったりと経たせる」ことが彼の文章の特徴で、そのために彼の文体がある。
酒を飲むにしろ、本を読むにしろ、ゆったりとした時を持ちたいもの。


2022・5・13